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2章 冒険の仲間
16話 平和?な宿屋
しおりを挟む「すげー!」
村一番の宿屋を貸してもらうことになったライヤ達はその宿屋の大きさに目を輝かせた。
「さっさと入ろう」
「そうですよお兄様。外観を見るより中を見る方が楽しいです!」
ライヤは先に行った二人を追って宿屋に入る。そこにはシオンと数人のゾンビから逃れられた村人が和服を着て「いらっしゃいませ」と頭を同時に下げた。
「急なので歓迎の準備がまだ出来てないのが申し訳ないのですが、準備の間大浴場をお楽しみ下さい」
「だいよくじょう?」
頭を上げたシオンの言葉にナズナはキョトンとして言葉を返す。
「大きな水浴び場みたいな所だよ。一緒に入ろうねナズナちゃん」
「はい!お姉様とだいよくじょう、楽しみです!」
案内されるがままに大浴場へ向かい中へ入る。
「おおー!こりゃまた絶景だな」
そこは岩の真ん中に大きな穴が空いており、その中に温泉のお湯が入っていた。
「そっちはどうだー?どんな感じー?」
「多分同じなんじゃない?大きな声出さないでよ」
ライヤが女湯の方に叫ぶとキョウカの辛辣な答えが帰ってきた。
「だって俺一人で寂しいんだよ」
「お兄様が寂しいなら私が一緒にお入りしますよ」
「ダメだよナズナちゃん!男は獣なんだよ!!」
酷い言われ様だ。ナズナとお風呂に入った所でナズナに欲情などしない。妹の様な存在だから。まあ、キョウカなら分からないが。
「お湯に入っちゃダメなんですか?」
「その前に体を洗うの。洗ってあげるから」
「ひゃう!お姉様。く、くすぐったいです」
「我慢我慢。頑張ってー」
客が三人しかいないからかキョウカとナズナの声が男湯にもバッチリ聞こえてくる。なんだかその会話を聞いているライヤは気恥ずかしさを覚えてさっと体を洗い湯船に入ると過去最速と言えるスピードで湯船を出た。
「ふぅ。いい湯だった」
「気持ちよかったですぅ」
二人が大浴場から上がるとその服装は和服へと変わっていた。
「おお、二人とも似合うな」
先に大浴場から上がっていたライヤは座っていたベンチから立ち上がるとそう言った。
「えへへ。そうですか?可愛いですか?」
「おう!可愛いぞ!」
「お姉様は?」
突然キョウカの服装の事を聞いてきてライヤはキョウカを見た。
「キョウカも、か、可愛いと思うぞ」
ナズナとは違い顔を赤らめてライヤが答える。服装が違うだけでなんだか凄く可愛いというのが恥ずかしかった。いつも見ているキョウカとは全く違う様な感覚さえあった。
「あんたに可愛いって言われても嬉しくないね」
訂正しよう。どうやらライヤの勘違いだった様だ。この子はしっかりキョウカだ。
「それより風呂出たら飯だってよ」
「ご飯!」
「楽しみです!」
小さな食事所で出てくる豪華とまでは言わないが精一杯のおもてなしの料理に三人は食らいついた。
「おおー!ベットでけー!!」
「凄いです!これベットでゴロゴロ出来ますよ!」
食事の後に部屋に案内された。勿論女部屋とライヤ一人の部屋で二つだ。しかしライヤは場所だけ確認するとすぐ女部屋に来ていた。そしてライヤとナズナがはしゃいでベットに飛び込む。そして一緒に転がり出した。
「なにやってんの。というかライヤ!そこ私が寝るベットなんだから転がるな!」
ベットは二つあるわけではなく大きなベットが一つ。いわゆるダブルベットというやつだ。
「いいじゃねーかよちょっとくらい」
「ダメ!」
強い口調で止められたのでライヤは少し残念そうにしながらベットから降りる。
「えー。もっとお兄様とゴロゴロしたかったです」
「じゃあ俺の部屋でゴロゴロするか」
「はい!」
「だから男は獣なんだってば!私襲われそうになったんだから!」
キョウカの言葉にライヤは慌ててナズナの誤解を解こうとするがナズナは何故か笑顔だった。
「皆さませっかくなのでみんなで枕投げ大会しませんか?宿屋の仕事って何すればいいのか分かんなくて」
そんな時シオンが部屋に入ってきた。元々この宿屋で料理を作ってくれていた人達は宿屋で働いていた訳ではない。偶然ゾンビから逃れただけの人だ。
「枕投げ大会!いいな!やろう!」
「私はパス。面倒くさいし」
「なくらなげ?それはなんですか?」
ライヤがシオンの持っていた枕を掴むとキョウカに向けて投げた。
「ぶっ!」
「こうやって枕を投げて戦うんだよ」
「なるほど!でもお兄様。これは」
ナズナが恐る恐るキョウカを見るのでライヤも察した。どうやら怒っていらっしゃる様です。
「ライヤァァ」
「逃げろナズナ!枕投げスタートだ!」
「待てぇぇ!!」
宿屋全体を使った枕投げ大会は物凄い盛り上がりを見せた。ナズナが眠たそうという理由で決着したが優勝したのはキョウカだった。ボイスでどこに人がいるのか確認していた様だ。本気すぎる。
◇
「んぁ。なんだ?」
夜。ライヤの部屋の扉から音がした。
「ふぁい。何?」
寝ぼけていたライヤはその音をノックだと勘違いして扉を開けた。
「がァァァァァ!!」
「わぁぁぁ!!?」
扉が開いた瞬間に廊下にいた三体のゾンビはライヤの方を振り返り襲いかかってきた。
「イナズマぁぁ!!?」
ライヤは咄嗟に雷鳴の指輪を発動させるとゾンビの足にイナズマが走った。
「ああぁ?」
足が痺れて動かないのでゾンビが倒れ込むが痛みを感じないからか不思議そうにして、這ってライヤの元へ。
「冗談じゃねぇー!」
勿論捕まりはせず部屋から脱出。そして迷わずキョウカとナズナの部屋へ。
「二人とも無事か!!」
勢いよく扉を開くと部屋の中には二人のゾンビがいた。
「う、嘘だろ。キョウカ、ナズナ!」
四人のゾンビがいた。そこにはゾンビの体をしたキョウカとナズナがいた。
「ガァァ」
膝から崩れ落ちたライヤに二体のゾンビが迫ってくる。そして。
「馬鹿ライヤ!さっさと電気流せ!!」
キョウカのその言葉にライヤがはっとして自分に触れようとするゾンビを感電させた。
「はぁ、はぁ。え?キョウカ?」
「驚かせてしまってすみません。私達にはお兄様の様にゾンビと戦うのは無理だったので変化の指輪でゾンビの姿に」
「シオンを見ててゾンビの姿ならあいつらは仲間だと認めるのは分かってたからね」
二人が変化の指輪の効果を解除して元の姿に戻るのを確認するとライヤは体の力がドッと抜けた。
「よ。よかったぁぁ」
「全く。そう簡単に私達がやられる訳ないでしょ」
「そうだな。それよりシオン達は大丈夫なのか?」
それだけ言って二人がここにいる時点でシオン達の安否は分からない事を理解した。
「そういう事。それじゃ助けに行こうか」
キョウカがそういうとナズナが指輪を光らせ再度ゾンビの姿になる。今度はライヤもゾンビとなっている。
「おお。凄え」
「感動してないで行くよ!」
キョウカは床で動こうとしているゾンビを無視して部屋の外へ出る。見向きもしない所が本当に凄いと思う。
「多分従業員の部屋みたいなのがあるよな?」
「いや、シオン達は従業員じゃない。従業員部屋にいるかも知れないけど、いなくてもおかしくはないよ」
「じゃあどうします?手分けして探しますか?」
ナズナの提案は正しいと思う。しかしキョウカにはゾンビを止められる能力がない。
「うし。じゃあ二手に別れよう。俺、キョウカとナズナだ。俺は従業員部屋へ行く」
「悔しいけど賛成。一時間探して見つからなかったら宿屋の入り口集合ね」
キョウカの言葉に頷くとライヤは従業員部屋へと走る。そこで。ゾンビ化しているシオンと料理を用意してくれた村人達を発見した。
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