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6 告白
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今日もいつものように会社に行き、いつものように仕事をして、何気ない一日を過ごす。次のターゲットの調べはもうついている。あと数日でこの地獄ともおさらばだ。
昼休憩。京介からメールが届く。
「仕事終わりにドライブ行かない? どうしても話したいことがあるんだ」
いつもなら断るのだが、もう急ぐ用もないし「どうしても」というのが気になったので行くことにした。
京介の車に乗り、車を走らせながらしばらく他愛無い話をした。
「京介、どうしても話したいことって何?」
私は単刀直入に問いかけた。
「その話は目的地に着いてから話したいんだ。もう少しで着くから」
「わかった」
何だかわからないが、今日の京介はいつもと様子が違う。だいたい目的地はどこなんだ。ただ闇雲に走らせていたのではなかったのか。私は窓の外を見る。山に向かっているのか。こんな夜遅くに山で何をするつもりだろう。そう考えていたとき、駐車場が見え、京介は車を停めた。
「着いたよ」
京介が車を降りる。私も続けて降り、京介の後について行く。駐車場には他に2台の車が止まっている。
「ほら見て、すごくきれいだ」
京介の言葉で私は顔を上げた。目前に広がる美しい夜景。数人のカップルが夜景を楽しんでいる。
「きれいだね……」
私は夜景の美しさに目を奪われた。この景色を葵に見せてあげたかった。きっと喜んだだろうと思ったとき涙がこぼれた。
「大丈夫?」
京介が心配そうに見つめていた。
「あ、ごめん。大丈夫。夜景がきれい過ぎて瞬き忘れてた」
私は涙をぬぐい微笑んだ。
「そんなに喜んでもらえてよかったよ。前から遥と来たかったんだ。僕のわがままに付き合ってくれてありがとう」
「どうしたの? 今日、何か変じゃない?」
穏やかだった京介の目が、真剣なまなざしに変わる。
「遥、僕は君が好きだ。まだ出会って数ヵ月かもしれないけど、心からそう思ってる」
何だこの状況は。数組のカップル、ロマンティックな場所、少し落ち着きのない京介、そしてこのセリフ、まさかあれではないよな。頼むから違うと言ってくれ。私は逃げ出してしまいたかった。京介は真剣に話を続ける。
「真面目に答えてほしい。君がルチフェルなの?」
「え?」
私は頭が真っ白になった。
「僕のIDを使って標的の個人情報を手に入れたんじゃない? 僕が見た覚えのない閲覧履歴があった。僕以外に僕のIDとパスワードを知ることができるのは遥くらいしかいない」
「わ、私はルチフェルなんて――」
「遥、嘘はつかないで。理由を聞かせてほしい。どうしてこんなことしたのか。よほどのことがないと遥はこんなことしないはずだ……そうでしょ?」
京介は真剣なまなざしで、苦しそうに私を見ている。京介に気づかれる前に全てを終わらせて消えるつもりだった。私は周囲をちらっと見渡した。
「僕も殺す?」
「え?」
「履歴を見た限りではターゲットは3人。そのうち二人はすでに死んでるから残りは一人。最後のターゲットをやる前に僕にバレてしまった。目的遂行のためには僕を始末するしかないって思ったのかなって……」
「そんなこと……」
思ったより鋭いな。正直、一瞬考えた。だが、京介に恨みはないし、殺したくない。どうするべきか必死に頭を回転させた。
「遥、僕は君の過去を何も知らない。今までは過去なんてどうでもいいと思ってた。今の遥を愛すればいいって。でも今の遥が過去を引きずって行動をしてるのだとすればその過去を知りたい。今の遥が抱えている苦しみを僕にも背負わせてほしい」
「苦しみを背負う? 私の苦しみは京介には背負えない。もういい、別れよ。京介は私と関わるべきじゃない。私、仕事辞めるからできれば忘れて。京介が調べたことや私のこと全て」
私は逃げることにした。殺せないなら姿を消すしかない。しばらくの辛抱だ。最後のターゲットを殺すまで逃げればいい。立ち去ろうとしたとき、京介が私の腕をつかんだ。
「共犯になるつもり? これ以上深入りしたら、警察の聴取でリスク上がるよ。わかってんの?」
私は冷たく言った。
「わかってる。それでも知りたい」
「あっそ、なら教えてやるよ。親友が数ヵ月前に自殺したの。初めは理由がわかんなかった。でも携帯を調べて驚いたよ。クソみたいなメールが山ほど届いてんだから。私は一瞬でこれだってわかったよ」
「その送り主があの3人ってことか」
「そう。京介と出会ったのだって偶然なんかじゃない。偶然を装ったの。あの会社に入り込むためにね。そのために好きでもないあんたと付き合った。私は目的のためならなんだってする。わかったらさっさと忘れて他探しな。愛理なんておすすめだよ。それなりにいい子だし」
京介は真剣な顔で私を見ている。
「辛かったんだね。苦しかったよね。今まで誰にも言えずに一人で抱えてたんだよね。これからは僕がいる。遥に愛されなくてもいい。友としてそばにいさせてほしい」
「はあ? 何言ってんの? ここまで言われて腹立たないわけ?」
「うん。だって遥が泣いてるから」
私はその言葉で頬つたう涙に気がついた。
「僕にできることがあるかわからないけど遥の力になりたい」
私は涙をぬぐった。
「だめだよ。京介は京介の人生を生きて。勝手に人生に踏み込んだ私が言うのもなんだけどさ。私たちはここでお別れ。京介、あんたはいい人だ。こんなところで道を踏み外しちゃいけない。今までごめんね。幸せになってね」
私は心からそう願った。京介はうつむいて泣きだした。私は京介を抱きしめる。
「ありがとう」
京介の耳元で囁き、頬にキスした。それから振り返ることなくその場を後にした。京介がいつか私を忘れて立ち直ってくれることを祈っている。帰宅した私はすぐに荷物をまとめ家を出た。そして仕事を辞め、ホテル暮らしをすることにした。
昼休憩。京介からメールが届く。
「仕事終わりにドライブ行かない? どうしても話したいことがあるんだ」
いつもなら断るのだが、もう急ぐ用もないし「どうしても」というのが気になったので行くことにした。
京介の車に乗り、車を走らせながらしばらく他愛無い話をした。
「京介、どうしても話したいことって何?」
私は単刀直入に問いかけた。
「その話は目的地に着いてから話したいんだ。もう少しで着くから」
「わかった」
何だかわからないが、今日の京介はいつもと様子が違う。だいたい目的地はどこなんだ。ただ闇雲に走らせていたのではなかったのか。私は窓の外を見る。山に向かっているのか。こんな夜遅くに山で何をするつもりだろう。そう考えていたとき、駐車場が見え、京介は車を停めた。
「着いたよ」
京介が車を降りる。私も続けて降り、京介の後について行く。駐車場には他に2台の車が止まっている。
「ほら見て、すごくきれいだ」
京介の言葉で私は顔を上げた。目前に広がる美しい夜景。数人のカップルが夜景を楽しんでいる。
「きれいだね……」
私は夜景の美しさに目を奪われた。この景色を葵に見せてあげたかった。きっと喜んだだろうと思ったとき涙がこぼれた。
「大丈夫?」
京介が心配そうに見つめていた。
「あ、ごめん。大丈夫。夜景がきれい過ぎて瞬き忘れてた」
私は涙をぬぐい微笑んだ。
「そんなに喜んでもらえてよかったよ。前から遥と来たかったんだ。僕のわがままに付き合ってくれてありがとう」
「どうしたの? 今日、何か変じゃない?」
穏やかだった京介の目が、真剣なまなざしに変わる。
「遥、僕は君が好きだ。まだ出会って数ヵ月かもしれないけど、心からそう思ってる」
何だこの状況は。数組のカップル、ロマンティックな場所、少し落ち着きのない京介、そしてこのセリフ、まさかあれではないよな。頼むから違うと言ってくれ。私は逃げ出してしまいたかった。京介は真剣に話を続ける。
「真面目に答えてほしい。君がルチフェルなの?」
「え?」
私は頭が真っ白になった。
「僕のIDを使って標的の個人情報を手に入れたんじゃない? 僕が見た覚えのない閲覧履歴があった。僕以外に僕のIDとパスワードを知ることができるのは遥くらいしかいない」
「わ、私はルチフェルなんて――」
「遥、嘘はつかないで。理由を聞かせてほしい。どうしてこんなことしたのか。よほどのことがないと遥はこんなことしないはずだ……そうでしょ?」
京介は真剣なまなざしで、苦しそうに私を見ている。京介に気づかれる前に全てを終わらせて消えるつもりだった。私は周囲をちらっと見渡した。
「僕も殺す?」
「え?」
「履歴を見た限りではターゲットは3人。そのうち二人はすでに死んでるから残りは一人。最後のターゲットをやる前に僕にバレてしまった。目的遂行のためには僕を始末するしかないって思ったのかなって……」
「そんなこと……」
思ったより鋭いな。正直、一瞬考えた。だが、京介に恨みはないし、殺したくない。どうするべきか必死に頭を回転させた。
「遥、僕は君の過去を何も知らない。今までは過去なんてどうでもいいと思ってた。今の遥を愛すればいいって。でも今の遥が過去を引きずって行動をしてるのだとすればその過去を知りたい。今の遥が抱えている苦しみを僕にも背負わせてほしい」
「苦しみを背負う? 私の苦しみは京介には背負えない。もういい、別れよ。京介は私と関わるべきじゃない。私、仕事辞めるからできれば忘れて。京介が調べたことや私のこと全て」
私は逃げることにした。殺せないなら姿を消すしかない。しばらくの辛抱だ。最後のターゲットを殺すまで逃げればいい。立ち去ろうとしたとき、京介が私の腕をつかんだ。
「共犯になるつもり? これ以上深入りしたら、警察の聴取でリスク上がるよ。わかってんの?」
私は冷たく言った。
「わかってる。それでも知りたい」
「あっそ、なら教えてやるよ。親友が数ヵ月前に自殺したの。初めは理由がわかんなかった。でも携帯を調べて驚いたよ。クソみたいなメールが山ほど届いてんだから。私は一瞬でこれだってわかったよ」
「その送り主があの3人ってことか」
「そう。京介と出会ったのだって偶然なんかじゃない。偶然を装ったの。あの会社に入り込むためにね。そのために好きでもないあんたと付き合った。私は目的のためならなんだってする。わかったらさっさと忘れて他探しな。愛理なんておすすめだよ。それなりにいい子だし」
京介は真剣な顔で私を見ている。
「辛かったんだね。苦しかったよね。今まで誰にも言えずに一人で抱えてたんだよね。これからは僕がいる。遥に愛されなくてもいい。友としてそばにいさせてほしい」
「はあ? 何言ってんの? ここまで言われて腹立たないわけ?」
「うん。だって遥が泣いてるから」
私はその言葉で頬つたう涙に気がついた。
「僕にできることがあるかわからないけど遥の力になりたい」
私は涙をぬぐった。
「だめだよ。京介は京介の人生を生きて。勝手に人生に踏み込んだ私が言うのもなんだけどさ。私たちはここでお別れ。京介、あんたはいい人だ。こんなところで道を踏み外しちゃいけない。今までごめんね。幸せになってね」
私は心からそう願った。京介はうつむいて泣きだした。私は京介を抱きしめる。
「ありがとう」
京介の耳元で囁き、頬にキスした。それから振り返ることなくその場を後にした。京介がいつか私を忘れて立ち直ってくれることを祈っている。帰宅した私はすぐに荷物をまとめ家を出た。そして仕事を辞め、ホテル暮らしをすることにした。
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