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2章 紅蓮の兄弟編
16話 力の差
しおりを挟む歓楽街の狭い路地裏。そこがとある兄弟の再会の場所だった。
「元気だったかヨゾラ?何故我らが神の邪魔をする?」
「簡単さカイセイ。ボクはお前が大嫌いだからさ」
カイセイの質問にヨゾラが答えると二人は声を揃えて笑い合う。そして、瞬きをした次の瞬間には己の拳を握りお互いを殴り合った。
<もしもし!?ヨゾラ!さっき凄い音が聞こえましたが大丈夫ですか!?>
通話越しにナウラの声が響くがそんなものはカイセイは勿論ヨゾラにも届かない。二人はただ目の前の敵を殺す事しか考えていない。
「強くなったな。だが、オレサマに比べりゃまだまだ弱いっ!!」
「ぐっっ!」
カイセイの回し蹴りがヨゾラの脳を揺らし置かれていたゴミ捨て場へヨゾラを吹き飛ばす。肉弾戦一回目はカイセイの勝利に終わった様だ。
「だから何だ、まだボクは二割も力を出しちゃいない!」
「ああ。オレサマもだよ」
ヨゾラが火炎の宝玉を起動すると同時にカイセイも異界武具を発動。
「それにしてもこれは本当に驚いた。まさかお前が、オレサマと全く同じ異界武具を使っているとはな」
ワールドオブザルーラー幹部、カイセイの異界武具の名は火炎の宝玉。火炎の宝玉は使用者に宝玉の中に溢れる炎の力を譲渡する異界武具だ。
「ボクも最悪の気分だよ。でも、こいつじゃなきゃお前は越えられないと思った。その事を、今証明してやる!!」
血管に血を昇らせて炎を収束。カイセイに向けて手から炎を放つ。
「馬鹿すぎるぜ愚弟。オレサマと同じ異界武具を使って、オレサマに勝てるわけがねぇだろうが!!」
ヨゾラの炎とカイセイの炎がぶつかり合う。お互いの炎がぶつかり合い、周囲に熱風が荒れ狂う。その炎は互角。しかしそれはぶつかり合った時の話。
「くっ!」
カイセイの炎が互角だったヨゾラの炎の威力を大きく上回りヨゾラの炎を包む。そして、そのままヨゾラの体も業火が包み込む。
「ぐぁぁぁぁ!」
熱い。それはヨゾラが火炎の宝玉に使い手として選ばれてから初めての出来事だった。それが事実で、屈辱だった。
「舐めるな、舐めるなっ!!」
足から炎を噴射してカイセイの炎から抜け出しカイセイへ殴りかかる。そのヨゾラの動きにカイセイは恐ろしい笑みを浮かべてヨゾラとカイセイの拳がぶつかった。
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
「大きくなったなぁヨゾラ。前に会った時はあんなに小さかったのに」
必死に拳に力を入れるヨゾラに比べて懐かしそうに瞳を閉じるカイセイ。二人の拳の威力は比べるまでもなかった。
「だが、オレサマはお前の成長が嬉しくない。オレサマはお前に死んで欲しかった!!」
カイセイが肘から炎を噴射してヨゾラの拳を砕き殴り飛ばす。
「がっ!」
ヨゾラは顔から、そして殴り飛ばされた時にぶつけた頭から出血する。
(勝て、ない)
ヨゾラの人生はこの瞬間の為にあった。あの事件を、あの悲劇を忘れない為に、復讐を果たせる様に。努力した。血を吐いた。敵を殺した。味方を見捨て、時には味方を殺してまでヨゾラはのし上がって来た。全ては、実の兄であるカイセイをこの手で殺す為に。
(なのに、だって言うのに、勝てない)
アニメや漫画でよく見る、敵が肉親であると言う状況。アニメや漫画のキャラクターはその肉親を倒すものの殺せないと涙を流す。よく見るシーンだ。自分はそうはならない。絶対に殺して見せる。そう思っていたのに。まず敵を倒す事すら出来ないなんて。
「クソ、クソォォォォォ!!」
体が動かない。この程度の傷で動けなくなるなんて自分で自分が情けない。こんな所で、死ねない。
「みっともねえなぁ。死ね」
カイセイが火炎の宝玉を起動して炎の剣を作り出す。そして。
「森林の山々!」
カイセイとヨゾラの間に大量の木々が育ち始めて二人を引き離した。
「な」
ヨゾラが目の前にいる人物に目を丸くする。
「驚いてる暇はない!逃げるよ、ヨゾラ!」
神谷七尾矢は血だらけのヨゾラを背負って蔦を伸ばしてビルを掴み、飛んだ。
「オレサマから逃げようってか?面白え、あの時の鬼ごっこの続きかよ!!面白え、面白えよ!ハハハハハハ!!」
◇
「何で、助けた?」
蔦をビルに絡み付けて歓楽街から離れていく七尾矢の背中でヨゾラは呟く。その質問に七尾矢は心底不思議そうな表情を浮かべた。
「ピンチだったから」
「ふざけるな。あの場で、あいつに勝てなかったら、殺せなかったらボクに生きる価値はない。あの場で殺していけば良かった」
ヨゾラの言葉に七尾矢は何も答えない。
「お前は知らないだろうが、あいつがボクの人生の全てだ!今までこんな下らない仕事をやってきたのは!どうなったって構わない他人を助けてきたのは!全てあいつを殺す為だ!なのに殺せなかった!倒すことすらできなかった!そんなボクに生きる価値なんて!!!」
ビルの屋上に着地して、叫ぶヨゾラに七尾矢はペットボトルに入っている液体をぶち撒けた。
「なっ!何なんだよ!」
初めは怒ったヨゾラだがその液体が何なのか理解する。
「ナウラの治療水か。随分と骨を折っただろ」
「ヨゾラの為って言ったらすぐに用意してくれたよ」
ペットボトルの中に入っていたのはナウラの水流の指輪による治療薬入りの水。通称、治療水だ。ナウラ本人はモスが傷を癒すと本気で思っているので大した効果はない水だと言ってあまり作らないが、効果は抜群でヨゾラの傷がみるみると治っていく。
(ああ、そう言うことか)
何故七尾矢がヨゾラの元に戻ってきたのかを理解した。七尾矢はナウラに犯人を連行した後、異世界人の襲撃を知った。その時ナウラのそばに居て、ヨゾラに連絡手段がない事を把握したのだろう。そしてヨゾラの怒りに満ちた声を聞き、助けに来たつもりだったのだろう。
「で、話は元に戻るが、何で助け」
「死ねば良かったとか言うな」
ヨゾラの話を遮って七尾矢が言い放つ。
「は?」
唐突すぎる発言に動揺するものの、ヨゾラは素直に思った事を口にする。
「そんなの君には関係ないだろ」
「ある!!!」
想像外の大声にヨゾラが驚愕する。正確に言えば大声と目の前に光景に、だ。目の前にいる七尾矢は肩を震わせて涙を流していたのだ。
「なんで泣くんだ」
「ヨゾラが生きる価値ないとか言うから」
七尾矢の言葉は意味不明だった。他人の生死などヨゾラには微塵の興味にもならない。だと言うのにこの男は、たった数ヶ月共にいた人間の為に涙を流しているのだ。
「ヨゾラが生きる意味はある。ヨゾラは俺に強さをくれた。甘えるなって叱ってくれた。馬鹿にしてきたり煽ってきた時はウザかったけど。ヨゾラがいたから今の俺がある」
「・・・」
「例えヨゾラが何もしてなくても、生きている意味はある。生きているだけで何でもいいんだよ」
「ただ意味もなく生きているなんて死んでるのと同じだろ」
ヨゾラの言うことも間違っていない。けれど七尾矢が言いたいことはそうではない。
「死ぬなんて言うな!生きる意味がないなんて言うな!生きてさえいればまたチャンスは来る!死ななければ生きる目的は見つかる!だから、そんな悲しい事言わないでくれ」
七尾矢の瞳から流れる涙を見ていると、ヨゾラも不思議な感覚に襲われる。優しく、慈悲深い、慈愛。まるで、優しさに包まれた様な、自分の全てが肯定されたかの様な感覚。
「何、なんだよ」
気がつくと、ヨゾラの瞳にも、大粒の涙が流れていた。
「ボクが死んでも、誰も悲しまない」
「俺が悲しむ。茜さんが、焔さんが、ナウラさんが。嫌がるかも知れないけど、アレグリアも多分」
「ボクの生きる目的には、到底届かなかった。あいつを殺さないと、ボクは」
「まだヨゾラは生きてる。一緒に頑張ろう。あの人が何をしたのか、どうして許せないのか。何も分からないけどさ。ヨゾラが困ってるなら、幾らでも力を貸すから」
七尾矢の声を聞いていると、更に涙が流れてくる。子供の様に、わんわん泣きはしないが、涙が止まる様子は全くない。そんなヨゾラを七尾矢は優しく抱きしめた。
「何だよ、男の抱擁なんて、いらないよ」
「黙ってろ。俺も六継紀以外の人を抱きしめたくなんてないっての」
「・・・シスコンめ」
ヨゾラの言いたいことと違う回答に少しヨゾラが笑う。男に抱かれたくなどない。ヨゾラは異性に抱きつかれたいなどと言う欲求は無いが、どうせ抱かれるなら異性の方がいい。だが。
(不思議と、悪くない)
七尾矢の抱擁はヨゾラの涙が枯れきるまで続いた。
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