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第50話 君から両親へのメッセージ
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「……えーっと……お父さん、お母さん……いきなりこんなものを見させられて戸惑ってるかもしれませんが、僕なりに考えて動画という形で残すことにしました。手紙だと書いてる途中で見つかっちゃうかもだし、スマホの中なら生きてるうちは多分誰も見ないと思うので、ちょうどいいかと思ってね。改めて……これまで16年間大切に育てくれてありがとうございました……」
これは……山石君からご両親への遺言だ。日付を見ると、デートした後くらいだった。あの頃はまだ一緒に囲碁を打ったり車いすでお出かけしたり冗談を言って笑ったりできてたのに、なのにもう……もうそんな時期に山石君は死を覚悟してたんだ。こんなものを残して、確実に近づいてくるその時に向けて準備をしてたんだ……私と話してる時にはこれっぽっちもそんな影見せてなかったのに……どうしていつもいつも後になってからしか教えてくれてないんだろう。もっと寄り添わせてほしかったのに。
「……まだ病気が発症する前はお父さんお母さんにもお爺ちゃんにも愛されてとても幸せな時間だったと思っています。小学生の時は夏になるといつもキャンプに連れてってくれて、お父さんは最初火おこしがうまくいかなくて一緒にずっと息を吹き続けたのが一番覚えてるって言ったらひどいかな。他にも、よくお爺ちゃんの家に連れてってもらって、僕がお爺ちゃんと一緒に縁側で囲碁をしてる間に庭でお父さんとお母さんがプールや餅つきとかの準備をしてくれてて……」
最初はしばらく小さな頃の山石家の思い出話が続いていた。それを聞くだけでも山石少年は周囲の愛情をたっぷりと受けながら育ったことがよく分かった。そんな愛する息子の遺品整理でお父さんとお母さんがこれを見つけた時の気持ちを想像すると胸が締め付けられるような気分になった。
「……病気が分かってからは、いっぱいいっぱい迷惑をかけてごめんなさい。病院暮らしでお母さんに付きっきりで一緒にいてもらった時もあったし、治療が嫌で八つ当たりしたこともあったし、学校に行きたいってわがまま言ったこともあったし、どうして……どうしてこんな体なのかってひどい言葉を何度もぶつけたことも……本当にごめんなさい。きっとたくさん傷ついていたのに、どんな時でも優しく受け止めてくれて、いつでも許してくれて……僕は、僕は本当に2人の子どもで幸せでした。2人の元に生まれてこれたことは他の誰よりも幸せだった自信があります。ありがとうだけじゃ足りないくらいで、もっともっと大きな感謝を伝える言葉がないのが残念です。……僕を産んでくれてありがとう、こんなに大きくなるまで育ててくれてありがとう、色んなところに連れてってくれてありがとう、美味しいご飯作ってくれてありがとう、優しく抱きしめてくれてありがとう、勉強教えてくれてありがとう、一緒にゲームしてくれてありがとう、いっぱい応援してくれてありがとう、叱ってくれてありがとう、たくさん心配してくれてありがとう、あと……最期の最期まで、愛してくれてありがとう……」
思わずスマホから目を離して天井を見上げた。枯れてしまったのかと思っていた涙がいつの間にか瞳をうるおわせていた。
「……1つお願いがあるんだけど、もしよければこのスマホを森野さんにも見せてもらえないかな?もう一つの動画は森野さんに見てほしいから。彼女のおかげで僕の人生は何倍も何倍も楽しくて嬉しくて大切なものになったんだ。森野さんはね、……」
これ以上は見ちゃいけない、というか見るのに耐えられなかったので飛ばすことにした。泣いてしまいそうなのもあるし、気恥ずかしいのもあって、そわそわして聞いていられないような気がした。
そうすると、いよいよ次の動画ということになるのだけど……お母さんがこのスマホを私に渡した理由が、これってことだよね。
過去1番じゃないかってくらい速くなった鼓動の音が、部屋中に響いてるんじゃないかってくらい大きく聞こえる。震えが止まらない指を落ち着かせるために何回も浅い深呼吸を繰り返す。覚悟はいつまでも決まらない。決まる気もしない。けど、どんなことがあっても受け入れる決意だけは固めて、動画のトップ画をそっと押す。すると、病室で真面目な顔をした山石君がこちらに向き直って話し始めた……
「……森野さん、これを見ているってことは僕はもうこの世にいないんでしょうね……」
これは……山石君からご両親への遺言だ。日付を見ると、デートした後くらいだった。あの頃はまだ一緒に囲碁を打ったり車いすでお出かけしたり冗談を言って笑ったりできてたのに、なのにもう……もうそんな時期に山石君は死を覚悟してたんだ。こんなものを残して、確実に近づいてくるその時に向けて準備をしてたんだ……私と話してる時にはこれっぽっちもそんな影見せてなかったのに……どうしていつもいつも後になってからしか教えてくれてないんだろう。もっと寄り添わせてほしかったのに。
「……まだ病気が発症する前はお父さんお母さんにもお爺ちゃんにも愛されてとても幸せな時間だったと思っています。小学生の時は夏になるといつもキャンプに連れてってくれて、お父さんは最初火おこしがうまくいかなくて一緒にずっと息を吹き続けたのが一番覚えてるって言ったらひどいかな。他にも、よくお爺ちゃんの家に連れてってもらって、僕がお爺ちゃんと一緒に縁側で囲碁をしてる間に庭でお父さんとお母さんがプールや餅つきとかの準備をしてくれてて……」
最初はしばらく小さな頃の山石家の思い出話が続いていた。それを聞くだけでも山石少年は周囲の愛情をたっぷりと受けながら育ったことがよく分かった。そんな愛する息子の遺品整理でお父さんとお母さんがこれを見つけた時の気持ちを想像すると胸が締め付けられるような気分になった。
「……病気が分かってからは、いっぱいいっぱい迷惑をかけてごめんなさい。病院暮らしでお母さんに付きっきりで一緒にいてもらった時もあったし、治療が嫌で八つ当たりしたこともあったし、学校に行きたいってわがまま言ったこともあったし、どうして……どうしてこんな体なのかってひどい言葉を何度もぶつけたことも……本当にごめんなさい。きっとたくさん傷ついていたのに、どんな時でも優しく受け止めてくれて、いつでも許してくれて……僕は、僕は本当に2人の子どもで幸せでした。2人の元に生まれてこれたことは他の誰よりも幸せだった自信があります。ありがとうだけじゃ足りないくらいで、もっともっと大きな感謝を伝える言葉がないのが残念です。……僕を産んでくれてありがとう、こんなに大きくなるまで育ててくれてありがとう、色んなところに連れてってくれてありがとう、美味しいご飯作ってくれてありがとう、優しく抱きしめてくれてありがとう、勉強教えてくれてありがとう、一緒にゲームしてくれてありがとう、いっぱい応援してくれてありがとう、叱ってくれてありがとう、たくさん心配してくれてありがとう、あと……最期の最期まで、愛してくれてありがとう……」
思わずスマホから目を離して天井を見上げた。枯れてしまったのかと思っていた涙がいつの間にか瞳をうるおわせていた。
「……1つお願いがあるんだけど、もしよければこのスマホを森野さんにも見せてもらえないかな?もう一つの動画は森野さんに見てほしいから。彼女のおかげで僕の人生は何倍も何倍も楽しくて嬉しくて大切なものになったんだ。森野さんはね、……」
これ以上は見ちゃいけない、というか見るのに耐えられなかったので飛ばすことにした。泣いてしまいそうなのもあるし、気恥ずかしいのもあって、そわそわして聞いていられないような気がした。
そうすると、いよいよ次の動画ということになるのだけど……お母さんがこのスマホを私に渡した理由が、これってことだよね。
過去1番じゃないかってくらい速くなった鼓動の音が、部屋中に響いてるんじゃないかってくらい大きく聞こえる。震えが止まらない指を落ち着かせるために何回も浅い深呼吸を繰り返す。覚悟はいつまでも決まらない。決まる気もしない。けど、どんなことがあっても受け入れる決意だけは固めて、動画のトップ画をそっと押す。すると、病室で真面目な顔をした山石君がこちらに向き直って話し始めた……
「……森野さん、これを見ているってことは僕はもうこの世にいないんでしょうね……」
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