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☆第八十六話 男子服も買いに☆

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「え、俺?」
「はい♪」
 今日の買い物は、私服の無いスイミーの為であり、更に女子勢の服も買う為であって、章太郎自身は本当に考慮していなかった。
「俺は別に…ハっ!」
 言ってから気付く。
「も、もしかして…俺って、服が臭い…のか?」
 だとしたら最悪だと想うけれど、主の問いに、メイド少女も女子勢も、キョトンとした愛顔。
「? いいえ。主様は、シャンプーの良い香りがいたします♪」
「え、そぅ…?」
 実は臭かったらショックだけど、良い香りだと褒められても恥ずかしい少年心理だ。
「ショータローの服か。ボクも選ぶぞ♪」
「私も、選考させて戴きます♪」
「あたしも~♪」
「よし! オレも選んでやるぞ♪」
「スイミーも♪」
 とか、なんだか女子たちは盛り上がってきた。

 一フロア上がると紳士服売り場で、カジュアルも多数に扱っている。
「俺の服とか、別に…」
「いけません。有栖たちに お任せ下さい♪」
 新しい服の購入を許された召使いとしては、主の新しい衣服を購入する事は、当然というか必然らしい。
 章太郎は、試着室の前で待たされる感じになった。
「それでは、主様。ご試着用のお衣装を 選んで参ります」
 有栖が章太郎へ綺麗な礼を捧げると、隣で見ているスイミーも、真似をして可愛い挨拶を捧げる。
「それじゃあ、ショータローの為の服選びだっ!」
「「「「お~♪」」」」
 女子たちがバラバラに散って、少年の服選びが始まった。
「…まあ、いいか」
 女子たちにとって、自分たちの服を選ぶのが楽しいのは解るけれど、男子の服を選ぶ事も楽しいのだろうか。
 とか、章太郎は考えたりした。
 十分程が過ぎて、みんながそれぞれカートを引いて、選んだ衣服を持ち寄る。
「主様、お待たせを致しました♪」
「いや…」
 みんなニコニコしている。
「それでは、皆様がお選びになった主様のご衣装を、主様 お手数では御座いますが、何卒、袖をお通し下さい♪」
「う、うん…」
 何かのスレで「女子の買い物に付き合う時は、男子は荷物持ちと着せ替え人形に徹するが吉」とか読んだのを、思い出した。
「それで、俺はどうすれば良いんだ?」
 もう気分は、まな板の上の鯉である。
「うむ。ボクたちが選んだショータローの服を、順番に袖を通して、選んでくれ♪」
 ブーケもノリノリである。
 女子たちがジャンケンで順番を決めて、最初はユキ。
 章太郎が試着室へ入ると、ユキがカートの衣服を手渡してくれる。
「それでは、章太郎様。お召し換え下さい♪」
「これに着替えれば良いんだな?」
「お手伝いをさせて戴きます」
 当然のように、召使いの職務で着替えを手伝おうとする有栖だけど、マンションならともかく、外では流石にマズい。
「あぁいや…自分で着替えるよ。男女が一緒に試着室へ入るとか、店舗にも迷惑になっちゃうだろうから」
「…申し付かりましてございます…」
 シュンとなる有栖だけど、流石に理由は理解している。
「じゃあ、ちょっと待ってて」
 章太郎は、カーテンを閉めて着替えを始める。
「…女子たちが、俺のために選んでくれた服…」
 そんな行為を受けるのは初めてだし、恥ずかしいけど正直、嬉しくてくすぐったい感じがした。
「…これで良いんだよな…」
 ユキが選んでくれた服を着た自分を、鏡で見て、章太郎の頭には「?」しか思い浮かばない。
 カーテンを開けて、姿を見せると。
「まぁ…♡」
 とときめくユキと。
「「「「「ほほぉ」」」」」
 ワクワクしている感じな女子たちの美顔。
「えぇと…ユキ、この服って…」
「木こり でございます♪ 章太郎様の、なんと逞しいお姿でしょうか♡」
 木こりっぽい、ではなく、まさしく時代劇の衣装担当スタッフさんが用意したような、本格的な昔の木こり姿だった。
 しかも掌には、小さな斧まで携帯していたり。
「こんな服、よく見つけたな。っていうか、なんで売ってるの?」
「主様、よくお似合いで御座います♪」
 御伽噺の少女たちの賛同は、本気なのだろうか。
「わあぁ…」
 時代錯誤を越えたスタイルの少年を見て、しかしスイミーは、なんだか憧れのような眼差しをしていたり。
「それじゃ~、次はあたしのだよ~♪」
 美鶴に手渡された衣服も、かなり時代劇風味だ。
「…やっぱり、同じ日本の童話だからかな…」
 着替えてみると、案の定。
 カーテンを開けると、女子たちが「おぉ♪」みたいな、楽しそうな笑顔だ。
「…これでいいのか?」
「うん~♪ やっぱり章太郎君、よく似合うよね~♪」
「そりゃどうも…」
 褒められたのは、鶴の恩返しの当時に数多いたであろう、農民の衣装だった。
 色合いも地味だったり、半袖みたいな丈は意外と着易かったりで、ちょっと悪くない感じも、なんだか地味に引っかかったり。
「…つくづくだけど、こういう服 どこに置いてあったの?」
 膝から下が剥き出しな点と、頭に手ぬぐいを巻くのと、更に短い鎌を携えるあたりが、章太郎的にはマイナスポイント。
「なかなかだな♪ それでは、次はボクだ♪」
「…もうなんでも着るよ」
 ブーケから手渡された衣服は、割と現代でも通用しそうな上着やズボンだ。
 しかし、御伽噺少女たちがこれまでに選んだ服や、荷物の中から中世の銃らしき火器が飛び出しているあたり、ちょっと想像が出来てしまう。
 カーテンを閉じて着替え、またカーテンを開いた。
「ちょっと悪くないと感じたあたりがっ、なんかっ!」
「おおぉ~♪ ショータローっ、なんとも頼もしい姿だぞ♪」
 ブーケが選んだ服は、やはり物語の時代を想わせるスタイル。
 濃い緑色の上着に白いシャツと、ズボンは濃いグレーで、足下はブーツ。
 背中にはバックパックを背負って、掌には狙撃用の単発銃を携えていた。
「つまり、赤ずきんちゃんを助けた猟師だろ?」
「うむ! ボクの原点だ♪」
 原典の童話に対して、赤ずきん事ブーケが射撃戦士なのは、そういった理由だからなのかと、あらためて認識をした章太郎である。
「よし! 次はオレだぞ♪」
 もう完全に、女子たちの着せ替え人形だ。
「へーい…んんっ?」
 ピノッキオから預けられた衣装は、まさしくカートから溢れそうな程の量である。
「…何の服?」
「着ればわかるぞ」
 そう言われてカーテンが閉じられて、物量過多な生地を掘り出して、ズボンや上着を身に着けていった。
 カーテンを開いて。
「これは流石に 舞台俳優だろ」
 中世の貴族そのものな服装だった。
 上着が分厚くて派手な赤色だったり、装飾が凄いのもキツいけれど、下のスパッツが純白でツルツルでピタピタなあたりが、すごい拒否感。
「ぅおおっ! ショータローもそうなると、立派な御貴族様だなぁ♪ あっはっは♪」
「そすか…」
 褒められたけれど、現代に於いてはどう見てもコントとかのイメージが強い服装だ。
 なのに女子勢は、やはり楽しそうにキャっキャしている。
「スイミーも~♪」
 女児が選んだ服は、手に取った瞬間に、海水パンツだとわかった。
 しかも一般的なダブダブタイプではなく、ギャグ漫画でしか見ないような、お笑い的には変態キャラ扱いな、黒いブーメラン形。
「これはもう…どんな場面でも着れない感じだよ」
 とか断られても、スイミーは落ちこむどころか、楽しそうに笑っている。
(…意外とすぐに馴染んだな)
 少女たちの笑顔に、ホっとした章太郎であった。
「それでは 主様。有栖が選択をさせて戴いた衣服に御座います♪」
「…おおっ!」
 着替えると、実に常識的でシックでカジュアルな、しかしデザインや色使いにもセンスが光る、良い意味で「ザ・普段着」である。
「うん。良いな この服♪ 流石は召使いの鑑な有栖だよ」
「も、勿体ない御言葉です…♡」
 着せ替え遊びを楽しんだ女子たちだった。

                        ~第八十六話 終わり~
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