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DEATH FROM ABOVE

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 「涼子ちゃんお疲れー」

 「お疲れ様です」

 「土曜日は朝からで悪いけど御願いねー」

 夜の8時18分頃。
 ショッピングモール内にある本とゲーム。それに古着やプラモデルを始めとした玩具に雑貨等の様々な商品を手広く取り扱う某チェーン店でのアルバイトを店仕舞いも含めて終わらせ、ショッピングモールを後にした涼子は少し歩いた所に在るコンビニへと歩みを進める。
 未だ夜遅くではないからだろう。日中と比べれば人通りは少ないものの、道路を往来する多数のクルマも含め人通りはそれなりにあった。
 その為、この大通りは安全と見て良かった。
 そんな通りを進んでコンビニに入った涼子はエナジードリンクを1缶取ると、弁当コーナーへ歩みを進めて梅おにぎりを1つ取る。それから程無くしてセルフレジで会計を済ませると、夕食を取らずにアルバイトをしていたが故に空腹だった涼子はコンビニの外で梅おにぎりを頬張り、エナジードリンクで流し込む。
 梅おにぎりを食べ終え、エナジードリンクを飲み干した涼子はコンビニ内のゴミ箱にキチンと分別して棄てるとコンビニから出た。
 その時。感じ慣れた気配が学校の方からした。

 嘘でしょ?
 何で日本で魔力と霊力の気配がするのよ?

 魔女であるが故に間違えようが無い。
 遠くから感じ取った気配は明らかに魔力と霊力であった。
 それ故に涼子は怪訝な顔をしてしまう。
 だが、涼子は判断を誤る事は無かった。

 此処だと流石に目立つ。
 先ずは場所を変えて、様子を伺う必要がある。

 魔力と霊力の反応は複数。正確には霊力が1つと魔力が2つ有るのは感知出来た。
 しかし、具体的な状況は解らない。
 状況を具体的に掌握し、分析する為にも先ずは何が起きているのか?確認する必要があった。
 だが、直接見に行くのは愚の骨頂。
 その為にも涼子は来た道を戻り始める。
 行き交う人々を尻目に自分のアルバイト先のある既に閉店時間を迎えたショッピングモールを通り過ぎ、更に奥へと進んで横断歩道を渡った先にあるアルバイト先の入ってるショッピングモールよりも倍以上大きなショッピングモールへと向かった。
 敷地内に入った涼子は辺りを然りげ無く見廻しながらショッピングモールを後にしようとする人々を尻目に歩みを進め、人気ひとけが無い場所を捜していく。
 程無くして映画館のある3階フロアに来た涼子はオープンテラスに誰も居ない事を確認すれば、夜空に晒されるオープンテラスへと出た。
 空いてるベンチに座ればスマートフォンを手に取って画面を点灯。その間にチョーカーを外して魔力の封印を解放すれば、スマートフォンを持たぬ反対の左手から4匹の蝙蝠を産み出した。
 そして、4匹の蝙蝠を数多の星と月が輝く夜空へと飛んでいくのを他所にスマートフォンをジッと静かに眺める。
 傍目から見れば、独り静かにスマートフォンで何かしている女子高生というカモフラージュの完成である。そうして、カモフラージュをしながら使い魔とも言える4匹の蝙蝠と感覚をリンクさせた。
 自分の視界が4つ増え、合わせて5つの視界が自分の目の前に広がると涼子は声に出さずに唇だけ動かして呟く。

 「全ドローン4体の使い魔との同調リンク良し。アルファAを基点としてダイヤモンド」

 ミリタリー風味に声無き呟きと共に夜空を音も無く飛ぶ4つのドローンもとい蝙蝠を模した使い魔達はダイヤモンドとも呼ばれる菱形のフォーメーションで編隊を組んだ。
 そのまま夜空を直進して行くと、程無くして通ってる名門校の校庭で戦闘しているのが先頭のアルファAを介して自分の視界に映し出される。
 すると、涼子は次の指示を飛ばした。

 「アルファAは高度を維持したまま上空より戦闘を監視。ブラボーBは地上へ降下した後に地上から戦闘監視。チャーリーCは上昇して対空監視。デルタDは上空待機」

 矢継ぎ早に下される指示と共に涼子の手によって産み出された使い魔達は散開すると同時、主である涼子の指示通りに動きを展開。
 その後。程無くして4匹の蝙蝠が訓練された精強果敢な兵士達の如く素早くかつ正確に指示通り動けば、涼子は使い魔達を介して戦闘の様子を今の戦場……ロシアから侵攻されるウクライナでウクライナとロシア双方で用いられるドローン。
 それのオペレーターの如くつぶさに観察する。

 昼休みに私達の会話に聞き耳立ててたからまさかと思ったけど、本当に事件に関わってたとはね。
 どう言う事なのか?気になるわね。
 安倍あべ 陽子ようこさん?

 誰も居ない校庭で虎の姿をしながらも人の形をした大きな体躯を誇る獣人とも呼べる二足歩行の人外を相手に戦闘を繰り広げて居たのは、クラスメイトである少女……安倍 陽子ようこであった。
 彼女は手にした何枚もの符を用いて虎の姿をした獣人に対して攻撃を加えて居た。
 だが、火力も含めて決め手に欠けるのだろう。
 戦果は今一つと言えた。
 そんなクラスメイトに対して高みの見物を決め込む涼子はどうするべきか?思考を巡らせる。

 このまま見なかった事にして引き上げる。
 多分、これが一番安全で平和なルート。
 現在進行形でジリ貧の最後には""虎の姿した獣人に喰われるだろうクラスメイトを見棄てるのは少しだけ心苦しいけどね。

 君子危うきに近寄らず。
 平和で平穏な生活を送る上で欠かせない金言と言っても過言ではない。
 それ故に涼子は見棄てる選択を取ろうとした。
 だが……

 でも、そうなると連続通り魔事件は継続する。
 犯人が野放しなんだから当然の帰結と言っても良い。
 そうなったら、美嘉と明日香を始めとした善良なる人達にとって多大な迷惑となる。
 本当なら見棄てるべきなんだろうけど仕方ない。

 そう結論付けて決断した涼子は溜息を漏らすと静かに呟いた。

 「これは私の気紛れ。それ故に全て単なる偶然でしかない。今後一切こんな事が起こるなんて願うな」

 この場には居らぬクラスメイトの安倍 陽子に対して呟いた涼子はドローンとも言える4体の蝙蝠を模した使い魔へ命令を下す。

 「ブラボーとチャーリーは任務継続。アルファは対象1虎の獣人をロック。デルタは対象1と繋がるパスを逆探し、術者追跡」

 全ての使い魔に命令を下すと、空と地上から戦闘を監視するブラボーとチャーリーはそのまま監視と警戒を継続。
 デルタが虎の獣人とリンクする魔力パスを逆探知しながら明後日の方向へ飛んで行き、ブラボーからデルタまでの3体を眼下に望むアルファは高度を維持したままホバリングする。
までの3体に任務を継続させて周辺警戒含めた監視をさせる涼子は待機させていた4体目であるデルタに虎の姿をした人外へ攻撃命令を下した。
 その瞬間、上空を静かに音も無くホバリングしながら待機していたアルファが一気に地面へ真っ逆さまに急降下。
 音速に近い速度で急降下したドローン……もといアルファと呼んだ使い魔は虎の頭頂部。そこのど真ん中に衝突するや分厚い毛皮と頭蓋骨をブチ抜いて貫通し、脳漿の中に鎮座する脳味噌を全頭もろとも木っ端微塵に粉砕。
 だが、アルファという魔法の弾丸による貫通はそれだけには留まらなかった。
 頑丈な背骨と肋骨を粉砕しながら文字通り体内の奥深くへと一気に突入。
 身体を貫かれて胎内をミキサーに掛けたかの如くミンチにしながらコアとも言える心臓を貫けば、頭の無い虎の獣人はドサッと崩れ落ちて倒れた。
 ついさっきまで肩で息をする程に息を荒くしながら必死に戦っていた安倍 陽子は大いに困惑する。
 そんな困惑する安倍 陽子を他所に虎の身体は勢い良く破裂。辺りに臭い立つ臓物と血を派手にブチ撒けて動かなくなった。
 虎の獣人とも呼べる人外はあっという間に死んだ。
 それはまるでカミカゼ仕様のドローンに上空から突っ込まれた屈強な兵士が、いとも容易く殺されたかの様であった。
 そして、それは一瞬の出来事であり、安倍 陽子は何が起きたのか?回目検討もつかなかった。
 それ故に自分が助かった事に対して大いに困惑しながら辺りを何度も忙しなく見廻す安倍 陽子。それは虎の獣人を操っていた術者も同様であった。

 「何が起きたんだ!?」

 自分の持つ強力な戦力とも言える使い魔が突如として死んだ。それは術者である彼を困惑させ、声を荒げさせるには充分過ぎた。
 そんな時だ。状況の掌握に努めようとする術者の胸を音も無く何かが飛来した。
 術者は何が起きたのか?解らぬまま胸を貫かれ、血の塊を吐きながらドサッと倒れる。

 「ガハッ……」

 倒れる術者の胎内に潜り込んだ飛来物。もとい涼子の放ったデルタはアルファと同じ様に心臓を貫いてから爆発。術者である男は爆発四散。
 跡形も無くふっ飛ばされて死んだ。即死だ。
 1匹の人外と1人の術者を容易く殺害した涼子は使い魔であるアルファとデルタの死と同時に標的の死を確認。
 その後、残ったブラボーとチャーリー。2匹の使い魔を帰還させた。
 数分後。戻って来たブラボーとチャーリーが左手に着陸すれば、胎内に戻した。
 その後、涼子はチョーカーを首に締め直して魔力を完全に封印すると、ベンチから立ち上がりながら右手に持つスマートフォンで時間を確認する。

 「8時34分か……お母さん達には店仕舞いに時間が掛かって電車に乗り遅れた。そう言えば、誤魔化せるかな?」

 ドローンオペレーターよろしく敵を仕留めた後の事はどうでも良い。そう言わんばかりにボヤいた涼子はその場から何事も無かったかの様にテラスから立ち去り、ナイトシアターで夜の11時過ぎまでやってる映画館に赴いて次に放映される予定の映画のパンフレットを何枚か取ってショッピングモールを後にする。
 そうしてショッピングモールを後にし、街灯に照らされる歩道を駅に向かって歩みを進める涼子はパンフレットを眺めながら今日の晩ごはんは何かな?と母親の作る夕飯に胸を躍らせるのであった。


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