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第25話 久々に会った君は
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裕子に焚きつけられてお見舞いに行く決心をしたものの、いざ病室を前にすると尻込みしてしまう弱い自分がいた。友達のお見舞いをするだけ、何もおかしなことはない……意味のない自分への言い訳を何度か繰り返してからドアをノックする。
「おじゃましまーす……」
「いらっしゃい。突然やってくるって言うから散らかってるかも。」
「いやいや、絶対めっちゃ綺麗にしたでしょ?」
「そんなことないよ。これがいつも通りだよ。」
「冷静なふりして実はさっきまで掃除してたりして。」
「バレたか。今日の午後は掃除でつぶれちゃったよ。」
2人で笑い合った後、学校の様子や練習の進み具合、入院生活が退屈なことなど、一通り話したいことや聞きたいことを雑談する。会えない時間が長かったから話題には事欠かなかった。元々、山石君は聞き上手な方だから基本的には私がしゃべって、山石君はうなずいたり短く返事するだけってことが多かったけど。
雑談をしながら心の中では、ちゃんと普段通り話せてることに一安心する。どうして今まで来なかったのか、何をそんなに気にしていたのか、もっと来れば良かったと早くも小さく後悔する。
「……そういえば、コンクールもうすぐ全国大会だよね?」
「そう。実はもう1ヶ月も無いんだよ。そしてなんと!全国大会はライブ配信があるんだよ!もし病院から出れなくても聞けるから安心してね。」
「そりゃ嬉しいね。外出許可が出れば1番だけど。でも、どうなっても絶対聞くから。それで、一番応援してるから。」
「うん、ありがと。山石君にもちゃんと届くように弾くからね。それに、私も山石君が良くなるようにいつも応援してるからね。この大会が終わったら、今度こそ一緒に遊びに行ってもらわなきゃだから!」
「そうだよね……いつも約束破ってるから、今度は頑張って約束守らないとだね。」
「そうだよ、結局まだ一回も遊びに行けてないんだから。よし!じゃあそろそろ帰るね。久しぶりに私に会えたからって、嬉しくて騒いじゃダメだよ。じゃね。」
「ははっ、森野さんが出てからバタバタ聞こえたら怒ってね。じゃあ、またね。」
冗談を言ってパイプ椅子から腰を上げる。病室のドアを閉める時にもう一度山石君の方を見てみると、笑顔で手を振っていた。なんだか少し照れ臭くなりながら、こちらも笑って手を振り返して廊下に出た。廊下を歩きながらさっきまでの時間を振り返る。
良かった。思ってたよりも全然普通に過ごせた。山石君も入院してる割に元気そうだったし、ちゃんと楽しくお話もできた。いつものように冗談を言って、笑顔でお別れもして、ちゃんといつも通りに過ごせた……はず。
歩きながら、思い返しながら、瞬きをしないように一生懸命力を入れていたが、ついには涙がこぼれ落ちてしまう。我慢しきれなかった。一度こぼれ落ちてしまうと止まることを忘れてしまったかのように、次々とあふれ出てきてしまう。ついにはその場に座り込んで動けなくなってしまった。
山石君はお化粧をしていた……もちろん、こちらには分からないように自然にしていたつもりだろうけど、気づかないわけがない……お化粧、しないといけないくらい顔色が悪くなってるってことだよね……お化粧でなんとか顔色は誤魔化してたかもしれないけど、パジャマから出てる首や腕なんかは隠しきれないほどやつれてしまっていた。前に大きな機械があった場所には、もっと大きく精密な数字がいくつも並ぶ機械が山石君にたくさんの管やコードを伸ばしていた……もしかしたら元気になってるかもしれない、という淡い願望が打ち砕かれた音がした。
「おじゃましまーす……」
「いらっしゃい。突然やってくるって言うから散らかってるかも。」
「いやいや、絶対めっちゃ綺麗にしたでしょ?」
「そんなことないよ。これがいつも通りだよ。」
「冷静なふりして実はさっきまで掃除してたりして。」
「バレたか。今日の午後は掃除でつぶれちゃったよ。」
2人で笑い合った後、学校の様子や練習の進み具合、入院生活が退屈なことなど、一通り話したいことや聞きたいことを雑談する。会えない時間が長かったから話題には事欠かなかった。元々、山石君は聞き上手な方だから基本的には私がしゃべって、山石君はうなずいたり短く返事するだけってことが多かったけど。
雑談をしながら心の中では、ちゃんと普段通り話せてることに一安心する。どうして今まで来なかったのか、何をそんなに気にしていたのか、もっと来れば良かったと早くも小さく後悔する。
「……そういえば、コンクールもうすぐ全国大会だよね?」
「そう。実はもう1ヶ月も無いんだよ。そしてなんと!全国大会はライブ配信があるんだよ!もし病院から出れなくても聞けるから安心してね。」
「そりゃ嬉しいね。外出許可が出れば1番だけど。でも、どうなっても絶対聞くから。それで、一番応援してるから。」
「うん、ありがと。山石君にもちゃんと届くように弾くからね。それに、私も山石君が良くなるようにいつも応援してるからね。この大会が終わったら、今度こそ一緒に遊びに行ってもらわなきゃだから!」
「そうだよね……いつも約束破ってるから、今度は頑張って約束守らないとだね。」
「そうだよ、結局まだ一回も遊びに行けてないんだから。よし!じゃあそろそろ帰るね。久しぶりに私に会えたからって、嬉しくて騒いじゃダメだよ。じゃね。」
「ははっ、森野さんが出てからバタバタ聞こえたら怒ってね。じゃあ、またね。」
冗談を言ってパイプ椅子から腰を上げる。病室のドアを閉める時にもう一度山石君の方を見てみると、笑顔で手を振っていた。なんだか少し照れ臭くなりながら、こちらも笑って手を振り返して廊下に出た。廊下を歩きながらさっきまでの時間を振り返る。
良かった。思ってたよりも全然普通に過ごせた。山石君も入院してる割に元気そうだったし、ちゃんと楽しくお話もできた。いつものように冗談を言って、笑顔でお別れもして、ちゃんといつも通りに過ごせた……はず。
歩きながら、思い返しながら、瞬きをしないように一生懸命力を入れていたが、ついには涙がこぼれ落ちてしまう。我慢しきれなかった。一度こぼれ落ちてしまうと止まることを忘れてしまったかのように、次々とあふれ出てきてしまう。ついにはその場に座り込んで動けなくなってしまった。
山石君はお化粧をしていた……もちろん、こちらには分からないように自然にしていたつもりだろうけど、気づかないわけがない……お化粧、しないといけないくらい顔色が悪くなってるってことだよね……お化粧でなんとか顔色は誤魔化してたかもしれないけど、パジャマから出てる首や腕なんかは隠しきれないほどやつれてしまっていた。前に大きな機械があった場所には、もっと大きく精密な数字がいくつも並ぶ機械が山石君にたくさんの管やコードを伸ばしていた……もしかしたら元気になってるかもしれない、という淡い願望が打ち砕かれた音がした。
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