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2章 冒険の仲間
19話 情報収集
しおりを挟む「んー!すっきりした。綺麗になったね」
ライヤ達が去って行った小さな村でヴァンパイアクイーンのミクリは楽しそうに笑っていた。周りには大勢の人々の血が飛び散っている。
「また派手にやったね。後処理とか大変なんだけどな」
「いいじゃん!その辺はお兄ちゃんがやってくれるもん!」
「だから僕が大変なんだって」
拗ねたように頬を膨らませるミクリにカイはため息を吐き出す。
「まあそれはいいけど、せっかくの指輪だったのになぁ」
カイは掌の中にある砕けた指輪、腐敗の指輪に視線を落とす。腐敗の指輪は文字通り物を腐らせる指輪だが本来は人をゾンビ化させる力などない。だがそれをカイが改良したのだ。
「まあいいじゃん!その分彼の良さが分かったし、私楽しみだなー!」
ミクリはかなりの時間をかけて指輪を改良し愛着すら湧いていたカイの気持ちを軽く一蹴する。まあカイにとっては慣れっこだ。
「それより聞かせてくれないかな?ミクリの意見は尊重したいし、反論するつもりもない。けれど理由は聞かせて欲しい。何故彼なんだい?」
カイが真剣な表情でミクリに語りかけてくる。そのカイの顔を見てミクリも笑みを消す。
「彼を選んだ理由は三つ。一つ、オリジナルリングの中で最も攻撃力のある雷鳴の指輪をあれ程までに使いこなせるから」
それに至ってはカイも同意見だ。適性があるとはいえあれ程までに雷の威力、範囲を調節出来るとは思っていなかった。
「二つ目、仲間意識が高く精神力が強いから」
「精神力?彼はそれほど精神が強く無さそうだけどな」
「そうだね。今はまだ仲間に手を出された時点で怒り出すだろうね。でもそれは今の話。これから強くなっていけばいいんだよ」
カイは静かに二つ目の理由を聞くと三つ目の理由を待つ。ミクリの説明に納得したようだ。
「三つ目、これが一番重要なんだけど。彼可愛いじゃん」
「やっぱり。そうだと思っていたよ」
ミクリが表情を緩ませるとカイは何度目かのため息を吐いた。
「だってだって!仲間と一緒にいる時の信頼し切ってる顔とか私がゾンビになったと信じきってた絶望の顔とかビーンを倒す為に見せた時々来るカッコ良さとかが凄く良かったんだもん!一目惚れってやつ?」
「一目惚れとはその名の通り一目見た瞬間に恋に落ちる事だからミクリのそれは一目惚れじゃないよ」
やはり選ばれた理由は顔だったか。ミクリは自由奔放なので王を選ぶ事も好みで選びそうだと思って付いてきたが、結局ミクリの好みの男だった。
「まあ思ったより早い強いし合格点か」
「ちょっとー!お兄ちゃんが合格かどうか決めることなんて出来ないんだからねー!」
ミクリがプンスカと言う擬音が似合いそうな怒り方をするとカイは「ごめんごめん」と軽く謝る。それでどうやら許した様だ。
「楽しみだなー。私達の王様になった彼はどんな表情をするのかな。私に食べられる時、私を食べる時、どんな声をあげて、どれほど嬉しそうな顔をするのかなぁぁ」
「気が早いよ。暫くは様子見だ。しっかりミクリの牙が届く様にね」
「うん!また会おうね、ライヤ・アラタ君」
◇
「うぇぇぇぇ!」
「は?急に変な声だしてどうしたの?」
魔導車の中、次のオリジナルリングへ向けて移動していた一向は作戦会議中だった。そんな中ライヤが変な声を出したのでキョウカとナズナがライヤに注目した。
「いや、なんて言うのかな。寒気が背中にゾワワっ!ってきた感じというか」
「なんでしょうね?誰かに噂されてるのでしょうか」
「まあそんな事どうでもいい。今は作戦会議続けるよ」
キョウカはライヤを無視してナズナが貰ってきた地図を広げてナズナから借りた変化の指輪を強く握った。すると変化の指輪が光を放つ。
「こっちか。つまり方角からすると」
「ここ、マキセの街か」
地図の一点にライヤが指を刺す。
「マキセの街はかなり大きな街で観光名所と言われているらしいですよ!教会とか美術館とかが有名だそうです!」
ナズナが本を見ながら楽しげに話すがライヤは「へー」としか答えない。だって教会とか美術館とか言われても。
「・・・マキセの街には大型カジノがあって一攫千金も夢ではないそうですよ」
「マジか!?カジノ!賭け事!いいねー!冒険者ぽい!」
流石ナズナだ。ライヤのやる気を引き出すのが実に上手い。
「やめときなカジノなんて。どうせ負けて資金がなくなるだけだよ」
「えー!いいじゃねえかカジノくらい!」
「あ、ごめんなさいお兄様。カジノはマキセの街じゃありませんでした」
何という半殺し。キョウカに反対されても指輪の回収が終わったらこっそり行こうと思っていたのに。
「でそれはいいとして。マキセの街に行く前にちょっと寄り道になるけどちょっと小さい街があるみたいだね。だからそこで物資を調達してついでに情報収集もしようか」
「了解」
「分かりました」
こうして一同はマキセの村の付近にある村で情報収集をすることとなった。
「じゃあ俺は食材とか魔導車の燃料タンクとか買ってくるわ」
「じゃあ私とナズナちゃんで情報収集だね。二手に別れる?それとも一緒に行く?」
「出来れば一緒がいいです。何かあった時お姉様を助けられるので」
そこは助けてもらうではないのか。と思いながらもライヤは二人に手を振って買い出しへ出かけた。
「さて、じゃあ行こう」
「はい!」
二人はマキセの街の事を様々な人に聞いて回ったのだが。
「マキセの街?あんな曰く付きな街に何の様だってんだ」
「悪いことは言わないからやめておきなさい。あの街は恐ろしいのよ」
まず二人組の男女に話を聞くといきなり良くない話が耳に入った。
「恐ろしいとは?」
「あの街は少し前からおかしくなっちまったのさ。旅人が街に入れば帰ってこない。冒険者が調査に出たがそれも帰らず仕舞いさ」
「だから詳しく何があるのかは分からない。けれど歴戦の冒険者ですら帰って来れなかったのは事実なのよ」
「なるほど。お話してくださってありがとうございます」
ナズナが丁寧にお礼を言うと女性は「気をつけるのよ」と一言言い残して立ち去っていく。男性は何も言わず立ち去った。
「まさかいきなり悪い噂を聞くとは思いませんでした」
「私は覚悟はしてたよ。なんせマキセの街にはオリジナルリングがあるんだ。それがどの指輪かは分からないけど悪い人が使ったらいけない物ばかりだからね」
キョウカの意見にナズナは納得する。ライヤとキョウカに着いてきて初めての指輪への手がかり。ここでナズナが活躍して二人の手助けになればと思っていたが少しの恐怖がナズナに宿った。
「なんだか怖いですね」
そう呟くとナズナはハッとなり口を手で塞いだ。ナズナが勝手に着いてきたと言うのに怖いなど言っては失望されてしまうと思ったからだ。
「そうだね。でもやらなきゃ。私は指輪を使って悪事なんてさせない」
キョウカの意思は固く、強い物だった。そのキョウカを見ているとナズナに住み着いた恐怖が弱くなる様な感覚がした。
「もっと色々な人に話を聞いてみましょうか」
「うん」
宿屋の店主、アクセサリー屋の店員、道ゆく男性、酒場にいた冒険者など多くの人に話を聞いたがその答えは同じ。マキセの街に入れば出る事は出来ないという事だ。
「結局情報はそれだけか」
「はい。実際マキセの街から帰ってきた人がいないのですから中で何が起こっているのかなんて分かりませんよね」
二人は冒険者ギルドの席につきため息を吐いた。冒険者ギルドは至る所にあり一つの街に一つ程度には存在する。この街にもそれは存在しており決して大きくはないが小さくもないギルドだった。
「お、キョウカ!ナズナ!こんな所で何してるんだ?」
「あ、ライヤ。ちょっと休憩中」
「お兄様も何かお飲みになりますか?」
キョウカとナズナが座るテーブルにはオレンジジュースと水が置いてある。ライヤは少し悩んだ後「いや、いいや」と言って席に座る。ギルドの従業員の女性が何も頼まずに席に座るライヤを軽く睨んでいるがライヤは気づいていないのか無視しているのかくつろぎ始めた。その手には何も持っていなかったがもう買ってきた物は全て収納の指輪に入っているのだろう。収納の指輪は収納した物を収納した状態で取り出す事が出来るので食べ物が腐ったりする事はない。実に便利な指輪だ。
「それで、情報収集はどうだった?」
「マキセの街に入った者は外に出られない。それは分かったけどそれ以外は全く情報なし」
「外に出られない?そんな風にする指輪に心当たりあるか?」
「その話は魔導車で。今はもうここを出よう」
冒険者は情報にめざとい。儲け話や強力な指輪の話を聞かれたら最後死ぬまで追ってくる冒険者も珍しくはない。そんな冒険者がうじゃうじゃと集まるここは情報を話す場所として最悪だ。
「分かった。そんじゃあ情報を聞いたら直ぐに向かおう。マキセの街に」
三人はオレンジジュース代だけ支払ってギルドを出た。
◇
「指輪、か。まさかな」
ライヤが立ち去った席の直ぐ近くに座っていた男は小さく呟く。
「だが、調べる価値はあるか」
その男は筋肉質で巨大な体を動かしてギルドの外へ出て行った。
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