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第四章

守れなかったもの

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それは捕まってすぐのことだった。
「敵の補給部隊のルートがわかったらしいぞ」
「本当かこっちまで回ってくるかな」
「いや、もう出発だからな。ありつけるのは次の奴らだろ」
カイルは敵兵の会話を偶然耳にした。
どうやら補給部隊を襲撃し物資を奪うようだ。この辺りの補給部隊といえば、ポリニエールの管轄だ。
エレノアの兄エリオットも襲われるかもしれない。エリオットに何かあればエレノアは一人になってしまう。なんとか脱出して伝えなくてはいけない。カイルは決意した。

幸運なことに捕虜が一人減ったことに誰も気づかなかった。ずぼらな敵兵たちが捕らえてすぐに捕虜の人数を数えなかったからだ。
カイルが逃げたあと、移送が始まってやっと人数確認をはじめた。
カイルは追っ手に追われることもなく逃げおおせた。しかし、これは幸運などではなく不幸のはじまりだったのだ。

ロゼンタールの情報網をもってしてもカイルが見つからなかったのは、この人数もれのせいだった。
カイルが捕まったという味方の騎士たち。しかし敵国にはカイルという捕虜がいない。連行した人数と収容されている人数も一致している。そのまま行方不明になったのだ。

脱走後、闇夜で方向を見誤ったカイルは国境と逆に向かってしまった。それから三年近くもの間、帰国できずに彷徨うことになるのだ。



やっとの思いで戻ったカイルだが、父から出征前となにもかも変わってしまったポリニエールの話を聞かされて愕然とした。

思い出の百合の丘に登る。
この百合はエレノアのアイデアで植えられたものだ。平地の少ないアラゴンに、果樹や花を植えることを思いついたのだ。
エレノアと二人、お互いの存在を感じながら静かに本を読んだり、街を歩き馬で野を駆ける。永遠にこの暮らしが続いていくと信じて疑わなかった。それが当たり前だと思っていた。それなのに。

結局、エリオットを助けられなかった。彷徨っているうちにエレノアも結婚してしまった。何もかも裏目にでてしまった。

せめて、幸せならいい。
エレノアに会いたい。

カイルは思い切ってポリニエールを訪問することにした。突然カイルの名前で手紙を送りつけては驚くだろう、しかも、エレノアには夫がいる、男の名前で呼び出すのはよくないだろう。アラゴンからの使者、とだけ伝えて約束をとりつける。

久しぶりに会ったエレノアは、愁いを帯びた涼やかな瞳の美しい女性になっていた。駆け寄るエレノアに戸惑ってしまう。抱きしめたかったが結婚していることを思い出しこらえた。

「結婚したんだって?おめでとう」

精一杯の強がりだった。
エレノア、どうして結婚してしまったの?僕がもう死んでると思ったの?あと半年待っていてくれてたら!
責めてしまいそうになるのを必死で堪えた。

僕のエレノア
ちっちゃなエレノア
幸せならいい
いいんだ‥


それなのに、エレノアはいつも泣いている。

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