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第四章

思う故に

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執務室の机に突っ伏していると、ノックの音がした。
「はい」
扉が開き、執事が入ってくる。
「カイル様がいらっしゃっています」
「カイルが!?」
そういえば、レオンが言っていたわね、カイルがポリニエールに来るかもしれないって。
宮廷舞踏会ではけっきょく何も話せなかった。それ以来だ。

応接室に行くと、カイルが立ち上がりエレノアを迎えてくれる。
「エレノア」
「カイル‥来てくれたのね」
うれしくて飛びつきそうになったが、舞踏会で踊ったいたカイルの姿がよぎり、踏みとどまった。

お茶の用意がすむと、使用人には下がってもらう。

舞踏会のあの人とはどうなったんだろう‥急に不安になる。カイルに会えてうれしいのに、昔みたいに喜びを表すことができなくて苦しい。
再会したときに感じた一線を引いたカイルの態度を思い出すと泣きそうな気分だ。

何を話せばいいのか、話題を探していると、先にカイルがあたりを見回しながらエレノアに聞いてきた。

「挨拶したいんだけど、旦那さんはいないの?」
「‥」
「ん?エレノア?」
「‥王都にかえっちゃったわ。わたし‥振られたのよ」
エレノアはそっぽを向いて答える。
カイルは目を見開いて数秒固まった後、叫ぶ。
「ええっーっ!ど、どういうこと?なんでそんな話になってるわけ?」
そんなのわからない、私の方が聞きたいわ。エレノアの胸になにかが込み上げてくる。

「レオンは、レオンは最初からわたしのことなんて何とも思ってなかったのよ。他に好きな人がいてもいなくても、わたしのことが好きになれなかったのよ!やっぱりわたし捨てられちゃったのよ」
カイルの前ではもう我慢できなかった。話しているうちに抑えていた感情が溢れだす。
うわーん、とエレノアが泣きじゃくる。慌てて向かいのソファから隣に移り座ったカイルの胸元に、両手で顔を覆ったまま頭をすりつける。
カイルは、なだめる様にエレノアの頭を撫でてやる。

レオンがエレノアを好きじゃない?
そんなはずはないだろう。愛してなかったら、あの時カイルを呼び止めたりしなかったはずだ。わざわざポリニエールに会いに行くよう言ったりしない。

見舞いの帰り際、迷った挙句に告げたであろうレオンの様子で、カイルはわかったのだ。レオンはエレノアを愛している、だから自分の立場よりもエレノアのために告げたのだ、ポリニエールに行けば会えると。

カイルは、エレノアの話を詳しく聞きたかったが、まずは泣きやませたくて話題をかえる。
「ねえ、エレノア。ポリニエールの視察に行くんだろう?僕も護衛で一緒に行くよ。」
エレノアは顔をおおっていた両手を下げて、目だけを覗かせるとカイルを見上げる。
「カイルが?アラゴンに帰らなくていいの?」
「公爵家と父さんから頼まれているんだ。」
エレノアは意外だった。二人の仲を知っているのに、既に結婚しているエレノアの同行に許可を?マグライドのおじ様も?

ポリニエールにも騎士はいる。ただし護衛や警備が主な役割だ。一方でアラゴンのマグライド騎士団は国境の小競り合いで戦闘慣れしている。
主人不在のポリニエールを守るため、マグライド辺境伯はエレノアの後見を引き受けたときに、ポリニエール騎士団の指揮系統を暫定的にアラゴン傘下としたのだ。こうして、マグライド騎士団とポリニエール騎士団が協力して治安を守ってくれている。

婚家のロゼンタール家の傘下でもよかったのだが、
隣地であり、かねてより交流の深いマグライド家の方がなにかと都合がいいだろうと、ロゼンタール公爵とマグライド辺境伯が話し合って決めてくれた。
したがって、今回のエレノアの領地視察の護衛に、マグライド騎士団からカイルが派遣されても表向きおかしなことはない。

「残念ながら、二人きりじゃないよ」
いたずらっぽくカイルが微笑む。あ、カイルだ。この表情は昔のカイル。エレノアは再会してから感じていた見えない壁が消えたような気がした。


けれど、カイルの心は迷っていた。
カイルの勘では間違いなくレオンはエレノアを愛している。カイルを呼び止めた、あの時の態度、表情がそれを物語っていた。それなのにエレノアは好かれていないと泣いてる。
レオンの行動が不可解だった、舞踏会の日に見た二人の様子とエレノアの涙、そのあと寝込んだという話、領地の視察にも同行していなかった。

なぜエレノアを大事にしないのか。
このままエレノアを奪ってもいいのか。
ためらわず抱きしめてしまっていいのか‥

僕のかわいいエレノア‥



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