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2話 オトコの娘とオトコの娘
しおりを挟む「そういえば、今日は何処に行くんだ?」
友誼は備え付けられた大きな時計を見て蒼に問いかける。現在の時刻は十一時。集合場所は駅前。これから何処にでも行ける時間だし、何処にでも行ける場所に集合だったので、行き先の検討が付かない。
「ショッピングモールだよ。あそこなら大抵の事なら出来るから初めての顔合わせの場所としては最適だろ?」
「ショッピングするん!?それならジブン新しい服見たいなぁー」
「いいわね。じゃあ早速向かいましょ」
ショッピングモールと言う言葉に食いつき晴と雫が楽しげに歩き出す。
「ショッピングモールか」
女の子はショッピングが好きという情報は合っていた様だ。しかしショッピングモールでは友誼のやる事がない。友誼もファッションには気を遣っているしそれなりにオシャレな服を着ているつもりだが、今は充分に服はあるので新しいものはいらない。
「お前の憧れのシチュエーションが出来るかもよ?」
「俺の憧れの?あぁ!なるほど!」
蒼の呟きに友誼は分かりやすくポンと手を叩く。友誼の彼女とやりたい憧れの事。それは多くあるが、その中の一つに彼女と一緒に服を選ぶというものがある。その様な妄想は何度もした事がある。
「なぁなぁ!どっちが可愛いと思う?」
「うーん。真ん中かな!」
「真ん中?右と左のどっちか聞いてるんやけど?」
「君が、一番可愛い、ゼッ!」
以上が友誼の妄想である。普段は彼女の顔や声は明確に妄想は出来ないが、今回はさも当然の様に晴を彼女として妄想していた。
「置いてくでー?」
「あ!ごめんなさい!置いてかないで!」
くだらない妄想をして足を止めていた友誼は急いで三人の元へと走った。
場面は切り替わりショッピングモールの一角の服屋。四人は駅から歩いて五分のショッピングモールに到着し次第すぐ様服屋へ入店。二人一組で服を見ていた。
「これかわええなぁ。あ!こっちも可愛い!いやーどれにしよかなー!」
「楽しそうだね。晴ちゃんにならどっちも似合うと思うぜ」
「お、嬉しい事言ってくれるやん!そんじゃ試着してくるからどっちがええか選んでや!」
「お、おう!任せろ!」
まさか本当に友誼の憧れのシチュエーションがやって来るとは。これは責任重大だ。試着してからなので君が一番かわいいとは言えないが。まあその程度は誤差の範疇である。
「待ってる間に俺もなんか見るか」
ただ待っているだけなのは退屈だ。故に試着室の近くにある服を見る。そこにはフリフリのワンピースがずらりと並んでいた。
「おお」
この様な可愛い服を見るとこの服を着た晴を想像してしまう。出会ってから一時間も経っていないというのに晴の事で頭がいっぱいだ。なるほど、これが恋というものか。
「そちらをお求めですかー!?」
「うわっ!?あ、いえ、違います」
妄想中に店員に話しかけられた友誼は驚きながらも否定する。
「あらそうですか。でもお客様に似合うと思いますよー?お客様可愛いし私が保証します!今の様なボーイッシュな服装も素敵ですけど、やっぱり女の子たるもの可愛い服を着ないと!」
「いいいいいえ、結構です!」
慌てすぎていを多めに言ってしまった。しかし慌てるのも無理はない。こんな可愛い服を男が着るなど想像しただけでキツい。
「えー?一回試着してみてくれませんかー?私お客様のワンピース姿見てみたいですー!」
「いいえ!俺は男なんで!!結構ですぅぅぅ!!」
友誼の声が店内に響く。かなりの大声だったので周りの人にチラリと見られて、「マジで?」「嘘でしょ?」「新しい扉が開きそう」など様々な言葉が飛び交う。
「し、失礼しましたー」
女性の店員も流石に営業を諦めて去っていく。この様な事は初めてでは無いが、流石にワンピースを勧められたのは初めてだ。
「ふふ、くっ。ふふふふふふ」
「何笑ってんの?」
笑い声を堪える様な笑いに気づきそちらを見るといつの間にか試着室から出てきていた晴がお腹を抱えて笑っていた。
「いや、なんかオモロくて。あははははは!ふふっ、なははははは!」
「そんな笑わなくても良いだろ!?確かに晴ちゃんは性別を間違えられる事なんて無いだろうから新鮮で面白いかも知らないけど」
「ん?いや。性別間違えられることはあるで?」
晴の言葉に一瞬固まる。性別を間違えられた事がある。つまり、男だと思われたと?こんな美少女が?
「おーい晴ちゃーん!こっちに可愛い服あったわよー!」
「お、ホンマ!?そんじゃ着替えてそっち行くわ!」
晴がポカンとした友誼を置いて試着室に戻っていく。
「どした友誼?性別間違えられるなんていつものことだろ?」
「あ、うん。そうだね、うん」
そうだ。今はダブルデート中。先程の言葉は一旦しまって今は晴と仲良くなる事に努めよう。
それから一時間程服を見たが、結局何も購入する事はなく店を出た。
「はー。お腹すいたなぁ。なぁなぁ、そろそろお昼にせーへん?」
「丁度お昼時だしな。僕は異論ないぜ」
晴の言葉に皆が頷く。現在の時刻は一時二十五分。少し飲食店の客が少なくなり始める時間だ。お昼を食べるなら今がチャンスだろう。
「何食べるよ?」
飲食店の連なるエリアに着くと様々な店が見える。ラーメン屋、ファーストフード店、ファミリーレストラン。アイスクリーム屋など色々な種類がある。
「そうだなー。おっ!天竺あんじゃん!天竺にしよう、いややっぱ今のナシ!!」
友誼が焦りながら自分の言葉を撤回する。天竺とは友誼と蒼がよく行くラーメン屋の名前である。女の子との食事にラーメン店は不味い。いやラーメンは美味しいのだが。
「ええやん!ジブンも久々食べたいわ!雫ちゃんも天竺でええ?」
「晴ちゃんが行きたいなら構わないわよ」
「僕も異論なし。んじゃ天竺行くか」
「あり?」
引かれるかと思ったが別段その様な事は無く寧ろ乗り気であった。
「ま、いっか」
店内はちらほらとお客さんが見えたが空いているテーブルもあった為直ぐに席に通して貰えた。
「よし!そんじゃジブンはスペシャルラーメン大盛りで半チャーハン!」
「え!?そんなに食えるのか!?ここの大盛りって結構な量あるぞ!?」
「行けるでー!ジブンこう見えて結構食べれるねん」
胸を張って誇らしげに笑う晴に一同はつられて笑う。
(よく食べる女の子か。いいじゃないか)
勝手に女の子は少食だと決めつけていたが、そんな事はない様だ。
「私は小ラーメンで」
(いや、晴ちゃんが特別なのか?)
ひとまず新しい情報を入手して一同は頼んだラーメンを頂いた。
「ぷはー!美味しかったなぁー!」
「うん、美味だった」
ラーメンを食べ終わって店を出る。晴と友誼は実に満足げな表情で会話をしていた。
「あ、ジブンおトイレ行ってくるわ。ちょっと待ってて」
「それなら俺も行くよ。食後は行きたくなるので」
「おう。そんじゃ待ってるわ」
友誼と晴は楽しげに会話をしながらトイレを目指す。晴との会話は不思議と自然に続き、話していて楽しい。
「あ、もう着いたか」
もう少し話していたかったがもうトイレに着いてしまった。会話は一度切り上げねばならない。
「そんでなー」
「ん?」
しかし晴は会話を止めるつもりはなく、それどころか男子トイレに入ろうと。
「ちょっ、ちょっとストップ!!こっち男子トイレだぜ!!?」
「・・・分かっとるよ?」
「分かっとるよ!!?」
何故友誼に止められたのか分からないという顔をして晴が首を傾げる。天然なのか?いや、天然でも男子トイレに入ろうとはしないだろう。
「だから、こっちは男子トイレで、女子トイレはあっちで」
「ん?あー!!友誼君も勘違いしとったんやな!ジブン男やで!!!」
男?晴が、男?可愛い顔をしていて、唇にピンク色の口紅を塗った、実に可愛い美少女が。男?
「・・・はぁ?」
「お、猫ミーム」
「はぁぁぁぁぁぁぁ!!」
トイレの目の前で驚愕の大声を出す。とても、とても信じられない。世界が歪む様な感覚が襲ってくる。
「晴が、オトコの娘!だとぉぉぉぉ!!!」
友誼の悲鳴がショッピングモールに響いた。
第二話 オトコの娘とオトコの娘
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