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九話 初デート
しおりを挟む「ベガー。今日は昼飯外で食べてくるから適当に済ませてくれ」
「どこか行くの?」
ワールスアの襲撃から三日後。アルタイルは一番心の安らぐ我が家の玄関で靴を履きながらベガと会話をしていた。
「デートだ。デートに行ってくる」
「ふーん。アルがデート、ね」
「信じてないのか?なら俺とミラのやり取りを見るか?」
「別に信じてないわけじゃないよ。アルは私と一緒で顔はいいから、騙される女はいるよね」
ベガは歯磨きをしながら興味無さそうにあくびをするとそのまま洗面所へ歩いていった。
「あ、おい!まあいっか」
ベガがアルタイルに彼女が出来ても気にしないのならば寧ろありがたい事だ。アルタイルは彼女いない歴イコール年齢。故に女の子と出かけることは立派なデートと捉えるのだ。
「待てよ。デートと言うが、これは本当にデートなのか?というかそもそもミラは俺の事が好きなのか?俺はどうなんだ?俺はミラの事が好きなのか?」
アルタイルは恋をした事がない。勿論年頃の男の子なので恋をしてみたいと思うし彼女も作りたい。だが恋をした事がないのでこの感情が恋愛なのかどうかも分からない。
「えーと、他の奴らとはどうだっけ」
アルタイルが思い当たる女の子の姿を思い浮かべる。
「ベガ、妹だ。シリウス、友達だな。孤児院で一緒だった奴らは、友達だな。もう暫く会ってないけど」
そして、つい先日会って不良から助けてくれたお礼をしたいので会えないかと誘われたミラ。彼女の事を考える。アルタイルに取って彼女は。
「行かなくてもいいの?」
「あ、行ってきます」
玄関で長考していたアルタイルにベガが声をかける。あまり時間をかけては遅刻してしまう。ひとまず考えるのは後にしてアルタイルは家を出た。
「待たせちゃったか?悪い」
「そんな事ない。私も今来た所だよ」
待ち合わせ場所の噴水広場に辿り着いたアルタイルは既に立っていた少女、ミラ・フィリスアに話しかけた。彼女の腰辺りまで綺麗に伸びた黒髪。翡翠を思わせる美しい瞳。そして白いワンピースを着ていて首には同じく白のチョーカーを付けたミラがアルタイルを見て笑う。
「うん。今日も可愛いな」
「か、かわっ!?ちょっと!急にそう言う事言わないで!」
思った事を素直に口に出すとミラは顔を赤らめて抗議する様に頬を膨らませる。
「それで、集合したは良いけど。今日はどこに行くんだ?」
「どこかでお昼をご馳走させて。その後は、魔剣士の話を聞かせて。私、魔剣士が大好きなの!」
静かに微笑むミラにアルタイルは首を縦に振る。別にお礼を貰うためにミラを助けた訳ではないが、お礼をして心が晴れるのならばそのお礼はしっかりと受け取るのがアルタイル流だ。ひとまずミラがアルタイルを好きなのか、アルタイルがミラをどう思っているのかなどは置いておくとしよう。
「それから、アルタイルの事も、教えて欲しいな」
再び顔を赤らめて恥ずかしそうにもじもじとしながら小さく呟くミラ。
(これ、確実に俺の事好きじゃん)
男の子はこういう反応をされるとそう思ってしまう生き物なのである。
「さて。どこ行く?」
「えーっと。オシャレなカフェとか知らない?私もそういうの詳しくないんだけど」
しかし何を食べに行くかはノープランだった。せっかく食事に行くのなら雰囲気のいいお店に行きたいミラとデートとはそういう場所で食事をするものだという感性をもったアルタイル。意見は一致しているが肝心の店を知らない。
「どうするか。シリウスにでも聞いてみるか?」
アルタイルが自分のスマホをミラに見せながら尋ねる。シリウスがオシャレなカフェを知っているかは置いておいてダメ元で聞く相手として一番に浮かんだのがシリウスだった。
「・・・女の人?」
「そうだけど。嫌?」
「別にー」
何故か不服そうに頬を膨らませるミラに困惑しながらスマホをしまうアルタイル。アルタイルは本気でミラが拗ねている理由に見当がつかなかった。そんな時。
「す!すみません!ここら辺で猫を探しているのですが!!」
「こんな猫でゲス!」
「・・・!」
何処かで出会った事のある様な男三人組に出会った。
「お前らは。こないだのナンパ男共」
「お前は誰だ?どっかで会った事あ、いや待て」
「その髪色、服装!立ち振る舞い!?も、もしや!美少女絶対助けるマンでゲスか!?」
「っ!」
その三人は以前ミラをナンパしていた三人組だった。その日に咄嗟に考えた最高にかっこいいヒーローの名前を言われたらそれに応えないという選択肢はない。ちなみに今アルタイルが来ている服はシンプルなTシャツである。表面に「俺が主役!」裏面に「お前も主役!」と描かれた。
「そう!美少女の助け求める声あらば!立ち待ち飛んで世界を救う!美少女絶対助けるマン!!ここに見参!!!」
「「おおぉー!!」」
どこからか取り出した美少女絶対助けるマンの眼鏡を装着してセリフごとに決めポーズを取る。そのアルタイル、否。美少女絶対助けるマンに男達は大興奮。
「あぁ。また変なモードに入っちゃった」
対するミラはがっくしと肩を落としていた。そして三人の男と美少女絶対助けるマンから少し距離を取った。
「それで美少女絶対助けるマンは何を悩んでいたのです?」
「あっしらで良ければ力になるでゲスよ!美少女絶対助けるマンは我々の最高のヒーローでゲスから!」
「っっ!!」
その場で、しかも三秒で考えたアドバイスに大変な恩義を感じていた三人は次は自分達が助ける番だと言わんばかりに手伝いを求めてくる。少し困惑した美少女絶対助けるマンだが別にやましい事をしている訳じゃないし困っていることは事実だ。ここは隠すことなく悩んでいる事を話してしまおう。
「実はデートに相応しいカフェを探している。色々なカフェを考えてみたんだが、どうしても彼女に相応しいカフェが決まらなくてな」
「え?」
あくまでもカフェは知っているがどこの店にするか悩んでいる様に三人に問いかける美少女絶対助けるマン。ここでカフェを一軒も知らないなどと言ってはここで見せてくれている尊敬の眼差しが消えてしまう様な気がして、美少女絶対助けるマンは見栄を張った。
「というかこの人達がお店を知っている様には思えないんだけど」
「それならこのお店はどうでゲしょう!?コーヒーの美味しいお店でして名物のスイーツタルトがオナゴに人気でゲスよ!」
「こっちのお店はイタリアンの店でお買い得に本格イタリアンが味わえます!デザートのティラミスが絶品なんですよ!」
「・・・っっ!!」
「嘘」
ミラの心からの声が喉から飛び出る。しかし美少女絶対助けるマンはこの結果を予想していた。ナンパを計画して実行しようという者達ならば当然成功した時にどの店に行くのかを把握している。故に下手にネットなどで調べるより彼らに聞いた方が間違いないと判断したのだ。
「うーんどこにするか。いや、こういうのは直接聞いた方がいいな。ミラ、何処がいい?」
「えっ!?」
「オナゴに直接聞くとは。流石美少女絶対助けるマンでゲスな」
「俺らならスマートにエスコートする為にお店は内緒にしておくもんな!」
「っ!!」
(なんかそっちの方が素敵な感じがするけどな)
男同士の空間に突然呼ばれて少し困惑するものの呼ばれたからには行かなければならない。少し余裕を持っていた距離を詰めて差し出されるスマホを一つ一つ見ていく。三人の提案する店は何処も素晴らしい外装で美味しそうな料理やスイーツがあった。
「うわぁ!どれも美味しそう!迷っちゃうなぁ」
「そうだろうそうだろう」
自分は何もしていないのに何故か自慢げな美少女絶対助けるマンはひとまず置いて料理の値段の記事を見る。
「うーん。ここにしようかな」
「あっしのオススメしたお店でゲスな!ここは最高でゲスよ!」
「ではこれ以上二人の時間を邪魔するのも悪いので俺たちはこれで!」
「っっっ!!!」
気を利かせてお店が決まったら即座に退散していく三人。以前見た時とは打って変わっていい人達となっていた。
「あ、お店の場所聞いてない」
「あはは。アルタイルが変に知ったかぶりするからだよ。今からスマホで調べよう」
三人がいなくなって眼鏡を外したアルタイルが「カッコつかないなぁ」と言いながら店を検索する。こうして二人のデートは始まった。
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