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39.「道理で独り身なわけだよ」

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「やっぱり! お前グレイスだろ!!」
「な、ッ」

 咄嗟に私も立ち上がる。
 まずい、何でバレたんだろう。
 半ばパニックになりながら、抵抗を試みる。

「なななな、何を根拠に!」
「今返事したろうが、お前!」

 したっけ?
 ……したかも。

 一瞬で心当たりに思い至った。
 追い討ちをかけるように、彼の方から飛び立ったフェリが、また私の頭の上に留まった。
 いたい、爪がちくちくして痛い。

「イヤー、ナンノコトデスカネ」
「コイツが寄っていくなんて妙だと思ったんだ」
「くっ」

 すっかり確信した口調だった。
 まったくごまかせていない。

 悔しさに歯噛みしながら、頭に乗ったフェリを両手でそっと掴んで降ろさせる。

 まさかフクロウでバレるとは思わなかった。
 だけれどこうしてフェリが私だと気づいてくれたことは嬉しいので、叱る気にはなれない。

 だってかわいいし。もふもふだし。
 頭皮に爪を食い込まされても、前世がバレても許せてしまうくらいには魔性のフワフワだった。

 存分にもこもこちゃんを捏ね回している私を見ながら、フェイが呆れ顔でため息をつく。

「お前、子どものフリ下手すぎだろ。こんなの即バレるぞ」
「今日まで誰にもバレてない」
「嘘つけ」

 嘘じゃないし。
 ちょっと怪しまれてはいるかもしれないけど、バレてはいない。

 私が鼻息を荒くしているのを見て、どうやら嘘ではないことに気づいたらしいフェイが「マジかよ」と呟いた。
 大マジである。

 彼が私を頭の上からつま先まで、じっくり眺める。
 そして感心したような、それでいて訝しむような、そんな顔で首を捻る。

「お前が死んだの、7年前だったか」
「そうなの?」
「で、今のお前は?」
「6歳」
「蘇生って、そういうことになんのか」
「さぁ……」

 私も一緒になって首を捻った。
 これが成功なのかは私にも分からないからだ。

 私の身体が木っ端微塵だったことが関係しているのか、その辺りも検証の必要がある。
 対照実験や再現性の確認には自分の加護をひっぺがした挙句魔法で木っ端微塵になってくれる被験体が必要だけれど……そんな人間がそう何人もいるとは思えない。

 非人道的な人体実験ももちろん法律で禁止されている。
 ギリギリ許されるのは自分の肉体を用いた場合だけだろう。

 私が蘇生術について考え始めたところで、しばらく私の顔をじっと見つめていたフェイが、ふと口を開いた。

「つーか、自分の教え子と結婚って、お前……」
「何よ」
「もしかして、そういう、アレなわけ? ショタ的な」
「違います」
「道理で独り身なわけだよ」
「違うって」

 フェイの肩にパンチをする。
 冗談だったようで、彼はからからと笑った。冗談であってくれないと困る。

 というか、今の身体だとむしろノアの方が世間体的にはまずいことになっている気がする。
 いくらなんでも6歳は若すぎるともっぱらの評判だった。

 ふざけて笑うフェイの調子は、私の記憶にある彼そのままで……つい、自分が死んだことを忘れそうになった。

「で? あの坊ちゃんは? 喜んでたかよ」

 フェイがそう言うまでは。
 そうか。その話題は、避けられないか。
 気まずさに俯きながら、返事をする。

「……言ってない」
「……は?」
「言ったでしょ。誰にもバレてないって」

 私の言葉に、フェイが目を瞬いた。
 彼に向き直って、えっへんと胸を張って見せる。
 そう、バレていないのだ。フェイ以外には。いや、フェイとフェリ以外には、か。

 実質フェリにバレたからこそ彼も気づいたわけで、そういう意味ではこの私の手を一生懸命に齧っているもふもふちゃん以外にはバレていないと言えるのでは。

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