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29.子どもの頃の彼の面影
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そんなことを考えながら本を読んでいるうちに、ノアの膝を枕に昼寝してしまった。
一生懸命思考していたはずなのに、いつの間にやらすこんと意識が落ちていた。
子どもの体、何とも恐ろしい。
というか私だけではなくノアも一緒になって昼寝していた。私が起き上がってなお、ベッドに倒れてすうすう寝息を立てている。
膝に私が乗っていたからか奇妙な姿勢だ。起きたらどこかしらを痛めていそうである。
寝ているノアの顔をじっと見る。
睫毛が長い。気が抜けているからか、普段よりあどけない表情に見えて――子どもの頃の彼の面影が、少しだけ垣間見えるような気がした。
それにしたって、顔のパーツと言うか位置と言うか、そのあたりはずいぶん大人びてしまったけれど。
起き上がって、ベッドを降りる。昼寝をして元気たっぷりだ。
昨晩の残りのサラダが保冷庫に突っ込んであったので、それとハム、ジャムを塗ったパンをがじがじと齧る。おいしい。
栄養補給が済んだところで、窓の外を見た。もう夕方になっている。
子どもの体になってからと言うもの、何だか1日経つのが早い気がする。昼寝のせいかもしれないけれども。
玄関に置いてあったランタンを手に取る。
靴箱の上に2つ、それから靴箱の中に2つ、全部で4つ。
これくらいなら、今の私の魔力でもなんとかなるだろうか。
ノアの部屋に戻って、先ほどノアが見せてくれた魔導書を持って庭に出た。
先日のノアの真似をして、木の枝で地面に魔法陣を描く。私が子どもの頃には、浮遊くらいなら指先の魔力で描くだけで使えていたが――一般的な子どもにできることなのか、自信がない。
物理的に描いておいた方が無難だろう。
自分で描く時の手癖で描いてしまいそうになるのを何とか抑えながら、魔導書の魔法陣を丁寧に描き写す。
いやいや、ここは絶対省略できるでしょう。あとこれ順番が逆の方が良いんじゃないの。これ、描き順を間違えたら魔力が反対向きに作用しそうだし。
分かりやすく基礎基本を、詠唱と同じ順番で描く練習という意味ではいいのかもしれないけれど、どうしても粗が気になってしまう。
せっかく詠唱じゃなく魔法陣を使うんだから、魔法陣の良さに適した記法を使うべきだと思う。
心の中でぶつくさ言いながら、4つ魔法陣を描き終えた。
その上にそっとランタンを載せて、マッチで火を灯す。
今の私の魔力では、火を灯すところには魔力のリソースを割けそうになかったからだ。
走って家の中に戻る。
相変わらず寝こけているノアのお腹に、開きっぱなしでベッドに放ってあった本を載せた。
1冊では起きなかったので、もう1冊。さらにもう1冊。
さらに倍。
「おも……」
「旦那さま! 朝です!」
「何ですぐバレる嘘つくんだよ……」
ノアが呻いて、もぞもぞと体を動かす。本がばさばさとベッドに落ちた。
彼の瞼がうっすらと開いて、私を捉える。よし、起きた。
「旦那さま、早く、早く!」
「何なんだよ、もう……」
まだ眠そうに眉間に皺を寄せている彼の腕を引っ張って、庭に連れ出した。
そして魔法陣に近寄って、魔力を込める。
「《浮遊》!」
ふわり、とランタンが浮き上がる――はずだった、のだけれど。
魔力量を間違えたのか、4つのランタンが一気に、猛スピードで空へと射出されていった。
二人でぽかんと口を開けて、天へと昇っていくランタンを見送る。
きらん、と最後の輝きを残して、星々が光り始めた夜空に消えて行った。
一生懸命思考していたはずなのに、いつの間にやらすこんと意識が落ちていた。
子どもの体、何とも恐ろしい。
というか私だけではなくノアも一緒になって昼寝していた。私が起き上がってなお、ベッドに倒れてすうすう寝息を立てている。
膝に私が乗っていたからか奇妙な姿勢だ。起きたらどこかしらを痛めていそうである。
寝ているノアの顔をじっと見る。
睫毛が長い。気が抜けているからか、普段よりあどけない表情に見えて――子どもの頃の彼の面影が、少しだけ垣間見えるような気がした。
それにしたって、顔のパーツと言うか位置と言うか、そのあたりはずいぶん大人びてしまったけれど。
起き上がって、ベッドを降りる。昼寝をして元気たっぷりだ。
昨晩の残りのサラダが保冷庫に突っ込んであったので、それとハム、ジャムを塗ったパンをがじがじと齧る。おいしい。
栄養補給が済んだところで、窓の外を見た。もう夕方になっている。
子どもの体になってからと言うもの、何だか1日経つのが早い気がする。昼寝のせいかもしれないけれども。
玄関に置いてあったランタンを手に取る。
靴箱の上に2つ、それから靴箱の中に2つ、全部で4つ。
これくらいなら、今の私の魔力でもなんとかなるだろうか。
ノアの部屋に戻って、先ほどノアが見せてくれた魔導書を持って庭に出た。
先日のノアの真似をして、木の枝で地面に魔法陣を描く。私が子どもの頃には、浮遊くらいなら指先の魔力で描くだけで使えていたが――一般的な子どもにできることなのか、自信がない。
物理的に描いておいた方が無難だろう。
自分で描く時の手癖で描いてしまいそうになるのを何とか抑えながら、魔導書の魔法陣を丁寧に描き写す。
いやいや、ここは絶対省略できるでしょう。あとこれ順番が逆の方が良いんじゃないの。これ、描き順を間違えたら魔力が反対向きに作用しそうだし。
分かりやすく基礎基本を、詠唱と同じ順番で描く練習という意味ではいいのかもしれないけれど、どうしても粗が気になってしまう。
せっかく詠唱じゃなく魔法陣を使うんだから、魔法陣の良さに適した記法を使うべきだと思う。
心の中でぶつくさ言いながら、4つ魔法陣を描き終えた。
その上にそっとランタンを載せて、マッチで火を灯す。
今の私の魔力では、火を灯すところには魔力のリソースを割けそうになかったからだ。
走って家の中に戻る。
相変わらず寝こけているノアのお腹に、開きっぱなしでベッドに放ってあった本を載せた。
1冊では起きなかったので、もう1冊。さらにもう1冊。
さらに倍。
「おも……」
「旦那さま! 朝です!」
「何ですぐバレる嘘つくんだよ……」
ノアが呻いて、もぞもぞと体を動かす。本がばさばさとベッドに落ちた。
彼の瞼がうっすらと開いて、私を捉える。よし、起きた。
「旦那さま、早く、早く!」
「何なんだよ、もう……」
まだ眠そうに眉間に皺を寄せている彼の腕を引っ張って、庭に連れ出した。
そして魔法陣に近寄って、魔力を込める。
「《浮遊》!」
ふわり、とランタンが浮き上がる――はずだった、のだけれど。
魔力量を間違えたのか、4つのランタンが一気に、猛スピードで空へと射出されていった。
二人でぽかんと口を開けて、天へと昇っていくランタンを見送る。
きらん、と最後の輝きを残して、星々が光り始めた夜空に消えて行った。
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