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☆第八十五話 子供服を買いに☆
しおりを挟むそれから章太郎は、ピノッキオの童話世界での体験を、章之助たちへなるべく細かく話した。
『なるほどのぉ。そのジミーという蜃鬼楼とは、完全な形での意思疎通が出来た。というワケじゃのぉ』
「そういう事だったと、俺も想ってる。しかもさ、ジミーの話だと 蜃鬼楼たちも童話世界への干渉に対して、特に率先しているって感じでもない…って印象を受けたよ」
ピノキオの童話世界への悪影響を、誰よりも気にしていたのが、蜃鬼楼のジミーだったからと、意識をすると。
『以前に、章太郎たちが遭遇した蜃鬼楼の言う通り…連中の世界でも、いわゆる鷹派と鳩派がいるっちゅう事かのぉ』
「たかは?」
「はとは~?」
リビングにいる御伽噺の少女たちも、当たり前に章太郎と章之助の話を聞いていて、ピノッキオと美鶴が、日常的でもない単語に反応をした。
「ああ。簡単に言えば、童話世界へ攻めてきた蜃鬼楼たちのグループと、攻める気のない蜃鬼楼たちのグループ。って事かな」
「へぇ~、ショータローやっぱ、知識スゲーよなー♪」
「そ、そうかな…」
ピノッキオは、なんだか章太郎を凄く認めてくれている感じ。
『それで、今回の童話世界には、童話の同人世界も干渉していた…というお話でしたね』
章之助の助手である真希も、色々と気になる事を尋ねて来る。
「はい。ジミーの話だけでなくて、俺たちも ピノッキオの兄弟って、原典に無い存在に驚かされましたし。スイミーの存在も、同人誌世界と同じに 影響を受けた結果だと、ジミーは言ってました」
『童話の同人誌…ですか』
真希は、ちょっと考え込む様子を見せた。
『ん? 真希、なんか思い当たる節とか、あるのか?』
『はい。と言いますか…今回のケースの「同人世界」とは、どのような範囲を指すのでしょう…?』
「範囲…ですか?」
とりあえずの前提として、童話世界と認識をされているのは。
「一般的に広く知られている物語に対して、様々な童話作家のバージョンがあって…それら全てに対する最大公約数的な認識の世界…みんなが読んで知っている共通部分…っていうのが、俺たちの知っている『童話世界』だって、俺は想ってるけど」
『私たちも、その点については同様です。とすれば、童話の同人誌世界とは…? という疑問です』
それについては、章之助の考えが最も正解に近いと、章太郎も真希も感じる。
『ふむ…大雑把にーじゃが、最も童話世界に近いのが いわゆる自費出版で出版をされた二次創作の童話で、しかしこれは絶対的に 数は少ないと想われるの』
「うん…そうだろうね」
自費出版での童話の二次創作なんて、同人即売会で出すとしても、売り上げや注目度に対してお金が掛かりすぎると、章太郎も考える。
『次に考えられるのが、創作の小説や漫画なんかを発表出来る、出版社のネットページでの発表じゃな。これなら、費用もほぼネットの通信費だけで済むし、読んでくれる人も多かろう』
「創作品の発表…そういうのが あるんだ」
章太郎は知らなかったようだ。
「あ、忘れてた! そういえば爺ちゃん。聞きたい事があったんだ!」
『んー?』
全ての元凶、章之助の実験の失敗により、童話世界へ開いた次元の穴について。
『進展ほぼ無しじゃ。ほっほっほ』
「いや爺ちゃん、笑ってる場合じゃ…」
明るいというか、しかしそれに伴う危険への対処として、御伽噺ガールズを召還したとも言えるけれど。
『開いて解ったんじゃがのお。異世界と通じる穴というのは、なんというか、鍋の底に開いた穴みたいなモンでの。水がこぼれる間は穴の塞ぎようが無い。という事が解った。みたいなモンしゃよ』
「さんなー。それじゃあ 穴は開きっぱなし…あっ!」
章之助の話から、章太郎は思い当たり、その考えは誰よりも先に章之助が思いついていた考えと、一致していたらしい。
「それって、つまり…」
『そうじゃ。ジミーが言っていたように、童話世界やコチラの世界の「チカラ的な何か」を解明し、それらの流出入を確認出来れば、それを停止し、穴を塞ぐ事が出来る。かも知れんという話じゃな』
「そ、そうなんだ…っ!」
この事態を解決する最も確実な方法は、穴を塞ぐ事である。
『ふふ…そのヒントが掴めただけでも、今回の、章太郎くんたちの童話世界転移に、とても大きな意味があった。という事です♪』
「よ、良かった…」
事態はまだ動いていないけれど、とても大きな一歩だ。
『まぁそんな感じじゃな。それじゃあ章太郎、みんなも、今回はご苦労じゃったな。また連絡するぞい』
という感じで、帰還報告が終わった。
それから、章太郎たちはみんなで、駅前のショッピングモールへと向かった。
「スイミーの服って、いわゆる子供服だよな?」
「仰る通りに御座います、主様」
買い物となると、もはや有栖の独断場と言える。
「それでは、まずは お子様向けの衣服売り場へ 参りましょう」
「「「「「「は~い」」」」」」
章太郎をはじめ、少女たちもみな、メイド少女の後へ続く。
モールの五階は女性服専門のフロアで、章太郎は、煌びやかで儚げな女性の下着の並ぶ光景に、視線のやり場を失ったり。
「えぇと…みんな、服とか、好きなの選んでて。爺ちゃんもそう言ってるし、俺はここで待ってるから」
上気する顔をさり気なく背けながら、章太郎はエスカレーター近くのベンチへと、腰を下ろした。
「ボクたちも、選んで良いのか?」
服を買うというお出かけに、女子勢はみな、ワクワクと嬉しそうだ。
「あ、有り難う御座います…♪」
「わ~、どんなの 買って貰おうかな~♪」
「服って、オレも良いのか?」
「では皆様、まずはスイミーちゃんのお洋服を 選んで参りましょう♪」
ていう感じで、女子だけで選ぶかと想っていたけれど、まずはカートを引いて。
「ショータローも、一緒に選んであげるベキだ♪」
「え、俺…っ? うわっ、ちょっと…っ!」
ブーケに掌を取られて、章太郎は人生初の、女性服売り場へと連れ込まれた。
季節に合わせて、夏服よりも秋物の服が多くなっている感じの衣服フロアには、当たり前だけど殆どのお客さんは、女性だ。
「………っ!」
主婦層だけでなく、章太郎と同い年や、もっと年下の女子たちの姿も、見受けられる。
(こ、こんなトコに男がいて、騒がれたりしないかな…っ?)
なんとなく場違いというか、男子禁制みたいな空気感を、章太郎は感じてしまったり。
「女児の衣服は こちらに御座います♪」
ショップの店員さんの如くな案内で、計七人の男女が到着。
「まあ…なんとも可愛らしいお洋服が、いっぱいですわ♪」
「あ~、魔法少女のだ~♪」
「へぇ、ちっちゃいのに 細けぇモンだなぁ♪」
「おお、赤いずきんもあるぞ♪」
「わあぁ~♪ キラキラして、素敵~♪」
やはり女子の本能なのか、御伽噺の少女たちは、それぞれに楽しみ始めた。
「スイミーちゃんは、どのようなお召し物が お望みでしょうか?」
女児物のハンガーには、沢山の衣服が下げられている。
「ん~♪ お兄さまは、どれが似合うと想われますか?」
「俺?」
原典でも、頭を使うキャラだったからか、スイミーは言葉遣いも対応も、年齢以上に大人びている。
「んー…俺は服に頓着とか無いからなー…。スイミー 黒髪だし…やっぱ 明るめな色の方が似合うのかなー?」
自信は無いけど指名された以上、真剣に考えて、服の山から色々と選ぶ。
「お、この明るい水色…とか。うわ、まだスイミーが魚だったって、引っ張られてるっぽいなー俺…」
章太郎が選んだ水色のワンピースは、明るくて涼しげな色合いだけど夏向けっぽいデザインにも見えて、そして確かめて、納得。
「って、やっぱり夏物のセール品か!」
なんだか、女児の衣服をセール品で賄おうとしているみたいで、ちょっとイヤだ。
それでも、スイミーは嬉しいらしい。
「スイミーは、このお洋服が欲しいです♪」
「え、でも…」
遠慮してるのかな。
と章太郎は想うけれど、水色のワンピースを抱き占めるスイミーは、心の底から嬉しそうな笑顔だ。
「えぇと…じゃあ、それを買って、他にも、何着か 必要だよな?」
と、忠臣なメイド少女へ、目配せで助けを求める少年。
「仰る通りに御座います、主様。それではスイミーちゃん、他にも何着か、衣服を選びましょう」
「は~い♪」
「そ、それと、みんなもちゃんと、自分のを選んでな。有栖も」
「「「「「「は~い♪」」」」」」
女子勢の衣服選びの間、章太郎はベンチへ戻ろうと想ったけれど、ここからベンチまで一人で女性服の間を歩く苦行を考えてしまい、カートと共にジっと待つ事とした。
スイミーの下着や靴下やハンカチなど、様々な普段遣いも選ぶと、皆が微笑み、章太郎は有栖の言葉に驚かされる。。
「それでは 主様の衣服を選びましょう♪」
~第八十五話 終わり~
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