上 下
19 / 64

18.先生冥利に尽きるんじゃないかな。

しおりを挟む
 空に浮かんだランタンに、一斉に火が灯る。
 夕闇の迫った空に、やわらかくあたたかな光が無数に浮かびあがった。

 ランタンの種類によって、光の形が違う。煌めきの強さが違う。
 十や二十ではきかない数量のそれが夜空を彩る様は、思わず口を開けてしまうほど、圧巻だった。

 それはまるで、星が降り注いでいるのようで。
 それはまるで、光の妖精が踊っているかのようで。
 幻想的なその風景は……私が今まで見たものの中でも、5本の指に入るくらい、綺麗で、そして……私の気持ちをわくわくと高揚させるものだった。

 そうだ。この景色。
 私はこれが、大好きだった。

「きれいでしょ?」

 グレイスがノアに話しかける。
 ノアは今の私と同じようなぽかんとした表情で、空を見上げていた。

「魔法って、確かにこうしてものを浮かせたり、動かしたり、便利だよね。でもそれだけじゃないんだよ」

 グレイスが、また口角をあげてにーっと笑う。
 その琥珀色の瞳には、ランタンの光がたっぷりと反射している。

「こんなふうに、私の心を動かすの」

 ノアが、グレイスのことを見つめていた。
 そのノアの瞳も、ランタンの光を取り込んできらきらと、輝いている。

「それってすごいことだと思わない?」

 私は空の上でランタンと一緒になって、前世の自分とノアを見下ろしていた。

 ちょっと照れくさくはあるけれど、私の……グレイスの言葉に嘘はなかった。
 きっと今だって……一度死んだ今だって、同じことを言うと思う。死んでも治らない魔法馬鹿だって、同僚に言われたくらいだし。

 だって私は、魔法というものが本当に、好きだったから。
 それを突き詰めていくうちに、大魔導師にまでなってしまっていたんだから。

「これが出来たら楽しいなって、それを叶えてくれたり。こんなふうに、魔法がなかったら見られない景色を見せてくれたり」

 グレイスが、ランタンを一つ、手に取った。
 そしてそれを持って、ノアの元へと歩み寄る。
 まだぽかんとしているノアの手に、ランタンを押し付けた。

「だからノアにも、魔法、好きになってほしいんだよね」

 そこまで言って、グレイスは照れくさそうに笑ってから、こう締め括った。

「それだけ」

 ふわりと、私の身体が浮き上がる。グレイスを、ランタンを置き去りにして、空のもっともっと高いところへ、上っていく。
 きっと夢から覚めるのだと、確信はないけれど、何となくそう思った。

 ああ、こんな日があったな。
 忘れかけていたけれど、思い出した。

 ノアが私の言葉に何と答えたのか、それは覚えていないけれど……この後ぐらいから、ノアは魔法に熱心に取り組んでくれるようになった。
 だから、魔法、少しは好きになってくれたのかな、なんて思っていたけれど。

 今のノアは、あまり魔法に興味がないみたいだった。
 魔法じゃなくてもいい。他の何か新しいものでも、人でもいい。興味を持って、元気を出してくれたら。
 そして出来たら、また魔法のことも好きになって、またあの時みたいなきらきらした瞳を見られたら。
 それって、先生冥利に尽きるんじゃないかな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」  行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。  相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。  でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!  それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。  え、「何もしなくていい」?!  じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!    こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?  どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。  二人が歩み寄る日は、来るのか。  得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?  意外とお似合いなのかもしれません。笑

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました

さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。 私との約束なんかなかったかのように… それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。 そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね… 分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

処理中です...