88 / 134
☆第八十八話 入学の朝☆
しおりを挟む「るんるんるん~♪」
月曜の朝から、アリスはご機嫌な鼻歌交じりで、みんなの朝食を作っている。
コンロや流しをパタパタと往復するに合わせて、ゴスロリメイド服がヒラヒラと靡いていた。
「アリス、お早う」
「有栖さん、お早う御座います♪」
「ブーケ様、雪様、お早う御座います♪」
朝のキッチンに、セーラー服のブーケと雪がやって来て、エプロンを纏う。
食事作りは有栖の独断場だけど、ブーケたちもお手伝いを続けていた。
「今朝は、スクランブルエッグとベーコンサラダか。美味しそうだな♪」
「有り難う御座います♪」
「それでは 私たちは、お弁当を作ります」
三人のキッチンは、ちょっと手狭であるものの、協力し合って家事をこなしている。
「ふわわ…お早う~。遅くなっちゃって ゴメンね~」
少し寝ぼうをした美鶴が、やはり制服姿でキッチンへやって来て、エプロンを着けてテーブルへお皿を並べていった。
「お、みんなお早うーっと」
初めてセーラー服へ袖を通したピノッキオこと月夜が、外から戻ってくる。
元の世界での経験から、家事が出来る月夜。
だけど、こちらの世界へ来てからは、あまり手を出していない感じだ。
「掃除、ご苦労様だな」
「いやあ、この程度でなら おやすいご用だ」
月夜曰く「オレの料理は決して美味しい料理じゃないんだよなー」と、特にこちらの世界へ来てから、実感したらしい。
なのて現在は、有栖たちの下で料理の勉強をしているところでもあった。
今は、有栖が日頃こなしているマンションの正面玄関廻りの掃除を、毎朝の日課としていたりする。
有栖の調理が一段落つくと、主を目覚めさせに、部屋へと向かう。
「それでは、主様の御起床を 促させて戴きに参ります♪」
主に尽くす事が喜びである召使い少女としては、章太郎の起床を促す事も、喜びの一つであった。
主の個室の前へ、姿勢正しく立つと、扉のベルを優しく鳴らし、声をかける。
――ちりりん。
「主様。有栖で御座います。御起床のお時間で御座います」
扉のベルは、最初から取り付けられていたアイテムではない。
召使いが主へイキナリ声をかけるのは、基本的に失礼にあたるとして、有栖の要望で取り付けられた物であった。
まずはベルを鳴らして、主へ声掛けの意志を伝える。
数秒待っても、寝ている章太郎からの返答は無し。
――ちりりん。
「主様。有栖で御座います。御目覚めのお時間に御座います」
少し言葉を換えて、再度の声掛けをしたら。
『ううん…むにゃ…』
まだ寝ているらしい少年の寝惚けボイスを、メカ生体メイドの超高性能イヤーが、扉越しに拾った。
「あ、主様…♡」
主人が安心して眠っているという事は、特別に不安も無しという事。
と、召使いにとってはこの上ない、主からの褒め言葉でもあるのだ。
「うふふ…ああ、いけません…っ!」
幸せ気分でボンヤリしていては、主の起床時間が過ぎてしまう。
「主様、失礼をいたします」
主へのことわりを献上してから、静かに扉を開けて入室。
章太郎から「もし起きなかったら部屋に入って起こしてくれて良いから」と許可を得ているので、室内にて主の起床を促す事も、実は有栖の日課となっていたり。
章太郎は、あまり寝相が良くないようで、ベッドに対して横向きで枕も外れて仰向けに寝ていたり、掛け布団も剥いだりしていた。
「うふふ…主様、本日も 御健康でいらっしゃいます♪」
このまま幸せそうな寝顔を眺めていたいけれど、召使いとしては、もう起床時間の猶予も無いと、解っている。
「主様、失礼をいたします」
掛け布団を肩まで掛け直してから、声を掛ける。
「主様。有栖で御座います。御起床のお時間に御座います」
少し大きめな声で伝えると、章太郎が目を覚ました。
「ううん…ああ、お早う有栖…ふわわ…」
頭の隣の少し低い位置で声を掛けたメイド少女へ、目覚めながらも頭が起きていない章太郎が、挨拶を返す。
「うんん~…ふぅ」
身を起こして全身を伸ばす主へ、有栖は深々と綺麗な礼を捧げた。
「お早う御座います。主様。お召し替えは?」
「ああ、うん。自分で出来るから 大丈夫。それより、みんな もう起きてるの?」
主の着替えの手伝いもメイドの仕事だけど、章太郎も流石にそこまで面倒を見て貰うのは、恥ずかしい。
「はい。ブーケ様と雪様と美鶴様と月夜様が、起床されていらっしゃいます。翠深衣ちゃんは、これから起こしに行かせて戴きます」
「ああ、よろしく」
「はい。申し付かりまして御座います♪」
有栖は美しい礼を捧げて主の部屋を退室し、一番年下の同居人であるスイミーを起こしに向かった。
章太郎宅ののリビングは、今や七人と四体での食事と、ニギヤカだ。
「「「「「「「戴きま~す♪」」」」」」」
「…んん、スクランブルエッグ、美味しいな♪」
「へぇ~、こんな卵料理があるんだなぁ~♪」
「フワフワ甘くて、美味しいです~♪」
特に、こちらの世界へ来たばかりなピノッキオとスイミーは、有栖たちによる様々な料理が全て新鮮で、嬉しい驚きの連続である。
「有り難う存じ上げます♪」
みんなでご飯を戴きながら、今日これからの予定を確認。
「ピノっ――月夜は、今日から俺たちと同じ学校へ 通うんだよな」
「ああ。お貴族様の学校ってのに、オレも通えるんだよな~♪」
まだ勘違いをしているトコロはあるけれど、とにかくピノッキオも、章太郎たちと同じ高校へ通う事となった。
「スイっ――翠深衣も、小学校 通うんだよな」
「はい♪ スイミーは、しょうがくさんねんせい? になるのです♪」
章太郎たちが説明した学校に関して、スイミーは「友達が沢山いる場所」と受け止めているようだ。
「主様、翠深衣様に関する学校への手続きなどは、この有栖に 全てをお任せ下さい」
「ああ。有栖、宜しくな」
「申し付けを戴きまして御座います♪」
召使い的には、主から信頼の命令を戴けた幸せの笑顔。
祖父である章之助から、入学に必要な手続き等の書類は届いているけれど、流石に平日だし、章太郎たちが翠深衣の学校の手続きをするのは、無理だった。
「それにしても 爺ちゃん…高校の理事長とかだけじゃなくて、なんかアチコチの学校関係者と 縁があるんだな」
今日イキナリの飛び込み入学手続きではないけれど、事前に話を付けてくれていた祖父である。
でなければ、入学に関するテストなど、もっと日数が掛かっていただろう。
「章之助様の交友関係の広さには、私も 驚かされてばかりです」
「そうだな。ボクたちも、ショーノスケの紹介で、ソルジャーたちから訓練を受けられたからな♪」
「そうだよなぁ…」
マッドな研究だけでなく、アチコチに顔が利く祖父の偉大さを、章太郎はあらためて実感していた。
(それにしても、みんな学校へ通うんだよな)
以前にも、章太郎は有栖へ尋ねた事があったけれど、メイド少女は学校へは通わず、家事を担当して家を守っている。
交友関係で言えば、ご近所様や商店街のお店の人たち、街でよく会うお年寄りたちと仲が良く、有栖も礼儀正しくてみんなに評判が良い。
章太郎も、学校が全てだとは思っていないけれど、自分もみんなも学校へ通っている事実を考えると、有栖の事が気にならないと言えば嘘になるのだ。
「「「「「「「ご馳走様でした♪」」」」」」」
食事が終わって、食器類はシンクで水に浸けておく。
「じゃ、学校 行くか」
「「「「「「は~い♪」」」」」」
月夜は章太郎たちと一緒に高校へ行き、翠深衣は有栖が小学校まで送り届ける。
「途中までは一緒だから」
「はい、お兄さま♪」
章太郎と手を繋いで、身体には大きいランドセルを背負った翠深衣は、嬉しそうに歩き出す。
歩きながら、章太郎は、有栖へ言葉を掛けた。
「有栖。もし学校へ行きたくなったら、いつでも言ってくれ。遠慮無しで」
あえて命令形にする事で、有栖は言い易くなると、章太郎は理解をしている。
「はい、主様。有難う存じ上げます♡」
主の気遣いに、メイド少女は頬を染めて、深々と綺麗な礼を捧げた。
駅まで来ると、章太郎たちは電車へ乗るけれど、翠深衣と有栖は、駅の向こうの小学校へ。
「それじゃあ。翠深衣も、学校 楽しいといいな」
「はい、お兄さま♪」
「主様。皆様、いってらっしゃいませ」
有栖が深々と頭を下げると、隣の翠深衣も有栖を真似して、綺麗な礼を見せたりする。
「あ、章太郎君っ、電車だよ~」
すぐに電車が来て、章太郎たちが乗り込んで出発するまで、有栖たちは明るい笑顔で見送ってくれていた。
~第八十八話 終わり~
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる