豊穣の剣

藤丸セブン

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1章 特別異界対策課編

2話 特別異界対策課

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「ん?ぅぅん。ここ、は?」
 七尾矢が目を覚ますとそこは知らない天井だった。
「えっと、俺は」
 この見知らぬ天井を見る前、自分が何をしていたのかを思い出そうとする。確か異界の獣に襲われて。
「やあ七尾矢!元気そうで何よりだ!」
「うわぁぁ!?」
 意識が少しはっきりしてきたタイミングでいきなり耳元で大声を出された。そこには見覚えのある陽気そうな男が立っていた。
「あら、目が覚めたの?」
「あ、あなた方は」
 部屋の扉が開かれてまたしても見たことのある女性が入ってくる。あの時にあった二人組だ。
「ようこそ神谷七尾矢君!特別異界対策課へ!歓迎するよ!」
「えっと、どういうこと?というかここはどこ?」
 起きたばかりで全く状況が掴めない。確か七尾矢は異界の怪物に襲われて。
「アレグリアに聞いた時はビックリしたわよ。まさかあなたが異界武具を覚醒させたなんてね」
「アレグリア?」
「ああ、自己紹介がまだだったね」
 そう言うと青髪で長身のの男が執事の様に頭を下げながら自己紹介をする。
「初めまして。俺は高菜アレグリア。俺の事は気安くアレグリア、もしくは兄弟と呼んでくれて構わないよ、相棒!」
 情報量が多すぎて付いていけない。ひとまず分かったのは。
「異世界人?」
「お、ご名刀!そうさ、俺こそがこの星の人々に異界武具を持ってきた勇者の一人!ついでにこっちが小川茜。仮にも一応俺達特別異界対策課の隊長だよ」
「仮にもって何よ!?一応って何よ!?」
 茜と呼ばれた女性がアレグリアにキレ散らかす。その茜を見てアレグリアは笑い転げる。なるほど、この二人の関係が少し見えてきた。
「改めて、小川茜よ。本日からあなたの上司になるから、そこの所よろしくね」
「は、はぁ。はぁ!?」
 初耳情報に七尾矢が驚き寝かされていたベットから跳ね起きる。
「なんでどうして!?」
「あなたが異界武具を覚醒させたからよ。この星の人間で異界武具を覚醒させられる人物は少ない。あなたはその少数の一人になったんだから、強制で私達の仲間よ」
「無茶苦茶だ!」
 本当に無茶苦茶だ。特別異界対策課という組織がどの様な組織なのかは分からないが、勝手に入れられるというのは如何なものだろうか。
「諦めなさい。私もそうやって入れられたんだもの」
「・・・隊長さんも苦労してるんですね」
 まだほんの少ししか交流がないがこの人が苦労人なのは何となく分かった。
「とにかく、今日から特別異界対策課に所属することになるけど、質問とかある?ないなら早速業務に入って貰うけど」
「質問しかないんですが?」
 何をサラッと流そうとしているのか。アレグリアもアレグリアだが、この人もこの人だ。
「あるの?じゃあアレグリアに聞いといて。私は仕事に戻るから」
「ええ!?」
 なんて勝手な。少し同情したというのにやはりその同情は返してもらうとしよう。そんな七尾矢の想いとは裏腹に茜は嫌そうな顔を見せて去っていった。
「さて、じゃあ君の質問に答えよう。高菜アレグリアです」
「自己紹介はもういいですアレグリアさん」
「タメ口で構わないよ?」
 アレグリアはニコニコしながらベットの横に置いてある椅子に座る。馴れ馴れしいとは感じながらも軽くあしらわれるよりはマシだと感じ、七尾矢もベットに腰をかけた。
「じゃあまず、特別異界対策課って何?」
「特別異界対策課は文字通り異界人を追い返す、もしくは殺すための組織だよ。異界人は今もこの惑星を乗っ取るつもりだ。それを防ぐのが俺達の仕事」
 講義で聞いた通りだ。アレグリアの様子を見てもどうやら嘘をついている様には見えない。
「異界武具が覚醒したっていうのは?」
「異界武具は特別な性質を持った人にしか使えない。異界武具が使用者として認めてくれないんだ。俺達は異界武具が使用者を認めて、何か力を引き出せたらその事を覚醒と呼んでいる」
「な、なるほど」
 つまりあの時アレグリアから渡された異界武具が七尾矢を使用者として認めてくれたと言うことか。
「じゃあ隊長さんもあの弓に選ばれて?」
「そう。茜の武具は雷鳴の弓。文字通り雷属性を操る弓だよ」
「属性っていうのは?」
「この世、いや。異界には七つの属性があるんだ。炎、水、草、雷、岩、風の七種類。異界武具は基本的にこの七つのうちどれか一つの属性を纏ってる」
 なんともゲームの様な話だ。そういえば七尾矢がやっているスマホゲームでも属性というものがある。と言う事は。
「水は火に強い?」
「それは状況によるなぁ。例えば水の武具を持った剣士が炎の武具を持った人と戦うとしても、それが水の剣で炎の弓で、更に距離が離れてたら水が勝つのは難しい」
 アレグリアの言い分は分かる。つまりは状況によると言う事だ。
「ゲームの様にはいかないか」
「いや、でも水は火に強いよ?実際同じ実力を持つ二人が水と炎の剣を持てば勝つのは水だ。ただ、剣技が炎の方が強ければ勝敗は分からないけどね」
「つまり属性相性はあるって事か」
 属性による有利不利はある。しかしそれだけが戦闘で勝利する為の手段ではない。
「あ、じゃあ俺の武器は」
「君の武具は自然の剣。属性は草だよ」
 草。そういえばモンスターを育てるゲームの最初のモンスターで七尾矢はよく草タイプのモンスターを選んでいた。それが関係あるかどうかは分からないが、少し愛着は湧く。
「草って事は水に強くて炎に弱い」
「ん?別に水に強くはないよ?高圧水流で刃を作られたら草なんて真っ二つだよ」
 悲しい事を聞いた。
「じゃあ草が有利なのは?」
「うーん。炎には燃えるから弱い。氷、雷、風とかはよくも悪くもない?岩は、いや、別に相性がよくはないかな?」
「つ、つまり?」
「うん。やっぱ相性がいいのは水で!草は水を吸ってぐんぐん育つしね!」
 相性がいい属性、無し。これはショックがデカい。七尾矢はベットに両手をついた。
「アッハッハ。そんなに悲しまないでよ。正直相性なんて水と炎。氷と水くらいしかないんだから。あ、炎と草も相性あるね」
「現実はゲームの様に甘くないってことかぁ」
 七尾矢の涙がベットに落ちていく。分かっていたつもりだったが、少し悲しい。
「さて、他に質問はあるかい?」
「そういえば隊長は雷の弓だけどアレグリアの武具は?」
「よく聞いてくれたね!」
 アレグリアは待ってましたと言わんばかりに指を鳴らすと美しい白い槍が姿を現した。
「これが俺の武器、氷結の槍さ。どうだい?カッコいいだろう?」
 槍を手にしたアレグリアは槍をクルクルと凄まじい速度で回しながら七尾矢に向けて構えた。
「・・・悔しいけどカッコいい」
 その槍の動きはまるでアニメでみる槍使いの様で凄く男心をくすぐった。
「特別異界対策課は何人いるの?」
「特異課は君含めて六人」
「六人か。六人!?」
 あまりにも少ない数字に七尾矢は耳を疑った。
「うん。しかもその内一人は非戦闘員さ!」
「つまり完全な新人である俺を除き今完全な状態で戦えるのは四人!?」
「その通り!茜が君を逃さない、いや。逃せない理由が分かっただろ?」
 人手が、圧倒的に人手が足りない。本当にこんなメンバーで異世界からの侵略者と戦えるのか。
「大丈夫!うちにはワープホールっていう風を使う隊員の最高傑作があってね!即座に現場へ移動できる!」
「それでも足りない!足りなさすぎる!!」
 確かにそれは便利だし最高級に気になるが、それでもこの人数で戦うのは無理があるだろう。だからあの時に救援要請をされていたのか。あまりにも人がいないから。
「一応特異課じゃないけど協力者ならいるよ?」
「なんでその人達は入ってないの!?その人達も異界武具覚醒させたんでしょ!?」
「未成年だから」
 それは、仕方ない。未成年を戦場に立たせるのは実に良くない。
「いや、俺も二十ジャストなんですけど?」
「成人してるじゃん」
「学生ですけど!?」
「成人してるじゃん」
 全く同じ声のトーンで繰り返される言葉。逃げ場は無かったし拒否権もない様だ。
「いつまで駄弁ってるの!?早く仕事に就きなさい!」
「怒られちゃった。じゃ!仕事するとしようか!」
「不安だ」
 こうして七尾矢の戦いは幕を開けた。
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