現代に帰還した"元"邪悪な魔女は平穏に暮らしたいけど、駄目そうなので周到に準備して立ち回りながら無双します

忘八

文字の大きさ
上 下
13 / 95

狗となった魔女は飼い主の真意を振り返り、次の狩りの支度をする

しおりを挟む

 慣れた手付きでブローニングハイパワーの分解は直ぐに終わらせると、涼子は黙々と静かに火薬煤で汚れた各部品をガンオイルを着けたブラシで磨いていく。
 黙々と磨くと共に点検する間。
 涼子は天照大御神に自分自身を売った後。
 別れ際にした会話を振り返っていた。
 それは40分ほど前。
 自分が居た地元の神社まで遡る。

 「私は正直な所、人の子が幾多死のうが別に構わないのだ。人は誰しも死に、また産まれるのだ。百万が一度に死んでも私は正直どうでも良い。それは私に限らず同胞はらから達も同様だ」

 天照大御神の言葉に涼子は何も思わなかった。
 だが、それなら何故に自分にキマイラ達の始末をさせたのか?
 そんな疑問が有った。
 涼子の疑問を察したのだろう。
 天照大御神は答える。

 「この地はとと様とかか様の産み落とした大地だからだ」

 要約するなら、父親と母親の産み落とした大地の為。
 そう答えた天照大御神の真意を理解した涼子は、自分が理解した天照大御神の真意が正しいのか?
 確認する為に尋ねる。

 「つまり、あの呪物がこの大地……日本列島を大いに穢す元凶となるが故に呪物を解除する事こそ、貴女が真に求めた仕事。下手人達は地獄に落とせたら御の字……そんな所ですか?」

 涼子の仮説を聞いた天照大御神は笑みを見せて肯定した。

 「そうだ。とと様とかか様の大地を穢さんとする事を防ぐ。それこそが偉大なる父たる伊弉諾いざなぎと母たる伊弉冉いざなみの子たる我等が最上の望みなのだよ」

 天照大御神が数多の日本の神々を代表して答えれば、涼子はもう1つの疑問をぶつける。

 「それが私を狗として迎え入れる事とどう繋がるんですか?」

 「今の人の子達退魔師等では今回の様な未曾有の穢れを防ぐ事が出来なかった。貴様という異分子が此度の騒動に首を突っ込まなければ、この地は穢れに満ち溢れていたのは貴様も理解しているな?」

 どうやら天照大御神は退魔師達の出来の悪さに御冠おかんむりで大層不満の様であった。
 そんな失望を露わにする天照大御神。
 そんな大神の言葉を確認する様に涼子は尋ねる。

 「つまり、役立たず達に期待するのを辞めて、私の様な極悪人を重用する。そう言う事ですか?」

 「そう捉えてくれて構わん」

 アッサリと肯定する天照大御神に涼子は敢えて失礼を承知で言う。

 「普通はそんな大それたバカをやる奴が居るなんて思いませんよ」

 100万の人間を生贄に捧げて自分達の不老不死を画策する者が存在するなんて思わない。
 何なら、そんな大それたバカを考える事すらしない。
 その上、陽動で多数の被害者が出ている。
 被害者が数多く居る以上。
 例え、陽動と解っていてたとしても下手人を最優先で捜索する方に人員を割かざるを得ない。
 陽動する下手人を確保。
 その後、尋問して首謀者達の事を吐かせてから首謀者達を確保しに行く方が一般的に考えるならば効率的なのだ。
 だが、天照大御神は涼子がやって退けた事を出して反論する。

 「それならば何故、貴様風に言うならばこの世界のオカルトやファンタジーに関して何も知らぬ貴様は僅かな手掛かりとも言える要素から全てを見通し、最上とも言える結果を我等に叩き付けて見せる事が出来た。それなのに連中は何故出来ない?」

 たった独りの小娘に出来て、組織的に活動する退魔師達が出来なかった。
 それを責め立てる様に憤慨しながら言う天照大御神に涼子は正直に答える。

 「私は適当に当たりを付けて確認したら大当たりを引いただけです。強いて言うなら、偶々のまぐれ当たりって奴ですよ」

 「確かに貴様の言う通りなのだろう。だが、それを差し引いても連中は術者同士で内輪揉めをし、自分達の祖が残した負債に対する生贄の押し付け合いをしている」

 退魔師達の酷い体たらくに益々憤慨する天照大御神に対し、何処か人間味を感じながら涼子はキッパリと無礼を承知で告げる。

 「これ以上、延々と愚痴聞かされるなら帰って良いですか?」

 「ゴホン……すまんな。貴様には関係な……否、

 関係ある。
 そう告げた天照大御神に涼子は首を傾げると、天照大御神は簡潔明瞭に仕事の内容を告げる。

 「無能な退魔師達に変わって連中の祖が残した負債を貴様が処理しろ」

 「さっきまでの憤慨ぶりや先程の人の子の死云々を振り返りますと貴女には取るに足らない問題で、処理しなければならない理由が見当たりませんが?」

 当然の疑問をぶつければ、天照大御神は説明する。

 「陰と陽。その均衡が保たれる事で世界は維持される。無論、混沌に見えるこの地でもそれは変わらない」

 その説明を聞いた涼子は具体的な内容が何なのか?
 尋ねる。

 「つまり、陰と陽のバランスを保つ為に退魔師達の祖先が残した大きな負債とやらを処理しろ……そう言う事ですか?」

 涼子の確認に天照大御神は肯定する。

 「そう言う事だ」

 「では、そのくだんの負債に関する詳細な情報を下さい。予定が空いたら始末しますので」

 「あぁ、具体的な詳細は後日送らせよう。だが、悠長にしていられる時間は無いぞ」

 天照大御神の時間が無い。
 その言葉に涼子はプロの稼業人の如く確認する。

 「タイムリミットは?」

 「無能な退魔師共は1週間後に生贄となる巫女を選定し、その翌日に負債たる九尾へ生贄を捧げる」

 今日から1週間とプラス1日。
 具体的なタイムリミットを確認した涼子は「解りました。それまでに処理します」そう言い残して去ろうとする。
 だが、天照大御神はさらなる懸念事項を告げた。

 「生贄の儀当日。九尾は愚かにも百鬼夜行を実行し、人の子等が集う街へ繰り出そうとしている」

 「なら、そいつ等も始末皆殺しにします」

 そして、今現在に戻る。

 分解清掃と動作点検を終えたばかりのブローニングハイパワーを眺める涼子は、天照大御神から下された任務の依頼を改めて確認する。

 退魔師達の負債である九尾が百鬼夜行を画策している。
 私はその前に連中を粉砕し、日本に穢れが満ち溢れて陰と陽のバランスが崩れる事を未然に防ぐのが具体的な任務内容。
 何ら難しく考える必要は無い。

 「いつもの様に皆殺しにして終わり。それで"なべて世は事もなし"……まるで、私ってBOのフランク・ウッズやジェイソン・ハドソンね」

 無辜の人々は誰も知らぬ。
 寧ろ、知らなくて良い。
 人々が暴力を放棄して平和を享受し、平和を語れるのは人知れず暴力を肩代わりする者が居るからだ。
 自衛隊や警察が良い例だ。
 涼子の役目はそれと同じだ。
 違う点は霊的、魔術的な問題を専任する事。
 それと、無辜の人々を護る為でない事。
 そして、陰と陽のバランスを取る為だけに投入される事。
 この3点ぐらいだろう。
 そんな大役を任された涼子はブローニングハイパワーを目の前に置くと、小さな溜息を漏らしてボヤく。

 「ハァァ……些か早まったかしら?でも、この件も解決しないとお母さんとお父さん。美嘉に明日香達や無数の人々にも被害が及ぶのも事実。だったら、私が手を汚す方が結果的に被害が最小限になるんだから良いのかな?」

 残念な事に自分にはそれだけの力が有る。
 その上、他に処理する者も居ない。
 そんな状況に涼子はミリタリーと同じ様に好きな映画の台詞を交えて誰に言うまでもなくボヤく。

 「ジョン・マクレーンの台詞じゃないけど、ヒーローの役を変わってくれる奴が居たら喜んで変わってあげるわよ」

 涼子が心の底から望んでいたのは平和で平穏な生活であって、物語のヒーローの様な状況じゃない。
 だからこそ、嘆く様にボヤいた。
 しかし、嘆いてもボヤいても状況は好転する訳ではないのが現実。
 それ故に涼子は部屋へ戦闘装束と武器の詰まったトランクを取りに戻った。
 涼子はトランクを手に工房にまた戻れば、トランクの蓋を開けて次の狩りの支度を渋々ながらもしっかりと進めるのであった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~

みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】 事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。 神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。 作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。 「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。 ※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 のんびり、マイペース、気まぐれ。一緒にいると気が抜けるけど超絶イケメン。  俺は桜井渚。高校二年生。趣味は寝ることと読書。夏の海で溺れた幼い弟を助けて死にました。終わったなーと思ったけど目が覚めたらなんか見知らぬ土地にいた。土地?というか水中。あの有名な異世界転生したんだって。ラッキーだね。俺は精霊王に生まれ変わった。  めんどくさいことに精霊王って結構すごい立場らしいんだよね。だけどそんなの関係ない。俺は気まぐれに生きるよ。精霊の一生は長い。だから好きなだけのんびりできるはずだよね。……そのはずだったのになー。  のんびり、マイペース、気まぐれ。ついでに面倒くさがりだけど、心根は優しく仲間思い。これは前世の知識と容姿、性格を引き継いで相変わらずのんびりライフを送ろうとするも、様々なことに巻き込まれて忙しい人生を送ることになる一人の最強な精霊王の物語。 ※誤字脱字などありましたら報告してくださると助かります! ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

【完結】烏公爵の後妻〜旦那様は亡き前妻を想い、一生喪に服すらしい〜

七瀬菜々
恋愛
------ウィンターソン公爵の元に嫁ぎなさい。 ある日突然、兄がそう言った。 魔力がなく魔術師にもなれなければ、女というだけで父と同じ医者にもなれないシャロンは『自分にできることは家のためになる結婚をすること』と、日々婚活を頑張っていた。 しかし、表情を作ることが苦手な彼女の婚活はそううまくいくはずも無く…。 そろそろ諦めて修道院にで入ろうかと思っていた矢先、突然にウィンターソン公爵との縁談が持ち上がる。 ウィンターソン公爵といえば、亡き妻エミリアのことが忘れられず、5年間ずっと喪に服したままで有名な男だ。 前妻を今でも愛している公爵は、シャロンに対して予め『自分に愛されないことを受け入れろ』という誓約書を書かせるほどに徹底していた。 これはそんなウィンターソン公爵の後妻シャロンの愛されないはずの結婚の物語である。 ※基本的にちょっと残念な夫婦のお話です

処理中です...