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第二章

宮廷舞踏会の日、カイル

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出征してから三年の月日が流れていた。戦争が終わっても、緊張状態だった国境を越えることができず、他国を彷徨い、海を渡りやっとの思いで戻った。彼女と約束したから。

けれど、父、マグライド辺境伯から聞かされた話は信じられない内容だった。
エレノアの兄エリオットが亡くなり、彼女は半年ほど前に結婚してしまったのだ。
しかも、エレノアに関する根も葉もない噂が流れているとまで。

広大で肥沃なポリニエール領。その領主にしてあの有名なロゼンタール公爵家の後継レオンの妻か。
僻むやつは大勢いるだろう。



案の定、舞踏会でロゼンタール公爵家の名前がコールされると、近くにいる男たちが、ひそひそと話しはじめた。
「ポリニエール女伯爵様の本命は誰なんだろうな」
「相変わらず誰が招待しても断られるらしい。さぞかしお高いんだろう」
「ダンスも王子としか踊らないからな、あの旦那すら相手にされていない」
「国一番の花婿候補だったのにな」
「なんといっても公爵の溺愛ぷりがすごいらしいぞ。息子はカモフラージュらしい」
耳を疑うようなひどい中傷にカイルは青ざめた。
エレノアがそんな子じゃないことは、カイルが一番よくわかっている。
だが、自分と関わることで、もっと立場を悪くしてしまうのではないかと不安になった。


カイルは元々、同伴の女性と踊る気はなかった。
父に言われたというのも嘘で、一人で参加したカイルがエレノアを誘えば、好奇の目にさらされてしまうだろうことを危惧して、王都に住む親戚に同伴を頼んだのだ。
だが、あまりにひどい中傷を聞いて、同伴者と踊らずにエレノアを誘うことはできないと思った。エレノアはとにかく注目されている。
一曲目はレオンと踊るだろうし‥そのあと強引に誘ったように見せかければ、エレノアの名誉が傷つくことはないだろう。
カイルはそう算段した。


レオンのエスコートで入場してきたエレノアはとてもきれいだった。美貌の騎士と評判のレオンに、負けないくらい美しくお似合いの二人だった。
会えない間に背も伸びてすっかり大人になっていた。

僕のちっちゃな可愛いエレノア‥
もう人のものになってしまったんだね。



ホールの中央で踊っていると、エレノアが大勢の人に囲まれているのが見えた。すぐにうつむいたまま外に出て行ってしまう。
これは追いかけた方が良さそうだな。そう思っているとレオンがエレノアのあとを追って出て行くのが見えた。

僕の出る幕じゃないかな‥。

それでも気になってしまい、パートナーの女性にことわって、エレノアを探しにいくことにした。
しかし、初めて訪れた王宮で少し迷ってしまった。

遠くに噴水があり、その前に人がいるのが見えた。エレノアとレオンだった。
何を話しているのかわからないが揉めているようだ。
近づくレオンを避けるようにエレノアが体を捩り後ろに下がる。エレノアはずっと下を向いて泣いているようだ。

突然、肩にポンっと手が置かれた。振り返るとロゼンタール公爵が立っていた。
公爵はまるで任せろというように、カイルに小さく頷くと、そのまま二人の方へ行きあれよと言う間にエレノアを連れて去っていった。
レオンは一人残されている。

一体いまのはなんだったんだ?
エレノア、君はいま幸せなの?



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