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4章 オリジナルリング
62話 王都へ
しおりを挟む「本当に運転は任せちまってもいいのか?」
「はい!寧ろやらせて下さい!」
王都へと向かう為に魔道車に乗り込んだ一同。そこでナズナが胸を張って運転席に座った。
「ナズナちゃんは本当に運転好きだよな」
「好きって言うか、私達の役に立とうとしてるんだと思う。そんなこと気にしなくていいのに」
「いいえお姉様。私が望んでやっていることなのでお気になさらず!もう残りのオリジナルリングは二つ!旅も終わりが見えて来ましたから」
ナズナが少し寂しそうに呟く。オリジナルリングは全部で八つ。キョウカは今までの旅でライヤが使用している雷鳴の指輪、ナズナが使用している変化の指輪、ソルが悪用していて今はキョウカが管理している精神の指輪、フィンが使用している歪曲の指輪、ローズが悪用していた欲望の指輪。そしてミクリが装着していた生命の指輪の六つのオリジナルリングを回収、封印に成功している。残るオリジナルリングは二つ。たった二つなのだ。
「オリジナルリングが着実に集まっているのは素晴らしい事です。でも、それと同時に旅の終わりが近づいていると言うのが、私は少し悲しいんです」
「ナズナちゃん・・・」
涙目で寂しそうな声をあげるナズナにキョウカは何も言えなくなってしまう。
「いい事じゃねえの、旅が終わるって事はキョウカちゃんの願いが果たされる事なんだぜ」
「はい、分かっています。けど」
「なーにしんみりしてんだよ。旅が終わったら、また旅を始めればいいんだ!俺たち五人で!!」
二人の悲しい雰囲気を壊したのはライヤだった。その言葉を聞いたナズナは悲しげな顔を一瞬で消し去り目を輝かせた。
「い、いいんですか!?」
「あったりまえだろ!」
嬉しそうなナズナとライヤを見ているとキョウカも少し嬉しくなってくる。
「なあ、どうでもいいけど早く行こうぜ。オイラ待ちくたびれたぜ」
「そうだな。それに先の事より目先の事だ。あと残り二つしかない、じゃなくまだ残り二つもある。だろ?」
「それは、ごもっともです」
ナズナは反省してエンジンをかける。
「安全運転でお願いね。もうこれ以上急ブレーキはごめんだから」
「私も出来る限り安全運転を心がけてますけど、急に飛び出されたら急ブレーキになっちゃいますよ」
「よし変態仮面。あんた外で走って周り見てて」
「はっ!?」
予想外の答えにカゼジロウが目を見開く。あまりにも存外なカゼジロウの扱いにライヤとフィンが苦笑いを浮かべる。
「絶対やらねえぞ!オイラだって疲れる!」
「へぇ。あんたの力ってその程度なんだ」
「あぁ!?そんな訳ねえだろ!オイラの力を見せつけてやるぜ!」
「乗るな乗るな!キョウカもいい加減にしとけって!」
キョウカとカゼジロウの間にライヤが割って入る。
「じゃあ問題が起こっても一切関わらないって約束出来る?」
キョウカの質問にライヤは顔を逸らした。
「ならこいつを走らせる」
「わ、分かったよ。なんとか頑張ってみる」
「絶対、約束して」
「はい」
ちょっとした問題はあったけれど魔道車はようやく王都へ向けて発進した。
「ここから王都まで何日くらいかかるんだよ?」
「ざっと見積もって三日、いや四日かな」
「はっきりしねえな!はっきり言いやがれ!」
少し曖昧な発言をするフィンにカゼジロウが怒りを露わにする。少し短気が過ぎる。
「まあちょっと落ち着けよ。話でもしてれば直ぐに王都に着くさ」
「お前ら、すげぇ適当だな。オイラはお前らをもっと細かい奴らだと思ってた」
先程まで怒りに身を任せて怒鳴っていたカゼジロウはいつの間にか冷静さを取り戻していた。カゼジロウという男はつくづくよく分からない。
「お姉様、王都に着いたらまず本屋さんに行ってもいいでしょうか?いや、本屋さんよりは図書館の方が無料でいっぱい本が」
「王都に着いたら速攻でオリジナルリングの手がかり探すからね。ナズナちゃんには悪いけど」
「そ、そうですかぁ」
ナズナは露骨にガッカリした顔を見せる。なんだかキョウカに罪悪感が生まれるが、流石にそうも言っていられない。
「キョウカちゃん、その事なんだが、王都に着いたら一日オフにしないか?」
「えー。まぁ明確な理由があるなら聞くだけ聞いてあげる」
少し気だるそうにするキョウカにフィンは自分の武器を見せる。
「その斧と棍棒って」
「俺の愛用の武器だ。だが、吸血鬼どもとの戦闘で棍棒は真っ二つ。斧はかなり刃こぼれが酷い」
「あ、そういえばオイラの槍も刺し味が悪りぃ。いつもはマーティが整備してたからよく分からんのだが」
オリジナルリングを巡る旅の中では戦闘は避けては通れないだろう。武器の手入れはオリジナルリングを取り戻す為に必須だと思われる。
「あー。そう言う事なら、仕方ないかな」
「ごめん、俺のせいで」
「あ?」
フィンにはライヤが謝る理由が分からなかったが、数秒でに理解した。ライヤがミクリに捕らえられさえしなければフィンの武器は壊れる事はなかったと言いたいのだろう。
「気にすんなよ。形のあるものはいつか壊れる。それが遅いか早いかの問題だ」
「まあ武器かライヤなら躊躇わずライヤを救うしな。オイラにとっては別に愛用の武器でもねえし」
「そっか。ありがとな、カゼジロウ」
少し照れたライヤがカゼジロウにお礼を言うとカゼジロウは不敵な笑みを浮かべる。
「お姉様お姉様!それなら一日図書館に行っても!?」
「キョウカキョウカ!それなら一日魔道具を新調しに行っても!?」
「は?あんたとナズナちゃんは私と一緒にオリジナルリングの情報集めだよ」
「「そんなぁ」」
そうは言ったがナズナの知識は変化の指輪の直接の戦闘力と直結するし、ライヤの魔道具は言うまでもなく戦闘でかなり役に立つ。それは今までの旅でキョウカは痛いほど実感している。
「・・・一日だけだからね」
キョウカの言葉に二人は満面の笑みを浮かべる。
「サンキューキョウカ!愛してるぜ!」
「ありがとうお姉様!大好きです!」
「全く、調子いいんだから」
調子のいい二人にキョウカは腕を組んでため息を吐く。
「そうと決まれば大事な一日を無駄にしない様にしっかりと計画を立てて魔道具店を回らねえと!金の使い方も考えて!いっそ全財産を使って目一杯の魔道具を買うか!?」
「ライヤ」
「はい、食費は残します」
キョウカの短い一言でライヤは財布を二つに分ける。
「あ、ライヤ。俺の斧と棍棒の金もくれ。俺は今一文なしだからよ」
「オイラの槍代も」
「え?」
パーティ一同の食費、フィンとカゼジロウの武器代。それらを差し引くと。
「魔道具代、少なくね?」
「お兄様。私の読み終わった本を売れば魔道具代の足しになりませんか?」
ナズナはそう言って読み終わった本を運転しながら指差す。そこにはかなり多くの本が積まれていた。
「お、おお!ナズナ!お前は俺の自慢の妹だ!!!」
「そ、そんな自慢だなんて!えへへへへ」
「ナズナちゃん!?前見て前!」
魔道車が右へ傾き魔道車が倒れそうになる。ナズナは我に返り魔道車の体制を整える。
「す、すみません皆さん」
「お、おう。事故らなきゃ大丈夫だよ」
王都に着いたら一日かけて新たな旅の準備をしなければならない。
「だから、絶対寄り道はさせないから」
「わ、分かってるって。助けを求める人がいなけりゃ問題ねえだろ」
「あ、それ以上言わないで。それ以上言ったらまた問題かま起こりそう」
今までオリジナルリングを一番に優先してきたキョウカがライヤやナズナの事情を優先してくれた。ならばライヤもキョウカとの約束は守らなければならない。
「でも、助けを求められたら拒めるような気がしねぇ」
「本当にライヤはライヤだな」
「それでこそオイラのダチだぜ」
困っている人を見捨てられないのはライヤの長所であり短所だ。そんなライヤだからこそナズナやカゼジロウはライヤを信じて着いて来たのだ。
「さあ!行くぜ王都!オリオンリース!!!」
魔道車のアクセルを強く踏み締め、魔道車は全速力で、更に安全運転で走り出した。
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