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五話 ストロング
しおりを挟む「流石アヴィオール殿の弟子達だ。見事な戦いだった」
決着がついた後レグルスは痛む体に鞭を打って二人を褒めた。それ自体は嬉しい。だが。
「今はさっさと救急班の所へ行ってくれ。普通に心配が勝る」
「シリウスなんてアルの炎が消えた瞬間に「跡が残ったら永遠に怨むからー!」って捨て台詞吐いて速攻で救急班に行ってたよ」
「そうだな。お前達も怪我の治療をお願いしに行こう」
二人でレグルスに肩を貸しながら救急班の元へ歩く。救急班とは魔力が治療に向いている人達で作られた文字通りの救護班である。彼らも治療のみではあるものの魔剣を使うので魔剣士と言えなくも無いのだろうが、一応魔剣士と救急班は全くの別物と区別されている。
「なあ、今思ったんだけど魔剣と魔剣士って何だ?」
「・・・何だその質問は」
初歩的過ぎる質問にレグルスは頭を抱える。そんな事も知らない人間に一年間戦争で生き残ってきたレグルスは負けたと言うのか。
「いや違う。何となく分かる。でも、なんとなくなんだよ」
「それがダメだと言いたいのだが、まあいい」
レグルスは深いため息を吐いた後アルタイルと同じく理解していないであろうベガに説明をした。
「魔剣士とは一般的には己の魔力で魔法を使いながら戦う剣士の事だ。俺の障壁やアルタイルの炎、ベガの身体強化といった魔法を使っているのはあくまでも俺たち人間だ」
「ふぅん」
「なるほど」
しっかり理解しているか確認する為に二人の表情を確認すると間のない返事が返ってきた。しっかり頭に入っているか確認したかったがこれで理解していなかったら何だが気が抜けて歩けなくなりそうだったのでレグルスはそのまま説明を続ける。
「そして魔剣は魔剣士をサポートする為に作られた剣だ。魔剣があるかないかでは戦闘力は格段に変わるが、魔剣そのものに障壁や炎を出す力はない。故に一般人が魔剣を手にしても無用の長物。魔剣は使い手の為に作られるオンリーワンな剣、と言う事だ」
「ふぅん」
「なるほど」
「・・・聞いていたか?」
「「うん」」
レグルスが念の為確認する為に問いかけると二人は即座に肯定した。
「・・・理解できたか?」
「「たぶん」」
「「「・・・」」」
質問を変えてみると実に悲しい事実が帰ってきた。そのまま一同は黙ったまま救護班の元へ辿り着いた。
◇
「皆!初めての鍛錬お疲れ様!かんぱーい!!」
「アヴィオール。まだ水しか届いてないよ」
「気が早すぎ。そんな奴が隊長で大丈夫なの?」
鍛錬が終わった後、約束していた通りアヴィオールとヴェルガス兄弟、ついでにレグルスとシリウスも一緒に飲み屋に来ていた。ちなみにシリウスは飲み屋に来るまでにアヴィオールと少し話してかなり打ち解けていた。故にもうタメ口を聞いている。
「お前達、もっとアヴィオール殿に感謝や尊敬の気持ちを」
「そういう堅苦しいのは俺が嫌なんだレグルス。レグルスも俺にもっとフランクに接してくれていいんだぞ?」
「・・・善処します」
五人で飲み屋の席につきながらシリウスが備え付けのタブレットでメニューを確認する。
「とりあえず焼き鳥盛り合わせ頼んどく。後は飲み物か。みんな何がいい?」
「「ストロング!」」
「やはり一杯目はビールだろうな」
「俺は水で構わない」
「了解。私もストロングにしようかな」
アルタイルとベガ、シリウスがストロング。アヴィオールはビール。そしてレグルスには水。シリウスは手慣れた操作でそれぞれの飲み物を注文していく。
「お待たせしましたー。ストロング三つでーす!」
数分後まず三人の飲み物が届く。届けられた飲み物、ストロングは真っ黒であらゆる所に気泡が見てていた。
「ストロング。それは強炭酸で甘くて最高に美味い飲み物」
「やっぱりストロングしか勝たん。乾杯」
「それは言い過ぎだと思うけど。美味しいのは同意する」
先に飲み物が届いた三人は真っ先に乾杯してストロングを飲む。アヴィオールはその様子を「いいなー」と呟きながら眺めていた。そう、ストロングとは所謂コ○ラである。
「ぷはぁぁぁ!美味い!もう一本!」
「次はいちご味でお願い」
「もう飲んだのか?随分とペースが早いな」
「飲み放題の店にしておいて良かったな。そうでなければ俺の財布が空になる所だった」
最初の一口でアルタイルとベガはジョッキの中身を空にした。そして更に次のストロングを注文する。余談だがストロングには様々な種類が存在しており期間限定品なども含めるとその種類は百は下らない。
「ここいちご味は無いみたい。というかいちご味なんてあったっけ?」
「にわかだねシリウス。私はストロングの全種類を把握しているし飲んだ事ないストロングは無いよ」
「奇遇だなベガ。俺もだ」
謎の自慢を嬉々として話す二人にシリウスはため息を吐きアヴィオールは苦笑いを浮かべる。そうこうしている間に注文した焼き鳥やビールも次々と届いた。
「ぷはぁ。やはり体を動かした後のビールは最高に美味いな。皆んなは酒を飲まないのか?」
「俺は水かお茶だけで構いません。水分補給に味を追求する必要を感じないので」
アヴィオールの問いかけにレグルスが答える。しかしその返答は一同にはお気に召さなかった様で皆が顔を顰める。
「何てつまらない回答。私は飲むよ。今回はストロングから入っただけ」
「そうか!なら今日は一緒に飲もう!」
飲み仲間を見つけて嬉しそうに笑うアヴィオール。シリウスは童顔だが歴とした二十一歳。故に酒を飲むことが出来るのだ。
「二人は飲まないのか?」
「「酒よりストロングの方が美味い!」」
アルタイルとベガも酒を飲んだ事はある。しかしビールは苦いし酎ハイは飲めたがアルコールの後味があまり好ましくなかった。甘い酎ハイを飲むくらいならストロングを飲めばいい。これがアルタイルとベガの回答だ。
「そうか」
「明らかに悲しそうな顔しないでよ。お酌くらいはしてあげるから」
目に見えて悲しそうに俯くアヴィオール。そのアヴィオールの姿にベガは少し申し訳なく思い空のグラスに瓶ビールを注ぐ。するとアヴィオールは満面の笑みを見せた。その様子はまるで娘にお酌をして貰えた父親の様だった。
「レグルス、飲んでるかー?」
「ストロングで酔うな。絡み酒など今時流行らないぞ」
「残念。これは俺の性質だから酒がどうこうは関係ない。日夜俺はこんな感じだ」
「そうか。それは遠慮したい」
水を飲むレグルスにアルタイルが絡みに行って玉砕する。しかしアルタイルは諦める事なくレグルスと距離を縮めようと話し続ける。
「しかしレグルスまで来てくれるとは思わなかった。こういう場にはいつも来てくれないだろう?」
「ええ。しかし今回はいつもの大人数での飲みでは有りませんし、何よりアヴィオール殿直々のお誘いでしたので」
レグルスはあまりこう言った交流会には参加しない。実際楽しげな場にレグルスがいても平然と、そして黙々と自分の食事を続けるだけなので他の隊員達もレグルスを呼ぼうとはしないのだが。
「それは寂しい。これからは俺やベガがいっぱい誘うからな」
「アル。私達今金欠だからそんな頻繁に飲みには行けないよ」
「そうだった」
今回はアヴィオールの奢りだからとノリノリで着いてきたが今二人は絶賛金欠状態なのだ。なのでお金がかかる外での飲み会は家庭的に厳しい。
「ちなみに何で金欠なの?」
「「フィギュア買いすぎた」」
アルタイルとベガは美少女、美少年フィギュアが大好きだ。最新フィギュアは確実にチェックしているしフィギュアの為に使うお金は一才躊躇わずに使う。故に万年金欠である。
「そんな事をして生きていけてるのか!?満足に食べられているのか!?」
「雑草とか食べてる」
「アニメで雑草食べる場面を見て実際にやってみたら結構いけた。だから食事面は大丈夫だな」
またしても父親の様な心配の仕方をするアヴィオールに予想斜め上の解決法を提示するアルタイル。
「せめて今日はいっぱい食べろ!シリウス!メニューを片っ端から頼んでくれ!レグルスも食べろよ!魔剣士の資本は体だからな!」
「りょーかーい」
「はい。心得ています」
「やったぜ」
「アル、私ラーメン食べたい」
こうして新生アヴィオール隊のささやかな交流会は終わりを迎えた。
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