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☆第八十八話 入学の朝☆

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「るんるんるん~♪」
 月曜の朝から、アリスはご機嫌な鼻歌交じりで、みんなの朝食を作っている。
 コンロや流しをパタパタと往復するに合わせて、ゴスロリメイド服がヒラヒラと靡いていた。
「アリス、お早う」
「有栖さん、お早う御座います♪」
「ブーケ様、雪様、お早う御座います♪」
 朝のキッチンに、セーラー服のブーケと雪がやって来て、エプロンを纏う。
 食事作りは有栖の独断場だけど、ブーケたちもお手伝いを続けていた。
「今朝は、スクランブルエッグとベーコンサラダか。美味しそうだな♪」
「有り難う御座います♪」
「それでは 私たちは、お弁当を作ります」
 三人のキッチンは、ちょっと手狭であるものの、協力し合って家事をこなしている。
「ふわわ…お早う~。遅くなっちゃって ゴメンね~」
 少し寝ぼうをした美鶴が、やはり制服姿でキッチンへやって来て、エプロンを着けてテーブルへお皿を並べていった。
「お、みんなお早うーっと」
 初めてセーラー服へ袖を通したピノッキオこと月夜が、外から戻ってくる。
 元の世界での経験から、家事が出来る月夜。
 だけど、こちらの世界へ来てからは、あまり手を出していない感じだ。
「掃除、ご苦労様だな」
「いやあ、この程度でなら おやすいご用だ」
 月夜曰く「オレの料理は決して美味しい料理じゃないんだよなー」と、特にこちらの世界へ来てから、実感したらしい。
 なのて現在は、有栖たちの下で料理の勉強をしているところでもあった。
 今は、有栖が日頃こなしているマンションの正面玄関廻りの掃除を、毎朝の日課としていたりする。
 有栖の調理が一段落つくと、主を目覚めさせに、部屋へと向かう。
「それでは、主様の御起床を 促させて戴きに参ります♪」
 主に尽くす事が喜びである召使い少女としては、章太郎の起床を促す事も、喜びの一つであった。
 主の個室の前へ、姿勢正しく立つと、扉のベルを優しく鳴らし、声をかける。
 ――ちりりん。
「主様。有栖で御座います。御起床のお時間で御座います」
 扉のベルは、最初から取り付けられていたアイテムではない。
 召使いが主へイキナリ声をかけるのは、基本的に失礼にあたるとして、有栖の要望で取り付けられた物であった。
 まずはベルを鳴らして、主へ声掛けの意志を伝える。
 数秒待っても、寝ている章太郎からの返答は無し。
 ――ちりりん。
「主様。有栖で御座います。御目覚めのお時間に御座います」
 少し言葉を換えて、再度の声掛けをしたら。
『ううん…むにゃ…』
 まだ寝ているらしい少年の寝惚けボイスを、メカ生体メイドの超高性能イヤーが、扉越しに拾った。
「あ、主様…♡」
 主人が安心して眠っているという事は、特別に不安も無しという事。
 と、召使いにとってはこの上ない、主からの褒め言葉でもあるのだ。
「うふふ…ああ、いけません…っ!」
 幸せ気分でボンヤリしていては、主の起床時間が過ぎてしまう。
「主様、失礼をいたします」
 主へのことわりを献上してから、静かに扉を開けて入室。
 章太郎から「もし起きなかったら部屋に入って起こしてくれて良いから」と許可を得ているので、室内にて主の起床を促す事も、実は有栖の日課となっていたり。
 章太郎は、あまり寝相が良くないようで、ベッドに対して横向きで枕も外れて仰向けに寝ていたり、掛け布団も剥いだりしていた。
「うふふ…主様、本日も 御健康でいらっしゃいます♪」
 このまま幸せそうな寝顔を眺めていたいけれど、召使いとしては、もう起床時間の猶予も無いと、解っている。
「主様、失礼をいたします」
 掛け布団を肩まで掛け直してから、声を掛ける。
「主様。有栖で御座います。御起床のお時間に御座います」
 少し大きめな声で伝えると、章太郎が目を覚ました。
「ううん…ああ、お早う有栖…ふわわ…」
 頭の隣の少し低い位置で声を掛けたメイド少女へ、目覚めながらも頭が起きていない章太郎が、挨拶を返す。
「うんん~…ふぅ」
 身を起こして全身を伸ばす主へ、有栖は深々と綺麗な礼を捧げた。
「お早う御座います。主様。お召し替えは?」
「ああ、うん。自分で出来るから 大丈夫。それより、みんな もう起きてるの?」
 主の着替えの手伝いもメイドの仕事だけど、章太郎も流石にそこまで面倒を見て貰うのは、恥ずかしい。
「はい。ブーケ様と雪様と美鶴様と月夜様が、起床されていらっしゃいます。翠深衣ちゃんは、これから起こしに行かせて戴きます」
「ああ、よろしく」
「はい。申し付かりまして御座います♪」
 有栖は美しい礼を捧げて主の部屋を退室し、一番年下の同居人であるスイミーを起こしに向かった。

 章太郎宅ののリビングは、今や七人と四体での食事と、ニギヤカだ。
「「「「「「「戴きま~す♪」」」」」」」
「…んん、スクランブルエッグ、美味しいな♪」
「へぇ~、こんな卵料理があるんだなぁ~♪」
「フワフワ甘くて、美味しいです~♪」
 特に、こちらの世界へ来たばかりなピノッキオとスイミーは、有栖たちによる様々な料理が全て新鮮で、嬉しい驚きの連続である。
「有り難う存じ上げます♪」
 みんなでご飯を戴きながら、今日これからの予定を確認。
「ピノっ――月夜は、今日から俺たちと同じ学校へ 通うんだよな」
「ああ。お貴族様の学校ってのに、オレも通えるんだよな~♪」
 まだ勘違いをしているトコロはあるけれど、とにかくピノッキオも、章太郎たちと同じ高校へ通う事となった。
「スイっ――翠深衣も、小学校 通うんだよな」
「はい♪ スイミーは、しょうがくさんねんせい? になるのです♪」
 章太郎たちが説明した学校に関して、スイミーは「友達が沢山いる場所」と受け止めているようだ。
「主様、翠深衣様に関する学校への手続きなどは、この有栖に 全てをお任せ下さい」
「ああ。有栖、宜しくな」
「申し付けを戴きまして御座います♪」
 召使い的には、主から信頼の命令を戴けた幸せの笑顔。
 祖父である章之助から、入学に必要な手続き等の書類は届いているけれど、流石に平日だし、章太郎たちが翠深衣の学校の手続きをするのは、無理だった。
「それにしても 爺ちゃん…高校の理事長とかだけじゃなくて、なんかアチコチの学校関係者と 縁があるんだな」
 今日イキナリの飛び込み入学手続きではないけれど、事前に話を付けてくれていた祖父である。
 でなければ、入学に関するテストなど、もっと日数が掛かっていただろう。
「章之助様の交友関係の広さには、私も 驚かされてばかりです」
「そうだな。ボクたちも、ショーノスケの紹介で、ソルジャーたちから訓練を受けられたからな♪」
「そうだよなぁ…」
 マッドな研究だけでなく、アチコチに顔が利く祖父の偉大さを、章太郎はあらためて実感していた。
(それにしても、みんな学校へ通うんだよな)
 以前にも、章太郎は有栖へ尋ねた事があったけれど、メイド少女は学校へは通わず、家事を担当して家を守っている。
 交友関係で言えば、ご近所様や商店街のお店の人たち、街でよく会うお年寄りたちと仲が良く、有栖も礼儀正しくてみんなに評判が良い。
 章太郎も、学校が全てだとは思っていないけれど、自分もみんなも学校へ通っている事実を考えると、有栖の事が気にならないと言えば嘘になるのだ。
「「「「「「「ご馳走様でした♪」」」」」」」
 食事が終わって、食器類はシンクで水に浸けておく。
「じゃ、学校 行くか」
「「「「「「は~い♪」」」」」」

 月夜は章太郎たちと一緒に高校へ行き、翠深衣は有栖が小学校まで送り届ける。
「途中までは一緒だから」
「はい、お兄さま♪」
 章太郎と手を繋いで、身体には大きいランドセルを背負った翠深衣は、嬉しそうに歩き出す。
 歩きながら、章太郎は、有栖へ言葉を掛けた。
「有栖。もし学校へ行きたくなったら、いつでも言ってくれ。遠慮無しで」
 あえて命令形にする事で、有栖は言い易くなると、章太郎は理解をしている。
「はい、主様。有難う存じ上げます♡」
 主の気遣いに、メイド少女は頬を染めて、深々と綺麗な礼を捧げた。
 駅まで来ると、章太郎たちは電車へ乗るけれど、翠深衣と有栖は、駅の向こうの小学校へ。
「それじゃあ。翠深衣も、学校 楽しいといいな」
「はい、お兄さま♪」
「主様。皆様、いってらっしゃいませ」
 有栖が深々と頭を下げると、隣の翠深衣も有栖を真似して、綺麗な礼を見せたりする。
「あ、章太郎君っ、電車だよ~」
 すぐに電車が来て、章太郎たちが乗り込んで出発するまで、有栖たちは明るい笑顔で見送ってくれていた。

                        ~第八十八話 終わり~
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