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一章 駆け出し魔剣士
二話 部隊編成
しおりを挟む「アル、起きてる?」
古く小さなアパートの一室。そこが現在のヴェルガス家だ。その扉をベガが開ける。
「おはよう、起きてるよ」
ベガに返事をしながらアルタイルがベットから起き上がる。寝癖が付いていてみっともない格好だがベガは返って安心した様に笑った。
「大丈夫?」
「勿論だ、俺の決意は変わらない。敵国の奴らをみんな倒して俺たちが一番になる。そして戦争を終わらせて世界を平和にする。この言葉に嘘偽りはない」
アルタイルの目には確かな覚悟が宿っていた。余程の事では覆せない強く熱い覚悟だ。
「でも私達が楽しめないと意味が無いよ」
「戦争を?」
「違う、日常を」
ベガとアルタイルは一瞬視線を交わし合うが直ぐに笑い合う。
「そうだな。悲しいだけの戦争なんてやってられない。俺たちは俺たちなりの戦争の終結を目指すんだ」
アルタイルは前を向いてベットから降りる。そしてパジャマを脱ぎ昨日配られた軍服に身を包む。その軍服は黒と青を基調にしたデザインのものだ。
「そうだ、本題だけど今日からまた所属部隊が変わるんだって。集合場所も違うから」
「了解」
軍服を着た二人は並んで家を出た。
第一訓練場。そこが本日の二人の集合場所だった。二人が訓練場向かう途中でも同じ軍服を着た魔剣士達が大勢いた。
「お、あれってもしかして」
独り言を呟いた少女は歩いていた足を早めて駆け足になり、対象二人に声をかける。
「こんにちはー!二人ってもしかして卒業式で「おやつは持ち込めますかー?」って校長に聞いたっていうヴェルガス兄弟!?」
少女が狙いを付けたのはアルタイルとベガだった。二人は急に現れた紫色の髪の毛をポニーテールに纏めた少女に驚くが、直ぐに訂正をする。
「違う!俺が聞いたのは「バナナはおやつに入りますか!?」だ!」
「私はアルの質問の補足をしただけ。「先生!バナナをおやつに含めるのならばメロンはおやつになりますか!?スイカは!?きゅうりは!?はっきりとお答え下さい!」って」
「訂正するとこそこなんだ。やっぱ私の睨んだ通り、あなた達面白い」
細い目を更に細めて少女はクスクスと笑う。何がそんなに面白いのか二人は目を合わせて首を傾げる。
「あ、ごめんごめん。自己紹介がまだだった。私はシリウス。シリウス・シバルバー。あなた達と同じく昨日魔剣士学校を卒業したC級魔剣士。よろしくーぅ」
ダブルピースをしながらウインクをするシリウス。そんな自己紹介をするシリウスを見て二人は考えた。
(こいつ、変な奴だ!)
類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。変人には変人が集まる。アルタイルもベガも自分の事を変人だとは一ミリも思っていないのだが。
「そ、そっか。じゃあ頑張ってな」
「気をつけて」
「え!?ここでお別れする感じ!?せっかくだから一緒に行こうよ!」
腫れ物を触るように接せられたシリウスが悲しそうに縋り寄ってくる。その小動物の様なシリウスを無視する事は二人には出来なかった。
「そういえば、さっき言ってたC級魔剣士って何?」
「え?いや冗談でしょ?ねえアルタイル」
「俺も知らないけど」
ベガの質問にシリウスは信じられないとばかりに目を見開いて驚愕する。助け舟を出したアルタイルも知らないというのだから尚更だ。これは魔剣士学校を卒業したなら絶対に知らなければならない事。それどころか魔剣士ですらない人でも分かっているレベルの一般常識だ。
「俺が説明しよう」
驚愕で声が出ないシリウスに差し伸べられた助けの手。その手に全力で感謝したシリウスはその人物の姿を見て更に驚愕した。
「アヴィオールS級魔剣士!?」
「そんなに堅苦しくしなくていい。俺の事はアヴィオール、もしくはアヴィオールさんでいい」
三人の話に入ってきたのは四十代半ば程度の男性。優しそうな顔をしている一見無害そうな人物だった。
「「アヴィオール!!」」
「久しぶりだな二人とも。背が伸びたな」
「親戚の叔父さん?そんな感想親戚の叔父さんくらいしか言わないよ」
「落ち着けベガ。ある意味親戚の叔父さんみたいなもんだろ」
「違いないな」
シリウスを置いてきぼりにしながらアヴィオールとアルタイル、ベガは楽しそうに会話を続ける。シリウスの頭はもうパンク寸前だ。
「おっと。雑談し過ぎたか。ここいらで先程出た質問に答えるとしよう。シリウスも復習の為に聞いていってくれ」
「は!はい!」
「そんな硬くならなくてもいいと言ったろう?気楽に話してくれ」
カチコミなロボットの様な動きをするシリウスに苦笑いを浮かべながらアヴィオールが話すがそれはかなり難易度の高い話だ。何故ならアヴィオールはS級魔剣士なのだから。
「こほん。魔剣士には四つの括りがある。C級、B級、A級、そしてS級だ」
「ふぅん」
「何だ。めっちゃ簡単じゃん」
そう。これは実に分かりやすい力の関係性。だからこの情報を知らない人など存在しないとシリウスは思っていたが、世界は広い。
「C級は一番下。戦場で成果を上げる前の魔剣士の位、つまり今の君達だな。B級は活躍が認められた魔剣士だ。B級の特徴は小隊を作れる様になる事だ。その小隊は気に入った人を勧誘してもいいし上から仲間を配属されることもある。A級はBより更に上。言わば大隊長という奴だな。真っ先に暴れ回ることが仕事だったり後方で指揮を取ったりと活躍は人それぞれだな」
「ふぅん」
「何だ。めっちゃ簡単じゃん」
「本当に分かってるの?」
先程と完全に同じ言葉を無表情で呟く二人。その二人にシリウスが問いを投げかけると二人は同じく無表情で「「うん」」と言った。
「うむ。そしてS級魔剣士。ここが魔剣士の最高峰だ。と言っても、仕事内容はA級とほとんど変わらない」
「そう!そんでこの世界に三人しかいない!それがS級魔剣士!そんでこの人こそがその三人のうちの一人!アヴィオール・ヴィヴィクテス!!」
「ふぅん」
「何だ。めっちゃ簡単じゃん」
「はぁ、呆れた。理解する気ないじゃん」
深いため息を吐くシリウスに楽しそうに笑うアヴィオール。どうやらアヴィオールは説明がしたかっただけで二人に魔剣士の位を理解させるつもりなどなかったのだろう。
「いや、理解したよ」
「つまりS級魔剣士になれば良いって事だろ?」
「その通りだ。それだけ分かっていればいい」
真っ直ぐな目で話す二人にアヴィオールは満足げに頷いた。
「では俺は準備があるから先に失礼する。訓練が終わったら食事でもしながらゆっくり話そう」
「うん。またねアヴィオール」
「勿論奢りだよな?」
「当然だ」
二人に背を向けながら手を振りアヴィオールは去っていく。姿が見えなくなったところでシリウスは大きく息を吐いた。
「緊張してたの?」
「アヴィオール相手に緊張とか、変わった奴なんだなお前」
「普通は緊張するって。国に三人しかいないS級魔剣士だよ?というかあんたらあの人と知り合いなの?」
アヴィオールと随分親しそうに話していた二人に疑問を持ってシリウスが二人に質問をする。
「アヴィオールは俺たちがいた孤児院の院長だったんだよ」
「孤児院。なるほどね」
アヴィオールは戦争によって生まれてしまった戦争孤児を救うべく自らの金で孤児院を作り上げた。その孤児院は小さいながらも多くの子供が暮らしていると聞いたことがある。
「俺たちも例外じゃなくてな。両親が戦争で死んだ俺たちを孤児院で引き取ってくれた」
「なんでも私たちの父親が親友なんだって。だから私達は割とアヴィオールには可愛がって貰ったよ。アヴィオールはみんな平等って言ってたけどね」
アルタイルとベガの出身にシリウスが驚きながら口を開く。
「まさか二人が孤児院の出身とはね」
「今時珍しくもない。俺達はそこでアヴィオールに色んな事を教わった」
「生きる為に必要な事、魔剣士になる為の特訓、美味しいご飯、楽しいアニメ。それから百合の間に挟まらない事」
最後の言葉はよく分からなかったが二人はアヴィオールと共に生活をしていた過去がある。つまり。
「二人はアヴィオールさんの弟子って事?」
「どうだろ?確かに毎日アヴィオールと訓練してたし孤児院を出てからも鍛錬だけは怠るなって言われたけど」
「弟子と言えるかどうかは微妙。アヴィオールなら息子と娘って言うんじゃない?」
「違いない」
問題児だろうと思って近づいた人物がまさかの大物の弟子だったとは、シリウスは想定外の出来事に頭を抱えるが、直ぐに立ち直った。
「変人は強い。これ私の持論。あんた達がもしかしたら戦争を終わらせる鍵になるのかもね」
「何それ」
「狂った考え方してんな」
「せっかく良い感じに纏めようと思ったのに!」
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