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☆第五十四話 神様の憂鬱☆
しおりを挟む有栖の取り次ぎによって、修太郎は「ネコがネズミをおいかけるわけ」の童話世界の神様と、対話をする。
有栖は主より一歩下がって、綺麗な立ち姿で待機をした。
「えっと…まずは、有栖と俺が この世界へ導かれた感じなんですが…もしかして、神様がお呼びになったのですか?」
『ん~、そうなのかなぁ~?』
なんだかハッキリとしない返答である。
『え…それでは、その…なにか、俺たちで解決するような、何か問題のような事とかは、ありますか?」
『ん~と…あぁ、もしかして、あれかなぁ?』
なにか、思い当たる節があるらしい。
「そ、それは、どんな…どのような事なのですか?」
ノンビリと穏やかな口調の神様に、章太郎はなんだか、安心感というか親しみを感じてしまい、つい敬語を忘れそうになって慌てた。
『これ…かなぁ?』
そう言って、お社の隣に幻影が映し出される。
大樹の狭間で張られた光の網に、五メートル程の怪異が捕らえられて、藻掻き暴れていた。
「章太郎様…っ!」
「あれって…蜃鬼楼…っ?」
鈍い赤黒色に光る巨体は、四頭身にデフォルメをした人型。
頭と手足が大きくて、いかにも力任せに破壊をしそうな、ストレートな姿だった。
鋭くつり上がった赤い目と、大きな口には牙が見える。
捕らえられている蜃鬼楼は、とにかく光の網を破らんと、激しく暴れていた。
「こ、この世界にも、蜃鬼楼が…っ!」
『へぇ~、あれって~、しんきろうって、いうのか~』
ノンビリと話す神様だけど、蜃鬼楼を拘束しているなんて、凄いパワーの持ち主っぽいと感じるけれど。
『あれさ~、ど~しよっかなぁ~って~、思っててさぁ~』
「え…?」
「は…?」
神様の困惑に、思わず見合ってしまう章太郎と有栖。
「ぁ、あの…蜃鬼楼が現れたという事は、その…この世界に、美味しい聖力…というか生体エネルギーを持った存在がいる…という事だと思います…!」
『せいりょく~?』
この童話世界では、蜃鬼楼の出現そのものが初めてっぽい。
「えぇと、聖力というのは…」
なので章太郎は、神様へ、自分たちの経験を伝えた。
『なぁ~るほどねぇ~。だとしたらさぁ~、きっと~、この世界の住民たちみんな~、じゃあ、ないかなぁ~』
「この世界の…?」
神様いわく、この童話世界の龍や牛たちの殆どは、一部を除いてみな、綺麗な精神性の持ち主らしい。
「…一部というのは ネズミとかかな…」
『善意とか~、だけだとさ~、世界のバランス~、悪くくなるからねぇ~』
「そ、そうなんですか…」
神様の自論だと、そうらしい。
「つまり、あの蜃鬼楼は、この世界のみんなの聖力を吸いに来た…という事ですか?」
『ん~、そういう事かなぁ~』
聞くに納得できそうだけど、それでは納得できない部分もある。
「あの…あの蜃鬼楼って…あ」
なぜ突然に現れたのでしょうか。
と尋ねようとして、神様が蜃鬼楼そのものを知らなかったらしい事を、思い出した。
「あの…もしかして この世界に蜃鬼楼が現れたのは、やっぱり初めてなのですか?」
『ん~、そ~』
「あぁ…なるほど…」
最近になって現れたという事は、つまり章太郎たちの世界と同じく、原因は章之助。
「あの…なんか、申し訳御座いませんです…」
「………」
主が謝罪をするなら当然と、メイド少女も、それ以上に深く謝罪を差し上げる。
「そ、それであの…神様は、蜃鬼楼を捕らえておいでですが…あのまま、どのようにされるおつもりなのでしょか?」
もしも、神様が章太郎たちとは違う方法で蜃鬼楼を退治出来るのであれば、知りたい。
『ん~…なんかさ~、出てくる穴に~、網を張って~、入って来たら捕らえる~? くらいしか~、する事ないんだよねぇ~』
「は…?」
この世界の神様は、いわゆる知性と平和の神様らしい。
『だからさ~。ああいう しんきろう~? とかの~、暴れるのとか~、追い払うとかね~、出来ないのよねぇ~』
「そ、そうなんですか…」
知性と平和が人類以上に高いと、それはそれで困難もあるようだ。
章太郎は、考える。
「つまり…有栖がこの世界に引き込まれたのは、神様があの蜃鬼楼をどうにかしたいって、お考えになったトコも、要因の一つ…って思うけど…」
召使いに、正直な感想を尋ねる。
「有栖も、主様と同じく考察をいたしました。…主様、有栖も、神様への問いをさせて戴いて、宜しいでしょうか?」
「あ、うん」
主からの許しを貰ったメイド少女が、神様へ問う。
「神様、章太郎様と私が蜃鬼楼を成敗した暁には、主様は元の世界へ帰還される事が、叶いましょうか?」
誰よりも章太郎を第一に考える事が当たり前な、メイド少女である。
『ん~、キミたちの召還が~、私の憂鬱ならね~。あのしんきろう? を、なんとかしてくれたら~、キミたちの世界へ~、普通に帰れる筈だよ~」
神様の返答に、有栖は失礼の無いよう、大きな喜びを愛らしいポーカーフェイスで隠し、礼を述べた。
「有り難う存じ上げます」
とにかく、帰る方法が解った。
「じゃあ、有栖…原因がまあ、俺たちって事だから…。俺は、あの蜃鬼楼を退治しようと思う!」
「主様の、御意志のままに!」
章太郎と有栖は、蜃鬼楼が捕らえられている森へと向かった。
「いた…っ!」
森の中でも比較的に地面が見える場所の、よく陽の当たる二本の大樹の間で、蜃鬼楼が藻掻いている。
――ッゴアアアァァァッ!
光の網は今にも引き千切られそうで、この蜃鬼楼がパワータイプだと確信を得た。
(とにかく、いま戦えるのは、俺だ…っ!)
蜃鬼楼が捕らえられているうちに、章太郎はオカルト・カードを出現させて、準備。
「よし…っ! 桃太郎さっ――うわあっ!」
深呼吸をして、桃太郎カードで変身しようとしたら、蜃鬼楼が章太郎の聖力に反応したっぽく、光の網を破いてしまった。
――ッグアアアンンッ!
拿捕から逃れた五メートルのデフォルメ蜃鬼楼は、美味しそうな聖力をプンプンさせているらしい章太郎をジロと睨み付け、足音を立てて近づいてくる。
「主様っ!」
忠臣な有栖が、章太郎の盾となるべく走り出したと同時に、変身をした。
「来るぞっ! 桃太郎さんっ、どうぞっ!」
実体化したカードをスキャンさせると、少年の身体が光に包まれ、粒子変換によってメカ鎧を装着。
章太郎は、桃太郎を模したメカ武者へと変身をした。
「よしっ…あれっ?」
前回の変身で身に付いたのか、左の腰に手を当てて抜刀しようとして、刀が無い事に気付く。
「そ、そうだっ! 刀っ…エターナル肥後は、元の世界だっ!」
「主様っ!」
――ッグアアアンッ!
焦るメカ武者を狙って、パワフル蜃鬼楼が拳を振るった。
「うわっ!」
有栖の声で慌てて避けたその地面には、蜃鬼楼の大きな拳の痕が、窪んで残る。
「け、結構な力…っ! 有栖は距離を取れっ! 命令だっ!」
「えっはっはい…っ!」
メイドロイドだった有栖がメカ生体となった経緯を思い返すと、命令してでも後方へ待避させるベキだと、章太郎は素早く判断。
「な、なんとかしなきゃっ!」
怪力には驚いたけれど、研究室での検証データだと、この位の物理攻撃なら耐えられる筈だ。
再び振り下ろされる拳を、章太郎は全身で受け止めてみる。
――っどおおんっ!
「重いっ…けどっ!」
両腕で防げたものの、しかし桃太郎の物理攻撃は刀であり、魔法のような不思議系な攻撃手段は、一切無し。
「ど、どうしよう…うぅっ!」
蜃鬼楼の攻撃は防げても、倒す手段が無いのだ。
神様からのお告げでは、光の網は全ての攻撃に耐性があり、再び蜃鬼楼を捕らえると、章太郎たちの攻撃も通らなくなるという。
そして、触れている章太郎から、僅かずつでも、聖力が染みんでいるからだろう。
圧力で押してくる蜃鬼楼の力が、少しずつだけど、強まっていた。
「主様っ!」
有栖はきっと、これ以上に章太郎が危機的状況となったら、命令違反を覚悟で飛び出してくるだろう。
「力が強くっ…力…あっ!」
章太郎は、もしかしたら逆転に繋がるかもしれない、ある事実を思い出した。
~第五十四話 終わり~
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