平和の代償

藤丸セブン

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十七話 帰路

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 スタレイス帝国のS級魔剣士プロキオンによりエラス帝国S級魔剣士のユナが殺されたという事実はすぐさま両軍の魔剣士に伝わった。それによりエラス帝国の魔剣士は敗走。スタレイス帝国とエラス帝国による今回の一戦はスタレイス帝国の勝利に終わった。
「このままエラスに攻め込まないのか?」
「その怪我の状態で万全に戦えるなら攻め込めばいい」
 エラス帝国の魔剣士達が敗走しスタレイス帝国は勝利した。その勝利したスタレイス帝国の魔剣士達も一度体制を立て直す為国への帰路へと着いていた。その理由は簡単で負傷者や死者を多く出したからだ。この状態で敵国へ攻め込む事など不可能。
「帰りは徒歩なのー?私疲れたんだけどー」
「ご、ごめんねシリウスちゃん。私も魔力が尽きちゃって」
 今回は行きがスピカによる転送という力技だったが、帰りは違う。スピカも当然敵兵と戦っており疲弊しているので全員を国に送り返す転送陣は作れなかったのだ。
「私一人くらいは?」
「重症人とか亡くなった人とかを返しちゃったから」
「おいシリウス。文句ばかり言うな」
 普段ふざけているアルタイルからの注意、それがシリウスには無性に腹立たしく感じられた。故に強く文句を言って駄々を捏ねよう。そう思った束の間、
「お姉ちゃんの胸が空いてるわよ!?」
 プロキオンが瞳を輝かせて両手を広げた。
「・・・歩く」
 妹(成人済み)を抱っこする事を本当に楽しみにしているプロキオンを見てシリウスは思わず目を逸らした。そしてそのまま歩みを進める。
「シリウス?お姉ちゃんの胸が空いてるわよ?腕も空いてるし出来れば胸がいいけど背中も空いてるわよ?」
「あの、我慢しなくていいとは言ったけど、やっぱり我慢してくれない?なんか、私のイメージする姉様とかけ離れすぎてるっていうか、別人過ぎて怖いというか」
 シリウスが本当に申し訳なさそうに俯きながらそう口にするとプロキオンはこの世の終わりの様な表情をして地面に倒れ込んだ。
「そ、うよね。こんなお姉ちゃん、嫌、よね。ダサい、よね?」
「ちょっと!ガチ泣きしないでよ!?私が悪いみたいじゃん!!?」
 シリウスが本気で涙を流しているプロキオンに駆け寄るがプロキオンの涙は止まらない。そして感じる仲間達からの冷ややかな視線。
「私が悪いって言いたい訳?」
「いや、そんなつもりは」
「「そうだよ」」
 レグルスがシリウスもプロキオンも気遣いつつ何とか傷つけずにプロキオンを立ち直らせる方法を考えていた所、アルタイルとベガが全力投球した。
「シリウスが悪い」
「プロキオンを泣かせた」
「「いーけないんだーいけないんだーせーんせーに、言ってやろー」」
「くっそイライラする煽りかたしないでくれる!?」
 シリウスは今にも二人に殴りかかる程に拳を強く握りワナワナと震えるが、少しは負い目も感じているのか振り上げた拳をゆっくり下ろした。
「ごめん姉様。傷つけるつもりはなかったの。ただイメージと違ってて。なんか今の姉様は姉様っていうより、お姉ちゃんって感じというか」
「お姉ちゃん?」
 シリウスの必至の弁明、その中の一言がプロキオンは涙を止めた。お姉ちゃん。そう、お姉ちゃんである。
「そう!お姉ちゃん!暫く会ってない内にシリウスは私の事を「姉様」なんて堅苦しい呼び方をしてしまっていたけれど!小さい頃はお姉ちゃんって!呼んでくれてたわよね!?」
「ぬぇ!?う、うん。まあ小さかったし」
「そう!また私の事をお姉ちゃんって呼んでくれるのね!!私、シリウスが私を慕ってくれるのは嬉しかったけど、なんか余所余所しくて悲しかったの!けどお姉ちゃんって呼んでくれたらそんな悩みは全て吹き飛ぶ!!!ありがとうシリウス!!大好きよ!!私の可愛い妹!!!」
 悲しみの涙を歓喜の涙に変えプロキオンはシリウスに思い切り抱きついた。あまりに強く抱きしめている故に骨がミシミシ音を立てている。
「んぎゃぁぁぁ!!!死ぬ!死ぬぅぅぅ!!!」
 こうしてプロキオン隊の魔剣士とアヴィオール隊の救援要請を引き受けた魔剣士達は勝利に酔いながらスタレイス帝国へ帰った。
  ◇
「・・ユナ様がスタレイスの魔剣士の首を刎ねようとした時に、スタレイスのS級が来て、ユナ様を軽く殺して行きました。以上が、報告です」
「へーぇ。なかなか強い人だったんだー!」
 スタレイス軍との戦いの後、エラス帝国の路地裏で一人の男が戦いの結果を伝えていた。その情報を伝えられた女性はニヤニヤと笑う。紺色の髪の毛を可愛らしくツインテールに纏めたその女性を一言で表すなら俗にいうメスガキと言える様な容姿をしていた。
「スタレイスは人口が少ないけどその分強い奴が多いっていう噂は本当だったんだー。ユナちゃんも弱くはなかったし」
「あ、あの。約束は果たしました俺を解放して」
「んー?どうして?」
 女性に怯える様な姿勢を見せる男、エラス帝国の魔剣士にツインテールの女性は男の髪の毛を掴み目をじっと見つめる。
「あなたはヘレンが好きでしょ?だから母国を裏切ってヘレンに尽くしてるんだよね。ね?」
「え、あっ。あっ」
「あなたはヘレンがだーい好き。そうだよね?」
「は、はい!私はヘレン様が大好きです!ヘレン様の為国を裏切り!全てを捧げます!」
 先程までの怯えが嘘のように消え、男は目の前の女、ヘレンに忠誠を誓う様に跪いた。
「ふふふ。そうだよねー!ヘレン素直な子は好きだよー!それじゃあご褒美を」
「ヘレン様」
 ヘレンがエラス帝国の魔剣士に触れようとした時、背後からヘレンを呼ぶ声が聞こえた。ヘレンにとってその声は聞き覚えのある声だった。
「なーにーコーストー?」
「なーにー。ではありませんよ。こんな所で何をしていらっしゃるのですか?」
「見ての通り情報収集だよ?」
 コーストと呼ばれた若草色の髪を持った男性に何が問題なのか分からないと言わんばかりに首を傾げるヘレン。実際情報収集をする事自体は何も間違っていない。間違っていないのだが。
「問題なのはあなたが直々に他国へ行って情報収集している事です。あなたは自分が誰なのか理解しているのですか?」
「分かってるけどー!分かってるけど退屈じゃん!お母様も私に強い男を探して強い世継ぎを産んで欲しいって言ってたよー!」
「確かに言ってましたけど。あのお方は相手は自分が探すと仰っていましたよ。それにもしエラスの魔剣士にあなたの正体がバレたら殺されてしまいますよ!間違いありません!」
 コーストに諭されてヘレンは拗ねた様に「むー!帰りたくなーい!」と頬を膨らませる。実に可愛らしい駄々だが、コーストは幼い頃からこの姿を見ている。故にこのおねだりに効果はない。
「さあ帰りますよ。あなたのお母様がお怒りです」
「お母様怒ってるの?怒られたくないなぁ」
「そう思うならこの様な恐ろしい事しないで下さいよ。もしここでこの魔剣士さんに増援を呼ばれていたら」
 額に汗を滲ませながらコーストがそう呟くと、二人の周りに大量の魔剣士が現れる。
「・・・思いっきりバレているではありませんか」
「・・・てへっ!」
「そんな手に引っかかりませんよ!全くあなたと言う人は!」
 十を超える魔剣士に囲まれていると言うのにコーストはエラス帝国の魔剣士には目もくれずヘレンを叱りつける。その様子がエラスの魔剣士には耐えられなかった。
「貴様!あまり我らを舐めるなよ!」
 魔剣を前に突き出してコーストに威嚇をする魔剣士。その声を聞き始めてコーストはその魔剣士の方を向くが、その表情に焦りは一切ない。
「仕方ありません。ヘレン様」
「うん!」
 コーストに名前を呼ばれてヘレンは嬉しそうに手を上げた。
「みーんな!ヘレンの虜になってね!んーーーちゅ!!!」
 実に楽しそうに自分の手を唇に押し付けて、ヘレンは元気いっぱいエラス帝国の魔剣士達に投げキッスを送った。
「はぁ?何なんだ一体?覚悟はいいんだな!」
「ありゃ。あなたそれなりに強いんだ。じゃあ、そいつ殺して」
「何を言って!」
 一番前に立ち一番初めにヘレンとコーストに魔剣を突き付けた魔剣士の胸を、仲間の魔剣士が貫いた。
「へ?」
「ーーーの、為。ヘレン様の、為に、」
「「「死ね」」」
 ヘレンに牙を剥いた魔剣士に三本の魔剣が突き刺さった。
「ヘレンの魔力は魅了。男の子でも女の子でもヘレンの事一ミリでも可愛いと思っちゃったら魅了対象!!ヘレンってばかっわいいー!悪女ー!」
「ヘレン様。我々はヘレン様に従います」
「うん。じゃあもういいよ、死んで」
「「「はっ!」」」
 たった一言。ヘレンがそう口にしただけでそこにいた魔剣士全員が魔剣を自分に向け、自らの心臓を貫いた。
「酷いことをしますねぇ」
「心にもない事言っちゃダメでしょー。ま、何でも良いんだけど!」
 自害した魔剣士達を踏みつけながらヘレンは、八七代目ワールスア帝国王の娘ヘレン・ワールスアは楽しげに帰路へ着いた。
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