82 / 134
☆第八十二話 やっぱり検査☆
しおりを挟むピノッキオの身体は中性的なラインを魅せていて、面立ちと相まって、スレンダー美人と呼べる。
頭髪が細い蔦で緑色だったり、全身の関節部分がデッサン人形と同じような造形だったり、肌が木目調だったりはするが。
「うぅ…」
それでも、章太郎から見れば女性的に見えて、やはり近くで脱衣をされると、思わず視線を逸らしてしまっていた。
「? どうしたんだショータロー。顔が赤いぞ? あ、熱でもあるのか?」
と心配をしながら、無防備な姿で近づいて、少年の額へ掌を充てる。
「うわっ――だだ、大丈夫だからっ! あっそうだっ! 俺っ廊下へ出てるからっ――」
紳士的な避難をしようとしたタイミングと重なって、忠臣メイドが報告をした。
「主様。大旦那様への報告が、完了いたしました」
「爺ちゃんへ報告…ああっ!」
ピノッキオを連れてきた事で、すっかり忘れていたけれど、童話世界から無事に帰って来たのだから、祖父へ連絡をしなければならない。
「そうだった! 有栖、サンキュー!」
「有り難う存じ上げます…?」
章之助へ連絡が届いたなら、間を於かずこちらへ、通信が来るだろう。
と思っていたら、本当にすぐに、モニターが光った。
『おお、章太郎。ブーケと雪と美鶴と有栖とお供たちよ。みんな無事かの?』
「あ、うん、ただいま。爺ちゃん、真希さん」
『みんな、お帰りなさい』
研究所と繋がっているモニターには、祖父である章之助と、助手の真希が、報告をワクワク顔で待っている。
「えぇと…、ピノッキ――ピピノッキオ、こっちへ」
呼ぼうとしたら、ブーケから着衣を止められたタイミングだったので、章太郎はクルっと反対側へ向いた。
着衣を止めたのは、これから博士たちがピノッキオのデータを取る事を考えて、という事のようだ。
「? なんだ? ん? この人たち、お隣さんか?」
モニター映像を見るのも初めてなピノッキオは、大型の極薄モニターへ映る初対面な人物たちを、窓の向こうのお隣さんと考えたらしい。
『ほほぉ、お前さんがピノッキオかい♪ ワシゃあ、そこの章太郎の祖父の、章之助っちゅうモンじゃよ。ヨロシクの♪』
「おう! オレの方こそ、ヨロシクな♪ えぇと、ショーノスケー♪」
挨拶を貰ったピノッキオは、笑顔で気楽に片手を上げた。
名前の覚え方は、少し雑っぽい。
『私は博士の助手で、忠実真希(まめ まき)と言います。…成る程、たしかに木の人形…木製人間とも呼べる存在ですね♪』
「そうか? えへへ♪」
一見すると失礼っぽい認識だけど、真希の楽しげな声色に、ピノッキオは感心されたと理解をしたっぽく、照れ隠しのようにショートカットの頭を掻いた。
『ふむ。それじゃあ、ピノッキオよ。ちょいとばかし、お前さんのデータ…身体的な特徴を、調べさせて貰っても良いかの?』
「? 製品検査か? どうすりゃ良いんだ?」
生きている松の木から削り出された木製製品だからか、あくまで、商品的な解釈が自然なのだろう。
『これから、あなたの身体に緑色の走査線…光を充てますので、私たちの指示に従って、その場で一回転して貰えますか?』
「? なんかわかんねーけどわかった!」
大雑把だけど裏表の無い、素直なピノッキオであった。
全裸少女と認識出来る中性美形と一緒のリビングに、また居る章太郎。
(…いま出て行っても、すぐに呼び戻されるよな)
今回の通信は、ピノッキオの検査だけでなく、転移した童話世界の事も聞かれるだろうから、章太郎はソファーへ正座して、少女たちの反対側を向く。
『そうそう、モニターの前で、気をつけー。とかの姿勢じゃな』
「へぇー、この窓、もにたーって言うのかー♪ あ、ホントによく見りゃあ、ショーノスケーもマキも、薄っぺらじゃねーか!」
窓ではないと解ったらしいけれど、仕組みの説明などは、後々に章太郎たちへ丸投げされそうだ。
『それでは、検査 始めますね♪』
「おう。わっ、何だこれっ?」
ピノッキオの足下から、極細い緑色の線が、肌を滑り上がってくる。
特別に熱もくすぐったさも無いけれど、初めて見る種類の光に、ピノッキオは視線を奪われていた。
それから、側面や背面からなど、四方向の捜査が終わって、ピノッキオは着衣を許可される。
『協力してくれて、サンキューじゃの♪ ピノッキオ、お前さんも みんなとその家で暮らすと良いぞ♪』
「え、オレも ここで暮らして良いのかっ?」
章之助やブーケたち、後ろ向きな章太郎たちへ確かめる、まだ裸のピノッキオ。
「ああ、うん。その為に、こっちの世界へ来て貰ったんだから。ピノッキオの部屋もあるし、解らない事とか、オレたちに聞いてくれれば良いから」
「そ、そうなのか…あはは。こんな、お城みてーな家に、オレが…なんか…悪ぃな」
気後れをしているのは、未知の世界だから、というだけでも無かったようだ。
「とにかくさ、後でピノッキオの生活に必要な物とか、色々と買い出しに出よう」
これで検査は終わり。
とか章太郎が思ったら、真希によると、まだらしい。
『それでは、ブーケたちも検査しましょう。さ、。脱いで♪』
「「「「は~い」」」」
揃って返事をすると、四人は衣服を脱ぎ始めた。
「――っ!? な、なんでみんなもっ?」
画面へ向いたら脱衣中の四人と裸のピノッキオを見てしまうから、背中を向けたまま問いただす。
『みんなで、童話世界へ行ったのでしょう? 有栖以外は初めての転移ですし、ちゃんとデータは 取っておくベキでしょう♪』
語尾が楽しそうなのは、少女たちの裸に恥ずかしがる少年が楽しいからだろう。
とはいえ少年にとって、背後で少女たちが裸になるリビングはナゼが立ち去り難い空気感である事も、事実であった。
特に、みんなが裸になった途端、リビング全体がいつもと違う微熱を感じさせたり、なんだか甘くて良い香りが感じられたり。
「では、ボクからだな」
四人があらためて走査線を浴びて、滑らかな裸身を光がなぞる。
お供たちも検査が終わって、今度こそ五人の少女たちが、着衣を始めた。
『ふむ…特に変化は無いのぉ』
『そのようですね…。有栖にも、特別な変化は感知されませんですね』
科学者二人がデータをチェックしている間に、女子たちの着衣の様子が聞こえてくる。
「ん? このちっこい布はなんだ? やけに柔らかくて、伸び伸びするぞ?」
「それは、女性用の下着です」
「下着? ああ、ドロワースとかいうヤツの事か?」
ピノッキオたちの世界では、特に貧困層の女性たちは下着を履いていなくても、不思議ではないらしい。
(…女性用の下着が一般社会に広まったのって、人類史でも ここの百年から二百年くらいだもんな…)
章太郎の知識は、下着が好きで調べ廻ったとかではなく、童話世界の時代背景や、現実世界とは違うファンタジー世界としての世界背景を調べたりした、その結果である。
「へぇ~っ、こんな小さいのに、なんかすげー気持ち良いんだなー♪ ショータロー、これが女のパンツなんだってよ♪」
「あわわっ――みっ、見せなくて良いからっ!」
呼ばれてウッカり振り向いて、慌てて背中を向ける少年だ。
関節剥き出しや木目の肌とはいえ、スレンダー美少女がショーツ一枚の身体を見せ付けてきたら、年頃の少年であれば裸を意識してしまうのである。
(しっ、しかも他のみんなも、まだ着衣中じゃないか…っ!)
みんな下着を着けている途中だったので、バストやヒップを直視してしまった。
「このブラっての、着けにくいなー」
「あ、それはね~。こうやって~♪」
聞こえてくる会話から察するに、美鶴が正しいカップの着け方を教えているっぽい。
「これで良いのか? へぇ~…なんか、すっごく綺麗なんだな~♪」
リビングの大きな鏡で全身を見たピノッキオは、しなやかなラインの身体にピッタリフィットした下着姿な自分を初めて知って、とてもワクワクしている様子だ。
「この世界の女って、みんなこんな、可愛い格好してるんだな~♪ へぇ~、ブーケもユキもミツルもアリスも、みんな可愛いな~♪」
「あ、有り難う存じ上げます♪」
「ピノッキオも、可愛らしくて良く似合っているぞ♪」
女子同士の下着談話でキャイキャイしている現場で、背中を向けた正座の男子一人。
暫しして、サラサラとした布の擦れる音が聞こえなくなったので、もう着衣は終わったのだろう。
「えぇと、振り向いて 平気?」
「主様、お待たせを致しました。皆、ただいま 着衣を完了いたしましてございます」
メイド少女の上申に安堵して振り返ると、メイドドレスなアリス以外はみな私服で、ピノッキオは袖付きのワンピースを着用していた。
「へぇ………」
緑色のボーイッシュなショートカットに、整った面立ちと、落ち着いた色合いのワンピースが、極上のミスマッチに感じられる。
「た、たしか、ブーケの服…だったっけ?」
「うむ。ボクのサイズと ほぼ一緒だったからな♪」
「えへへ…ど、どうだ、ショータロー…?」
少女たちを思わず見惚れた少年へと、中性的な木製美人が、恥ずかしそうに頬を染めつつ尋ねててくる。
「え、あ、うん…。みんな、すごく可愛いし、綺麗だと思う…」
素直な感想に、みんなが頬を染めた。
「そ、そぅかぁ~? まあ、ショータローが言うなら…ん?」
ピノッキオのお腹がグゥ…と鳴って、六人みんなが、思い出す。
「主様、聖力補充のお時間に御座います」
~第八十二話 終わり~
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる