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☆第八十二話 やっぱり検査☆

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 ピノッキオの身体は中性的なラインを魅せていて、面立ちと相まって、スレンダー美人と呼べる。
 頭髪が細い蔦で緑色だったり、全身の関節部分がデッサン人形と同じような造形だったり、肌が木目調だったりはするが。
「うぅ…」
 それでも、章太郎から見れば女性的に見えて、やはり近くで脱衣をされると、思わず視線を逸らしてしまっていた。
「? どうしたんだショータロー。顔が赤いぞ? あ、熱でもあるのか?」
 と心配をしながら、無防備な姿で近づいて、少年の額へ掌を充てる。
「うわっ――だだ、大丈夫だからっ! あっそうだっ! 俺っ廊下へ出てるからっ――」
 紳士的な避難をしようとしたタイミングと重なって、忠臣メイドが報告をした。
「主様。大旦那様への報告が、完了いたしました」
「爺ちゃんへ報告…ああっ!」
 ピノッキオを連れてきた事で、すっかり忘れていたけれど、童話世界から無事に帰って来たのだから、祖父へ連絡をしなければならない。
「そうだった! 有栖、サンキュー!」
「有り難う存じ上げます…?」
 章之助へ連絡が届いたなら、間を於かずこちらへ、通信が来るだろう。
 と思っていたら、本当にすぐに、モニターが光った。
『おお、章太郎。ブーケと雪と美鶴と有栖とお供たちよ。みんな無事かの?』
「あ、うん、ただいま。爺ちゃん、真希さん」
『みんな、お帰りなさい』
 研究所と繋がっているモニターには、祖父である章之助と、助手の真希が、報告をワクワク顔で待っている。
「えぇと…、ピノッキ――ピピノッキオ、こっちへ」
 呼ぼうとしたら、ブーケから着衣を止められたタイミングだったので、章太郎はクルっと反対側へ向いた。
 着衣を止めたのは、これから博士たちがピノッキオのデータを取る事を考えて、という事のようだ。
「? なんだ? ん? この人たち、お隣さんか?」
 モニター映像を見るのも初めてなピノッキオは、大型の極薄モニターへ映る初対面な人物たちを、窓の向こうのお隣さんと考えたらしい。
『ほほぉ、お前さんがピノッキオかい♪ ワシゃあ、そこの章太郎の祖父の、章之助っちゅうモンじゃよ。ヨロシクの♪』
「おう! オレの方こそ、ヨロシクな♪ えぇと、ショーノスケー♪」
 挨拶を貰ったピノッキオは、笑顔で気楽に片手を上げた。
 名前の覚え方は、少し雑っぽい。
『私は博士の助手で、忠実真希(まめ まき)と言います。…成る程、たしかに木の人形…木製人間とも呼べる存在ですね♪』
「そうか? えへへ♪」
 一見すると失礼っぽい認識だけど、真希の楽しげな声色に、ピノッキオは感心されたと理解をしたっぽく、照れ隠しのようにショートカットの頭を掻いた。
『ふむ。それじゃあ、ピノッキオよ。ちょいとばかし、お前さんのデータ…身体的な特徴を、調べさせて貰っても良いかの?』
「? 製品検査か? どうすりゃ良いんだ?」
 生きている松の木から削り出された木製製品だからか、あくまで、商品的な解釈が自然なのだろう。
『これから、あなたの身体に緑色の走査線…光を充てますので、私たちの指示に従って、その場で一回転して貰えますか?』
「? なんかわかんねーけどわかった!」
 大雑把だけど裏表の無い、素直なピノッキオであった。
 全裸少女と認識出来る中性美形と一緒のリビングに、また居る章太郎。
(…いま出て行っても、すぐに呼び戻されるよな)
 今回の通信は、ピノッキオの検査だけでなく、転移した童話世界の事も聞かれるだろうから、章太郎はソファーへ正座して、少女たちの反対側を向く。
『そうそう、モニターの前で、気をつけー。とかの姿勢じゃな』
「へぇー、この窓、もにたーって言うのかー♪ あ、ホントによく見りゃあ、ショーノスケーもマキも、薄っぺらじゃねーか!」
 窓ではないと解ったらしいけれど、仕組みの説明などは、後々に章太郎たちへ丸投げされそうだ。
『それでは、検査 始めますね♪』
「おう。わっ、何だこれっ?」
 ピノッキオの足下から、極細い緑色の線が、肌を滑り上がってくる。
 特別に熱もくすぐったさも無いけれど、初めて見る種類の光に、ピノッキオは視線を奪われていた。
 それから、側面や背面からなど、四方向の捜査が終わって、ピノッキオは着衣を許可される。
『協力してくれて、サンキューじゃの♪ ピノッキオ、お前さんも みんなとその家で暮らすと良いぞ♪』
「え、オレも ここで暮らして良いのかっ?」
 章之助やブーケたち、後ろ向きな章太郎たちへ確かめる、まだ裸のピノッキオ。
「ああ、うん。その為に、こっちの世界へ来て貰ったんだから。ピノッキオの部屋もあるし、解らない事とか、オレたちに聞いてくれれば良いから」
「そ、そうなのか…あはは。こんな、お城みてーな家に、オレが…なんか…悪ぃな」
 気後れをしているのは、未知の世界だから、というだけでも無かったようだ。
「とにかくさ、後でピノッキオの生活に必要な物とか、色々と買い出しに出よう」
 これで検査は終わり。
 とか章太郎が思ったら、真希によると、まだらしい。
『それでは、ブーケたちも検査しましょう。さ、。脱いで♪』
「「「「は~い」」」」
 揃って返事をすると、四人は衣服を脱ぎ始めた。
「――っ!? な、なんでみんなもっ?」
 画面へ向いたら脱衣中の四人と裸のピノッキオを見てしまうから、背中を向けたまま問いただす。
『みんなで、童話世界へ行ったのでしょう? 有栖以外は初めての転移ですし、ちゃんとデータは 取っておくベキでしょう♪』
 語尾が楽しそうなのは、少女たちの裸に恥ずかしがる少年が楽しいからだろう。
 とはいえ少年にとって、背後で少女たちが裸になるリビングはナゼが立ち去り難い空気感である事も、事実であった。
 特に、みんなが裸になった途端、リビング全体がいつもと違う微熱を感じさせたり、なんだか甘くて良い香りが感じられたり。
「では、ボクからだな」
 四人があらためて走査線を浴びて、滑らかな裸身を光がなぞる。
 お供たちも検査が終わって、今度こそ五人の少女たちが、着衣を始めた。
『ふむ…特に変化は無いのぉ』
『そのようですね…。有栖にも、特別な変化は感知されませんですね』
 科学者二人がデータをチェックしている間に、女子たちの着衣の様子が聞こえてくる。
「ん? このちっこい布はなんだ? やけに柔らかくて、伸び伸びするぞ?」
「それは、女性用の下着です」
「下着? ああ、ドロワースとかいうヤツの事か?」
 ピノッキオたちの世界では、特に貧困層の女性たちは下着を履いていなくても、不思議ではないらしい。
(…女性用の下着が一般社会に広まったのって、人類史でも ここの百年から二百年くらいだもんな…)
 章太郎の知識は、下着が好きで調べ廻ったとかではなく、童話世界の時代背景や、現実世界とは違うファンタジー世界としての世界背景を調べたりした、その結果である。
「へぇ~っ、こんな小さいのに、なんかすげー気持ち良いんだなー♪ ショータロー、これが女のパンツなんだってよ♪」
「あわわっ――みっ、見せなくて良いからっ!」
 呼ばれてウッカり振り向いて、慌てて背中を向ける少年だ。
 関節剥き出しや木目の肌とはいえ、スレンダー美少女がショーツ一枚の身体を見せ付けてきたら、年頃の少年であれば裸を意識してしまうのである。
(しっ、しかも他のみんなも、まだ着衣中じゃないか…っ!)
 みんな下着を着けている途中だったので、バストやヒップを直視してしまった。
「このブラっての、着けにくいなー」
「あ、それはね~。こうやって~♪」
 聞こえてくる会話から察するに、美鶴が正しいカップの着け方を教えているっぽい。
「これで良いのか? へぇ~…なんか、すっごく綺麗なんだな~♪」
 リビングの大きな鏡で全身を見たピノッキオは、しなやかなラインの身体にピッタリフィットした下着姿な自分を初めて知って、とてもワクワクしている様子だ。
「この世界の女って、みんなこんな、可愛い格好してるんだな~♪ へぇ~、ブーケもユキもミツルもアリスも、みんな可愛いな~♪」
「あ、有り難う存じ上げます♪」
「ピノッキオも、可愛らしくて良く似合っているぞ♪」
 女子同士の下着談話でキャイキャイしている現場で、背中を向けた正座の男子一人。
 暫しして、サラサラとした布の擦れる音が聞こえなくなったので、もう着衣は終わったのだろう。
「えぇと、振り向いて 平気?」
「主様、お待たせを致しました。皆、ただいま 着衣を完了いたしましてございます」
 メイド少女の上申に安堵して振り返ると、メイドドレスなアリス以外はみな私服で、ピノッキオは袖付きのワンピースを着用していた。
「へぇ………」
 緑色のボーイッシュなショートカットに、整った面立ちと、落ち着いた色合いのワンピースが、極上のミスマッチに感じられる。
「た、たしか、ブーケの服…だったっけ?」
「うむ。ボクのサイズと ほぼ一緒だったからな♪」
「えへへ…ど、どうだ、ショータロー…?」
 少女たちを思わず見惚れた少年へと、中性的な木製美人が、恥ずかしそうに頬を染めつつ尋ねててくる。
「え、あ、うん…。みんな、すごく可愛いし、綺麗だと思う…」
 素直な感想に、みんなが頬を染めた。
「そ、そぅかぁ~? まあ、ショータローが言うなら…ん?」
 ピノッキオのお腹がグゥ…と鳴って、六人みんなが、思い出す。
「主様、聖力補充のお時間に御座います」

                        ~第八十二話 終わり~
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