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3章 血液城
54話 信頼と契約
しおりを挟む「キョウカちゃん、次出てくる吸血鬼と戦うのは俺だ。つまり次の吸血鬼が出てきたらキョウカちゃんを守るやつがいなくなる」
突然フィンが言い出した言葉にキョウカは少し唖然とした。
「急に何。別に私は守られるだけの存在じゃないし。それにあの吸血鬼以外に私達に襲ってくるやついなかったじゃん」
「今まではそうだが、最後までそうとは限らねえ。どんな時でも周りに意識を向けろ、絶対に警戒を緩めるな」
「っ!分かった」
フィンの様子がいつもと違った。いつもの少しふざけた様な、楽しげな顔ではなくその表情は真剣そのもの。まあ命を賭けた戦いに身を投じようと言うのだから当然と言えば当然なのだが。これほどまで真剣なフィンはキョウカは初めて見た。
「おう!それを忘れんなよ!おっと、噂をすれば、だ」
キョウカに笑いかけるとフィンは前の扉を見る。恐らくとても広い部屋への入り口。ルゥも大広間でフィン達を待ち伏せていた所を見るに、この城の中で存分に暴れられる広い部屋を戦いの舞台にしているのだろう。
「行くぞキョウカちゃん!準備はいいな!」
「こっちのセリフだよ!というか戦うのはあんただけでしょうが!」
キョウカに背中を叩かれたフィンは少し驚いて、全力の笑顔を見せた。
「やあ、来たんだね」
「おっらぁぁ!!」
本を読みながら椅子に座っていたカイを見つけるや嫌なフィンはカイを殴り飛ばした。
「ええーー!?そいつなんか言おうとしてたんだけど!?」
「知るかよ。冒険者の襲撃を受けていながらのんびり茶飲んでるやつが悪い」
フィンがキョウカと話しているとフィンの背後にカイが飛んできてフィンを殴り飛ばす。
「フィン!?」
「そうだな。敵を目の前にしながら敵に背を向けて仲間と話してる奴が悪いよな」
「おうよ。そういう事だ」
お互いに一撃受けた二人は何事もなかったかの様に立ち上がり肩を鳴らしたり準備運動をしたりする。
「行け、キョウカ・アリシス。上でミクリが待っている」
「行きなキョウカちゃん!ライヤを救ってこい!」
「「む」」
二人同時にキョウカを先へと行かせようと声をかけ、そして二人は睨み合う。
「おいおい吸血鬼さんよぉ。そういうのは仲間が言うもんだろうがよぉ」
「僕は僕の言いたいことを言う。それに、敵が先に行け、と言って警戒しながらも先へと進んでいく。というのは人間の好む展開じゃないのかい?」
「うわ、あの二人相性悪っ。村じゃぁ先に行くけど」
最早キョウカの事など眼中にない二人は今にも殴り合いになりそうな程睨み合う。逆に今すぐ殺し合いにならないのが不思議だが、恐らくキョウカがまだここにいるという事を二人とも把握しているのだろう。
「フィン!」
キョウカの声にフィンは反応はしないが引き続きキョウカは声をあげる。
「死んだら殺すから!また後で会おう!」
キョウカの声がカイのいた大広に響き渡る。
「物騒な女だ。死んだら殺すことなんて出来ないだろうに」
「あれがキョウカちゃんのいいところなんだろうが。だから、俺は絶対死なねえって思える」
それから数秒、キョウカの足音が完全に聞こえなくなるまで二人はピクリとも動かない。
「素直に行かせてくれるじゃねえの。裏がありますって言ってる様で怖すぎるな」
「キョウカ・アリシスには手を出すなとミクリに言われているからね。全く無傷の状態から、死ぬまで痛ぶってやりたいそうだ」
「そうか。それは残念だ」
カイは少しフィンの言葉に疑問を持つが、すぐに意味を理解した。フィンが残念に思っているのはキョウカが痛ぶって殺される事ではなく、ミクリの願望が叶う事はないと言う意味だ。つまり残念とはキョウカではなくミクリに言っている言葉となる。
「本気か?」
「あ?」
「本気でキョウカ・アリシスがミクリに勝てると思っているのか?ただアリシスの血が流れているだけで戦闘なんてゴミ同然の女が吸血鬼の女王に勝てると?」
カイの言葉にフィンは怒り出す。が、それ以上に。
「プッ!ナッハハハハハハ!!!」
「何がおかしい」
「いやっ!何。お前こそ本気でキョウカちゃんがただの人間程度の戦闘力しか持ってねえと思ってんのか!?」
怒りよりも、笑い。キョウカの事を舐めきっている吸血鬼という種族が可笑しくて仕方がなかった。
「キョウカちゃんは強いぜ。覚悟を決めた今は特に!そんなキョウカちゃんが、ただの吸血鬼の女王程度の存在が勝てる訳ねえだろ!!!」
フィンの言葉は真っ直ぐだ。全く澱みがない。本気でキョウカがミクリに勝つと思っている。
「そうか、愚問だったな」
「いや、俺がキョウカちゃんを信じる様に、てめえがミクリとやらを信じる気持ちも分かるぜ」
「分かるものか。ミクリは絶対に負けない。絶対に死なない。そう確信できる絶対的な理由があるんだよ」
当然カイもミクリが勝つと信じきっている。いや、信じると言うより当たり前のことなのだ。
「ま、この話はここで問答していても答えは出ねえし、時間の無駄だよな」
フィンが右手に斧を、左手に棍棒を握る。
「ああ、結果は分かりきっているが、それでも心配ではある」
カイも右手に血液を集めて真っ赤な剣を、左手に槍を作り出して握る。
「てめえを殺してキョウカちゃんの勝利を見届けに行く!!」
「お前を殺してミクリの機嫌を直す」
フィンとカイの武器が正面からぶつかり合った。
◇
「キョウカ、大丈夫?」
「え?シル!?なんでここに」
「フィンに頼まれたんだ。どうやらボクは吸血鬼の頭数に入れられてないみたいだし、キョウカの力になってやってくれって」
無我夢中で走っていたので隣でシルが飛んでいる事に気がつかなかった。
「そっか。シルが近くにいてくれるなら、心強い」
「えー。今戦えないこいつがいてもなーとか思ったでしょ」
シルに疑いの目を向けられてキョウカは体を震わせる。図星である。
「いや、そんな事考えてないって!ただ戦闘面はなーって思っただけで」
「やっぱそうじゃんか!全く失礼しちゃうなー」
シルは頬を膨らませて怒る。
「そんな事ないって!フィンがシルを託してくれたって事は何か意味があるんでしょ?精神面以外の点で」
「そうだよ。直接的に力にはなれないけど、ちょっと契約の抜け道を使ってキョウカのアシストをする事くらいは出来る」
「アシスト?」
キョウカの疑問にシルは誇らしげに胸を張る。
「うん!キョウカは準妖精術師だけど、ボクは正式な妖精。本来なら準妖精術師と妖精での契約なんて出来ないけど。ボク、つまり妖精側の同意があれば少しの制限はあるけど契約出来る」
「え?でもシルはフィンと契約してるじゃん!?二人同時契約なんて出来るの?」
「うん!妖精が二人の術師と契約しないのは両方に呼ばれたら困るから。だけどフィンとキョウカならお互いに呼ばれる事はないし今この時だけの契約だからね。ライヤを人間に戻せたら契約終了。あんまり無理な契約を続けるのも危険だしね」
契約は出来ると言う事は分かった。ならば次に聞くべきは。
「ボクと契約した場合に得られるサポートの内容、だね」
「・・・心読むのやめてくれない?」
「失礼な。ボクに人の心を読む力なんてないよ」
そんな特別な力はなくとも実際に心を読んでいるのだから同じ事だ。
「で、どんなサポートな訳?」
「ふふん!それはね」
シルがキョウカにサポートの内容を話す。
「マジ!?そんな事可能な訳?」
「うん!どう?ボクと契約すればいい事尽くめでしょ!?まあ、ちょっと代償で翌日くらいに体の怠さとか免疫力が下がりまくるから風邪とか引く可能性もあるけど」
「そんなの覚悟の上だっての。実際ここは無茶でもして生き残らないと風邪なんて二度とひけないからね」
キョウカの覚悟を笑顔で見届けるシル。ならば
「よし、じゃあ早速契約だ。契約に慣れるのに少し時間はかかるだろうし」
「分かった、契約しよう」
今ここに、キョウカとシルの契約が果たされた。
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