平和の代償

藤丸セブン

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十四話 進軍

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「おーい。いつまで寝てんのこの寝坊助」
「んぁ?」
 頬を突かれる感覚でアルタイルは目を覚ます。アルタイルの頬を突いていたのは少し髪の毛がボサボサなシリウスだった。
「おはよう。昨日は激しかったな」
「トランプに激しいものクソもないでしょ。それに私は一抜けしてアルタイルはドベ。あんたが激しい戦いしてたのは基本ベガかスピカでしょ」
「スピカは顔に出るからな。分かりやすい」
「あんた程じゃないけどね」
「いつまで雑談をしている。早く準備をしろ」
「「はーい」」
 レグルスに注意されてシリウスが髪を整えに行く。その様子を見て少し笑ってアルタイルも布団から抜け出した。
「皆揃ったな!では戦争の時間だ!」
 プルートの大きな声に応じて魔剣士達が声を上げる。プロキオン隊の援軍として招集されたので当然プロキオン隊と合同で戦場へ赴く。それならばプロキオンが指揮をすればいいのだがアヴィオールに指揮を任命されたのが実に嬉しかったのかプルートは満面の笑みで指揮を取っていた。
「いいのですかプロキオン様?」
「構わないわ。私はそんなに指揮するのが得意じゃないし」
 プロキオン隊の魔剣士がプロキオンに耳打ちをするがプロキオンは特に気にする様子もなく指揮をプルートに丸投げする。
「では!参りましょうかプロキオン殿」
「ええ、全軍前進!」
 テントなどの片付けを済ませてプロキオン隊とアヴィオール隊の一部のメンバー達は進軍を始めた。
「ぁぁぁぁー!つかれたー!!」
 進軍を始めてから数時間が経過し、その数時間による移動にシリウスが駄々を捏ね始めた。
「この程度で根を上げるなんて、弱いね」
「なんとでも言うといいよ。なんで私達徒歩で移動してる訳ー?みんな乗れそうな大型バスとかで移動したっていいじゃーん!」
「大型バスで、戦場に?」
 アルタイルはシリウスの言う通りに大型バスに乗って戦場に出る姿を想像してみる。少し面白い想像だったが、現実的では無いだろう。
「バスはともかく、戦車とかでならいい気がする。なんで戦車とかに乗らないの?」
「戦車で出撃するのは危険が生じる可能性があるからだ」
 ベガがレグルスを方を向いて質問をすると少し呆れた様にレグルスが答える。
「戦車自体は有効的かも知れないが、向こうの魔剣士がどんな魔法を持っているか分からない。機械を操る魔法や遠距離からの狙撃により戦車が爆発して被害が大きくなる可能性もある」
「うーん。一理あるかもだけど、そんな魔法あるの?」
「あくまでも想定だ。戦車による出撃はいい点ばかりでは無いと言うことが重要なんだ」
 レグルスの説明では納得がいかないのかベガが唸りながら頭を悩ませる。先程シリウスを馬鹿にしていたがベガも疲労してきているのだろう。
「はぁ。スピカ、こいつをなんとかやる気にさせてくれ。俺には無理だ」
「えっと、ベガちゃん。ぶっちゃけるとね、私達が戦車に乗れないのはお金がないからなんだよ」
「・・・ぶっちゃけすぎじゃない?」
 スピカからの言葉にベガが少し顔を引き攣らせる。レグルスからのベガをやる気づけるという作戦は完全に失敗となった。
「待って!だからこの作戦で結果を出せば戦車に乗れるかもよ!?エラスを倒せばエラスの材料を手に入れられるし!」
「別に戦車に乗りたい訳じゃ無いんだけど」
 またしても失敗。ベガがやる気になることはなかった。
「君達!?何を雑談しているんだ!僕達は戦場に向かっているんだぞ!!気を張りながら進むんだ!」
「「はーい」」
 プルートに怒られて小学生の様な返事をするベガとシリウス。その返事の後に少し笑い声が聞こえる。
「全く!君達のせいで他のメンバーの気まで抜けてしまったじゃないか」
「プルート!」
 プルートが大きなため息を吐く。そのタイミングでレグルスが叫んだ。
「ん?」
 プルートが声を出した瞬間プルートの顔面に高速で飛んできた矢が突き刺さった。
「っ!多重障壁!!」
 すぐさまレグルスが動き無数の障壁を張る。その直後障壁の数に負けない程の矢の雨がプロキオン隊とアヴィオール隊の援軍達を襲った。
「敵襲か!」
「アルタイル君!ベガちゃん!行ける!?」
「「行ける!」」
 スピカからの実に短い一言に二人は即答する。その答えを返すとスピカはすぐさま槍を振りあげた。すると瞬きの間にアルタイルとベガの姿がその場から消え、敵軍の弓兵達の元へと転送された。
「なぁ!?」
「フレアインパクト!!」
「強化 腕!」
 いきなり背後を取られていた弓兵達が驚き二人に矢を構えるが、遅い。アルタイルの剣から放たれる炎に包まれ悲鳴をあげながら焼けていく。アルタイルの炎が届かない敵達はベガが強化された棍棒の様な剣で強打していく。
「敵襲だ!」
「殺せ!」
 進軍中のアルタイル達を矢で攻撃していた弓兵達は始末したがそれ以外の魔剣士達に囲まれる。よく考えなくても分かることである。
「ねぇ、これって絶対新人の私達にやらせる仕事じゃないよね」
「スピカはそんなつもりなかっただろうけど、これって捨て駒みたいな状況だよな」
 魔剣を構え、軽口を叩きながら周囲を確認する。魔剣士の数は千、いやもっと多くとても数え切れない。向こうも状況を把握するのに時間がかかっている様ですぐさまは攻撃してこないが、それもあと数秒の話だろう。この状況をアルタイルとベガの二人で切り抜けるのは、まず無理だろう。だが、スピカも何も考えずに二人を送り込んだ訳ではない。
「雷光の一蹴!」
 何も無い所から声が響き、その途端魔剣を手にしたプロキオンが虚空から現れた。そして激しい雷が敵を切り裂いた。
「スタレイス軍!出撃!」
 その虚空にワープホールが出現しつい先程まで一緒にいたスタレイスの魔剣士達が現れていく。スピカの転送剣による力だ。
「俺たちは時間稼ぎって事か」
「自信を持て。お前達はスピカに弓兵達を皆蹴散らし、生き残る力を持っていると認められたということだ」
 援軍の到着に一息つくアルタイルにワープホールを通って現れたレグルスに肩を叩かれる。
「それにしても二人だけなのは酷く無い?もう数人こっちに寄越しても良かったよね?」
「ご、ごめんね。即座に安定して送れるのは二人までだし、近くにいて三人目に相応しい人もいなかったから」
 スピカは歩くペースが遅かったシリウスに合わせて歩いていたので先頭を歩く魔剣士達と距離が離れていた。故にスピカが即座に転送させられる魔剣士はアルタイル、ベガ、レグルス、シリウス、そしてスピカ本人だった。
「レグルスは障壁でみんなを守らなきゃいけなかったし、シリウスじゃ力不足って事だね」
「失礼な。否定できないけどさ」
「シリウスちゃんはこれからだよ!新人の中でアルタイル君とベガちゃんがかなり強い部類なだけ。自信を失わないで!」
 ベガの心無い言葉に落ち込むシリウスをスピカが慌ててフォローする。その様子は実に微笑ましいものだが。
「敵軍の真ん中だぞ!」
 襲いくる敵兵をアルタイルの炎とレグルスの透明な槍で撃退する。敵の数は多いが気せず不意打ちに成功した事によりこちらが勢いづいている。戦況はこちらに傾いている。
「フレアストーム!!」
「障壁の雨!」
「ショックインパクト!」
「エレクトロショット!!」
 魔剣の力を借りて一同は魔法を放って敵を蹴散らしていく。
「みんな技名があっていいよね。私も何か必殺技みたいなやつ考えようかな」
「別に名前などなくてもいいだろう。少し気合が入る程度だ」
「それが羨ましいんだよーぉ!」
 技名を叫び戦うアルタイル達を少し羨ましそうに見ながら敵に槍を突き刺すスピカ。スピカも魔剣士の一人。充分戦いに慣れていた。
「スピカって槍をブンブン回すあれ出来るのかな?」
「さあな。今度聞いてみようか」
 槍使いは自らの槍を華麗に回して戦闘体制を取るというのが漫画やアニメの相場だ。それが出来るのかどうか気にしながらアルタイル達は戦闘を続けた。
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