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想いのあやとり

文化祭準備④ 

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あれから数日、というか一週間前になった。
春風は未だに放課後の連絡会には顔を出さず、学校で会っても避けられるようになった。

「どうしたもんかねぇ」

「どうしたもこうしたもないよー、何もできないんだからしない方がいいのさっ」

フードコートにて、いつもの席で月灯はしなったポテトを肘をつきながらだるそうに口に持っていく。
相変わらず、顔が整って気だるげな感じもまた可愛いのは言わなくても周知の事実である。

「でも、このままじゃ文化祭うまく回らないぞ」

「僕は別の学校だもーん、知らないよ?」

「冷たい…」

それを言ってしまったら、この定期連絡会の意義も揺らいでしまうではないか。

「しょうがないじゃーん、そんな事より二人きりなんだから楽しも?」

「それは確かにそうだけど…」

言われてみれば正式に付き合い始めてから二人っきりになる事があまり多くなかった。
そりゃ欲を言えば、二人の時間取りたい。

「僕は少しだけ嫉妬をしてます」

急に月灯はポテトを食べる事をやめ、手を腰にやりわざとらしく口を尖らせる。可愛い。

「な、なんでだよ…」

「僕との二人の時間だよ?いくら業務連絡だって言ったって…ここ最近ずぅーっと僕と居てもすぷの事しか考えてないじゃん。普通の彼女ならこーゆーのは我慢したりするのかもしれないけどさー?僕は嫌って思ったらすぐに嫌って言うからね」

「それに関しては確かにそうだな…ごめん」

本当に申し訳ない、でもそうやって言ってくれる方が本当に助かるから嬉しくもあった。

「よしっ、今からすぷに会いに行こ!」

「え?何もできないからしない方がいいんじゃーー」

「バカ彰仁!本当に君って奴は…」

会話を遮られて何を言われるのかと思いきや今度は罵られた。

「えぇ…?」

「今まで嫉妬してたから意地悪してたの!すぷに会ってほしくなかったの!」

「…あぁ、そゆこと」

やっと意味がわかった。
仕事の事を考えたら春風を連れ戻すため家に直行するのが一番手っ取り早いが、彼女である月灯は春風に嫉妬をしていたため、会いに行って欲しくなかったのだ。
今彰仁に想いをぶつけてスッキリしたから、仕事優先できるようになったと言うわけだ。
単純な人だなぁ

「春風の事を考えてたから何もしないのがいいって言ったのかと思ったぞ」

「本当にバカだね、僕がそんなこと考える人じゃないでしょ」

「確かに違和感はあったな…」

「このバカ彰仁。大好き」

「愛とムチのインターバルが凄い…」

____________________

そうして着いた春風の家の前。
アパートの殺風景な扉の前で彰仁と月灯は立ち尽くしていた。

「なななんか……きんちょする」

「緊張するけど…そんなガタガタなるか?」

性格が表に出やすい彼女である。

彰仁がインターホンを押して、月灯が彰仁の右手に抱きつく。
しばらくして…

「お、おっす」

「「お、おっす」」

部屋着の春風が間抜けな声を出して出迎えてくれた。

「と、とりあえず…あがってくだ、さい」

「なんだお前、キモイぞ」

「すぷ…なんか可愛い」

「っるさい!早く上がって!」

言われるがまま、彰仁たちは春風の家に足を踏み入れた。

「すぷのセンスを凄く感じる。僕ここ住む」

「っ何言ってんだ、バカ」

早速来るや否やソファにダイブした月灯に軽くチョップをお見舞いしてやる。
アイデッとよー分からん声を出していた。

「とりあえず、みんなコーヒーでいい?」

「あーさんきゅーな」

「あー!僕牛乳がいい!ある?」

「あるでぇ」

手早く春風が作ってくれたコーヒーがテーブルの上にコトンと置かれ、彰仁も月灯も春風も3人静かに椅子に座った。

「で、私を連れ戻しに来た訳?」

察して話を切り出したのは春風だった。
ただ、その声は少し掠れている。

「あぁ、お前が居ないと文化祭は成り立たない」

「そうだよ!すぷ、彰仁がこのままじゃ過労死する!」

まぁ、生徒会長が居ない分の仕事をこなしていたのは事実だが、過労死はしないぞ。
過労死舐めんな。

「そっか…」

春風は湯気が立っていないコップを口にもってゆく。

「私居なくても回ってるんだよね?」

「なんとかな」

まさかこいつ、自分が生徒会長じゃなくてもとか思ってんのか?
春風じゃないと回らない仕事を死ぬ気でこなしてるんだが。

「なら私居なくてもいいんじゃない?」

「すぷ…?」

掠れた声に月灯が異変を感じた。

「私さ、やっぱ向いてないんだよ。生徒会長」

「生徒会長向いてないってのは?」

「お前だよ…星川の方が向いてる」

だと思った。
彰仁は大きな声にならないため息を吐く。

「す、すぷ…そんなこと言わないでよ、すぷに投票してくれた人を裏切ることになるよ?」

月灯はホットミルクの入ったマグカップに両手を優しく添えながら言った。

「私が活動してトラブルを増やす事が何より裏切ることになるんだ」

「すぷ」

もう我慢ならん。

「おい、春風」

「なんだ…彰仁」

「俺の目を見ろ」

「あぁ」

「コーヒーに映る自分の酷い顔見つめても何にもならないぞ」

「…っるさいなぁ!私は!」

春風は涙を流して、腫れた目をしていた。
やっとこっちを向いた。目を見た。

「私はずっと迷惑しかかけてないっ!自分勝手の自己中なんだよ!」

「「………」」

「もう嫌なんだ…自分の無力に嘆きたくない。後ろ指刺されたくない。何してもダメだって思いたくない」

「自己中で何が悪いんだ」

「「へ?」」

「生徒会長は自己中でいいんだよ。文化祭なんてそんなもんだろうが」

「…な、何言ってんの?迷惑掛けるじゃん」

なんて酷い顔してんだよ、春風。

「迷惑かけちゃダメなのか?かけろ。死ぬほどかけて、逆に掛けてもらえ。そんで執行部とか文化祭に関わる全ての人は生徒会長の自己中な迷惑をなんとか形にする為の組織なんだよ。考え方がそもそも偽善者なんだ、てめぇは」

「ぎ、偽善者っ……て、は?馬鹿なの!?」

「馬鹿なのはどっちなんだよ!後ろ指刺されたくない?自分の無力に嘆きたくない?そんなのは全部終わってからにしてくれ!本当のも、勝手に期待されてるプレッシャーも知らないくせに嘆くな!」

彰仁はどうしようも無い運命に嘆いた。
彰仁はどうしようも無い期待に潰されそうになった。
世界を救う事が使命だと言われているようなもので、それでも必死に生きている。
皆を助けようともがいている。
強い春風がそれくらいで挫けそうなのが何よりも彰仁はイラつきを覚えた。

「っ…」

「いいか?そんな嘆く時間すらないなか俺らはお前を迎えに来たんだ」

「…うん」

「全部終わって、嘆いてくれ。そんときは俺の胸でも貸してやる」

「わかった…ごめん」

「あぁ、時間ないから俺らはこれで」

「ありがと」







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