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第四章

ロゼンタール公爵とエレノア②

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ポリニエール伯爵が、エレノアとレオンの婚約になかなか首を縦にふってくれないわけはいくつかあったが、その一つはレオンが騎士だったことだ。

当初、エレノアをマグライド家に嫁がせたいから、レオンを認めてくれないのかとヘンドリックは考えていた。エレノアとマグライドの次男はよく一緒に遊んでいて仲がよかったからだ。
しかし、いざ戦争が始まりカイルが行方不明になると、騎士と結婚させたくないと言っていた伯爵の気持ちがよくわかった。

カイルを案ずるあまり、エレノアはぼろぼろになってしまったから。



開戦後まもなく、急な病でポリニエール伯爵が亡くなった。既に成人していた兄が爵位を引き継ぎ、新領主となったが、それからたった二年後に兄も亡くなってしまった。

一人遺されたエレノアは棺にとりすがり、まる一日動かなかったが、やがて起き上がるとてきぱきと葬儀をとり行った。そして、エレノアは兄の代わりにひたすら働いた。涙を見せることなく、泣き言も言わずに。
ヘンドリックには分かっていた。兄を亡くしたエレノアがなんとか立ち上がったのは、そのうちカイルが戻ってきてくれるという希望があったからだ。カイルがエレノアの光であり道標であった。
それだけを頼りになんとか日々をやり過ごしていたのだ。

それなのに、現実は無情で追い討ちをかけるようにカイルが行方不明になった。

エレノアはさらに狂ったように働きだした。
古くから仕えている屋敷の執事や侍女長、領地を支えてくれている遠縁の子爵や男爵、周りにエレノアを助けようとしてくれる大人は何人もいた。
だがエレノアは誰にも頼ろうとせず、一人で管理人制度を精査し領地の仕事を任せ、エレノア自身が自由に動ける時間を増やすと、戦場への食糧補給に明け暮れた。

目の下には濃い隈ができて顔色は青白い。いまにも倒れそうなのに、リーダーシップを発揮してグイグイと皆を引っ張り、新しい補給路を確保し、滞りなく食糧を送り続けた。男の服を着て馬を駆り、前線へ何度も足を運んだ。

全てカイルを探すためだった。

ヘンドリックには、公爵家に来てほしいという下心はもうなかった。子どもの頃から知っているエレノアが、賢くも無邪気だったあの少女が、ボロボロになっていく様を近くで見ていて放っておけなかった。
エレノアを救えるのはカイルしかいない、なんとかして見つけてあげなくては。
しかし、ロゼンタールの力で方々手を尽くしても、得られたのはどうやら敵軍の捕虜になったという情報だけだった。捕虜だなんてエレノアにはとても言えなかった。

そして終戦後、捕虜たちは無事に返されたが、その中にカイルはいなかった。


ヘンドリックとカイルの父マグライド辺境伯はエレノアの後見となった。
毎日ふらふらになるまで働いて、死んだように眠るエレノアを、二人でなんとか説得して王都のポリニエール屋敷に移らせた。

ヘンドリックは何とかエレノアを立ち直らせ、自分の足で立てるようにしてあげたいと考えた。
そこで、食糧補給の功で成人と同時に爵位を継承させるよう王を説得し、レオンと結婚させ公爵家という大きな後ろ盾を与えた。

エレノアの気持ちもレオンの気持ちも知っていたが、結婚生活が形だけでも、エレノアが立ち直り、力をつけるまで保てばいいと考えたのだ。

それなのに、まさかカイルが戻るとは‥



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