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二章 雷鳴の姉妹
一九話 ストロング飲み放題
しおりを挟むスタレイス帝国の小さな駅。便利ではあるが三十分に一本しか電車が来ない為あまり人が来ない小さな駅に電車が止まり、一人の少女が降りてきた。
「十時三十五分。うん、まだ時間はあるね」
少女の名はミラ・フィリスア。三人組の男にナンパをされていた所をアルタイルに助けられ、その後からアルタイルと交流を持っている少女だ。
「変じゃないかな。髪の毛は、大丈夫だよね」
ミラは水色のワンピースに触れ、髪の毛をいじる。どうしてここまで身支度を気にしているのかと言うと本日はアルタイルとお茶に行く予定があるのだ。
「これって、デ、デートってやつだよね。そうだよね!?」
誰も聞いていないのに空気に問いかけ頬を染めて浮いた気持ちで歩く。
「久しぶりのお出かけだな。アルタイル、報告があるって言ってたけど、何かな。はっ!?もしかして!いやぁ、困っちゃうなぁ」
何を思ったのか顔をふにゃりと歪めながら笑う。その様子は恋する乙女そのものだった。だが。
「でも、それは出来ないよね」
浮いた気持ちを直ぐに落ち着け、ミラは待ち合わせ場所へ向かう。その途中で。
「ねーねぇ!お姉さん暇ー?」
「良かったら俺らと遊ばない?」
「暇じゃない良くない遊ばない」
またしてもナンパされた。その事が無性に腹立たしくて男達の顔を見向きもせずミラはスタスタと去っていく。
「ちょちょちょ!待った!そんな淡白な反応せずにさ!」
「お茶しようぜ!な!」
頭にきた。せっかくの楽しい気持ちが全て消し飛ぶほどの怒り。ミラはこれから楽しい楽しいデートなのだ。もしかしたらもしかするかもなのだ。それは絶対にあり得ない事だが、幸せな生活が待っているかもしれないのだ。そんな幸せを邪魔しようというのなら。
「待てぇぇぇぇ!!!」
ミラに絡んでくる男達がミラに接近する中、実に大きな声が響いた。この登場には覚えがある。その声のする方向にミラは笑顔で振り返る。
「誰だ!?」
そこには魔法少女のお面を被り仁王立ちで腕組みをしている謎の人物が立っていた。
「誰だ?ならば答えよう。我が名は」
謎の人物は姿勢はそのままに大声で名乗りをあげた。
「我こそは、困っている女の子を絶対に助ける女、その名も!美少女絶対助ける仮面!」
「アルタイル、じゃない?」
そう、そこに立っていたのは顔が見えないものの明らかに女の子だった。
「な、何だ君は」
「ま、女の子ならいいか。どう?君も一緒にお茶に」
「ストロング!ストロングが無料で飲み放題ならついて行っても良いよ!!」
「軽っ!?」
ストロングとはスーパーでも自販機でも普通に売っている強炭酸の清涼飲料水だ。故に別に珍しいものでもなければその辺のチャラ男でも達成できる要求だ。
「え、えっと。じゃあ行こうか」
「ダメに決まってるでしょ!ほら行くよ!」
「あ、私のストロング!」
ミラは困惑しながらも遊びに誘うナンパ男を置いて美少女絶対助ける仮面の手を取って走り出した。
「あー、ま、いっか」
完全に拒否されたナンパ男はそのまま次の標的へ移行する。別に無理をしてこの美少女絶対助ける仮面を遊びに誘うよりは他の子を狙ったほうが良い。
「はぁ、はぁ。あのねぇ!ああいう男にはついて行っちゃダメ!何されるか分からないんだから!」
「私は強いから平気だよ」
「強くてもダメ!約束して!」
人差し指を突き出して美少女絶対助ける仮面を叱るミラに美少女絶対助ける仮面は渋々頷いた。完全に助ける立場が変わっている。素直にナンパから助けてくれない所はやはり彼を思わせる。
「ねぇ、貴方もしかしてアルタイルの妹さん?」
「アルを知ってるの?」
ビンゴだ。これで違っていたら恥ずかしかったが、まあこれだけ変な事をしている人が彼の家族ではないなどあり得ないだろう。
「なんか失礼な事考えてない?」
「考えてない」
「そこで即答するって事は考えてたって事だよ」
そう言いつつ美少女絶対助ける仮面が魔法少女のお面を外す。そこにいた少女はアルタイルに似て実に整った顔立ちをしていた。
「くっ!可愛い!いや、美人系?とにかく顔がいい!」
「?ありがとう。お姉さんも可愛いよ」
「くぅぅ!」
キョトンとした顔で首を傾げながら褒めてくれるアルタイルの妹。これはまたアルタイルとは違う破壊力がある。具体的にいうのならば義妹として可愛がりたい。ストロングを買って飲んでいる姿を眺めていたい。もしミラが彼女にストロングを買って飲ませていたらその隣では同じ姿勢でストロングを飲む彼がいるのだろう。
「いい」
素晴らしい妄想をしてしまった。ここが天国か。
「お姉さん大丈夫?おっぱい飲む?」
「そういう事見ず知らずの人に言っちゃいけません!というか揉むじゃなくて飲む!?」
また不用心な発言をするベガをミラが叱りつける。この子を一人にしては危険だ。ミラが守ってあげなくては。
「あれ、ベガじゃないか。こんな所で何してるんだ?」
「あ、アルだ。今日はデートじゃないの?」
アルタイルが来てからようやく気づいたが、ベガの手を引いてナンパ男から逃げている間にいつの間にか待ち合わせ場所に到着していた。
「ん?」
「あ、あはは」
アルタイルがベガとミラが一緒にいる所を見て少し考え込む。
「浮気か?」
「ち!違う!」
想定外の言葉が飛んできたのですぐさまその考えを否定する。もし浮気するとしたらこんな待ち合わせ場所で密会などしない。勿論浮気など絶対にしないのだが。
「もしかしてアルの話してたミラってあんた?」
「あ、うん。初めまして」
アルタイルはベガに何度かミラの話をしていたのでこれまでの少ない会話で彼女こそがアルタイルの話していた人物であると特定し、握手を求めた。ミラの方もアルタイルに妹がいる事は知っていたし驚きも少ししたら消えて握手に応じた。
「せっかくだしベガも来るか?中々ストロングの旨い店を見つけたんだ」
「へぇ、そう聞いたら黙っていられない」
アルタイルがベガにそういうとベガが食いついてくる。兄弟揃ってストロングが好きなのは想像できたがいざその場面に出くわすと少し笑ってしまう。
「ミラもいいよな?」
「え!?あー、うん。いいよ」
一瞬アルタイルと二人っきりではないのかと落胆するが直ぐにベガと仲良くなるチャンスだと思い直す。そして三人は移動を始めた。
「そうだ。今日は報告があるって言ってたよね」
「ああ、せっかくだしミラには口頭で伝えようと思ってな」
アルタイルは懐から何かを取り出す。それは何か文字の書かれた襷だった。
「そう!何を隠そう私アルタイル・ヴェルガスは先日B級魔剣士に昇級したのだ!」
「ええええ!?」
その襷には「B級魔剣士」と大きく書かれていた。普段のアルタイルとの会話から大した報告ではないのだろうと思い込んでいたミラが驚きの声をあげる。アルタイルとはじめて出会った時は駆け出しだと言っていた。その駆け出しがB級に昇級するにはかなり早い。
「凄いだろ」
「うん!凄いよ!」
「私も報告がある!」
ミラが素直にアルタイルを褒めるとアルタイルは全力で胸を張る。が、そんな事をしていたらベガに襷を取られる。
「何を隠そう、私もアルと同じくB級魔剣士になった!褒めて!」
「ええ!?ベガちゃんも!?」
「褒めて!」
ベガは表情筋をあまり動かさずに自分にとって一番大切な部分を強調した。
「えっと。よーしよし。偉いねー」
動揺しながらもベガの頭を優しく撫でるミラ。その行動がお気に召したのかベガは嬉しそうに鼻息を荒くしていた。
(なんか犬みたい)
「失礼な事考えてない?お詫びにおっぱい揉ませて」
「私が気弱だから言えば何でも許してくれると思ってない?」
「ひえっ」
何はともあれ三人は楽しくお話をしながら美味しいストロングを楽しみましたとさ。
「めでたしめでたし」
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