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斯くして魔女は大事な家族を守りたいが為に敢えて狗となる

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 話している間に冷めてしまったミックスグリルと大ライスを食べ終えた。
 デザートとしてティラミスクラシコとトリフアイスクリームも食べ終えた。
 食後に温かいカプチーノとエスプレッソを飲んで食休みもした涼子は会計を済ませ、サイゼリヤを後にしていた。
 トランクを手に夜の歩道をノンビリと歩いて駅に着いた涼子は駅の入口である階段を登る間際。
 後ろを振り返ると、再び前を向いて階段を登っていく。

 なーんで、人じゃない奴の気配がするのかしら?

 振り向いた際に感じた人とは異なる気配。
 それに勘付いた涼子は小さな溜息を漏らしてしまう。
 涼子は階段を登りながらスマートフォンを取り出すと、電話帳に登録したばかりの番号をタップして電話する。
 電話帳に追加されたばかりの人物は、直ぐに出てくれた。

 「どうした?」

 「タケさん、タケさんのお姉様の敷地で暴力振るうのって不味い?」

 その問いだけでタケさんは察した。
 それから、涼子の要請を直ぐに承諾してもくれた。

 「姉貴には俺から言っとくし、狭霧にも話しとくから安心しろ。後、連中が誰だろうと殺しても構わねぇ……寧ろ、殺してくれると助かる」

 涼子の予想と違ったタケさんの要求であった。
 それ故、涼子は思わず尋ねてしまう。

 「え?良いの?」

 「生け捕りだと色々とお話を聞かなきゃいけなかったりで七面倒臭い。それだったら、ブッ殺して死体を相手に引き渡す方が楽だし、ウチで嘗めた真似したらこうなるぞ。っていう警告にもなる」

 タケさんから容赦無く殺す理由を告げられた。
 理解して納得した涼子は、チェンから自分の手に渡ったブツに関してどうするべきか?
 尋ねる。

 「殺るのは了解しました。あ、タケさん……戦友から兄弟が欲してると思われる品を渡されたんですけど、どうします?」

 兄弟……そのキーワードで意味する事を察したタケさんは告げる。

 「ウチで回収して姉貴の取引材料にしても良いんだが……一応、姉貴に御伺い立てないと不味いよな?」

 「報告、連絡、相談は大事ですからね。私が勝手にやった事にして処分しても良いですけど?」

 然りげ無く自分で処分する事を涼子が伝える。
 しかし、タケさんは困った様に答えた。

 「俺個人としてはそれで構わねぇんだけどよ……やっぱ、姉貴に確認してからじゃねぇと不味いだろうからお前さんが保管してくれると助かる」

 タケさんから現状維持が通達されると、涼子はボヤく様に言う。

 「私としてはこんな厄ネタ。さっさと処分したいんですけどね」

 「兎に角それで頼むわ。で、終わったら電話くれ」

 そう言い残してタケさんが電話を切って通話を終えると、涼子はスマートフォンをポケットにしまって階段を登っていく。
 階段を登り終えて改札を潜り、自宅のある駅へ向かう電車のホームへ向かった。
 その後、ベンチに座って静かに電車を待った。
 5分ほど待つと、電車がやって来た。
 沢山の仕事帰りだろう乗客達で溢れる電車。
 そんな満員電車に乗り込むと、トランクを手にしたまま吊り革に捕まる。
 電車の発進と共に車内で揺られながら駅に着くのを待った。
 途中で4駅に停車しながらも10分後に地元の駅に着いた。
 涼子は多数の乗客と共に電車から駅のホームに降り立つと、乗客達の流れに混じって歩みを進めていく。
 その後。
 改札を潜った涼子は駅を後にすると、自宅とは反対方向へ線路沿いに歩みを進めて行く。
 5分ほど歩みを進めた。
 目的である神社へと着いた。
 涼子は神社の鳥居を潜って真っ暗な境内に来ると、トランクを下ろした。
 それから、トランクの上にドカッと座った涼子は首のチョーカーを外した。
 そして、招かざる客が来るのを静かに待つ。
 少しすると、招かざる客が3人やって来た。
 黒のスーツにサングラスで服装が統制された3人の金髪の白人の男達は涼子に対し、要求を突き付ける。

 「貴様の持つ指輪を我々に渡せ。そうすれば、命だけは助けてやろう」

 その要求に対し、涼子は黙して語る事が無い。
 そう言わんばかりに沈黙で返すと、指をパチンと鳴らした。
 そう指パッチンだ。
 涼子が指を鳴らした瞬間。
 突如として3人の首が見えない刃で切断されたかの如くボトボトっと落ちた。
 地面に転がり、首の無い胴体は血飛沫を噴水の如く真上に上げながらドサドサっと倒れた。
 二度と動かなくなる。
 境内の地面を夥しい血で染め上げていく3つの首の無い死体を静かに眺める涼子は言う。

 「向こうで覚えて良かったレイルザイデンってね。やっぱ、異世界で魔法を覚えたらアニメとか漫画の魔法を再現したくなるのってあるあるだと思うのよね」

 魔法の元ネタは素直にぶっちゃければ、アニメにもなったとある漫画だ。
 レイルザイデンと呼ぶソレが実際に出来る様になった時。
 涼子は滅茶苦茶喜んだと同時に余りにも殺傷力が高いばかりか、相手を不意討ちする際に於いても非常に高いスペックを誇る事にドン引きもした。
 そして、ソレは見事に3人の招かざる客の首を容易く、何の前触れも無いまま撥ねる事に成功した。
 すると、首無し死体と化した3人が白い衣に身を包み、背には1対の白い羽根を生やした天使となる。
 様子を興味無さそうに眺める涼子が周囲を警戒していると、後ろから声を掛ける者が現れた。

 「貴様は容赦が無いな」

 立ち上がって後ろを振り返る。
 其処にはタケさんの姉上であられる天照大御神の姿があった。
 涼子が黙礼すると天照大御神は「固い挨拶はしなくていい」と、涼子の頭を上げさせてから要件を切り出す。

 「愚弟から聴いたが、例の指輪を持ってるそうだな?」

 天照大御神の問いに涼子は正直に答える。

 「はい。私が持っています」

 そう答えると共にポケットからチェンが渡したキマイラの指に嵌められていた金の指輪を見せる。
 正直に答えた涼子へ天照大御神は更に問う。

 「その指輪、お前ならこの世から消す事が出来る。そう愚弟から聴いたがまことか?」

 さらなる問いに対し、涼子は肯定する。
 同時に手にしている指輪を処分する赦しを乞うた。

 「はい。願わくば、処分する事をお赦し頂けると幸いです」

 涼子が赦しを乞うと、天照大御神は快諾してくれた。

 「よろしい。ならば、処分する事を私の名に於いて赦そう。処分が完了したら、先方には私の方から通達しておく」

 快諾すると共に責任を自分が持つ事を天照大御神から直々に伝えられた。
 涼子は感謝の言葉を告げる。

 「寛大なる措置。誠にありがとう御座います」

 「先方も内心ではその指輪がこの世から消えてくれ方が都合が良いという本音をヒシヒシと感じていただけの事だ。私が感謝される事ではない」

 そう告げると、指輪の件はこれで終わり。
 そう言わんばかりに天照大御神は別の話題を切り出した。

 「貴様の求めた対価に対してなんだが……」

 言い淀む天照大御神に涼子はハッキリと告げる。

 「あー、もしかして不老不死をってやつですか?」

 涼子がハッキリと告げた内容に天照大御神は肯定する。

 「そうだ。貴様の望みを叶えると同時、貴様は死ぬ。コレはそういう呪いであるが……どうする?私としては対価として解いても構わぬのだが?」

 「そう言う事でしたら、私が望んだ時に解呪する方向で御願い出来るでしょうか?」

 涼子の要件を天照大御神は受諾してくれた。

 「貴様がソレで良いというならば、私はそれでも構わん」

 「では、それで御願いします。あ、この死体はどうします?見た感じ、天使みたいですけど……」

 涼子がアッサリと殺した3人の天使の死体に関して尋ねれば、天照大御神は答える。

 「死体を先方に引き渡す以外する事は何も無い」

 「コレが理由で私に報復とか来たりしませんよね???」

 天使達からの報復を心配する涼子に天照大御神は意外そうな反応を示した。

 「貴様なら今の様に容易く対処するだろう?」

 涼子なら余程の存在が敵に回らない限りは大概の存在を今みたいに容易く縊り殺す事が出来る。
 それだけの力を涼子は持っている。
 だが、

 「私だけを狙うなら良いんです。だけど、私の両親や友人が私を殺す為の人質にされた場合は流石に対処するのが非常に難しくなります。それに、勝てない相手にとって大事な存在を狙うのは強い相手を殺す際のセオリーの1つですから……」

 人質を取るのは、強者を倒す為の手段として古来から存在する。
 それは今現在でも有効的な手段として、今も使われている。
 だからこそ、涼子はソレを警戒していた。
 そんな懸念に天照大御神は告げる。

 「ならば、私の指揮下に入るか?そうすれば、貴様の家族と親友を私の庇護下に置いても良いぞ?」

 悪魔との契約ならぬ。
 大神との契約だ。
 そんな天照大御神の提案に涼子は考える。

 私独りだけなら何とかなる。
 だけど、お母さんとお父さん達が巻き込まれたらそうはいかない。
 今回のコレが原因で私のせいでお母さんとお父さんが無残な最後を迎えてしまったら、私は悔やんでも悔いきれない。
 そうなるくらいなら……

 涼子は熟考の末に決断する。
 だが、その決断した答えを目の前に立つ大神に告げる前に確認する。

 「私が貴女の狗になった場合、私はどう言う立場となりますか?」

 「貴様は私個人の持つ現世に於ける外部戦力。謂わば、傭兵と言う奴になる。貴様の役目は今回の様な通常の退魔師達では対処が困難極まる事案が発生した際に於いて解決する事。この一点に尽きる」

 天照大御神の指揮下に入った場合の役目を告げられた涼子は更に問う。

 「その事案が発生するまでの間、私の自由は?」

 「当然ながら存在する。貴様は平穏な生活も願った。そして、それは私の名に於いて果たす事を私は確約した。そうである以上は事案が発生しない間、貴様が貴様の望む平穏な生活を過ごせる様にするのも雇用主である私の義務となる」

 「貴様にも解る様に人の子の理論を用いるならば」そう説明を締め括った天照大御神に涼子は不躾に給料の事を尋ねた。

 「因みにお給金は如何ほどです?」

 「厚かましいにも程があるぞ貴様……だが、タダ働きというのは良くないのも事実。事案が発生した際、それを解決する毎に50万。事案発生していない間は月に30万でどうだ?勿論、日ノ本の単位だ。無論、貴様の家族を私の庇護下に置く事も含まれてる」

 天照大御神から待遇を聞いた涼子は即決であった。

 「喜んで貴女の狗になります」

 「決まりだな。しかし、良いのか?この契約を結べば、貴様は貴様の望む平和で平穏な生活は絶たれる事になるのだぞ?」

 当然とも言える問いに涼子は答える。

 「昨晩と今夜。私は殺してしまいました。それはつまり、私が私自身の手で平和で平穏な生活を棄てた事にほかなりません……そうなってしまった以上、私は私が納得のいく身の振り方をするのが私にとっても、私の大事な家族にとっても良い結果を齎す。そう信じて進むしかありません」

 「では、契約は成立だ」

 こうして、薬師寺 涼子は天照大御神の狗になったのであった。


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