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ノーカラテ・ノーウィッチ
しおりを挟む涼子とエレオノーレが互いの顔に渾身の一撃とも言える拳を一発ブチ込んだ後。
2人はお互いに拳を引っ込めると同時。
退く事無く、お互いに相手の顔を目掛けて殴り合う。
互いに常人であれば、頭を粉砕する一撃を延々と打ち合い続ける。
防御なんてしない。
退いたら負け。
そう言わんばかりに2人は躊躇いも容赦も無く、お互いの顔にソニックブームを発生させる剛拳をブチ込み合い続ける。
延々と殴り合ってる間。
激痛と共に頭蓋骨が砕け、鼻を圧し折り、歯が折れたりもした。
だが、互いに魔力を再生に注ぎ込んで砕けた頭蓋骨や歯を治癒させていく。
そんな、魔女にあるまじき野蛮な殴り合いは続いた。
すると、再び最初の一撃の時と同じ様にお互いの顔に拳をめり込んだ。
今まで防御を一切せずに剛拳の乱打をし、退かずに居た2人は突如、後ろに跳んで退いた。
お互いに距離を取ると、顔のダメージを治癒させながら語り合う。
「やはり、ムカつく相手の顔を殴る方が良いな」
「意見が一致するわね」
ダメージを再生させ、痣すらも残らぬ程に治癒させた2人は互いに嗤って居た。
一撃一撃が死に至る剛拳を打ち合った事に満足したのか?
涼子は笑顔と共にエレオノーレに語り掛ける。
「私が腑抜けて間も鍛錬続けてたのね。最後に戦った時より滅茶苦茶痛ぇわ」
涼子がエレオノーレを称賛する様に言えば、エレオノーレは少しだけ不満そうに言う。
「腑抜けた生を何十年も過ごしていた弊害だな。貴様の拳は軽いぞ」
最後にやり合った時に比べ、弱くなった。
そう告げられた涼子は事実を受け入れる。
「そうね。だから、貴女と決着付ける時までに直しておく」
「そうしろ。さもなければ、私が満足出来ん」
互いに語り合うと共に呼吸を整えると、改めて身構えて睨み合う。
お互いに隙を捜しながら、徐々に徐々に地面を擦る様に近付いていく。
程無くして、2人は互いに自身の間合いに入った。
だが、未だぶつかろうとはしない。
それは、互いに隙を見付けられなかったからに他ならない。
睨み合いが続く中。
エレオノーレが動いた。
左の拳が涼子の顔を貫かんと、目にも留まらぬ速度で打ち込まれようとする。
すると、涼子は右の肘を突き出し、エレオノーレの左拳を砕いた。
左拳を涼子の肘で砕かれたエレオノーレであったが、気にする事は無かった。
そんなエレオノーレの右拳が涼子の顔を捉えようとする。
涼子が迫る右拳に気を取られ、隙を産んでしまった。
そうして、隙を創り出す事に成功すれば、エレオノーレは涼子の腹へ魔力をタップリと込めた右脚で蹴りを入れる。
「ガハッ!?」
エレオノーレの渾身の一撃とも言える前蹴りを喰らい、涼子は激痛と共に10メートルほど飛んでいった。
そんな派手に蹴り飛ばされた涼子を見ると、エレオノーレは舌打ちと共に不満を露わにする。
「チッ! 浅かったか」
傍から見れば、エレオノーレの渾身の一撃とも言える蹴りは見事に成功している様に見えた。
だが、蹴りを受けた涼子は何事も無かったかの様に立ち上がり、無事な姿をエレオノーレに見せながら言う。
「危なかったぁ……喰らう寸前で後ろに跳んで無かったら、内臓破裂してたわ」
蹴りを喰らう寸前の刹那。
涼子は歯を食いしばりながら後ろに跳んだ。
そうして、エレオノーレの蹴りによるダメージを最小限に抑えた後。
地面に倒れた際に完璧な受け身を取れば、涼子へのダメージは無きに等しかった。
だが、それでも……
「それでも滅茶苦茶痛いわ」
痛みはある。
それも激痛と言える程に。
エレオノーレは涼子の肘で砕かれた左手を治癒させると、左手を何度も握っては広げる動作を繰り返しながら言う。
「なら、少しは痛がれ」
「アンタこそ、左手を砕かれたんだから痛そうにしなさいよ」
減らず口を叩く涼子は悠然と戦いの場へ歩みを進める。
そうして、涼子が舞台に戻るとエレオノーレは問う。
「ティアから聴いたぞ。貴様、あのクソアマと殺し合うそうだな?」
エレオノーレの問いに涼子は答える。
「直接殺し合う訳じゃないんだけどね……成り行きで師匠を殺す手伝いをする羽目になった」
「成り行きで奴を殺す手伝いとはな……酷い成り行きもあるものだ」
涼子を同情する様にエレオノーレが言えば、涼子は隙を窺いながら答える。
「でも、滅茶苦茶面白そうな仕事でもあるのも事実なのよね」
「貴様ぐらいだぞ。あの女に嬉々として挑もうとするのは……で?見込みはあるのか?」
「え?無いわよ。そんなの」
当たり前の様に答えた涼子にエレオノーレは呆れてしまう。
「勝てる見込みが無いのに受けたのか?」
「仕方ないでしょ?拒否ったら面倒臭い事になるんだから……」
そう返すと、エレオノーレは突如として構えを解いた。
エレオノーレが突然、戦いを辞めた事に首を傾げる涼子は問う。
「何のつもり?」
涼子の問いにエレオノーレは答える。
「興が削がれた。不愉快だが、私の負けで構わん」
勝ちを譲られた事に涼子は少しばかり不愉快そうにしながら問う。
「同情のつもり?」
確かにエレオノーレの一撃を難なく躱しはした。
だが、今のエレオノーレに勝てるか?
そう問われれば、難しい。
それを素直に認める程に涼子は、今の自分が弱い事を自覚していた。
だからこそ、涼子は不愉快そうに問うた。
そんな涼子へエレオノーレは本心から答える。
「勘違いするな。貴様に同情する程、私は優しくもなければ、御人好しでも無い」
「なら何で?」
「確かに貴様とは決着を着けたい。だが、今のお前には私よりも優先すべき事がある。私は何のしがらみも無い貴様と満足のいく決着を着けたい……それだけだ」
エレオノーレの言葉が意味する事を理解したのだろう。
涼子は感謝した。
「少し腹立つけど、ありがとう」
「礼なら要らん。それより、モラを捜すそうだな」
モラの居場所を知ってるのか?
エレオノーレは告げる。
「奴は今、聖王教会に捕まってる」
エレオノーレから告げられた事実は涼子を驚かせるには充分過ぎた。
「はぁ?アイツが教会のボンクラに捕まってる?何が起きたのよ?」
「詳しい事は私も知らん。だが、奴は10年前に聖王教会に捕らえられ、"墓地"の奥底に封印されてる」
涼子の疑問にそう答えたエレオノーレは困惑してしまう。
「教会のボンクラがアイツを無力化して封印に成功した?流石にありえないわ」
モラの事を知る涼子にすれば、訳が解らなかった。
「アイツは上手く世渡りするし、暴力も私ほどじゃないとは言え、教会のボンクラ共が勝てる弱さじゃないわよ?」
「しかし、奴が"墓地"の奥深くで封印されているのは事実だ」
エレオノーレからモラの現況を聞けば、涼子は面倒臭くなった。
そう言わんばかりに大きな溜息を漏らしてしまう。
「そうなると、私の仕事の為にアイツを引っ張り出す必要がある訳ね……"墓地"に居るのは間違い無いの?」
「あぁ。微かだが、奴の気配があった」
エレオノーレに確認した涼子はエレオノーレにお願いする。
「ティアに伝えて。モラは私が引っ張り出すから、貴女は手を引けって……」
「良いのか?」
「流石に優しいティアに監獄破りさせるのは気が引けるわ。だったら、悪名高い私がやる方が良いでしょ?」
さも当然の様に言えば、エレオノーレは志願する。
「ならば、私も手を貸そう」
突然の志願に涼子はまた困惑した。
「何でさ?」
「確かに私はお前の事が嫌いだ。だが、教会のロクデナシ共はもっと嫌いだ。そんな連中に嫌がらせ出来るのなら、手を貸さない理由が無い」
エレオノーレが理由を答えれば、涼子は考える。
ある意味で最高の戦力が味方になるんなら、利用しない手は無い。
だったら……
「なら、約束して私の指示に従って」
涼子は犬猿の仲であるエレオノーレを使う事を選んだ。
そんな涼子にエレオノーレは承諾する。
「少し不愉快だが良いだろう。悪巧みは貴様の方が得意だからな」
自分の手で殺したい程度に犬猿の仲である涼子を嫌うエレオノーレであるが、涼子の実力を認めてる。
だからこそ、涼子の指揮下に入る事を承諾する。
「褒めてるの?」
「事実を言ったまでだ」
「ありがと。じゃ、計画実行までは大人しくしといて……教会の連中には暫くの間、良い想いをさせる様で不愉快だろうけど」
「良いだろう。暫くは大人しくしてやる」
「後、私の仲間を一人呼ぶわよ。流石に封印を解いてる間は無防備にならざる獲ないから」
涼子が仲間を呼ぶ。
そう告げると、エレオノーレは確認する様に問う。
「ソイツは使えるのか?」
「この世界の遠い未来で師匠に気に入られる程度にはね」
「なら、問題無いな」
エレオノーレが納得すると共に親友を脱獄させる為の話を涼子は御開にした。
その後。
エレオノーレと別れた涼子は自室に戻った。
何事も無かったかの様に自室へ戻ると、机の上から魔力を感じた。
机の上を見ると、其処には紅いダイヤモンドと資料の束が、書き置きと共に置かれていた。
書き置きを見ると、見慣れた筆跡で……
『それが例の指輪と対となる魔石よ。隠してあった場所には私特製の贋作を置いたから、利用した瞬間に愉快な結果が残るわ。それから、モラを助けたいみたいだから、モラを助ける為に必要な資料を約束通り用意した。礼は要らない』
師たる魔女。
ハミュツからの贈り物は悪魔の王たるルシファーが追い求め続ける件の紅いダイヤモンド。
それと、モラが奥底に封印されている棺桶と魔女達から呼ばれる監獄に関する資料であった。
涼子は「やっぱ師匠には敵わないなぁ」とボヤくと、紅いダイヤモンドを手に取って眺めていく。
一頻り眺めると、涼子は呆れ混じりにボヤいた。
「うわぁ……コレは悪魔の王が血眼になる訳だわ」
指輪の対となる紅いダイヤモンドはルシファーが本気で処分を願うには充分過ぎる力を持っていた。
「全ての悪魔を何の制限も無く下僕として使役出来る力を持ってるとか、悪魔の王にすれば洒落にならない存在ね」
全ての悪魔達を何の対価も無く下僕として使役出来る。
それは全ての悪魔達にすれば、最悪の力。
悪魔達が握れば、悪魔の王になれる。
過激な天使達の何れかが手にすれば、悪魔達を根絶出来る。
そして、人が握れば圧倒的な力を元に碌でもない事が出来る。
そんな紅いダイヤモンドを眺めていると、スマートフォンが素っ気ない電子音を鳴り響かせる。
スマートフォンを手に取り、電話に出ると相手が尋ねて来た。
「私からの贈り物はどうかしら?」
電話の主。
師たる魔女のハミュツから尋ねられれば、涼子は称賛せざる得なかった。
「流石と言わざる得ませんよ。所で、貴女がすり替えた贋作はどんな効果があるんです?」
涼子からすり替えた贋作の効果を問われれば、ハミュツは答える。
「力を使おうとした瞬間。呪いが周囲に広がり、苦痛と共に身体を蝕み続ける程度の優しいモノよ」
ハミュツから贋作を使った時の効果を聞けば、涼子は珍しそうに問うてしまう。
「それだけですか?」
涼子はハミュツを知るからこそ、その程度では済まない。
そう確信していた。
そんな涼子にハミュツは優しく答える。
「最終的には全身が苦痛と共に生きたまま腐り落ちて死ぬわ。私は優しいから、死を許してあげるの……苦痛から、ほんの一時も解放されぬまま永遠に苦しませる方が好きだけどね」
優しくも惨たらしい仕打ちをしたかった。
そう宣う師に涼子は呆れながらも必要な確認をする。
「"墓地"に関する資料は間違い無いんですか?」
その問いにハミュツは正直に答えた。
「無いわよ。内容は全て事実……教会の連中はモラの持つ膨大な知識を獲る為に捕らえた。でも、モラは頑なに口を噤み続け、捕らえられる間際に彼女は彼女の持つ膨大な資料を全て灰にした」
モラが捕らえられた理由等も交えて答えれば、涼子は更に問う。
「どうやって捕まえたんです?」
だが、ハミュツが答える事は無かった。
「それは本人に直接聴くと良いわ。それより、ソロモン王って誰か解るかしら?」
突然、唐突にハミュツからソロモン王が誰なのか?
問われた涼子は訝しみながらも自分の知る範囲内で答える。
「私の世界の古代に於いて、イスラエルの王をしていた人物ですよ。当時の古代イスラエルを最も発展させた偉大なる王と目されると同時、堕落した王とも言われてます」
涼子がソロモン王に関して答えれば、ハミュツは更に尋ねる。
「その王様、悪魔を使役していた逸話もあるかしら?」
「えぇ、ありますよ。その時、使役したとされる悪魔達はソロモン72柱と呼ば……」
答えながら、ある事に気付いた涼子は言葉を留めてしまった。
そんな涼子にハミュツは告げる。
「あの紅い魔石。そのソロモン王と関係する品物らしいのよね」
ハミュツの言葉に涼子は言葉を失ってしまう。
「マジか……」
絞り出す様に言えば、ハミュツは愉快そうに「私は約束を守って手付金を支払った。次は貴女が約束を守る番よ。愉しみにしてるわね」と言い残すと、一方的に電話を切った。
涼子はスマートフォンを置くと、ハミュツの贈り物である"墓地"に関する資料に目を通していくのであった。
後書き
殴り合いや殺し合いをする程度に互いを嫌ってるけど、互いに互いを認め合ってる喧嘩ップルな百合って良いよな(曇り無き眼で
取り敢えず、魔女の中には格闘等の近接戦闘が苦手な人も居るのも事実
でも、懐にもぐり込まれてしまった時の備えを用意してる魔女が居るのも事実
なので、魔女の死線を潜り抜けて懐に潜り込めた!
後はゴリ押しすれば勝てる!!
そう思った矢先、逆に殴り殺されたとか、逆に斬り殺されたとかもあったりする←
涼子の場合は更に色んな手札を隠し持ってるから討伐の難易度が実質不可能に近かったりする
勿論、エレオノーレも同様に討伐の難易度が実質不可能レベルよ
因みにティエリアは2人と比べて善良で穏健派だから危険度は低く、討伐の対象にはなってない。
でも、喧嘩を売られたら全力で買って相手を叩き潰すくらいには容赦無いし、嘗められたら殺すタイプなのは2人と変わらない
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