126 / 134
☆第百二十六話 蜃鬼楼の世界☆
しおりを挟む大きな光の穴へ向かいつつ、ケモぐるみ小美人たちが告げる。
「あれが、蜃鬼楼世界ですわ」
「到着です~」
「ひゃっほぅ~っ♪」
眩しい輝きに包まれたかと思ったら、光が収まって、章太郎たちは地面の上にいた。
「……おぉっ!」
瞼を開けると、蜃鬼楼たちの世界が、視界いっぱいに飛び込んでくる。
「こ、これが…」
「うむ…蜃鬼楼たちの世界…なのか」
戦闘隊長として、現状把握に努めるブーケも、目の前の景色に驚愕をしていた。
みんなで降り立った地面は、広い大地という場所ではなく、青空の中に数多と存在している、浮遊大地の一つだ。
周囲は雲も浮かぶ青空だけど、前後左右上下とも、ドコまでも空が続いており、遠くの遠くまで、大小様々な浮遊大地が漂っている。
感動している、雪と美鶴。
「なんとも、幻想的な…」
「ドコまでも飛べそ~♪」
章太郎たちが降りた場所は、割と広い大地と言えるけれど、もっと広大な浮遊大陸と呼べる広さの場所もあった。
「緑が凄いなー」
「大きな海もあります~♪」
月夜と翠深衣も、驚いている。
今いる土地は、小山や湖もあり、桃太郎や金太郎たちの童話世界にも似ていたり。
しかし様々な浮遊大地には、ほぼ自然とは程遠い景色も、見受けられた。
「主様、あの建造物は…」
「ああ…、もう ごちゃ混ぜだな…」
ある大地には氷で出来た西洋のお城が建っていて、また別の大地には大きな入道雲がモクモクと湧き続けて蠢いている。
「古今東西って言うか…色んな童話の建物が 乱立してるな」
「ね~ね~章ちゃん~。あれってさ~、章ちゃんたちの世界の建物だっけ~?」
桃太郎に呼ばれて、見ると、アスファルトの大地に建った凱旋門の上に東京タワーが建っていて、第二展望台の上がスカイツリーになっていた。
「…なんだあれ…?」
スカイツリーの更に先端は、上下逆になったエジプトの砂漠に建てられた、ピラミッドの天辺に刺さっている。
それらはそれぞれに、蜃気楼みたいにユラユラと揺れながら、別々に消えかかったりハッキリと現れたりもしていた。
「俺たちの世界も混ざってる…なんか あっちには雷門もあるし、遠くには五重塔も見えるな」
章太郎から見た現実世界の、古代から近代の建築物までもが、各処に散見出来る。
「こいつぁ…」
「た、大将…オイラ、こんなヘンテコな場所なんて…初めてでさぁっ!」
――くんくんくん。
鬼たちやお供たちも、異様な世界に緊張している様子。
風景と言うか世界の確認で、章太郎たちは忘れていたけれど、異世界転送の為に小美人な蜃鬼楼たちが描いた術式は、役目を終えて消失していた。
「え~、みなさん~」
「取り敢えずですね~っ、足下にはぁっ、気を付けて下さいね~んっと♪」
「ドコまでも果てのない世界なのですので、土地から離れると、様々な別の土地へと 引っ張られてしまいますのです」
「ほほぉ、なるほど なるほど」
「え、えぇ…?」
蜃鬼楼たちの説明に、ツキノワグマのツキノは直ぐに理解をして、よく解らない金太郎はちょっと怯えたり。
蜃鬼楼の世界は、そもそも、章太郎たち現実世界の人間たちの意志や想いなどが、本や童話の物語を通って集まって出来た、新たな宇宙と言える。
だからなのか、様々な世界や時代の特徴的な建造物や景色が適当に混ざったような、雑多な感じだった。
そして章太郎は、感じた違和感を、ケモぐるみたちへ尋ねる。
「…ねえ。この世界って、蜃鬼楼たち以外の生命体って、いないの…?」
話しやすいよう、かがんだ少年へ、小美人たちは笑顔で答えた。
「はい。この世界は、私たち蜃鬼楼だけが 存在しておりますですわ」
「女王様と~、蜃鬼楼の~ ハト派と~、タカ派だけです~」
「この世界ではぁっ、全てが始祖であられる女王様から生まれ出る命~っ、だけなのですよ~とっ! こりゃあ驚いた~っ!」
「……なるほど…」
無限に広がる青空のような蜃鬼楼世界を見ていると、女王は決して悪意ある生命体ではなさそうだとか、章太郎には想像される。
戦闘隊長であるブーケが、肝心な事を尋ねた。
「それで、蜃鬼楼のクイーンは、どこにいるのだ?」
章太郎たちも、小美人たちを見る。
「はいぃ~っ! ここからぁっ、も少しぃっ、あっちです~っ!」
と言いつつ、小さな腕と人差し指で斜め上方向を指さす、ウサギ形蜃鬼楼。
「あっち…だよな」
上下左右前後が無限の空間で、いわゆる重力も一定方向でないなら、東西南北もないだろう。
全ての浮遊大地も、それぞれが適当に傾いていて、しかもユックリと揺れたり流れたり廻ったりしているのだから、方向を聞かれても「あっち」としか言いようがない。
「え~、それでは~、みなさん~」
「これより、女王の処へ赴いて、削りに削って戴きたく願いますですわ」
「それでぇ~っ、行き方なんですっ、けれどぉ~んっ♪」
浮遊大地から離れると、無重力みたいな空中移動になって、別の浮遊大地の引力に引っ張られるらしい。
「なので~っ、注意しないとっ、目的の土地とはっ、違う場所に~っ、到着しちゃったりします~とっ! あらっ、大変~んっ♪」
「…なるほど。重力と無重力って事か」
「? なんの事~?」
章太郎はすぐに理解が出来たけれど、桃太郎たちには、よく解らないらしい。
試しに、ブーケが小石を拾って投げてみたけれど、意志のない物体は元の大地の引力に引かれ、普通に落下してきた。
「ふむ…では、美鶴と鳳翼丸、ちょっと頼む」
「お任せ~♪」
――ピヨピヨ…ケーーーーーーーーーーンっ!
ブーケから頼まれた美鶴が鶴へと姿を変えて、ヌイグルミのヒヨコがメカ生体の雉へ変身をする。
「ほぇ~っ! 章ちゃんの雉、変化するの~っ?」
――ケーーーン♪
桃太郎とお供の雉も、その様子に驚いたりワクワクしたりしていた。
「それじゃ~、試してみるね~♪」
鶴とメカ怪鳥が大地を蹴って、フワりと浮かび上がる。
「飛べるよ――うわ~」
上空三メートル程にまで上昇をしたら、無重力になったらしく、そのまま勝手に身体が飛翔をしてしまったらしい。
二羽が羽ばたいて体勢を変えると、少し離れた、上下が逆さまな別の浮遊大地へと、普通に着地をした。
『やっほ~♪』
「………」
上下が逆さまな地面で、手というか羽根を振る鶴とメカ雉の様子は、なんだか不思議な感じ。
ブーケが二羽へ、大きな声で尋ねる。
「美鶴~、鳳翼丸~、大丈夫か~?」
『うん~♪ 上下が変わった~、くらいだよ~♪』
無重力から重力圏へ浮遊しながら、羽根によって体勢を変化させる事が出来たのは、この世界全体に空気があるからだ。
美鶴と鳳翼丸の移動する姿に、章太郎は、映像出見た宇宙ステーション内部の様子を思い出したり。
「本当に、無重力空間って感じだなー」
「それでは皆様、まずは、空間移動を 身に着けて下さいませ」
リス形蜃鬼楼に促されて、章太郎たちは、この蜃鬼楼世界を自由に行き来できるようにと、移動のレクチャーを受ける事となった。
「…せーの…っ!」
勢いを付けてジャンプをすると、身体が重力から解放される感じがして、一気に上空まで飛び上がる。
「おおぉ…うわわわっ!」
無重力が当たり前に初体験な章太郎は、身体が意図的とは言えない方角へ流れてゆくという事実に、恐怖心が湧き上がった。
ジャンプした頭上には目指した地面があって、それが一定速度でグングンと近づいて来る感覚は、まるで地面へ向かって落下をしているような、視覚的な恐怖感だ。
そして、元いた浮遊大地の引力圏から離れたと同時に、頭上へ引き寄せられる引力が、感じられて来る。
「お、落ちる――」
と怯えたらものの、実体感覚として、落下速度は加速しておらず。
「章太郎くん~。身体を回転させる感じだよ~♪」
と、すぐに飛び慣れた美鶴からの、アドバイスを貰う。
「か、回転…っ? えぇと…っ!」
自分の身体が格好良く空中回転するイメージをしたら、無意識な身体の動きに応えるかのように、全身がクルっと一回転半をして、そのまま足から着地をした。
「おおぉ…な、なるほどっ!」
「主様、お見事に御座います!」
――わんわんっ、きーきーっ、ぴよぴよよっ!
肩に乗っているヌイグルミ刀も、有栖やお供たちと同じく、絶賛らしい笑顔をくれる。
「み、みんな、ありがとぅ…」
ジャンプ訓練は、お供たち、ツキノ、少女たち、章太郎と桃太郎と金太郎、鬼たちの順で、マスターできた。
「…うん。慣れれば、無重力とか浮遊大地も、足場に出来そうだな」
「それでは~、みなさん~、出発です~」
「………」
(…これで、蜃鬼楼との戦いが終わるのかな…?)
いよいよ女王との対峙に、章太郎は、緊張感を隠せない。
~第百二十六話 終わり~
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説

パラメーターゲーム
篠崎流
青春
父子家庭で育った俺、風間悠斗。全国を親父に付いて転勤引越し生活してたが、高校の途中で再び転勤の話が出た「インドだと!?冗談じゃない」という事で俺は拒否した
東京で遠い親戚に預けられる事に成ったが、とてもいい家族だった。暫く平凡なバイト三昧の高校生活を楽しんだが、ある日、変なガキと絡んだ事から、俺の人生が大反転した。「何だこれ?!俺のスマホギャルゲがいきなり仕様変更!?」
だが、それは「相手のパラメーターが見れる」という正に神ゲーだった
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

転校して来た美少女が前幼なじみだった件。
ながしょー
青春
ある日のHR。担任の呼び声とともに教室に入ってきた子は、とてつもない美少女だった。この世とはかけ離れた美貌に、男子はおろか、女子すらも言葉を詰まらせ、何も声が出てこない模様。モデルでもやっていたのか?そんなことを思いながら、彼女の自己紹介などを聞いていると、担任の先生がふと、俺の方を……いや、隣の席を指差す。今朝から気になってはいたが、彼女のための席だったということに今知ったのだが……男子たちの目線が異様に悪意の籠ったものに感じるが気のせいか?とにもかくにも隣の席が学校一の美少女ということになったわけで……。
このときの俺はまだ気づいていなかった。この子を軸として俺の身の回りが修羅場と化すことに。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる