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☆第百話 二つの決着☆

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 高校の屋上と、小学校の校庭。
 それぞれの場所へ出現をした蜃鬼楼との戦いは、章太郎や御伽噺の少女たちの作戦によって、遂に反撃へと打って出た。
 水入りティーカップのヘッドホンで、大きな破裂音を減退させた御伽噺の少女たちが、拍手の蜃鬼楼へと攻撃開始。
「行くぞっ、みんなっ!」
 と赤ずきんが声を掛けても、未だ打たれ続ける蜃鬼楼の拍手音や、音を防ぐカップのお陰で、当たり前だけど雪女や魔法少女には聞こえない。
 それでもこれまでの戦いと経験から、三人は自分のするべき事を考え、仲間の行動を思い描いて、それぞれに戦いを始めた。
 ウルフィーと家帝も、力を解放して巨体になると、自らの考えで戦いをサポートする。
「やああっ!」
 ウルフィーへ跨がった赤ずきんが、蜃鬼楼の注意を引こうと周囲を駆けながら銃撃。
「氷結波…っ!」
 顔面あたりへの銃撃に戸惑う蜃鬼楼の腕が、巨猿と化した家帝の腕に掴まれて拍手を封じられ、更に雪女の神通力によって両掌が氷付けにされる。
 ――ッグルルルルウウウウウッ!
 両腕を封じられた釣り鐘型蜃鬼楼は、しかし怪力を振り絞って家帝の拘束に抵抗を見せて、凍った両掌を叩き合って氷を破壊。
「もう拍手はさせないよっ!」
 空を飛ぶ鳥系魔法少女は、背中で煌めく光の羽根から手裏剣状の羽根を無数に飛ばし、蜃鬼楼の巨大な掌の内面へと、大量に突き刺した。
 ――ッグルルァァアアアッ!
「へぇ、みんなやるなぁっ!」
 初めて蜃鬼楼との戦いを目の当たりにする月夜は、三人やお供たちとの連携に驚かされながら、やや興奮気味だったり。
 拍手を打てない釣り鐘蜃鬼楼は、太い指で小さな羽根手裏剣を抜こうとするものの、赤ずきんの銃撃や家帝の接近殴打で、それ処ではない様子。
 ――グルルルッ!
 思わぬ苦戦に、背後の空間へゲートを開いた蜃鬼楼は、元の世界へ逃げるつもりなのだろう。
「逃すかっ! みんなっ!」
「はいっ!」
「うんっ!」
 拍手を封じて破裂音の心配がなくなった三人の耳には、ほぼ声が聞こえなくても、これから実行するお互いの考えは、よく解った。
「「「オカルト・フィニッシュっ!」」」
 三人が蜃鬼楼を取り囲み技名を称え、両腕を拡げると、自分たちの聖力を以て、蜃鬼楼の身動きを完全に封じる。
 蜃鬼楼の頭上には眩い聖力の珠が輝いて、その光の暖かさに、蜃鬼楼が苦しみ出した。
 ――ッグルルルアアアッ!
「すげぇ…なんか、あの光も暖ったかいぞ…っ!」
「はい。ブーケ様たちの、必殺技に御座います」
 戦いの邪魔にならないよう、距離を取って注視している月夜へ、有栖が説明をする。
 光の珠が十分な大きさになると、三人は声を揃えて、必殺を決めた。
「「「聖浄黄泉帰し(せいじょう よみがえし)っ!」」」
 虚空の光が落下をして、蜃鬼楼の頭部と触れ合った瞬間、互いの力の対消滅が始まる。
 ――ッグルルグァアアアア…っ!
 蜃鬼楼と消滅しあう光の珠は、互いの体積を減らしながら降下をして、光が消える頃には、出現した蜃鬼楼の全てが消滅をしていた。
 少女たちは、戦いに勝利。
「ふぅ…」
 戦闘が終わると、蜃鬼楼が逃亡用に作りだした異空間の穴も消滅していて、邪気も完全に消えていた。
 危険が無くなった高校の屋上で、三人が変身を解く。
 眩い光に包まれながら、赤ずきんのバトルドレスや雪女の純白襦袢、鳥系魔法少女の魔女っ娘ドレスが光の粒となって散り、三人の美しい裸身が陽の下へ晒される。
 そして数秒と開けずに光が集まって、変身前の制服姿へと戻った。
 それら一連の全てを観賞していた月夜は、まだ興奮冷めやらないらしい。
「すっ、すげぇなあみんなっ! なんか、姿が変わったり戦ったりさーっ!」
「うふふ…私たちは、章太郎様をお護りする為に、この世界へ呼ばれましたですもの…」
 その使命に対して、特に強い自尊心を満たされている様子の雪は、珍しく、そして嬉しそうに、誇らしさを隠さなかったり。
 ちょっとホノボノとして、美鶴が思い出す。
「っあ~っ! 章太郎くんと翠深衣~っ!」
 今回、まだ戦いは終結してなど、いなかった。
「とっ、とにかくっ、まずは有栖っ!」
「はいっ! 確認を初めておりますっ!」
 メカ生体なメイドロイドは、体内の通信機器を使用して、既に主のスマフォへと通信を送っていた。

 高校での戦いが終わる、少し前。
 小学校の校庭でも、戦いが終結へと向かっていた。
「…それじゃあ翠深衣、頼んだよ!」
「はいっ、お兄さまっ!」
 翠深衣を抱き抱えたまま立ち上がる、金太郎な重鎧の章太郎。
 足下の水溜まりから小魚型の水ミサイルを打ち続ける翠深衣は、豊かな黒髪を神秘的に靡かせつつ、襲い来る群体蜃鬼楼を余さず撃墜させ続けていた。
 少女を水溜まりの上へ立たせると、二人に辿り着く蜂型蜃鬼楼は、無くなっている。
 翠深衣は、僅かな時間で、水ミサイルの命中精度や発生数を、上げている様子だった。
「行くぞっ! ぅおおおおっ!」
 群体による攻撃を無効化してくれる少女の活躍で、章太郎は敵の本体とも言える大きな蜂の巣型蜃鬼楼へと、攻撃を集中出来る。
 鳳翼丸は、巨体すぎて群体蜃鬼楼の各個撃破が出来ず、なんとか一体ずつ嘴で攫っては倒す事しか出来ないでいた。
 しかも巨体ゆえ、的にもなりやすく、高速飛行でのタッチ&ゴー戦法。
 ――ッブブブブブブブブッ!
 章太郎が、重たい鎧ながら全力で走り寄ると、蜂の巣から新たな蜂型蜃鬼楼たちが、放出される。
 しかし、その殆どが翠深衣の水ミサイルによって迎撃をされて、暫しとはいえ行動不能のダメージを負って落下。
 焦った本体がジリジリと後退をしてゆくと、章太郎も理解をする。
「コイツはっ、どうやら飛んだりっ、出来ないらしいなっ!」
 重たい金太郎鎧なので、もし高速で飛ばれたら困るので急いで取り憑く。
 とか考えて走った章太郎にとっては、予想以上の勝機でもある。
 また、ミサイルを避けた数体に取り付かれても、忍耐出来る程度の痛みでもあった。
「っこれしきいいいっ!」
 章太郎が、突撃をしながら必殺の力を両掌へ込めると、鎧の手甲全体が光輝いて、蜂の巣と同等のサイズにまで巨大な実体化を果たす。
「逃がすもんかっ! どりやあああああっ!」
 鈍速で逃げようとする本体へ追い着くと、両腕を目一杯に拡げ、全力で蜃鬼楼を挟んで叩いた。
 ――っっパァァアアアアアアンンっっ!
 空気が爆ぜる巨大な破裂音と衝撃波が、小学校の校庭から発生したものの、校舎や周囲の家々への被害を及ぼす程では無い。
 ――ッブブウゥッ!
 左右から叩き潰された蜂の巣は、聖力の暖かい光の中で、消滅をする。
 そして残された群体は、まさしく空母を轟沈させられた艦載機の如く帰り場所と統率を失い混乱し飛び回り、章太郎や翠深衣や鳳翼丸の聖力を求めて飛んで来た処を、巨大な嘴て啄まれたり金太郎の左右掌でペチペチと叩き落とされたりして、消滅をした。
 蜂退治が五分ほどかかって、戦いは勝利で終わる。
「ふぅ…これで大丈夫だな。翠深衣は、怪我はないか?」
「はい、お兄さまっ♪」
 水道水で全身がズブ濡れだけど、友達を護る戦いで自分も役に立ったという事実が嬉しい少女の笑顔は、キラキラと輝いていた。
「わああ~、かいぶつが、いなくなった~♪」
「スイミーちゃんっ、すごい~♪」
 クラスメイトたちも、平和になった校庭に、とても喜んでいる。
「あはは…ああ、それじゃあ翠深衣、濡れた服を着替えないと…って、えぇとっ、た、体操着とか、あったっけ?」
 当たり前だけど、章太郎は小学校低学年な少女の着替えとか、持っていない。
「まあぁ~、御伽噺さんっ、有り難う御座いました~っ♪」
 校長先生たちが、章太郎たちの元へと、感謝と感激の笑顔で駆け寄って来た。
「あらあらスイミーちゃん、早くお着替えをしないと。御伽噺さんも♪」
「あ、は、はい」
 保健の女性校医さんと一緒に、章太郎も保健室へ行って、翠深衣に身体の様子を聞く。
「聖力、大丈夫か?」
「はい、お兄さま♪ でもやっぱり、いつもより 足りない感じです」
「そ、そうか。それじゃあ…」
 章太郎は、翠深衣の額へ脣で触れて、聖力を補充する。
「うふふ~♪ くすぐったいです~♡」
 濡れた服の水分は、翠深衣が操って空気中に蒸発をさせたけれど、汚れてしまった服を洗濯する為に、先生たちが用意をしてくれた体操着へと着替えた少女。
 壊れた水飲み場は、用務員さんが元栓を閉めてくれて、業者さんの手配もしてくれた。
 有栖からのコールで、共に戦いが終わった子とを確認した、章太郎。
「それじゃあ、俺は高校へ戻って みんなに聖力を補充するけど…翠深衣はどうする?」
 もし心配なら、高校へ連れて行こう。
 と考えた章太郎に、翠深衣は笑顔で応える。
「翠深衣は、今日は お友達と一緒に帰ります♪」
「…そっか」
 楽しそうな笑顔の少女の黒髪を、屈んで撫でると、恥ずかしそうに頬を染めたり。
「じゃ、俺は戻るから。先生方、宜しくお願いします。翠深衣、お友達に よろしく」
「はい、お兄さま♡」
 翠深衣たちの笑顔に見送られ、章太郎は高校へと、鳳翼丸に跨がって戻った。

                        ~第百話 終わり~
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