original ring

藤丸セブン

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4章 オリジナルリング

73話 野望と正義

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 キョウカ、エンカ、ネンカとウルの戦闘。フィン、カゼジロウ、マキ対コモリの激闘より、約一時間前。オリジナルリングを巡る激闘の鍵を握る人物、ライヤ・アラタは。
「はーーーー。暇だなーーー」
 青空を見上げて大きな独り言を呟いていた。
「やる事がーーーねぇーーー」
 ライヤが腰をかけているベンチがあるのは王都中央公園。何故ライヤがこんなところにいるのかと言うと。
「はぁ。まだ廻ってない魔道具店にでも行こうかな。でもなぁ!魔道具店に行ったら絶対欲しくなっちまうからなぁぁぁ!!!」
 そう。当初の目的である魔道具の購入はとうの昔に済ませてしまった。本当は色々な店を回って本当に欲しい商品を考えて購入するつもりだったのだが、一店舗目で欲しい商品が見つかり、気がついたら購入していた。衝動買いというやつである。
「まさか一店舗目で有金全部使い果たすとは思わなかった。やっぱ趣味には大量の金がいるんだな」
 指輪探しの旅が終わってもまだ冒険は続いていく。ならば魔道具も必要になってくる。まあ、もう冒険者を引退するという事になってもライヤは魔道具を集め続けるのだろうが。
「よし!暇しててもしょうがない。図書館にでも行くか!あんま気になる本とかないけど、魔道具の本とかあるかも知れねえし!」
 それにナズナもいるから、と考えたが本を読んでいるナズナは凄く集中しているので話しかけても気づかない事が多い。ライヤもそんなナズナの集中を乱したくない。
「ま、いいか」
 ナズナに会いに、また魔道具の本を探す為にライヤは図書館へ歩き始めた。
「図書館は、こっちか」
 ライヤが図書館へ向かって歩いている途中で。
「きゃぁぁぁー!!」
 女性の悲鳴が聞こえた。
「っ!こっちか!」
 悲鳴が聞こえた途端踵を返して悲鳴の元へ向かう。しかしライヤは王都の地理に詳しくないので悲鳴が聞こえた位置が特定できない。
「こうなったら」
 速度を上げる為雷鳴の指輪を発動。人々の邪魔にならない様にかつ迅速に助けられる様に、足に雷を纏い走る。その結果。
「ここか!」
 あまり人気のない路地裏でうずくまっている女性を見つけた。
「えっと、大丈夫ですか?」
 不思議な感覚に襲われながらもうずくまっている女性に声をかける。ライヤの声に女性は体を震わせて涙目でライヤを見る。
「あっ!えっと!俺は悪い奴じゃないです!俺は冒険者で、悲鳴が聞こえたので、」
「げて」
「え?」
 何かに怯えている女性が口を激しく動かしているがよく聞こえない。
「逃げてっ!」
 女性はポケットに手を入れるとナイフを取り出してライヤの方へ走り出す。どうやらライヤをナイフで刺すつもりの様だ。
「な、なんでぇ!?」
 ナイフによる突進をなんとか回避し、女性を説得する言葉を考える。
「えっと!?ナイフを捨てて下さい!悩みがあるなら聞きますよ!?俺が解決できる事ならなんでもしますし!一旦話し合いません!?」
「私の意志じゃないの!だから逃げて!」
「意志じゃない?」
 再度ナイフを強く握って駆け出してくる女性。を、よく見てみると細い糸の様なものが見えた。
「それかっ!」
 ライヤは女性の攻撃を避けて雷を細くして放つ。狙いは勿論女性に操る様に絡みついていた糸だ。
「あっ!体が、動く」
「ふぅ。めちゃくちゃ細いの貫くのはめちゃくちゃ神経いるな」
 いつもの様に放電するよりかなり神経を使った。疲労感が強い。そんなライヤの耳に手と手を叩く拍手の音が響いた。
「お見事。まさか人間を傷つける事なく傀儡の糸だけを切り裂くとはな」
「っ!誰だ!?」
 先程まで気配すら感じなかった場所に一人の男が拍手をしながら立っていた。整った顔立ちで赤い髪をした青年。その鋭い目つきから先程己のした問いの答えが分かった気がした。
「お前、アリシス一族を襲って指輪を奪った魔族か?」
「その通り。我こそが貴様の旅の元凶、未来の魔王となる男。ルシフェル・アシュヴォールである」
 ルシフェルと名乗った男は楽しそうに笑う。その左手の薬指にはとある指輪が装着されていた。
「その指輪が」
「ああ。これこそが第八にして最後のオリジナルリング。傀儡の指輪だ」
「・・・で、俺をここに呼び寄せた理由はなんだ?」
 思わぬライヤの言葉にルシフェルは目を丸くする。
「ハハハハハハ!何故我がここに君を呼び寄せたと思った?」
「悲鳴が聞こえてから結構時間が経ってしか俺は辿り着けなかったが、女性は無事だった。なら、何の為に悲鳴をあげたんだ?」
 その答えはライヤを人のいない場所へ呼び寄せる為。それ以外には考えられない。
「なるほど。聞いていたよりよほど優秀な様だな」
「お世辞はいい。さっさと要件を言えよ」
 冷たくルシフェルを睨みつけるライヤにルシフェルは寧ろ好感を持った様に見えた。
「本当ならば問答無用で奪い取ろうと思っていたが、いいだろう。お前の要望に応えて我が望みを伝えよう」
「・・・」
 上から目線のルシフェルのいい様に少しイラついたが今は話を聞くべきだろう。ライヤは我慢してルシフェルの言葉を待った。
「我は、魔王になりたい。だが普通の魔王ではない。我が民達全てを幸せに出来る!民の皆に親しまれ!尊敬され!最高の王だと言わしめる王となりたいのだ!」
「・・・え?」
 想像すらしていなかったルシフェルの望みにライヤは耳を疑った。魔王になる。それは分かった。魔族として相応の望みだろう。だが、民を幸せにする王となる?
「あ、そうか。お前の言う民とは魔族の事か」
「ああその通りだ。だがな、最近思い直したのだよ」
「は?」
「我は、人間が望むなら人間も我の民にしてやろうと思っている」
 頭が情報に追いつかない。こいつは何を言っている。
「つまり、自分の独裁国家を作りたい、と?」
「独裁ではない。無論民の意見はしっかり聞き、議論すべきものは大臣や四天王達と議論して民が納得する答えを導き出してみせよう」
 頭がおかしくなりそうだ。ルシフェルの話を聞いているとルシフェルが本気で自らの民を大切にしようとしているかが分かる。そして、その民には人間も含まれる可能性があると。しかし、それならば。
「じゃあ、何でオリジナルリングを奪った!?悪用させる様に仕向けた!?お前のその行いは、民とやらの幸福には繋がらないだろ!!」
「そうだ。今話したのは我の望み。いつか必ず叶える我が野望だ。残念ながら今は叶えられない故、その野望を叶える為にオリジナルリングを奪った」
「まさか、傀儡の指輪で人間を操って民にするってか!?」
「いいや、ライヤ・アラタよ。貴様はオリジナルリングの都市伝説、オリジナルリングが悪用された場合を知っているか?」
 オリジナルリングが悪用された場合の都市伝説は勿論知っている。八つ全てのオリジナルリングが悪事に利用された時、原初の竜が降り立ち人間に裁きを与える。
「まさか!?」
「その通り。我が原初の竜を呼び寄せ、殺す!そうする事により自分達がピンチだった時に颯爽と竜を殺し助けてくれた我こそが!魔王であり人間を統治する存在だと思い知るだろう!!!」
「ふざけんな!そんな事の為にオリジナルリングを、キョウカの家族を殺したのか!?」
 ライヤの怒号にルシフェルは殺意を込めた視線を送る。その殺意の波動にライヤは少しだけたじろぐ。
「そんな事、だと?我にとっては一番大切な事だ!!人間の醜さはよく知っている。故に、人間が魔族の民になるなどと言うことは起こり得ない!!!」
「だからって竜を殺すなんてっ!」
 感情に任せて反論しようとするが、口が動きを止める。ルシフェルには自分なりの正義がある。それはライヤの正義とは違うものだが、自分の正義は誰かに言われたところで変わるものではない。
「その反応を見れば大体想像は付くが、念のため聞いておこう。ライヤ・アラタよ。我の望みに賛同してはくれないか?もし賛同してくれるのならば、その雷鳴の指輪でこの女を殺してくれ」
 話に夢中になっている間に先程の女性にまた傀儡の糸が絡んでいた。口元にも糸があるところをみると声も出せない様にされているらしい。
「お前にも望みがある様に、俺にも望みがある。それは、人殺しをするなんてものじゃない」
「お前が手を下したくないと言うのなら、雷鳴の指輪だけを置いて行ってもいい。代わりの適性者は存在している」
「俺が、なんて話じゃねえよ。殺しが起こりそうな場面に出会したのに、それを止めないなんて俺の正義は許してくれねえんだよ!!」
 ライヤが声を荒げながらルシフェルに叫ぶ。その答えにルシフェルは「そうだろうな」と言いながらも少し残念そうな表情を見せる。
「交渉決裂だ。ならば、貴様を殺してでも雷鳴の指輪を戴く」
「上等だ。お前をぶっ飛ばして傀儡の指輪を封印させて貰う!!」
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