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☆第九十六話 朝の教室☆

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「お早よ」
 章太郎たちがいつも通りに教室へ入ると、いつもと違って、男子たちが暗い眼差しを章太郎だけへ向けてくる。
「「「…しょおたろおおお…っ!」」」
「? な、なんだ――うわわっ!」
 男子たちが章太郎へと詰め寄って、ブーケたちから引き離し、そのまま教室の後ろへと攫ってゆく。
「? みんな、ショータローをどうする気だ?」
「何か、大切なお話…でしょうか…?」
 ブーケたちも、問いながら、本当に命の心配をしているワケではない。
「やあ、おはようございます♪」
「皆様、今日も美しくあらせられますな♡」
「ちょっとばかし、章太郎めをお借りいたしますです。ハッハッハ」
 とか、挨拶は忘れないままに、章太郎を借りる旨を伝えた。
「なんだ? あ、わかったぞ♪ 男子たち特有なヒソヒソ話とかいう、あれだろ?」
 名探偵みたいに鼻高々な月夜の美しいドヤ顔に、しかし一部の男子たちは、女子たちに知られてはならない男子の嗜みを想像して、勝手に戸惑ったり。
 教室の後ろへ連れられた章太郎は、囲む親友たちからの尋問を受けさせられていた。
「章太郎、俺たちは親友だよな…?」
 と、小声で凄むメガネの岩谷。
「え…まぁ、そうだろう」
 続いて、小太りな真田が、やはり小声で問い詰める。
「ならば正直に白状しやがれっ! お前、美鶴ちゃんたちとだけでなく…月夜ちゃんとも将来っ、子作りに励むのかあああっ!?」
「顔が近いっ! っていうか、なんでそんな事、お前たちが知ってるんだよっ!」
 件の話題は、さっき登校中の電車野中での、月夜の言葉だ。
 いつものように、早い時間から教室にいた岩谷や真田が知っている事が驚きの章太郎。
 しかし章太郎の疑問は、違った意味で捉えられる。
「! ぃいヤッパリいいいっ!」
「美人と美少女五人を独り占めしやがってええっ!」
「ふてえ野郎だっ!」
 五人というのは、ブーケと雪と美鶴と有栖と月夜の事であり、クラスメイトたちはまだ翠深衣の存在を知らない。
 男子たちにモミクチャ状態な章太郎は、必死に弁明をする。
「そ、そういう意味じゃねーよ! っていうか、そもそもブーケたちは蜃鬼楼の侵略からこの世界を護る為に、いるんだぞっ!」
 それが一番の目的であり、章之助の言う「ひ孫の顔が楽しみじゃわい」は、あくまでその後に関する話題だ。
 そして章太郎は、一夫多妻制を大喜びで受け入れているワケでもない。
 章太郎の言葉に、怒れるクラスメイトたちは、フと冷静になった。
「…そういえばさ、蜃鬼楼って、この間 学校に出てきた、あー…」
 言葉に詰まった岩谷に変わって、ノッポの種田が続ける。
「なんか ユラユラっとしてて大きな、怪物みたいなヤツだろう?」
「あぁ」
 胸ぐらを掴んでいたクラスメイトの 手が離れて、章太郎も制服を整えた。
「あれって一体 何なのだ?」
「え、話してなかった…か」
 問われて思い出したけれど、蜃鬼楼に関しては、学校に出現をした際にみんなも目撃をして、御伽噺少女たちの戦いと活躍を見た限りである。
 一応、市民からの目撃情報なども募ってはいるけれど、章太郎が直に詳しく説明した事は、一度もなかった。
「う~ん…まあ、正確に言えば…まだ完全に理解が出来ている、というワケでは ないんだけど…」
「「「ふむふむ」」」
 章太郎の話を、男子たちだけでなく、女子たちも興味があるっぽかった。
「と、取り敢えず、解っている範囲だけど…」
 御伽噺の世界と関連がある存在で、現実世界だけでなく、御伽噺世界にも出現する。
 意思疎通は難しいと思われていたけれど、こちらと平和的に関わろうとする者もいる。
 蜃鬼楼の求める物は、有機生命体がみんな発していて、特に章太郎から発するナゾに強い生体エネルギー「聖力」である。
 などなど、現在で解っている事を、章太郎はクラスメイトへと話した。
「ふ~ん。精力~?」
「御伽噺くんって、エッチなの~?」
 とか、女子たちは勘違いをしたまま、御伽噺の少女たちへ尋ねたり。
「そ、それは…♡」
「うん~♪ 大きくて、ビックリしたよ~♪」
「「「きゃ~♪」」」
 とか、清楚な雪は耳まで真っ赤にして羞恥し、美鶴は大胆な目撃証言。
 共に、先日のウナギ案件の話だけど、もちろん男子たちは怒り心頭。
「っ! しょおたろおぉぉおおおおおっ!」
「手前ぇこの野郎っ! なにが『全て終わってから』だああっ!」
「だから勘違いだって!」
 また胸ぐらを掴まれて、吊るし上げられそうな章太郎だ。
「っつーかそもそもぉっ! 蜃鬼楼の目当てが章太郎の聖力ってんならっ、章太郎を人身御供に差し出せば全て解決じゃあねーかっ!」
「そうだそうだっ!」
「愛らしいブーケちゃんたちがっ、命の危険を冒す必要もっ、無くなるだろぉっ!」
 それぞれのファンたちから突き上げを喰らう章太郎を、ブーケたちが助けた。
「みんな、もう放してあげてはくれまいか。ショータローがいなければ、ボクたちも存在しては行けないのだ」
「そーだぞ。オレもこの世界に来てすぐに、ショータ無しでは いられない身体になってしまったんだぞ」
 と告げるブーケたちの正直な言葉の内容も、やはり違う意味で受け止められていた。
「「「きゃ~~~っ♪」」」
「お、御伽噺くんの不潔~っ!」
「御伽噺くんの鬼畜~っ♪」
「「「章太郎お前えええええっ!」」」
「だっ、だから聖力…生体エネルギーに関してだからっ!」
 この騒動は、HRで担任教師が来るまで続いた。

 小学校へと登校をする翠深衣と有栖は、途中で会った有栖の友達と、挨拶をかわす。
「「あ、スイミーちゃん♪ おはよ~♪」」
「ありすちゃん、サキちゃん、おはよ~♪」
「「有栖お姉さん、おはようございます♪」」
「はい。ありす様、サキ様、お早う御座います」
 同じ名前な友達のありすは、自分と同じ名前に「お姉さん」と付けるのが、少し恥ずかしそうだ。
 学校が近い事もあり、有栖はフと思いつく。
「皆様、本日より 翠深衣と一緒の登下校をお願い申し上げても、宜しいでしょうか?」
「「は、はい♪」」
 メイドお姉さんからのお願いに、少女たちはちょっと誇らしげに、元気な返答をした。
「有栖お姉さま、良いのですか?」
 尋ねる翠深衣も、友達と同じ通いが出来る事に、嬉しさを隠せない。
「はい♪ 翠深衣ちゃんも、皆様と仲良くですよ♪」
「は~いっ♪」
 翠深衣たちは、有栖へ挨拶をして、共に学校へと向かう。
 友達と楽しそうにオシャベリをしながらの登校に、有栖も安堵を覚えていた。

 章太郎たちの高校でも、いつも通りの授業中。
 現代国語はともかく、古典や英語の授業となると、月夜には退屈な時間らしい。
「ふわわ…ぁふ…」
 雪と美鶴は、童話の背景的にも古典が得意かと思われたけれど、意外とそうでもなかったり。
 雪曰く、いわゆる当時の侍言葉と庶民言葉では、同じ意味でも違う言い回しが多く、国古典の世界の言葉となると、二人にも大昔の言葉だと、章太郎も聞いた事がある。
(まあそれでも、ちゃんと授業を受けているからな)
 テストの成績でも、二人は中の下くらいに位置している。
 ブーケにとっても、やはり知らない国の大昔の言語だから、月夜と同じく未知の言語であるけれど。
『うむ。正直、まだチンブンカンブンだけれど、ボクは楽しいぞ♪』
 と、知る事そのものを楽しんでいるっぽい。
(原典でいえば、オオカミとかは いわゆる街のチャラ男だし。特に 友達とかの描写も無いもんな、赤ずきん)
 それでも、オオカミが入れ替わったお婆ちゃんの違和感を質問したりと、知識欲はあったのだろう。
 とかボンヤリ考えている間に授業が終わって、お昼休みを迎えた。
 御伽噺の少女たちが来た当初は、護衛の意味もあって、章太郎と四人でお弁当を食べていたけれど。
「月夜様~、お弁当、ご一緒して良い~♪」
「あたしも~♪」
「オレか? いいぞ」
 今は、同じ教室内にいれば特に問題も無いと考え、ブーケたちも女子の友達とお昼を共にし、章太郎も男友達とお昼を食べていた。
「章太郎、食おうぜ」
「ああ、みんな それじゃあ」
 少女たちへ挨拶をして、章太郎は、男子同士で集まる。
 ブーケたちもそれぞれ、友達と一緒にお昼を食べているけれど、特に月夜は、一部の女子たちからの人気が高かったり。
 休み時間に話しかけられる事もほぼ毎回で、中にはお菓子やお弁当を作ってきてくれる女子もいる。
「…月夜ちゃん、いっっつも、女子が張り付いてるよなー」
「女子からの手作りお菓子なんて、主とやらな章太郎すら 貰った事ないのになー」
「お前らもだろうが」
 男子同士の空しい会話など、お弁当の味付けにもならなかった。

                        ~第九十六話 終わり~
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