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藤丸セブン

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2章 冒険の仲間

29話 マキとナズナ

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「さてと。一回戦は負けたがまだファイアーシスターズは負けてねえ。二回戦と行こうぜ」
「勿論。ナズナ、頼む」
「はい!」
 一回戦を見事?勝利したライヤが誇らしげにナズナを指名する。それに呼応してナズナも返事。やる気は表情からみて満々だ。
「うっし。私の出番なしなんてのは嫌だし、私が出るな」
「え!?マキ姉もう出るのか?」
 エンカが驚きの声を上げるがマキに睨まれて何も言えなくなる。あれだけ怒られたら抵抗など出来るはずもない。
「ナズナ!マキ師匠はエンカ師匠みたいに炎を使って攻撃する訳じゃなく接近戦闘型だ!距離を取って戦え!」
「分かりました!」
 二人の準備が整ったのを見るとキョウカが手を上に掲げる。
「じゃあ第二回戦。マキさん対ナズナちゃん。バトル開始!」
 キョウカの腕が勢いよく宙を切る。それと同時にナズナは現在の位置から少しでもマキから距離を取ろうと後ろに下がる。しかし。
「遅いぜ嬢ちゃん」
「なっ!」
 その時点でマキはナズナの目の前に立っていた。そしてマキの正拳突きがナズナに繰り出される。
「きゃっ!」
「へぇ。避けるか」
 行動は遅れたが距離を取っていたことが幸いしてなんとか正拳突きを回避。だが当然マキの攻撃はこれだけで終わりでは無い。既に回し蹴りが視界に入っている。
「あうう!」
 小型な体からは想像が出来ない程の蹴りがナズナを襲う。その衝撃は凄まじくナズナは地面にぶつかりながら二回転半回転しながら倒れた。
「ま、ざっとこんなもんよ」
 マキは回し蹴りで崩れていた体制を整えて立ち上がる。勝敗が決したと思ったのだろう。だが、ナズナはそれ程脆く無い。
「変化、ジェットラビット!」
「何っ?」
 小さい煙と同時にナズナの姿は白く小さな兎へと姿が変わる。ジェットラビットという凄く足の速い魔獣だ。
「速い。こりゃ私でも追いつけねえな」
 ナズナは狙いを定められない様にあちこちを走り回りながらマキを見る。そして爪の大きさ程の小さな石をマキに数十個程投げつけた。
「可愛い攻撃だな」
「甘いです、変化!」
 襲いくる小石の群れが煙に包まれるとそれは大きな大岩に。しかも投げた小石全てが変化していた。
「げっ!まじか
 マキが話し終わる前に大岩がマキの体を潰して行く。そこに残ったのは
「え?マキさんがいない!?」
 見事に切り落とされた大岩と地面にぶつかって砕けた岩のみ。
「いい戦術、いい指輪だ。面白いな」
「はっ!」
 マキの声が聞こえた方を振り向くがナズナにはマキを視界に捉えることが出来ない。理由はマキの拳が顔に直撃していたから。
「がはっ!」
「嬢ちゃんの顔を殴るのは無念だが、許してくれな。冒険者たるもの、どんな時でもこれくらいは覚悟しておかねえとな」
 マキはそのままナズナを掴むと背負い投げをナズナに繰り出した。
「キャァァ!!うう」
 白い兎が煙に包まれナズナの体へと戻る。どうやらこれ以上の戦闘は続行不可能の様だ。
「勝者マキさん、だね」
「うう。ごめんなさい」
「何で謝るんだよ。ナイスファイトだったぜ」
 血を流すナズナをキュアが治療している中マキはナズナを眺めていた。
「どうしました師匠?」
「いや、勿体ないと思ってな」
「勿体ない?それはどういう事ですか?」
 ライヤの質問にマキは答えない。しかし覚悟を決めた顔をしてナズナの元へ歩き出した。
「決めたぜ。嬢ちゃん、私の弟子にならないか?」
「なります!」
「弟子って言っても、え?なる?」
「はい!お兄様とお姉様のお師匠様って事はお師匠様の弟子になれば私は妹弟子!!本当の妹になれます!!」
 妹弟子は本当の妹ではない、と言おうと思ったがナズナの目があまりにも輝いているのでその言葉が喉から出てこない。
「あの、師匠?ナズナを弟子にっていうのは?」
「ああ。いい指輪に戦略を持ってたしガッツもある。この嬢ちゃんは磨けば光る。だから私に嬢ちゃんを磨かせて欲しいってこった」
「それなら俺たちが断る意味が無いっすね。ナズナが強くなるのはめちゃくちゃありがたいし!」
「はい!よろしくお願いします!」
 ライヤが笑いナズナは深々と頭を下げる。契約成立だ。
「とはいえまだ試合は残ってる。ネンカ!出番だぞ」
「あ、試合なら終わってますよ」
 キョウカの言葉に耳を疑ったマキだったが、その意味はすぐに分かった。ネンカが立ったまま爆睡していたのだ。
「妙に静かだと思ったらこいつ」
「これがキョウカの作戦ですよ。一番最後に戦う事にしておいてボイスの睡眠歌で参加者を眠らせる」
「卑怯だと言いてえが、ルールはねえからなぁ。なんか小狡い手で二人ともやられてやがるな」
 戦闘終了。一回戦 ライヤVSエンカではエンカが魔道具の効果により敵前逃亡によりライヤの勝利。二回戦 ナズナVSマキはマキの殴り勝ち。三回戦 キョウカVSネンカはネンカの睡眠(殴っても起きなかった)によりキョウカの不戦勝。よって勝利したのはライヤ達だ。
「「納得いかねー!!」」
「納得も何もクソみたいに負けたの認めな。特にネンカは反省しろ」
 ネンカが悔しそうにキョウカを睨むとキョウカはキメ顔でピースをする。それが更にネンカを悔しがらせる。
「あ、そうだ。これからライヤは私の事師匠って呼ぶな。可愛い弟子が出来たから野郎はいらん」
「ひっでえ。別にいいけどよ」
「これからよろしくお願いしますね!お師匠様!」
 今後の街に残る期間はクエストと修行と大忙しになりそうだ。その予定を立てるためにギルドに行くと。
「おや、誰かと思えば我らの真似事をしているファイアーシスターズではないですか」
 ギルドの入り口で高身長の男性三人組の冒険者に絡まれた。
「あ?あー。誰かと思えば私達より先に冒険者になった癖に私達にランク追いつかれたアイスブラザーズじゃねえか」
「なんだと!?」
「兄さん!こいつらチビの癖に舐めてやがるよ!」
「なにおぉ?」
「マキ姉!こいつら雑魚のくせに喧嘩売ってやがるぜ!」
 アイスブラザーズの長男と思われる男性とマキが睨み合いを始めると妹弟二人も睨み合いを始める。
「いいだろう。今日こそ決着をつけるぞチビども!戦争だ!」
「ああ上等だ!ライヤ!てめえ審判しやがれ!」
「冒険者同士の喧嘩だ!やるやる!!」
「私も拝見させて下さい!!」
 そうして、ギルドにはポカンとキョウカだけが残された。
  ◇
「はー。何なんだよあいつらー。勝手に盛り上がって私一人だけ置いてっちゃってさ」
 ギルドからそそくさと出て行ったキョウカは不貞腐れながら街をブラブラと歩いていた。一人取り残された悲しみや怒りなど様々な感情をライヤの財布から取り出したお金でやけ食いへと使用する事で解消する。
「あ」
 気がつけばライヤから掻っ攫ってきた財布は息を引き取っていた。
「もう一銭もないじゃんか。あの野郎貧乏すぎるだろ」
 成人男性三人以上の食材を食べ尽くしたキョウカはやる事がなくなり更に拗ね始める。
「あっれぇ。お嬢ちゃん一人かい?」
「こんな所に一人じゃ危ねえぞぉー。おじちゃん達がお母さんのとこつれてってやるよぉ」
「げっ。酔っ払いが」
 時刻は気がつけば夜。酒に酔った男性二人がキョウカに絡んできた。
「いや、大丈夫なんで、それじゃっ」
「いやいや、そんなこと言わないで。俺たちと遊んでいこうぜ」
「バチバチに気持ち良くしてやるよーぉ?」
「こいつらぁ」
 下手に出ていたキョウカが怒りを露わにする。そして男達を殴ろうと
「え、体が、動かな、」
 よく見ると男の一人が指輪を光らせているのが分かる。どの様な指輪かは分からないがその効果で体が動かないのだろう。
「嘘、やばっ」
 男の手がキョウカの胸に触られそうになる直前。その男が吹き飛んだ。
「おいおい、俺の大事な人に触るんじゃねえよ」
「な、なんだてめぇ!」
 そう言った男も軽々と殴られ地面に転がる。体が動く様になったキョウカが助けた男を見て一言。
「誰?」
 そこには身長が190以上あるであろう筋肉質な男が立っていた。
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