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第32話 君とデートの約束
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それからは毎日病室に通い、コンクールのことや学校のこと、留学の準備の進み具合など、日々の出来事を時間の許す限り話して聞かせてあげる日々だった。ちなみに、コンクール後の最初の登校日には再び垂れ幕が校舎にかかっていた。例の口軽先生がコンクールに来ていて、結果を見てすぐに発注したらしい。今回は事前に教頭先生の許可をもらっていたらしく、すぐに完成したそうだ。心から不要な仕事の早さだ。
それはさておき、山石君は大きく回復するということもなかったが寝たきりになるということもなく、小康状態がしばらく続いた。調子の良い日なんかは車いすに乗って散歩したりなんかもできた。よく晴れた日に太陽の光でぬるんだ空気の中でおしゃべりしながら歩いていると、熟年の夫婦みたいだなぁなんて思ったりもした。
「なんだかデートしてるみたいだね……っていうのもおかしいか。ちょっと調子に乗りました。すみません。」
ぼーっと考えていたことと似たようなことを山石君が突然口に出すから、びっくりして体が硬直してしまった。その振動を感じ取ったのか、すぐに発言を撤回して勝手に謝ってしまうまでのスピード感が可笑しかった。
「あははっ、そんなにすぐ謝らなくてもいいよ。私も似たようなこと考えてて、びっくりしちゃった。でも、私は夫婦みたいだなぁって思ってたから、こっちの方が一歩先を行ってるね。」
「そんなところでマウント取らなくても……うわっすっごいドヤ顔してる。そんな勝ち誇ることでもなくない?」
車いすからこちらを見上げながら、山石君が大げさに不快そうな顔をする。
「ひどーい。人の顔見て、うわって言うなんて……おーいおいおいおい……」
こちらも負けじと大げさに泣くふりをする。
「いや、泣き声噓くさ。」
「ふふっ、ばれたか。」
二人で大笑いしながら病院の中庭を散歩し、端の方にこっそりとたたずんでいる東屋で止まって一休みする。これもいつものパターンだ。
「そういえば!デートっていえば、山石君まだ一回も連れてってくれてないんだからね!」
「そうだよね……僕のせいで、いっつもすまないねぇ。」
「それは言わない約束でしょ……じゃなくて!しようよ、デート!」
「いや、デートって言われても……きっと外出許可は出ないと思うよ……」
「ううん、大丈夫。病院の中ですればいいんだよ!実は、もう関係各所には許可取ってあります!ということで、次の日曜ね!楽しみすぎて眠れなくて体調崩すとか無しだからね。まぁ、多少のことならすぐにお医者さんに診てもらえるから安心して。」
「いやいや、って、えっ?関係各所って何?次の日曜日?えっ?待って、頭が追いついてない……」
突然の発表に山石君は本気で困惑してるようだった。
「当日のデートプランももう考えてあるから、大船に乗ったつもりで楽しみにしてて。ただ、一つだけ山石君にもお願いがあるんだけど。」
「うん。追いついてきた。ありがとう、森野さん。僕にできることなら、なんでも言って。」
「じゃあ、山石君には当日、囲碁の打ち方を教えてほしいの。前に習った時はすぐに諦めちゃったでしょ?今度は本気で覚えたいの。山石君が人生をかけてやり続けてきたものだからね。」
放課後に音楽室で一緒に練習していた頃、一回だけ試しに教えてもらったことがあった。けど、複雑すぎてすぐに挫折したのだった。
「それなら任せて。ばっちり準備しておくね。」
「よしっ!これで準備万端。私の方が楽しみすぎて眠れないかも。」
「今度は森野さんが体調崩すとかやめてよ。」
「言ったなー。」
山石君とはしゃぎながら東屋を出て病室に向かう。
こんなに穏やかで楽しい日が、ずっと続いてくれたらいいのに。
それはさておき、山石君は大きく回復するということもなかったが寝たきりになるということもなく、小康状態がしばらく続いた。調子の良い日なんかは車いすに乗って散歩したりなんかもできた。よく晴れた日に太陽の光でぬるんだ空気の中でおしゃべりしながら歩いていると、熟年の夫婦みたいだなぁなんて思ったりもした。
「なんだかデートしてるみたいだね……っていうのもおかしいか。ちょっと調子に乗りました。すみません。」
ぼーっと考えていたことと似たようなことを山石君が突然口に出すから、びっくりして体が硬直してしまった。その振動を感じ取ったのか、すぐに発言を撤回して勝手に謝ってしまうまでのスピード感が可笑しかった。
「あははっ、そんなにすぐ謝らなくてもいいよ。私も似たようなこと考えてて、びっくりしちゃった。でも、私は夫婦みたいだなぁって思ってたから、こっちの方が一歩先を行ってるね。」
「そんなところでマウント取らなくても……うわっすっごいドヤ顔してる。そんな勝ち誇ることでもなくない?」
車いすからこちらを見上げながら、山石君が大げさに不快そうな顔をする。
「ひどーい。人の顔見て、うわって言うなんて……おーいおいおいおい……」
こちらも負けじと大げさに泣くふりをする。
「いや、泣き声噓くさ。」
「ふふっ、ばれたか。」
二人で大笑いしながら病院の中庭を散歩し、端の方にこっそりとたたずんでいる東屋で止まって一休みする。これもいつものパターンだ。
「そういえば!デートっていえば、山石君まだ一回も連れてってくれてないんだからね!」
「そうだよね……僕のせいで、いっつもすまないねぇ。」
「それは言わない約束でしょ……じゃなくて!しようよ、デート!」
「いや、デートって言われても……きっと外出許可は出ないと思うよ……」
「ううん、大丈夫。病院の中ですればいいんだよ!実は、もう関係各所には許可取ってあります!ということで、次の日曜ね!楽しみすぎて眠れなくて体調崩すとか無しだからね。まぁ、多少のことならすぐにお医者さんに診てもらえるから安心して。」
「いやいや、って、えっ?関係各所って何?次の日曜日?えっ?待って、頭が追いついてない……」
突然の発表に山石君は本気で困惑してるようだった。
「当日のデートプランももう考えてあるから、大船に乗ったつもりで楽しみにしてて。ただ、一つだけ山石君にもお願いがあるんだけど。」
「うん。追いついてきた。ありがとう、森野さん。僕にできることなら、なんでも言って。」
「じゃあ、山石君には当日、囲碁の打ち方を教えてほしいの。前に習った時はすぐに諦めちゃったでしょ?今度は本気で覚えたいの。山石君が人生をかけてやり続けてきたものだからね。」
放課後に音楽室で一緒に練習していた頃、一回だけ試しに教えてもらったことがあった。けど、複雑すぎてすぐに挫折したのだった。
「それなら任せて。ばっちり準備しておくね。」
「よしっ!これで準備万端。私の方が楽しみすぎて眠れないかも。」
「今度は森野さんが体調崩すとかやめてよ。」
「言ったなー。」
山石君とはしゃぎながら東屋を出て病室に向かう。
こんなに穏やかで楽しい日が、ずっと続いてくれたらいいのに。
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