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☆第百八話 章太郎の努力・雪の場合☆

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「それはそうと だな、ショータロー」
 溺れた章太郎を助けた為に、結果として水の中で目を開けることが出来るようになったブーケは、しかし章太郎へ注意もする。
 章太郎は今プールサイドで、水着の女子たちに囲まれて、正座をさせられていた。
「あれしきの事で溺れるとは、正直言って 心許ないぞ」
「…はぃ…」
 恥ずかしくて項垂れる章太郎の様子に、事情をよく知らない月夜が尋ねる。
「そもそも、ショータはブーケに水泳を教えてたんだろ? なんで溺れたりしたんだ?」
「そ、それは…」
「うむ。ウルフィーがボクの肩へとじゃれてきて、水着がはだけて、胸が露出したのだ。水中でそれを見たショータローが溺れた…と言うワケだ」
「まぁ…」
「そうだったんだ~♪」
 雪も美鶴もそれぞれに納得をしていて、翠深衣は一人、章太郎のオオウナギを思い出していたり。
「主様は、ジェントルマンでいらっしゃいますので…♡」
 とかウットリしながら、主を敬って止まない有栖が、章太郎を援護する。
「ショータローが紳士なのは認めるが、女子のおっぱいを見た くらいで、あれ程にまで慌てふためいていては、先が思いやられるぞ」
 と、戦闘隊長ブーケの自論を訊いて、雪も考えた。
「言われてみれば…。たしかに、女性を象った蜃鬼楼が存在しない…とも、言えませんですねぇ…」
 雪の言葉に、美鶴も月夜も思い出す。
「あ~、そういえばさ~。ジミーとか~?」
「そっか。ジミーって、コオロギの人形みたいな女子の姿してたけど、あれ 蜃鬼楼だったよな」
 かつて訪れたピノッキオの童話同人誌世界で出会った、アクション・フィギュア・サイズなコオロギ・コスの女の子っぽい、ジミーという存在。
 蜃鬼楼としては珍しいと言うか、章太郎たちも初めて存在を確認した人型蜃鬼楼で、しかも会話や意思疎通も出来て、友好的。
「そ、それはほら…こっちと普通に話が出来るんだから、いくら何でも裸の女子って事はないかと――あわわっ!」
 蜃鬼楼に関する章太郎の自論を話していたら、女子たちがみな、ビキニのトップを外したり、ワンピースの胸をはだけ始める。
「なっ、何してんのっ!?」
「丁度良いだろう。ボクが水の中で目を開けられるようになったように、ショータローにも 女子の胸に慣れて貰うとしよう」
「あ、主様のお役に立てるのであれば…っ!」
「翠深衣も、こっちの方が楽です~♪」
 女子たちがトップレスになって、章太郎の掌を取ってプールへ。
「さぁ、章太郎様♡」
「ちょっ、ちょっと待ってっ――ぶくぶくっ!」
「オレたちの胸、見放題なのは ショータだけだぞ♪」
「ね~♪ 好きなだけ見て~、慣れて行こ~♪」
 セミヌードの女子たちに囲まれ、章太郎は逆に、泳ぐどころでは無くなってしまった。

 そしてまた、ある日の高校での休み時間。
「この間は、失敗したかな…」
 ブーケの苦手を克服させたという意味では成功だったけれど、女子たちのセミヌード責めで、その夜は眠れなかった章太郎だ。
 教室では、少女たちそれぞれが友達と談笑を楽しんでいて、そんな光景に、章太郎も安堵を覚えたりしていた。
「雪っち、見て見て~♪」
「まぁ…なんと美しい…♪」
(ん…?)
 楽しそうな会話にフと意識を向けると、雪は友だちのスマフォで、花畑の動画を見ているようだった。
「隣の県のお花畑なんだけどさ~♪ こないだ、叔母さんたちと 行って来たんだ~♪」
「すごい広い~♪」
 ワイワイと動画を楽しみながら、雪がフと告げる。
「私…雪国の産まれですので、このように色鮮やかなお花の景色は、とても眩しく暖かく感じられます…♪」
「「「雪っちほっこり~♪」」」
 という会話を、章太郎は聞き逃さなかった。
(なるほど…たしか雪女は、雪山で遭難した男性たちの、最後の願望…。とかいう説もあったよな…)
 なので基本、雪深い山が雪女の世界の全て、とも言える。
 モチロン、人里に降りて人間の男性と共に暮らす雪女の話も存在しているけれど、それは例外とも言えた。
(つまり雪は、花畑とか、もっと楽しみたい…という事か…っ!)
 次元の穴を塞いでも、雪がこっちの世界に残りたいと思える要素としては、十分にアリだろう。
「よし、それなら――うわっ!」
 決意をした章太郎が、友達によってヘッドロックをされる。
「なんだ章太郎、雪ちゃんの会話を盗み聞きか?」
「このイヤらしいヤツめ。俺たちにも会話の内容を聞かせろ」
「そんなんじゃねーよっ!」

 学校が終わって、五人で帰宅。
「ただいま」
「主様、皆様「お兄さま、お姉さまがた」お帰りなさいませ♪」」
 いつものように、有栖と翠深衣に迎えられて、章太郎は自室へ籠もって観覧可能な花の庭園を、色々と検索した。
 そして夕食の際に、提案をする。
「あのさ、みんな。今度の土曜日、時間ある?」
 と尋ねても、少女たちにとって守護対称である章太郎の、意志のまま。
 というのが、皆のスタンスであった。
「うむ。何か 用事か?」
「うん、実はさ…」
 少し南に位置する県で、花畑が見頃を迎えているという。
「丁度、土曜日から一般開放されるらしくてさ。みんなでピクニックっていうか、観に行かない?」
 語尾が命令形でないのは、女子たちの反応に自信が無いからだ。
 果たして、雪が真っ先に食いついた。
「お、お花畑ですかっ? あ…わ、私は、その…ぜひ…っ!」
 おしとやかな性格の雪が、とても楽しみにしていると、反応で解る。
 他の女子たちも、やはり興味がある様子だ。
「お花畑って、こっちの世界にも あるんだなー♪」
「お姉さまがた、お花畑って、なんですかー?」
 翠深衣の質問に、美鶴が得意に答える。
「美味しい虫とか、沢山いるよ~♪」
 魔法少女ではなく、鶴として認識していた。
「お花畑かー♪ 昔はよく、お婆ちゃんのお家へ行く時に、森の外れでお花を沢山 摘んでいったなー♪」
 と懐かしむ赤ずきん。
「それじゃあ、決まりだな」
 メイドである有栖にも確認を取ると、有栖は召使いとして、誇らしげに応える。
「はい、主様♪ それでは当日は、お弁当を準備いたします♪」
 という感じで、土曜日の予定が決まった。

 そして土曜日。
 章太郎たちは電車に乗って、割と近い緑地の広い公園へと、有栖が作ったお弁当を手にやって来た。
「まあぁ…なんと 美しい…♡」
「紫陽花が咲いてる~♪」
「あ、知っているぞ! あれは、ラベンダーだなっ?」
 遠くに山々も連なる花畑には、様々な花が咲き誇って、彩りも鮮やかだ。
 よく晴れた休日で家族連れも多く、特に女の子たちは、種々様々な花たちを楽しんでいる。
 お供たちも色々な花の香りを楽しんでいる中で、緑草や青空と花の色たちに静かな感動を見せているのは、有栖と雪だ。
「主様から、このようなご褒美を 戴けるなんて…♡」
「本当に…優しく色鮮やかなお花たちに…心が 春と命で包まれてゆくようです…♡」
 雪女の住む世界は、真っ白い雪や空と、雪に沈んだ樹木という、いわばシロクロの世界だろう。
 と考えた章太郎は、人工の身体を得た雪女が、春や夏の緑に興味を持つ気持ちを、想像出来た。
(やっぱり、雪女も女の子なんだな…)
 赤ずきんや恩返しの鶴やアリスやピノッキオ少女やスイミーたちと同じく、女子は花が好きだと、章太郎も認識をしている。
 マンションでも、廊下やリビングなどに有栖が手入れをしている花瓶の花が、色々と飾られていたりする。
(ん? っていう事は…もっとマンションに花を…というか、雪の部屋にも…)
 マンション室内の壁はデフォルトで白色で、章太郎は気にしていないけれど、みんなは飾っているのだろうか。
「あのさ…もし 雪が良かったらさ、雪の部屋の壁とかも、色とりどりにする?」
 その際は、章太郎が業者を選んで呼ぼう。
 と思っていたら、雪は丁寧な礼をくれる。
「有り難う御座います、章太郎様。で、ですがその…折角のご提案に…も、申し上げにくいのですが…」
「あ~。雪ちゃんの部屋~、真っ白な方が 落ち着くんだって~♪」
「そ、そぅなんだ…」
 美鶴のフォローに、雪は頬を染めて、申し訳なさそうに頭を垂れた。
 章太郎は、また失敗したと思ったり。

                        ~第百八話 終わり~
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