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十五話 高速剣
しおりを挟む「フレアフレイム!」
前方に向けてアルタイルが高熱の炎を敵国の魔剣士へ放出する。しかしその一撃で決着がつく訳ではなく敵の魔剣士は炎を回避してアルタイルに斬りかかってくる。
「くっ!!」
敵の剣とアルタイルの剣がぶつかり合い火花を散らす。これまでの相手とは明らかに動きが違う。完全に戦闘慣れした動きだ。
「アル!」
戦闘中にベガの声がアルタイルの耳に入る。それだけでベガが何をしてくるのか大体把握でき、アルタイルは突然地面に寝転がった。
「はっ!?」
アルタイルと剣撃を交わし合っていた魔剣士はアルタイルの突然の行動に驚き、
「はっ、ぁ?」
突然胸を貫かれて出血しながら倒れた。
「野蛮な戦法だな」
「助けてあげたのにありがとうより先にそれ?」
ベガは自分の魔剣を拾い直して不服そうに言う。先程の出来事の解説はこうだ。アルタイルはベガの声を聞いて何かが飛んでくると察し、巻き添えを喰らわないように回避。ベガはアルタイルを助ける為に落ちていた敵の魔剣と思われる剣を手に取り、槍投げの様にアルタイルと斬り合っていた魔剣士に放り投げたのだ。
「ありがとうベガ。助かったよ」
「ふふん。アルに死なれると私が暇になっちゃうからね。勘違いしないでよね」
ドヤ顔で実に誇らしげにツンデレの大名詞を口にするベガにアルタイルは思わず頬を緩ませる。
「伏せろっ!!」
そうしたのも束の間、アルタイルとベガはレグルスに頭を掴まれ、地面に叩きつけられた。
「のわっ!」
「いたっ!」
それなりの速度で頭を地面に叩きつけられた二人はレグルスを軽く睨むが、すぐにそんな事を言っている場合ではない事に気がついた。先程まで二人の首があった場所の木が見事に斬り裂かれていたのだから。
「あら、この攻撃に反応出来るのね。あんたがスタレイスのS級?」
「残念ながら違う。そう言うお前が、エラス帝国のS級魔剣士か」
レグルスの視線の先には一人の女性の姿があった。赤い髪を短く纏めた筋肉質な女性だった。その手にしていたのは鎌。あれこそが彼女の魔剣なのだろう。
「ええそうよ。私はユナ。エラス帝国のS級魔剣士。あなたは?」
「レグルス・インクルス。B級魔剣士だ」
「へぇ!これでBなんだ!スタレイスは人数が少ない代わりに強い奴が多いって噂は本当だったの、ねっ!」
ユナと名乗った女性は楽しげに笑いながら地面を強く踏み締め一瞬にしてレグルスとの距離を詰めた。
「はぁぁ!」
「ふっ!!」
そしてユナの魔剣とレグルスの魔剣がぶつかり合った。魔剣同士がぶつかり合った衝撃は凄まじく、油断すると体が飛んでいってしまう程だった。
「くっ!」
「私の剣に反応出来るのは素晴らしいけど、力が弱い!その程度の実力じゃ、私には勝てないわ!!」
魔剣同士のぶつかり合いでは圧倒的にレグルスが不利。だが。
「俺がお前を倒す必要はない」
「フレアアロー!」
「ショックインパクト!」
炎の弓矢とベガの魔剣による一撃がレグルスと魔剣をぶつけ合っているユナに迫る。しかしユナはレグルスを蹴り付けてアルタイルとベガの攻撃を回避した。
「なるほど。いいチームワークね。もっとも、あんたらの攻撃が当たったところで私は死なないけど」
「やってみないと」
「分からないだろ!」
ベガとアルタイルが力強く駆け出して二人でユナに剣を振り下ろす。しかしアルタイルの炎を纏った剣も、ベガの体の節々を強化された斬撃もユナは素早く回避する。
「あいつ!早すぎるだろ!」
「そう。私の魔剣は光速剣。私は光より早く駆け抜けられるのよ!そして、こんな事もね!」
ユナが魔剣を構えると周囲に光が形となって凝縮し、半径五センチ程の球体となって数十個程の光の弾が作られた。
「貫け!閃光弾!!」
「閃光弾って、光で目眩しする道具だろ!?」
迫り来る閃光弾を必死になって避けるアルタイル。だが、防ぎきれない光の弾がアルタイルの頬を掠め取っていく。
「追い詰めた」
ユナは獲物を狩る獣の様に舌なめずりをして獲物であるアルタイルを睨んだ。アルタイルの周囲は無数の光の弾で囲まれていたのだ。
「しまった!」
「アルタイル!合わせろ!」
「分かった!」
レグルスの声にアルタイルは応じる。主語は何もない実に単調な指示だが、レグルスの言わんとしている事をアルタイルは理解できた。
「フレアシールド!」
「多重障壁!」
アルタイルの炎による盾とレグルスによる障壁の合わせ技でアルタイルを円状にシールドを貼る。これならば障壁が破られない限りアルタイルは無事だ。障壁が破られなければ。
「嘘だろ!?」
アルタイルとレグルスの力を合わせた灼熱の障壁はユナの閃光弾の猛攻に脆く崩れ去った。
「がはぁぁぁ!」
「アルタイル!」
「人の心配をしてる場合?」
アルタイルの元へ駆け出そうとしたレグルスの背後にユナが迫る。レグルスは驚きながらも咄嗟に魔剣でユナに斬りかかるが、既にその場にユナはいない。
「閃光斬!」
「ぐっ!!」
完全に背後を取られたレグルスの背中を光速の鎌が切り裂く。レグルスの血液が飛び散りユナにかかるが、ユナは全く気にする様子なく次の獲物を睨みつける。
「強化 腕!足!」
ベガが魔剣を野球のバットの様にフルスイングしてユナを攻撃するが、やはりその場に既にユナはいない。
「くっ!レグルス!生きてるよね!?」
「俺の、事はいい、何とかここから離れ」
「逃すわけないでしょう?」
ユナの鎌がベガに迫るがベガはしっかりと反応して光速の魔剣を自らの魔剣で防ぐ。そして、ユナの鎌をしっかり握った。
「あんたの弱点はここ。幾ら光速で動けても力自体はそこまで強くない!力だけなら私のほうが強い!」
「確かにそうね。でも、私の脅威は魔剣だけじゃないわよ!」
鎌による攻撃は防いだ。だが、光速で動けるのは鎌だけではない。ユナは片手を鎌から外して右足を光速に乗せてベガを勢い良く蹴りつけた。
「かはっ!」
「光速拳!」
魔剣による力を使うものの魔剣を振るわない光速の拳がベガの腹部に直撃してベガが勢いに負けて吹き飛ぶ。ベガは地面に転がりながら三メートル程吹き飛んで止まった。
「ベガ!」
「これで終わりね。しかし、やっぱりあんたらやるわね。私の猛攻を受けてまだ生きてるなんて」
ベガが吹き飛んでまで握っていたユナの魔剣を回収してユナは三人を見る。アルタイルとベガは意識を手放してしまっているがレグルスはまだ意識を保っている。それはユナにとっては珍しい事だった。
「楽しかったわ、レグルス。あの世で誇りなさい!」
「エレクトロニック!バズーカァァ!!」
レグルスに鎌を振り下ろしその命に終止符を打とうとした瞬間、ユナを高圧の電撃が襲った。
「きゃぁぁ!!くっ、新手!?でも強敵の気配なんてしなかったのに」
「ふ、それは当然。だって、私凄く弱いもん」
ユナの視線の先にはアルタイルやレグルスの魔剣に比べると凄く短い魔剣を握った少女、シリウスが立っていた。少し震えながら。
「そうね、ここは戦場。悪いのは油断した私か。ま、不意打ちでこの程度のダメージなら大した事ないわね」
「うっそ、私の全力をぶつけたのに。あの感じ緑ゲージから黄色ゲージにすらなってなさそうなんだけど」
シリウスがとあるゲームの体力ゲージに例える。実際その比喩は間違っていないのだが。
「久しぶりに楽しい殺し合いが出来て気分がいいの。だから、苦しまない様に一瞬で殺してあげるわ!」
「ふぇ!?」
「シリウス!逃げろ!!!」
ユナの光速の鎌がシリウスの首元に迫る。しかしシリウスは情けない声をあげるだけで反応が追いつかない。その様子があまりに痛々しくレグルスが思わず目を閉じる。その瞬間。
「雷流撃!!!」
先程の電撃とは比べ物にならない電力の一撃がユナを襲った。
「っ!!」
その一撃を喰らうと命に関わる。そう判断したユナはシリウスから離れて電撃を回避した。
「私の、妹に、何をしているの?」
そこには溢れ出る殺意を止めるつもりなど一切ないスタレイス帝国のS級魔剣士、プロキオン・シバルバーが立っていた。
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