original ring

藤丸セブン

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4章 オリジナルリング

77話 意地と根性

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「行くぞ」
 ライヤを自らを鼓舞する為小さく、短く言葉を発すると迅雷の如き速度で駆け出した。
「さぁ、来い!」
 ルシフェルが傀儡の糸を操作して周囲にある家を持ち上げてはライヤに投げ飛ばす。しかしライヤは家と家の隙間を冷静に見つけては隙間を通って無傷のまま走り続ける。
「クソ、腹立つな」
 しかしこんなにも冷静でいられるのは目の前にいる仲間の仇による助言のお陰だ。もしあのままの状態で戦っていたら家を雷撃で破壊して進んでいただろう。それは既に消耗しているライヤにとっては最善の選択ではない。
「やはり家は操作がし辛いな。デカすぎる故に隙を与えてしまう」
 一度ライヤに回避された家が再び空を舞い、再度ライヤ目掛けて落とされる。しかし結果は同じ。見事にライヤに回避されている。さらに家同士のコンビネーションもサイズが大き過ぎて上手く測れない。
「我が魔剣を一本残らず粉にしよって。恨めしい奴よ!」
 魔剣によるコンビネーションに比べればこの程度の回避は容易。その証拠にそれなりに距離の離れていたライヤとルシフェルはもうすぐ目の前に存在していた。
「雷鳴剣!」
「獄炎槍!」
 お互いの拳が届く程まで接近した二人は各々が属性による武器を作り出し、その直後にぶつけ合う。
「うおおおおお!」
「はぁぁぁぁぁ!」
 電撃の剣と火炎の槍が振り回される。剣がルシフェルの頭部目掛けて振り下ろされればルシフェルはその剣を回避。そして槍でライヤの胸を貫きに掛かる。しかしライヤも即座に対応して剣でブロック。剣を持つ右手とは逆の手で放電。広い範囲を狙ったライヤの放電はルシフェルの周囲のみを守った炎の壁により防がれる。
「我と貴様では、能力のスペックが違うのだよ!」
 ルシフェルが火炎放射をライヤに放つ。その威力は雷鳴の指輪に劣らないが、勝ることもない。故にガードは容易だ。
「岩石棍」
「がっ!!」
 だが、ルシフェルの本命はこれではない。ライヤが目の前の炎を集中している間、ライヤが立っている地面が盛り上がり、棍棒の形となってライヤに衝突した。
「なっ!今のはっ」
「水龍!」
 ルシフェルが手を掲げると水で出来た竜がライヤに向かって迫り来る。
「くっ!稲妻ぁ!」
 水属性の魔法に驚きながらもなんとか指輪を発動して竜を感電させる。しかし、竜は止まらない。
「くそ!水だから電気流されたって問題ないって事か!」
 竜の正面からの突進をライヤは身を捻って回避。
「竜巻よ、吹き荒れよ!」
「風までっ!!?」
 が、ライヤの足元に風が集まり、巨大な竜巻となってライヤをその渦に飲み込んだ。
「がぁぁぁぁぁ!!」
 上空二十メートル程まで打ち上げられたライヤが地面に落ちて三回転程回る。並の人間、いや。並の冒険者だとしても生きている可能性は非常に少ない。
「がっ!ごほ!げほ」
「その体は実に頑丈だな。本当は魔族なんじゃないかと疑いたくなる」
 満身創痍。そんな体でもライヤはルシフェルを変わらぬ瞳で睨みつける。まだ、諦めてなどいない。
「今見せた通りだ。我は火、水、風、土の四つのエレメントを操れる。電撃しか使えない貴様に勝ち目はないぞ」
「はっ!やってみねぇ、と!分から、ねぇ、だろ、!」
「まだ立つか」
 右腕は、恐らく折れた。左足は地面に衝突時にクッションになったせいでほとんど感触がない。頭は血だらけで、少し、少しだけクラクラする。真っ直ぐ立てない。だが、立ち上がる事は出来る。
「貴様、本当に人間か?」
 ルシフェルがこれ程までとは比べ物にならない程驚愕の声をあげる。その表情は寧ろ人ではないなにか恐ろしいものを見た、という表情に近いかも知れない。失礼な奴だ。
「俺は人間だよ。人間だ」
「我の知る人間は脆く、脆弱で、自分の適う相手ではないと気づくと背中を見せて逃げ出す存在だったのだが」
 ルシフェルは冷や汗を流しながらライヤを見つめる。そうか。この男は弱い人間にばかり出会って来たのだな、と心の中で考えるが、上手く言葉に出来ない。
「何故立つ。立った所で勝ち目はない!まず!そんなボロ雑巾の様な体で人は立てない筈だ!!!」
 本当に、何処までも失礼な奴だ。現にライヤは立っている。立ち上がれる理由がある。
「いいか、よく覚えとけよ」
 燃え上がる闘志に火をつけて、指輪に電撃を宿す。
「人間はなぁ!意地と根性があれば立てるんだよ。何度倒れても!何度でも立ち上がれるんだ!!だから!!!」
「人は強いんだよ」
 ライヤのその瞳に、ルシフェルは恐怖した。これが、この世界に生きる全ての人間がこんな瞳を持っているのならば。
「嗚呼。人間はなんと恐ろしい存在なのだろう」
 魔王に忠誠を誓う者を魔王の民に?馬鹿げている。常日頃からこの様な瞳に見られなければならないのか。それは、恐怖以外の何の感情も湧かないではないか。その瞳からは、絶対に諦めないという狂気に満ち溢れた悍ましさしか感じられないのだから。
「我が、間違っていたよ」
「あ?」
 この様な生物を、人種を、生かしておくことなどルシフェルには出来ない。何せ、恐ろしすぎる。
「我は人間を皆殺しにする。人間は生かしてはいけない!生かしておく事は許されない!!!」
「・・・何でそうなるんだよ」
 ルシフェルの抱く感情など知りもしないライヤは頭を掻く。
「お前にも、もはや慈悲など与えぬ!全力で殺してやる!!」
 ルシフェルが黒い炎を腕に宿し、ライヤへ放つ。
「あれ、やっべ」
 その黒炎をライヤは電撃を纏った足で回避しようとするが、足が動かない。そうだ、この足に感覚がないから忘れていたが。この足は動かないのだった。
「いやーぁ。それは困るなーぁ」
 突如。ライヤの目の前に岩石の壁が出来上がりライヤを黒炎から守る。
「何奴だ!?」
「え?何奴だと来たか。えーっと、そうだなー」
 困惑しながら、しかしどこか楽しそうな声がライヤの背後から接近してくる。この声は、何処がで聞いたことがある。
「うん。そうだな。こう名乗ろう」
 手をポンと叩き、楽しげな声の持ち主がライヤの前に現れる。
「裏切りの救世主、謎のウーマンU!さーんじょーう?」
「ウル、さん?」
 そこにいたのは、冒険者ギルドの唯一のギルドマスターにして魔族の協力者。だった筈の女、ウルだった。
「ウル、貴様。何の真似だ」
「さっき言ったでしょ?裏切りますって。私、キョウカちゃんを堕とされちゃったから、キョウカちゃんの女になりまーす」
 ウルは状況を一歳弁えず口に咥えたタバコをポイ捨てしながらピースサインを作る。その姿は完全にルシフェルを煽っている様にしか見えない。嫌、なんの間違いもなく、煽っているのだろうか。
「というか、ウルさんってこんな人だったっけ?」
 何処か、ライヤの中のウルのイメージと目の前にいるウルのイメージが合わない。そういえばこの感想は前ウルに出会った時も感じた様な気がするが。
「貴様、だから変化の魔術師を逃していたのか」
「うん?あ!それに至ってはごめんだわ。ナズナちゃんとキョウカちゃん別行動だったからさ。てっきりナズナちゃんはキョウカちゃんに着いてくもんだとばかり」
「キョウカ?そういえばキョウカって!キョウカ無事なのか!?」
 キョウカの名前に遅れながらに脳が反応してライヤはウルに飛びつく。が、体が思う様に動かずその場に倒れ込む。
「ったくあんたは!他人の事より自分の事心配しなさいっての!!」
 視線が地面から移動する事が出来ないが、その発言と声でその言葉を発した人物が誰なのかは即座に検討が付いた。
「キョウカ!!無事だったのか!!ならナズナの治療を頼む!!そこに倒れてて」
「バカライヤ!まずはお前からだっての!!!」
 大怪我でいつ死んでもおかしくない程の傷を受けているライヤにキョウカは容赦なく鉄拳を喰らわせる。それも血で真っ赤に染まった頭に。
「うわ、めちゃ血ぃついた。きったね」
「キョウカさん酷い!!!」
「何を!楽しそうにしているか!!!」
 ウルとキョウカの登場に完全に場の雰囲気が変わったことにルシフェルは怒りの声をあげる。その声にウルは「ごめんごめん」と軽く頭を下げる。何処までも軽い人だ。
「フッ。どうやらアリシスの姫を甘く見ていた様だな。してウル、何故貴様は人間の味方をするのだ?」
「ああ、そこはしっかり伝えなくちゃいけないよね。元仲間だったんだから」
 ウルは少し寂しそうな顔をして。
「あれは、二二年前。私がこの世に生を受けた」
「何故人間に付くかの理由だけ話せ」
 本当に、心底、軽い人だ。
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