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☆第百三話 いつものご報告☆

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『おお、みんな集まっておるの』
「あ、爺ちゃん」
 リビングの大型モニターが点くと、祖父である章之助と助手である真希が、ドリンク片手に鎮座していた。
『はぁい、章太郎君♪』
 とか、少年をからかうように、笑顔でウインクをくれたりする真希女史。
「ど、どぅも…」
 美人助手のウインクに、年下の少年もつい焦ったり。
 通信の用件は、章太郎も解っている。
「それで、爺ちゃんさ。今日の戦闘…いつもと色々、違った感じでさ」
『うむ。有栖からも報告を受けているぞい。まずは、高校と小学校の二地点で、蜃気楼が出現したのじゃな?』
 と、有栖にも確認を取ると、メイド少女は立ち上がって、美しい所作で礼を捧げた。
「はい。仰る通りに御座います、大旦那様。それぞれ、高校に出現をした蜃鬼楼は大きな拍手音にて こちらの攻撃を妨害する蜃鬼楼でした。小学校の蜃鬼楼に関しましては、申し訳御座いません…有栖は、小学校へは出向けませんでした」
 失態でもない失態を痛感しているらしい有栖は、シュンとなる。
『いやいや、有栖に否は無いぞ。小学校の蜃鬼楼に関しては 翠深衣から聞きたいのぉ』
「! は、はいっ、大旦那様っ♪」
 指名をされた少女は、驚きながらも嬉しそうに立ち上がって、有栖をマネて綺麗な礼。
「小学校に出現した蜃鬼楼は、大きくて縦に長い、蜂の巣みたいな蜃鬼楼でした! 中から沢山な、蜂みたいな蜃鬼楼が襲い掛かってきました! ですが、お兄さまと鳳翼丸ちゃんが駆けつけて下さいましたっ! お兄さまの判断で、翠深衣もお手伝いをさせて戴いて、蜃鬼楼を退治し、お友達を護る事で出来ましたっ♪ お兄さまの、なんと勇猛果敢な戦姿でしょうか…♪」
 とか、後半は頬を上気させて、章太郎賛美になってしまっている翠深衣だ。
 妹の報告に、有栖も頬を染めて聞き入って、同じく聞いている章太郎は、照れくさい。
「そ、それは、翠深衣の特殊能力のお陰で…」
 高校の蜃鬼楼は、月夜と有栖がブーケたちをサポートした事も勝因であり、小学校も、鳳翼丸が高速飛翔をしたから間に合って、翠深衣のサポートのお陰で勝てた。
「…って感じだよ」
「うむ。ボクも、ショータローの意見は正しいと想うぞ」
 戦闘隊長として、ブーケも正しく判断をするように、常日頃から心掛けている。
「そうだよ~。さっきの蜃鬼楼さ~、あたしたちだけだと、退治出来なかったよ~」
「本当に…あの大きな拍手音という…驚くべき単純な攻撃でしたが…」
 二人のお陰で破裂音を減退できて、勝てた。
 と、三人は章之助へ報告をする。
「そ、そぉか~? でへへ…」
「うふふ…お役に立てまして、何よりに御座います…♪」
 蜃鬼楼の形態や戦闘の流れに関しては、それぞれの視点から報告をして、引き続き本日のメインな話。
『なるほどのぉ。蜃鬼楼に関しては、よくわかったぞい。で、月夜と翠深衣の 特殊能力についてじゃが…』
「ああ、それじゃあ、オレから見せようか?」
 月夜は得意げな美しい笑顔を魅せて、緑色の艶々長髪へ意識を集中。
 長い髪がウネウネと蠢いて伸びて束となり、テーブルの上で、小さなデフォルメ体型の人型となった。
『ほほぉ♪』
『あら可愛い♪』
 ケーブルが繋がった人形みたいに、木製人形がラジオ体操を始めると、博士も真希女史も楽しそうに感心をする。
「まあ、戦いでは アリスが作ったカップにユキが水を入れて、オレが髪を伸ばしてブーケたちの耳に固定した…て感じだけどな♪」
「そのアイディアもね~、有栖ちゃんが考えたんだよ~♪」
 と、みんなから活躍を報告されると、有栖は恥ずかしそうに真っ赤になって、俯いた。
『つまり有栖は、水の中では音の波が減退すると、理解をしているわけね?』
「は、はい…」
『ほほほ♪ さすがは 元メイドロイドと言ったところかのぉ♪ 水まわりにも明るいモンじゃな♪』
 創造主に褒められたメイド少女は、また嬉しそうに顔中が真っ赤になる。
『それで、月夜の髪は 一体全体 どこまで伸ばせるんじゃ?』
「んー、まだ試してないけど、学校の屋上くらいの範囲なら、余裕で伸ばせるとか、かなー。翠深衣もだけどさー、まだ能力は 色々と伸ばせそうな感じがするんだよなー」
『あら、そうなの? っていう事は――』
『ブーケも雪も美鶴も有栖も、それぞれの能力をまだ伸ばせる。という事かの?』
 という博士たちの気付きに、ブーケたちも、ちょっと自信ありげに頷いた。
「うむ。と言っても、まだ 見せられる感じではないのだが」
『ふむ。それでは、その辺りも見込みがついたら、連絡しておくれ』
「はい、章之助様」
 雪は以前、氷で人魚のような外部スーツを作った実績があるからか、特に自信ありげだったり。
『それで、翠深衣は どんな特種能力なんじゃ?』
「は~い♪」
 元気よく手を上げて返事をした少女は、キッチンから水を入れたコップを持ってきてテーブルへ置くと、意識を集中させた。
「むむむむむ…えいっ!」
 コップの中の水がピチャピチャと波打って、水そのものが跳ね上がったと想ったら、魚の形になってみんにの頭上を旋回し始める。
『おぉっ、これはまた 不思議な現象じゃのぉ♪』
『翠深衣は、その水小魚を大量に生成して、蜂の群体にぶつけて章太郎君の戦いをサポートした、というわけね?』
「はいっ♪」
 自分も役に立ったと喜ぶ翠深衣や月夜の報告を聞く章之助と真希は、聞きながら、それぞれがコンピューターに手早くデータを打ち込んでいた。
 入力したデータから何かが算出されたらしく、二人は画面を見ながら考察をする。
『ふむふむ。どうやら、お前さんたち御伽噺の娘というのは、出身世界に拘らず 何やら不思議な力を発揮できる存在のようじゃのぉ♪』
「なるほど…」
 言われて、章太郎も考えた。
 そもそも、ブーケと雪と美鶴は、精神だけが御伽噺、しかもオリジナルに近い世界からやって来た。
 有栖は、章之助ラボが製作したメイドロイドの試作機の一機だったけれど、蜃気楼の攻撃を受けて何らかの因子が混ざった結果、メカ生体となった。
 月夜と翠深衣に至っては、御伽噺の同人誌という存在自体が稀な世界から、肉体も意識もそのままやって来て、章太郎の聖力を得て人間と同様な肉体を得たのだ。
「ぶつぶつぶつ…そして、その聖力を蜃鬼楼たちも欲して――ぅわっ!」
 考え事に集中していたら、いつの間にか少女たちが、リビングで脱衣を始めていた。
 スリスリと布の擦れる音がしていて、透明な肌色が、その面積を増やしてゆく。
「なっ、なんでどうしたんだっ!?」
「ん? どうしたのだ ショータロー?」
 慌てふためく少年に対して、戦闘隊長を始めとする脱衣の少女たちは、まるで日常会話の如くな、普通の対応。
「いっいやだってっ――ぁあっ、そうかっ!」
 考え事にド忘れをしていたけれど、今日の通信は、戦闘や月夜たちの新しい能力などに関してであり、つまり少女たちの身体チェックは、当たり前だったのだ。
「ごごっ、ごめんっ!」
 章太郎がそれを思い出した時には、少女たちは残り下着一枚という、魅惑的にはだけた姿であり、少年は慌てて、ソファーで後ろへ向いて正座になる。
「? どうしたんだショータ?」
「章太郎様…お、お気遣いなく…」
「ね~♪ 見てても良いのに~」
「兄さまは、検査をされないのですか?」
「主様は、私たちのような御伽噺世界とは、存在が違いますから♪」
 とか会話をしながら、少女たちみんなが、一糸纏わぬ姿となった。
『なんじゃ章太郎。相変わらず軟弱じゃのぉ』
「女の子が 自ら肌を露わにしているのですよ♪ 男子としては紳士であっても、女子的には…ですよ♪』
「いっ、いいんだよっ!」
 章之助にすれば少女たちは孫娘のような感覚だし、真希からすれば同じ女子で、少女たちからすれば二人は親であり姉でもあるから、特に恥ずかしさとかは感じないのだろう。
 そして少女たちにとって、章太郎は守護対照であり共同生活者であり、聖力を戴いている主でもある。
 この世界での生活が楽しいと感じて、そして戦いでも日常でも少女たちを助けて護ろうとしてくれる章太郎は、御伽噺の少女たちにとっても、特別であった。
「まあ、ショータローの好きにすると良いぞ」
 少女たちの裸姿を見ないようにしているという事は、少女たちの尊厳を護ろうとしている意志の現れだし、また異性として意識していると、それぞれが理解をしていた。
 翠深衣だけは、まだ性別を意識出来ていないだけ、という事実であろうけれど。
『ではいつも通り ブーケから、スキャンをするぞい』
「了解だ」
 モニターの前で綺麗な素立ち姿勢になると、裸の肢体が細い緑色の光で走査をされる。
 前後左右上下の全てから身体を調べるので、順番にチェックを受ける少女たちは、その場で裸身をゆっくりと旋回。
「…………ハっ!」
 少女たちに背中を向けている章太郎は、今更ながら、リビングのドアの大きなガラス窓に、少女たちの姿が映っている事に気がついた。
(………ハっ! み、見ちゃダメだ…っ! 見ちゃ…)
 ブーケたちに対して失礼な行動だと理解をし、そもそも覗きみたいで後ろめたい想いも感じつつ、しかし少女たちの魅惑的な裸のラインや白い素肌に、男子の本能として意識と視線が吸い寄せられてしまう。
 ガラスへ反射した姿なのに、美顔や背中やバストや桃色の先端、細いお腹や丸いヒップや秘すべき肌箇所まで、全てがハッキリと認識できていた。
『お、そうじゃ、章太郎』
「はっはいっ!」

                    ~第百三話 終わり~
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