平和の代償

藤丸セブン

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四話 実践訓練

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「さて、皆の手に白旗が渡ったか。ならば、好きなタイミングで始めてくれて構わない」
 アヴィオールがそう言うのが合図。アヴィオール隊に所属していた先輩達は即座に同僚や後輩に襲いかかった。
「なるほど。戦争はいっせーので始まる訳じゃ無い。こっちが好きなタイミングで始めて良いのか」
「で、あんたは直ぐにこっちを責めなくても良かったの?」
 周囲の状況を見てベガがレグルスを睨む。レグルスは剣を取り出しはしていたが襲いかかっては来ていなかった。チームはアルタイルとベガ、レグルスとシリウスと別れた。元々アルタイルとベガはチームを組むつもりだったし、レグルスはアルタイルとベガと戦いたかったのだからこの組み合わせは実に妥当だった。シリウスの意見を除けば。
「私は全く知らない人と二人は嫌だったんだけど」
「先程も言った様に戦場ではそんな様な事を言ってはいられないぞ」
「あーはいはい!分かってますーぅ」
 愚痴を零すシリウスをレグルスが注意するがシリウスは更に不貞腐れてぐちぐち言い始める。厄介極まりない。レグルスとしてもあまり交友を持ちたく無いと思う程には。
「とにかく、始めようぜ」
 アルタイルが野球バットを振るようにアルタイルの剣を取り出してフルスイングをかます。それに呼応する様にベガも魔剣を構える。
「ほう」
 レグルスが二人の魔剣を眺める。アルタイルの魔剣は実に剣らしい、デフォルトの剣と言い換えても良い程どこにでもある形だ。しかし普通とは違う点が色。アルタイルが握る剣は見渡す限り真っ赤だった。
「な、何その剣」
 レグルスが興味を持ったのはベガの剣だ。シリウスが驚くのも無理はないほどにベガの剣は歪だった。全体的に長めの剣塚にフォルム。しかし何より歪なのは剣の先端だ。ベガの魔剣の先端は剣ならではの尖りや鋭さが一切なく四角く固まっていた。
「剣ではなく鈍器と言う訳か」
「そう言う、事っ!」
 レグルスの言葉に返答してベガが一歩踏み込む。
「強化(ブースト)足(フット) 」
 ベガが短い詠唱を終え地面から足を離す。次の瞬間、ベガの体はレグルスの目の前に来ていた。
「っ!」
 咄嗟の反撃に備えていたレグルスが即座に対応をしてベガの一撃を剣でいなす。しかしその威力は強く後方へ押し出された。
「レグルスさん!」
「さん付けや敬語は要らない!必要な情報だけを短く伝えろ!来るぞ!」
 レグルスを心配して後方へ飛ばされたレグルスを見ていたシリウスにレグルスが叫ぶ。そうされた事で前を向いたシリウスはアルタイルの剣に凝縮されている炎を目にした。
「燃やせ!フレアフレイム!!」
 剣に凝縮された炎がシリウス目掛けて放たれる。炎の出力は最初から最大シリウスを焼き尽くすつもりで放出した。
「障壁よ」
 しかしその炎の塊はレグルスの作り出した透明な壁に敗北して消滅した。
「何っ!」
「これが俺の魔剣、障壁剣。見た目こそシンプルな剣だが、この剣に俺の魔力が加わればあらゆるものを防ぐ壁となる」
 言われて目を凝らすと確かにシリウスの周囲が少し歪んで見える。つまりその場所に透明だが頑丈な防壁が貼られているのだろう。
「よくもやってくれたね。ならこっちも遠慮なく攻撃させてもらう!」
 シリウスが剣を構えてアルタイルを見据える。シリウスの魔剣は短剣でアルタイルやレグルスの剣より短い。だが、魔剣士は魔剣士であって剣士ではない。故に剣は剣として機能しなくても良いのだ。
「エレクトロショット!」
 シリウスの剣は剣というよりも銃に近い役割を果たす。先程のアルタイルと同様にシリウスは自らの剣に自らの魔力で電撃を集めてアルタイルに放った。
「早い!」
 アルタイルは小さく呟いてシリウスの電撃に炎をぶつけて相殺する。シリウスの電撃の特徴は二つ。一つはチャージが早い事。アルタイルの場合フレアフレイムを撃つのにチャージ時間が約三十秒かかる。しかしシリウスはたった五秒程度で電撃を放った。
「そう!私の強みは連撃にある!」
 再び電撃を自らに集めて短剣にセットする。そして電撃の弾を放つ。
「はぁ!」
 だが先程と同じく炎に相殺されてしまう。二つ目の特徴はここ。シリウスの電撃は即座に打てるが威力が低い。貯めれば貯めるほど強くなるが短く貯めて放っている訳ではない。今のシリウスでは短くしか貯められない。故に威力が低く速射重視の速射魔法となってしまっているのだ。
「それなら対応のしようもあるってもんだ!」
 シリウスの攻撃はそれ程の脅威とはならない。ならば問題はベガと戦っているレグルスだ。レグルスの障壁をアルタイルのフレアフレイムでは打ち破れなかった。だが、それは遠距離で撃った場合だ。ならば至近距離でならレグルスの障壁を破れるかも知れない。作戦はアルタイルとベガの二人でまずレグルスを倒すというもの。
「私はガン無視!?それは酷いんじゃないの!?」
 再び電撃の弾がアルタイルに迫り来るが炎を壁の様に放出する事で防ぐ。レグルスに攻撃をする片手間の防御で事足りる。アルタイルとシリウスにはそれ程までに力の差があった。
「レグルス!チェンジチェンジ!」
「良い判断だ」
 シリウスではどう足掻いてもアルタイルには勝てない。だがベガとシリウスではどうだろう。
「エレクトロショット!」
「障壁の槍!」
 先程まで戦っていたベガとレグルス。その状態でレグルスとシリウスが入れ替わる。その事に双子の対応が遅れる。
「うっ!」
「いだっ!」
 ベガは先程までは対応できていた透明な壁による攻撃が雷に代わり対応出来ない。アルタイルは雷が障壁に代わり対応が遅れ、レグルスが作り出した壁に自分から突っ込む形となってしまった。
「くっそ」
「面倒だね」
 シリウスの長所は速度。つい先程までレグルスの攻撃を相手にしていたベガに取って電撃の速度は脅威だ。ベガの力は自己の力の増強。故に雷を防ぐ手立てがない。そしてアルタイルは障壁が牙を向いた。速度自体はシリウスの攻撃の方が速いが、レグルスの攻撃の長所は障壁が透明で攻撃に気付きにくい点にある。障壁を鈍器の様に扱いアルタイルを攻撃するのならばアルタイルはきっと反応できる。しかしアルタイルの行きたい場所へ添えられているだけだった障壁には気付けなかった。故に思い切りぶつかって隙を作ってしまった。
「畳み掛けるぞ!」
「合点承知!」
 戦場に置いては一瞬の隙、ほんの少しの油断が命取りとなる。今回は双子がその状況に追いやられた。
「エレクトロニックバズーカァァ!!」
「障壁の雨!」
 エレクトロショットよりは遅いものの比較的早くチャージ出来て高威力な電撃と透明な壁が雨の様に降りかかる。
 (さあ、どう出る!?)
「ベガ!」
「っ!分かった、アル!」
 名前を呼ぶだけでアルタイルが何を考えているのかを即座に理解するベガ。迫り来る二つの脅威を乗り越える為に二人が取った行動、それこそは。
「「合体!!」」
 それこそが、合体である。
「は?」
 合体という言葉だけでは分からないだろう。正確に言えば肩車である。
「フレアシールド!!」
「強化 足」
 ベガが下、アルタイルが上。肩車をした二人はそれぞれが能力を解放して走る。
「な、なんじゃそりゃぁ!」
 シリウスの声が響く。レグルスの障壁の雨をベガが察知して回避。だがシリウスの電撃の対象は一切しない。その代わりシリウスの雷は上にいるアルタイルが炎により完全に防ぐ。
「やろうと思っても普通こんなことは出来ない。これが二人のコンビネーションか!」
 肩車という不安定な状態で二つの攻撃に完全に対象しているアルタイルとベガを見てレグルスが目を疑う。これこそが、アルタイルとベガなのだ。
「アル!」
「フレイムストーム!!」
 ベガが肩に乗るアルタイルを空中に放り投げる。だがアルタイルは突然のことにも対応する。否。アルタイルに取っては分かっていた作戦なのだろう。炎の渦が二人を襲う。
「くっ!」
 咄嗟にレグルスが障壁を張り二人丸ごと丸焼けになる事は防がれた。だが、
「レグルス!!」
 すぐ目の前にはベガの姿があった。
「強化 腕!!」
 ベガの魔力を全て腕に込めて思い切りベガの愛用の魔剣でレグルスの障壁を殴りつける。そのあまりの威力に障壁はひび割れ、砕けた。
「「いっけぇぇぇ!!」」
「のぁぁぁぁぁ!!?」
「ぐぁぁ!!」
 レグルスの障壁が壊れた事でアルタイルの炎がシリウスを包み、もう一度振られたベガの魔剣がレグルスに直撃した。
 炎に包まれたシリウスと鍛錬場の壁に思い切り激突したレグルスから弱々しく白旗が振られた。
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