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☆第四十七話 有栖のお仕事☆

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「主様、ブーケ様、ユキ様、美鶴様、いってらっしゃいませ」
「それじゃあ、いってきます」
 朝、章太郎たちはニコニコ笑顔な元メイドロイドたちに見送られて、学校へ。
 部屋の扉前ではなく、マンションの正面玄関まで、お供たちと一緒にお見送りをしてくれる。
「それでは、留守を頼む」
「何かあったら、すぐに連絡を下さいね」
「じゃ~、行ってくるね~♪」
 手を振る四人を、モンペ姿の有栖は、綺麗な礼で送り出した。

「うぅむ…」
 登校しながら、章太郎は思う。
「どうしたのだ? ショータロー、なにか心配事か?」
 と、覗き込んでくるブーケたちは、心配顔も綺麗だ。
「あぁ、いや…あ、有栖の事なんだけど…」
「? 有栖ちゃんが、どうかしたのですか…?」
 御伽噺の三人は、章太郎の事を心配している。
「有栖はさ、家の家事炊事とか、主にこなしてくれてるだろ? 平日も、今みたいに留守番をしてるし」
「そうだね~♪」
 有栖が来て一週間程が過ぎ、ブーケたちの家事も、殆ど有栖がこなしてくれている。
 朝食やお弁当も、今では有栖が早起きをして、作ってくれていた。
「ボクたちは、助かっているけれど」
 と言いながら、夕食を一緒に作っている三人も、それなりに気にしている感じだ。
 章太郎の思う事は。
「なんていうか…有栖はずっと 部屋にいる感じじゃない? もっと外へ出たり、みんなみたいに学校へ通ったりして、友達がいる方が良いんじゃないか…とか…」
 お供たちがいるとはいえ、日中の家に一人きりという環境は、どうなのだろう。
「一応、爺ちゃんには相談してあるから、今週中には有栖の転入手続きが出来るって行ってたけど…」
 とはいえ学校へ通う事が、そもそも有栖にとっては、どうなのか。
「うむ…有栖はボクたちと違い、元々が、メイド職の為に制作されたオートマトンだからな…」
「私たちは、人間との生活に支障はありませんが…」
「うん~、有栖ちゃんは、お留守番っていうか~、今みたいな居場所が心地良い~。みたいな事、言ってたよ~♪」
「え、そうなの?」
「ああ…って、そうか。すまない、ショータローには、まだ話してなかったな」
 女子同士の会話で、やはり三人から、今後についての話が出ていたらしい。
 ブーケたちにとって、こちらでの日常的な生活は楽しいし、この生活は元々の世界の延長上と言える。
 しかし有栖は、名前が御伽噺系というだけで、存在としてはこの世界のロボット出身である。
 章太郎的に、考えてみた。
「なるほど…使用目的があって産み出された機械としては、それ以外の使用方法には関心が無い…みたいな感じ?」
 例えれば、車輪の着いている掃除機を掃除ではなく散歩をさせたり、最新スマフォを時計とカメラでのみ使用したり。
 創られた本来の理由とは違ったり、また縁遠い使用方法をさせられて、それがその機械にとっては幸せなのか。
「…っていう話だよな」
 機械に心があるならば。
 というか、メカ生体には心がある。
 現実主義者な筈の悩める少年に、ブーケたちは。
「…やはり、ショータローは優しいな」
「え…っ?」
 三人の美少女から優しい微笑みを貰ってしまうと、少年としては恥ずかしいだけだ。
「そ、そんな事ないけど…」
 三人はクスっと笑って。
「転入の手続きが整いましたら、有栖ちゃんにお話してみましょう♪」
「あたしも、それが良いと思うよ~♪」
「…そうだな。なんであれ、有栖が選べば それが一番だもんな」
 章太郎は、気持ちがスっとした。

 マンションでは、有栖が家事炊事を楽しんでいる。
「ふんふん~♪」
 鼻歌交じりで食器の洗浄を済ませたモンペメイド少女は、洗濯をしながら部屋を掃除。
 特に章太郎のベッドは乱れたたままなので、丁寧に整えたりも、楽しそうだ。
「さて、お掃除が完了いたしました♪」
 よく晴れたベランダに洗濯物を干しながら、足下でジャレつくお供たちと、楽しそうな会話もする。
「あらあら、ちょっと待っててくださいね♪ やはり洗濯物は、お日様に充てたほうがサッパリとしますので♪」
 メイドロイド出身の有栖が、備え付けの乾燥機よりも自然の太陽光を好むのは、メカよりも生体部分の影響だろう。
「さて、お洗濯物を干している間に、お買い物を済ませましょう♪」
 モンペを脱ぐと、その下は一般的に認識されている、黒系のメイド衣装。
 これが有栖本来の制服だからか、自室のクローゼットには、同じデザインの衣装が複数着と収められていた。
 買い物籠を用意して、玄関の姿見へ向かって、全身を整える。
「主様に恥ずかしい思いをさせては、召使い失格です!」
 細部までチェックを済ませたメイド少女は、玄関で見送るお供たちへ、笑顔で挨拶。
「それでは、お買い物に出て参りますね。お留守番を、お願いいたします♪」
 お供たちの返事を聞いて、有栖は商店街へと向かった。
 お昼前の駅前商店街は、まだ人混みという程の混雑ではない。
 有栖と同じく、早めに買い物を済ませる主婦や、散歩がてらのお年寄りが多かった。
「さて、今夜のお夕食は、何が宜しいでしょうか? 昨夜はお肉料理でしたから…」
 メニューを考えながら、この一週間で見慣れてきた商店街を散策。
 晩ご飯は毎日、少女たち四人で作るので、品数も多めになる。
 煮物など調理時間が掛かるおかずは、有栖が先に作っておくけれど、サラダなどは特にユキが得意だったり。
 商店街を歩くうら若きメイド少女は、どうしたって目立つからか、章太郎が知らないだけで、実は有栖は親しい人が多かったりする。
 今も、買い物をしている有栖へ、二人連れのお婆さんが声を掛けてきた。
「あら~、有栖ちゃん こんにちは~」
「平井様、安部様、ごきげんよう♪」
 明るい笑顔で挨拶を返す有栖は、礼も綺麗で声も優しい。
「お買い物? 毎日 偉いわねぇ」
「礼儀正しいし~、ウチの娘も 見習って欲しいわよね~」
「そんな…お褒めに預かり 光栄に存じます♪」
 恥ずかしそうに頬を染めるロイド少女の、清楚で控えめな立ち居振る舞いは、特にお年寄りたちには評判が良い。
 長く艶めくサラサラの髪と、優しい面立ちと、よく似合うメイド服。
 この一週間で有栖は、商店街でも知らない人のいない、有名メイド少女となっていた。
 そして、知り合ったお婆ちゃんたちからも、色々と教えを受けている。
「有栖ちゃん、ひじきの煮付けとか 出来る?」
「ひじき…でございますか…?」
 教えられた食材をメモリ内検索して、しかし出てこない種類な事も、以外と多い。
「申し訳御座いません。ひじき、という食材は、有栖のメモリには無記録のようです」
 研究所での食事は、一般的な社員食堂などに比べて偏っている事が多く、例えば鴨のムニエルは知っていても、ひじきの煮付けは知らなかったりする。
「あらま~、ひじき美味しいわよ~」
 有栖はお婆ちゃんたちから、ひじきの煮付けの作り方を教わり、メモリへと記録した。
「有り難う存じ上げます♪ 今宵は、ひじきの煮付けを作らせて戴きます♪」
「美味しいわよ~。それじゃあね~」
 笑顔で挨拶をくれたお婆ちゃんたちは、いつものように、仲良く喫茶店へと向かう。
「失礼いたします♪」
 有栖は丁寧な挨拶を返して、食材の購入へと向かった。
「ひじきの煮付け…また新しいメニューを 教えて戴きました♪」
 それからも、有栖は商店街の色々な店から、声を掛けられる。
「よ、メイドちゃん。今日は大根、良いの入ってるぜ!」
「あら有栖ちゃん。見て見て、この大きな鰺! フライにすると、。食べでがあって美味しいわよ!」
 日常的にはちょっと異質なメイド服の少女だけど、その姿が愛らしい事や、なにより礼儀正しさや相手を選ばず優しい性格など、地域の人たちからの好感度はかなり高かった。
 食材を買い終えた有栖は、ニコニコ笑顔で、マンションへと帰宅する。
「ただいま戻りました♪」
 メイド少女が玄関を開けると、留守番をしていたお供たちが、みんなでお出迎え。
「皆さん、お留守番 ご苦労様でた♪」
 買い物籠をキッチンのテーブルへ置くと、仕事服であるモンペを着用して、時間を要する調理に取りかかった。
「まずは早速、ひじきの煮付けを作りましょう♪」
 お婆ちゃんたちから教わったレシピを検索しながら、大豆を洗い、人参や豚肉を細切りにしてゆく。
「ふんふんふん~♪」
 一通りの下準備を終えると、お留守番をしていたお供たちへの、ご褒美タイム。
「それではみなさん、屋上へ参りましょう♪」
 マンションの屋上は、オーナーのプライベート空間なので、有栖は屋上でお供たちと遊んであげるのだ。
 コンロなど火元のシステムは全て、信号で有栖と繋がっているので、万が一にも噴きこぼれなど起こらないし、何かあってもその場で直ぐにスイッチを操作できる。
「それでは、ボールを投げます♪ はい♪」
 メイド少女の有栖にとって、家の一切を任される今の生活は、まさしく天職であった。

                    ~第四十七話 終わり~
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