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【花火大会】

碧天の嘘

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彰仁と月灯が離れたあと、残った2人はベンチに座ったまま1時間を過ごすことにした。
それはお互いの合意の上である。

「私たち、お互いに知らなすぎますよね」

「そうかもね」

「質問したいことお互いあると思うので雑談して星川くん達待ちませんか」

「そうしようか」

木陰になっていて、涼しいので熱中症になる恐れもない。
ほんのり火照る体ではあるが汗が出るほどでは無い。

「改めて自己紹介しましょうよ」

「うん」

「私は葛城碧天です」

「私は氷谷ひたに菜月です」

「珍しい苗字ですね」

「うん、よく言われる」

顔をお互い合わせず、ベンチで横に並ぶ。
特に何を見ているわけでもなく、虚無。

「私から質問していい?」

「ええ、もちろん」

「浮気したって言ってたよね、なんで彰仁がそれを許して今一緒に来てるの?」

それは菜月の中で1番知りたい事で、含みのある言い方をする。

「言い方にトゲを感じますよ」

「うん、そうしてるから」

まったく…と首を横に振って碧天は答える。

経緯を全て話したら菜月は驚いた顔をした。

「全部、彰仁の為って事?」

「もちろんですよ」

彼の事が好きですから、と碧天は言う。

「簡単に嘘つくんだね、碧天さん」

「え?」

碧天は聞き間違いをしたのかと錯覚した。
目を丸くし聞き返す。

「どう言う事ですか」

「なんでそんなに嘘つくの?」

「えぇっ?」

困惑の色を浮かべる彼女に菜月は言及を続ける。

「バレたのに取り繕わないでよ」

「いや、だから…」

「全部偽ってるのバレたってば」

碧天は諦める。

何故か彼女にはバレてしまった。
私はこんな女の子にも嘘を付けないのか。

「星川くんの事、ほんとに好きなんですね」

「彰仁も分かってるよ」

「そうですか…ならもういいです」

「どういう意味?」

彼女は黙り込んでしまう。

「ねぇ、碧天さん」

「何故分かったんですか」

「碧天さんが優しいからかな」

「そうですか、ありがとう」

それから二人の間には沈黙が続いた。

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「お待たせー!」

月灯は2人を見るや否やベンチの方に飛んでゆく。

「あぁ、帰ってきたんだ、楽しかった?」

「菜月ちゃん…楽しかったよぉ」

「おい、そんな含みのある言い方すんな」

また意地悪するようににやりと笑う月灯を彰仁が軽くチョップする。

「おかえりなさい、星川くん、月灯ちゃん」

「うん、碧天も待たせたね」

そうして合流を果たすと、菜月が彰仁を見る。
変に思ったので菜月の方に近づくと耳を貸せと言われた。

「なに?」

「気をつけてね、碧天さん」

そんなことを言ってきたのかこいつ。
俺をなめすぎだろ。

「言われなくても」

離れようとしても菜月は心配そうにこちらを見て何かを訴えてくる。

「大丈夫だ、何かあったら慰めてもらうから」

「そう、ならいい」

なんかツンツンしてんなぁ…


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「月灯ちゃんと西側に行ったんですよね」

「あぁ」

中学別れてから一度も話さなかったせいかこいつと二人きりになると何故か言葉につまる。
てかずっと思ってたけどなんでこいつ敬語なん

「なら私たちは東側行きませんか?」

「そうだな」

合意をして東側に歩みを進める。

「置き手紙見てくれました?」

「見たぞ」

「電話掛けてくれてもいいのに」

「かける必要がないからな」

「そうですか」

淡々としていて、感情の起伏を感じない。

「で、なんで付いてきたんだよ碧天」

「星川くんと仲良くしたいからですよ」

「そうかい」

嘘しか言わねぇなこいつ。

「あ、かき氷買いません?」

「いいよ」

通りにかき氷の屋台が出ていて、それに目が釘付けになる。
彰仁と碧天は注文をする。

「ハワイアンブルーでお願いします」

「ストロベリーで」

へいへい!と店主は威勢のいい声で答える。
奥の台にはかき氷機があり、氷塊を金属のボディでがっちり掴んでゴリゴリと削って行く。

「へいお待ち、嬢ちゃんたちカップルかい?」

「いや、そんなんじゃない…」
「そんな風に見えました?」

彰仁の否定を塗りつぶす様に碧天が店主に問う。

「見えるとも、仲良さそうで熱々だな」

「そんな事、照れます…」

照れるな。

「熱々でかき氷溶かすなよ!ガッハッハッ」

笑い方が見た目と一致しすぎて少し面白いなこの人。

「ありがとうございます!」
「はぁ…」

否定しようとしたら食い気味に乱入した碧天は何事の無かったかの様にかき氷を口にする。

「なんで否定しないんだよ」

「別に肯定もしてませんが」

「実質肯定したみたいなもんだろ」

「あの人に嘘をついても何も害が無いから別にいいと私は思いますが」

「害がないから嘘をついてもいい…か」

「ええ」

碧天はまたかき氷を口に運ぶ。

「俺を利用したいのか」

「何を言い始めるんですか」

もうめんどうなので単刀直入に言う。

「無理に仲良くしようとすんな、気持ちが悪い」

「菜月ちゃんにもバレましたし…するどいですね」

彰仁もかき氷を一口。
どこに進んでいるのか分からず、東側の通りを歩く。

「そうだな、お前が隠すの下手なんじゃないのか」

「月灯ちゃんにはバレてないです」

「そーゆーとこがバレるんだよ」

馬鹿かよこいつ。

「でも本当の事はあります」

「それは?」

「本気で星川くんの事が好きだったという事実です」

「それは本当かもなぁ……どうしちゃったんだよ、碧天」

「何故でしょうね…私もこうなるなんて思いませんでした」

「大人は身勝手だな」

「ほんとですよ…子供の事を所有物と思って嫌になります」

「そうだな、お前はそうかも」

「ええ」

こうなってしまったのもしょうがないのかも知れない。
でもそれは許されない。

「私もう帰ります」

「そうか、もう二度と俺らの前に現れない事願うよ」

「助けてくださいよ…」

その目は赤く潤んでいた。

「俺が助けるとかどんな皮肉だよ」

「確かにそうかもしれませんね」

ふふふと上品に笑う彼女はいつもより憂いを帯びている。

「待ってます」

「あぁ、じゃぁな、嘘つき」

「ではまた…星川彰仁くん」

彼女は人混みに揉まれて消えていった。

「さぁ、戻るか」

彰仁は来た道を戻る。
かき氷は解けた。
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