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第2章 夏祭りとサマーパーティー
第16話 いざ、夏祭りへ
しおりを挟むウルミール王国の首都では、毎年七月末になると夏祭りが開かれる。主に平民に向けた祭りだけれど、たまに貴族が姿を隠して参加していることもある。
だからリシェリアも、夏祭りに行きたくて父に相談したのだが、これまでは毎年「駄目だよ」と取り入ってもらえなかった。娘を溺愛していて、ゲームでもリシェリアのわがままならなんでも聞いてくれるオゼリエ公爵だったけれど、祭りの許可だけはもらえたことがない。
というのも、夏祭りは他所のからくる人々も多い。多くが商人なのだが、中にはよからぬ悪巧みをしている連中も少なくはない。
ただでさえ祭りは人通りが多く、警備の目が届きにくいところがある。そんなところに愛する娘を行かせられるか、というのが父であるオゼリエ公爵の意向だ。
これまではそれに反論することはできなかった。
だけど今年は少し違った。
「お父様、僕がリシェについて行くよ。護衛の数もいつもの倍にしてさ」
ヴィクトルがリシェリアの側についたのだ。
それに父は苦言を口にしたが、武術大会でヴィクトルが活躍したことを知っているからか、うんうん悩みながらも、とうとう折れてくれた。
「わかった。ヴィクトがいるのならね。絶対リシェの傍から離れないと約束して」
ヴィクトルが一緒に来てくれるのは予想外だったけれど、こうして外出許可を得ることができたのは僥倖だ。
それにヴィクトルがオゼリエ家に来たときはまだぎこちなく、父のことも「公爵様」と他人行儀に呼んでいた。それがいまではすっかり仲の良い家族の姿になっていて、なんだか嬉しい。
「夜の七時までには帰ってくるんだ」
「でも花火も見たいわ」
「花火ならオゼリエ邸から見えるじゃないか。あれだったら、お友だちも一緒に連れてきていいからね。早く、帰ってくるんだよ」
過保護なのは相変わらずだけれど、それが嬉しいとさえ思う。
(毎年花火だけは、部屋のバルコニーから見ていたものね。意外と見晴らしがいいから、アリナも喜ぶかもしれない)
そんなことを思いながらも、祭りの日はすぐにやってきた。
◇◆◇
貴族令嬢の服を脱ぎ捨てて、平民が着る町娘のような服装にリシェリアは身を包んでいた。地味な見た目と相まって、どこからどう見ても貴族令嬢らしくない装いになっている。この姿を父に見られたら「我が娘がなんでこんな姿を」と涙を流されるかもしれないが、平民にまぎれるのに貴族の格好は相応しくない。最悪、人攫いの格好の餌食になってしまうので仕方がないことだ。
ヴィクトルも平民の格好をしているが、金色の瞳だけが異質すぎていまいち貴族らしさが隠せていない。使用人から帽子を進められて被ると、街の少年らしさが出てきて意外と似合っている。
まだ昼だけれど、アリナとは十二時に時計塔の前に待ち合わせをしている。アリナとは夏休みに入ってから一度も会えていないけれど、祭りの日に外出許可を貰ったという手紙を出した時はなぜか我がことのように喜んでいた。
(そういえば、ヴィクトルも一緒だってこと伝えてないけれど、大丈夫よね?)
手紙を贈った後に書き忘れていたことを思い出したけれど、アリナはヴィクトルと同じクラスだ。顔見知りではあると思うけれど、攻略対象者と関わりたくないアリナにとっては酷かもしれない。
「ヴィクトル。アリナと一緒にいる時だけ、遠くにいてくれない」
「それはできないよ。お父様との約束を破ることになるからね」
「でも……。ヴィクトルと一緒にいたら、アリナがびっくりするかもしれないし」
「……アリナって、あの黒髪の? いつもリシェと一緒にいるよね」
「うん、友達だから」
リシェリアの返答に、ヴィクトルが少し顔を険しくする。
「友達、ね」
「ヴィクトルも同じクラスでしょ?」
「そうだけど、関りがないからよくわからないな……。というか、僕の顔を見ると逃げられるような……。それでいて、いつも遠くから僕を見ているような気がするんだけど……」
ヴィクトルが首を傾げている。その様子を見るに、やはりアリナはヒロインになるつもりはないようだ。
「とにかく、祭りの間は絶対にリシェの傍から離れないからね」
「うっ……わかった」
アリナにどう言い訳をするか悩みながら待ち合わせ場所に着いた。アリナはまだやってきていないようだ。
祭りがある日だからか、前にアリナと一緒に来たときよりも人通りが多い。これだと傍にいないとすぐに迷子になってしまいそうだ。
行き交う人々を眺めていると、十二時前にアリナもやってきた。
「リシェリアお待たせ……あれ、そちらの方は?」
「ああ、こっちは護衛の」
「護衛だったのね。よかったぁ。ヴィクトル様だったらどうしようかと……違うよね?」
「えっと」
帽子を被っているからか、アリナにはまだヴィクトルだと認識されていないみたいだ。ヴィクトルだと紹介した方がいいのか悩んでいると、先にヴィクトルが頭を下げた。
「リシェリアお嬢様の護衛です。よろしくお願いします」
「うん、よろしくね! ――さすが、リシェリア。お嬢様って感じがするね」
(どうやらヴィクトルは素性を隠すことにしたようね)
それならリシェリアも黙っている方がいいだろう。
「いざ、夏祭りへ!」
右手を振り上げるアリナに、リシェリアたちはついて行く。
◆◇◆
「よかったぁ。ヴィクトル様だったらどうしようかと」
ヴィクトルはアリナの言葉に不快感を覚えた。
(もしかして、僕は嫌われているのか?)
「リシェリアお嬢様の護衛です。よろしくお願いします」
ヴィクトルは自分の姿を隠すことにした。帽子を被る時は自分の瞳を隠すのに少し躊躇いがあったけれど、これは少し好都合かもしれない。
クラスメイトとして、特待生である彼女のことは気になっていた。平民にして、希少な魔法を使える少女。しかも珍しい黒髪。
他の生徒は平民であるアリナと距離を置いているらしく、彼女はクラスでもほとんど一人で過ごしていた。それでもひとりで居てもそれを気にする素振りはない。
(そういえば僕の隣の席の子爵令嬢とは、たまに話しているな)
それだけではない、なぜか別クラスの姉と仲が良い。入学してすぐに意気投合したらしく、一度オゼリエ家のタウンハウスにも訪れたことがあるらしい。
(今日の外出も彼女が言い出したことだと聞いた。何かあるのか?)
公爵令嬢と平民の少女。
普通なら交わることのない道を行く二人が、仲良くしているのは前から気になっていた。
その真意を探るためにも、ヴィクトルは姿を隠すことにしたのだ。
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