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13.いや、それはまぁ、子どもですから

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 パクパクと食事を平らげる間も、ノアは黙って私の様子を眺めていた。
 まるで奥歯で胡椒の粒を噛み潰したような顔だ。
こんなにおいしいのに、どうしてそんな顔をするのだろう。

 あっという間に皿が空になる。
 お腹が満たされたところで、はっと気づいた。

「作ってくれてありがとうございます!」
「お礼を言ってほしいわけじゃない……」

 ノアがそうため息混じりに返事をした。
 あれ。てっきり感謝が足りませんよというアピールだと思ったのに。

 彼の顔をじっと見ていると、ノアが何か言おうと口を開く。
 その瞬間。
 コンコン、とノックの音がした。

 こんな朝から誰だろう、と時計を見ると、何のことはない、もう昼近かった。
 身体が慣れない式典で疲れていたのだろう、目が覚めたのは思ったよりも遅い時間だったようだ。どうりでお腹が空くわけである。

 ノアがキッチンの壁に触れる。ドアが開く音がして、誰かがドタバタと駆け込んできた。

「ノア! アンタ大丈夫!?」

 リビングの入り口を潜って現れたのは、とても背の高い、がっしりとした体つきの男だった。
 髪の色は銀色。顔が遠いところにあるので、瞳の色は分からない。
 ……男、だよね?

「ジェイド。何の用」
「何って、心配で見に来たのよ! アンタが子どもの面倒なんて見られるわけないもの!」
「ぐ……」

 男……ジェイドの言葉に、ノアが図星を突かれたという表情で眉を顰める。
 ちゃんと食事も用意してくれたし、お腹もトントンしてくれた。実は結構面倒見が良いんじゃないかと思うけれども。

 ノアに詰め寄っていたジェイドがこちらを振り向いた。
 その目がみるみるうちに見開かれていく。
 名前の通りに翡翠色をした瞳だった。

「んまぁ~!!」

 彼は両手を組んだ状態でしなを作り、その場でぴょんと飛び跳ねた。
 身体をくねくね、目をキラキラさせながら、素早く私に近寄ってくる。

「結婚式の時も思ったけど、本当に可愛いわ! お人形さんみたい!!」
「やっぱりそうでしょうか」
「あら、自覚あるのね」

 ある。
 私も前世の記憶が戻った瞬間、童話から抜け出たような容姿だと思ったからだ。

「髪ふわっふわだし、お目目もくりくり!! 華奢で小さくて、妖精さんかと思っちゃった。ああ~可愛いわ~すっごく可愛いわ~」
「いや、それはまぁ、子どもですから」
「反応が子どもらしくないわね」

 ぎく。
 まずい、ガバガバの子ども演技ではノアは騙せても他の人間は欺けないかもしれない。
 下手に話さない方が得策と見て、目の前の男をじっと見上げるだけに留めた。

 男、だと思う。ノアよりも背が高く、筋肉のついたがっしりした身体つきをしている。
 銀色の髪のサイドはラフに刈り上げられているものの、後ろ髪の一部は長い。

 顔を見ても、やっぱり男だ、と思うのだが。
 言葉遣いと仕草が何となく女性のそれに近いような気がして、判断に迷う。
 説明を求めようとノアに目を向けると、ノアは私の視線を受けて、面倒くさそうにジェイドを指さした。

「魔法警察の、……知り合い」
「もう! 友達って言いなさいよ! 素直じゃないわね!」

 ジェイドが勢いよくノアの背中を叩く。
 バシンとなかなか派手な音がして、ノアがうっと呻いた。痛そうだ。

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