47 / 134
☆第四十七話 有栖のお仕事☆
しおりを挟む「主様、ブーケ様、ユキ様、美鶴様、いってらっしゃいませ」
「それじゃあ、いってきます」
朝、章太郎たちはニコニコ笑顔な元メイドロイドたちに見送られて、学校へ。
部屋の扉前ではなく、マンションの正面玄関まで、お供たちと一緒にお見送りをしてくれる。
「それでは、留守を頼む」
「何かあったら、すぐに連絡を下さいね」
「じゃ~、行ってくるね~♪」
手を振る四人を、モンペ姿の有栖は、綺麗な礼で送り出した。
「うぅむ…」
登校しながら、章太郎は思う。
「どうしたのだ? ショータロー、なにか心配事か?」
と、覗き込んでくるブーケたちは、心配顔も綺麗だ。
「あぁ、いや…あ、有栖の事なんだけど…」
「? 有栖ちゃんが、どうかしたのですか…?」
御伽噺の三人は、章太郎の事を心配している。
「有栖はさ、家の家事炊事とか、主にこなしてくれてるだろ? 平日も、今みたいに留守番をしてるし」
「そうだね~♪」
有栖が来て一週間程が過ぎ、ブーケたちの家事も、殆ど有栖がこなしてくれている。
朝食やお弁当も、今では有栖が早起きをして、作ってくれていた。
「ボクたちは、助かっているけれど」
と言いながら、夕食を一緒に作っている三人も、それなりに気にしている感じだ。
章太郎の思う事は。
「なんていうか…有栖はずっと 部屋にいる感じじゃない? もっと外へ出たり、みんなみたいに学校へ通ったりして、友達がいる方が良いんじゃないか…とか…」
お供たちがいるとはいえ、日中の家に一人きりという環境は、どうなのだろう。
「一応、爺ちゃんには相談してあるから、今週中には有栖の転入手続きが出来るって行ってたけど…」
とはいえ学校へ通う事が、そもそも有栖にとっては、どうなのか。
「うむ…有栖はボクたちと違い、元々が、メイド職の為に制作されたオートマトンだからな…」
「私たちは、人間との生活に支障はありませんが…」
「うん~、有栖ちゃんは、お留守番っていうか~、今みたいな居場所が心地良い~。みたいな事、言ってたよ~♪」
「え、そうなの?」
「ああ…って、そうか。すまない、ショータローには、まだ話してなかったな」
女子同士の会話で、やはり三人から、今後についての話が出ていたらしい。
ブーケたちにとって、こちらでの日常的な生活は楽しいし、この生活は元々の世界の延長上と言える。
しかし有栖は、名前が御伽噺系というだけで、存在としてはこの世界のロボット出身である。
章太郎的に、考えてみた。
「なるほど…使用目的があって産み出された機械としては、それ以外の使用方法には関心が無い…みたいな感じ?」
例えれば、車輪の着いている掃除機を掃除ではなく散歩をさせたり、最新スマフォを時計とカメラでのみ使用したり。
創られた本来の理由とは違ったり、また縁遠い使用方法をさせられて、それがその機械にとっては幸せなのか。
「…っていう話だよな」
機械に心があるならば。
というか、メカ生体には心がある。
現実主義者な筈の悩める少年に、ブーケたちは。
「…やはり、ショータローは優しいな」
「え…っ?」
三人の美少女から優しい微笑みを貰ってしまうと、少年としては恥ずかしいだけだ。
「そ、そんな事ないけど…」
三人はクスっと笑って。
「転入の手続きが整いましたら、有栖ちゃんにお話してみましょう♪」
「あたしも、それが良いと思うよ~♪」
「…そうだな。なんであれ、有栖が選べば それが一番だもんな」
章太郎は、気持ちがスっとした。
マンションでは、有栖が家事炊事を楽しんでいる。
「ふんふん~♪」
鼻歌交じりで食器の洗浄を済ませたモンペメイド少女は、洗濯をしながら部屋を掃除。
特に章太郎のベッドは乱れたたままなので、丁寧に整えたりも、楽しそうだ。
「さて、お掃除が完了いたしました♪」
よく晴れたベランダに洗濯物を干しながら、足下でジャレつくお供たちと、楽しそうな会話もする。
「あらあら、ちょっと待っててくださいね♪ やはり洗濯物は、お日様に充てたほうがサッパリとしますので♪」
メイドロイド出身の有栖が、備え付けの乾燥機よりも自然の太陽光を好むのは、メカよりも生体部分の影響だろう。
「さて、お洗濯物を干している間に、お買い物を済ませましょう♪」
モンペを脱ぐと、その下は一般的に認識されている、黒系のメイド衣装。
これが有栖本来の制服だからか、自室のクローゼットには、同じデザインの衣装が複数着と収められていた。
買い物籠を用意して、玄関の姿見へ向かって、全身を整える。
「主様に恥ずかしい思いをさせては、召使い失格です!」
細部までチェックを済ませたメイド少女は、玄関で見送るお供たちへ、笑顔で挨拶。
「それでは、お買い物に出て参りますね。お留守番を、お願いいたします♪」
お供たちの返事を聞いて、有栖は商店街へと向かった。
お昼前の駅前商店街は、まだ人混みという程の混雑ではない。
有栖と同じく、早めに買い物を済ませる主婦や、散歩がてらのお年寄りが多かった。
「さて、今夜のお夕食は、何が宜しいでしょうか? 昨夜はお肉料理でしたから…」
メニューを考えながら、この一週間で見慣れてきた商店街を散策。
晩ご飯は毎日、少女たち四人で作るので、品数も多めになる。
煮物など調理時間が掛かるおかずは、有栖が先に作っておくけれど、サラダなどは特にユキが得意だったり。
商店街を歩くうら若きメイド少女は、どうしたって目立つからか、章太郎が知らないだけで、実は有栖は親しい人が多かったりする。
今も、買い物をしている有栖へ、二人連れのお婆さんが声を掛けてきた。
「あら~、有栖ちゃん こんにちは~」
「平井様、安部様、ごきげんよう♪」
明るい笑顔で挨拶を返す有栖は、礼も綺麗で声も優しい。
「お買い物? 毎日 偉いわねぇ」
「礼儀正しいし~、ウチの娘も 見習って欲しいわよね~」
「そんな…お褒めに預かり 光栄に存じます♪」
恥ずかしそうに頬を染めるロイド少女の、清楚で控えめな立ち居振る舞いは、特にお年寄りたちには評判が良い。
長く艶めくサラサラの髪と、優しい面立ちと、よく似合うメイド服。
この一週間で有栖は、商店街でも知らない人のいない、有名メイド少女となっていた。
そして、知り合ったお婆ちゃんたちからも、色々と教えを受けている。
「有栖ちゃん、ひじきの煮付けとか 出来る?」
「ひじき…でございますか…?」
教えられた食材をメモリ内検索して、しかし出てこない種類な事も、以外と多い。
「申し訳御座いません。ひじき、という食材は、有栖のメモリには無記録のようです」
研究所での食事は、一般的な社員食堂などに比べて偏っている事が多く、例えば鴨のムニエルは知っていても、ひじきの煮付けは知らなかったりする。
「あらま~、ひじき美味しいわよ~」
有栖はお婆ちゃんたちから、ひじきの煮付けの作り方を教わり、メモリへと記録した。
「有り難う存じ上げます♪ 今宵は、ひじきの煮付けを作らせて戴きます♪」
「美味しいわよ~。それじゃあね~」
笑顔で挨拶をくれたお婆ちゃんたちは、いつものように、仲良く喫茶店へと向かう。
「失礼いたします♪」
有栖は丁寧な挨拶を返して、食材の購入へと向かった。
「ひじきの煮付け…また新しいメニューを 教えて戴きました♪」
それからも、有栖は商店街の色々な店から、声を掛けられる。
「よ、メイドちゃん。今日は大根、良いの入ってるぜ!」
「あら有栖ちゃん。見て見て、この大きな鰺! フライにすると、。食べでがあって美味しいわよ!」
日常的にはちょっと異質なメイド服の少女だけど、その姿が愛らしい事や、なにより礼儀正しさや相手を選ばず優しい性格など、地域の人たちからの好感度はかなり高かった。
食材を買い終えた有栖は、ニコニコ笑顔で、マンションへと帰宅する。
「ただいま戻りました♪」
メイド少女が玄関を開けると、留守番をしていたお供たちが、みんなでお出迎え。
「皆さん、お留守番 ご苦労様でた♪」
買い物籠をキッチンのテーブルへ置くと、仕事服であるモンペを着用して、時間を要する調理に取りかかった。
「まずは早速、ひじきの煮付けを作りましょう♪」
お婆ちゃんたちから教わったレシピを検索しながら、大豆を洗い、人参や豚肉を細切りにしてゆく。
「ふんふんふん~♪」
一通りの下準備を終えると、お留守番をしていたお供たちへの、ご褒美タイム。
「それではみなさん、屋上へ参りましょう♪」
マンションの屋上は、オーナーのプライベート空間なので、有栖は屋上でお供たちと遊んであげるのだ。
コンロなど火元のシステムは全て、信号で有栖と繋がっているので、万が一にも噴きこぼれなど起こらないし、何かあってもその場で直ぐにスイッチを操作できる。
「それでは、ボールを投げます♪ はい♪」
メイド少女の有栖にとって、家の一切を任される今の生活は、まさしく天職であった。
~第四十七話 終わり~
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
優秀賞受賞作【スプリンターズ】少女達の駆ける理由
棚丘えりん
青春
(2022/8/31)アルファポリス・第13回ドリーム小説大賞で優秀賞受賞、読者投票2位。
(2022/7/28)エブリスタ新作セレクション(編集部からオススメ作品をご紹介!)に掲載。
女子短距離界に突如として現れた、孤独な天才スプリンター瑠那。
彼女への大敗を切っ掛けに陸上競技を捨てた陽子。
高校入学により偶然再会した二人を中心に、物語は動き出す。
「一人で走るのは寂しいな」
「本気で走るから。本気で追いかけるからさ。勝負しよう」
孤独な中学時代を過ごし、仲間とリレーを知らない瑠那のため。
そして儚くも美しい瑠那の走りを間近で感じるため。
陽子は挫折を乗り越え、再び心を燃やして走り出す。
待ち受けるのは個性豊かなスプリンターズ(短距離選手達)。
彼女達にもまた『駆ける理由』がある。
想いと想いをスピードの世界でぶつけ合う、女子高生達のリレーを中心とした陸上競技の物語。
陸上部って結構メジャーな部活だし(プロスポーツとしてはマイナーだけど)昔やってたよ~って人も多そうですよね。
それなのに何故! どうして!
陸上部、特に短距離を舞台にした小説はこんなにも少ないんでしょうか!
というか少ないどころじゃなく有名作は『一瞬の風になれ』しかないような状況。
嘘だろ~全国の陸上ファンは何を読めばいいんだ。うわーん。
ということで、書き始めました。
陸上競技って、なかなか結構、面白いんですよ。ということが伝われば嬉しいですね。
表紙は荒野羊仔先生(https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/520209117)が描いてくれました。
機械娘の機ぐるみを着せないで!
ジャン・幸田
青春
二十世紀末のOVA(オリジナルビデオアニメ)作品の「ガーディアンガールズ」に憧れていたアラフィフ親父はとんでもない事をしでかした! その作品に登場するパワードスーツを本当に開発してしまった!
そのスーツを娘ばかりでなく友人にも着せ始めた! そのとき、トラブルの幕が上がるのであった。
切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
Toward a dream 〜とあるお嬢様の挑戦〜
green
青春
一ノ瀬財閥の令嬢、一ノ瀬綾乃は小学校一年生からサッカーを始め、プロサッカー選手になることを夢見ている。
しかし、父である浩平にその夢を反対される。
夢を諦めきれない綾乃は浩平に言う。
「その夢に挑戦するためのお時間をいただけないでしょうか?」
一人のお嬢様の挑戦が始まる。
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
黄昏は悲しき堕天使達のシュプール
Mr.M
青春
『ほろ苦い青春と淡い初恋の思い出は・・
黄昏色に染まる校庭で沈みゆく太陽と共に
儚くも露と消えていく』
ある朝、
目を覚ますとそこは二十年前の世界だった。
小学校六年生に戻った俺を取り巻く
懐かしい顔ぶれ。
優しい先生。
いじめっ子のグループ。
クラスで一番美しい少女。
そして。
密かに想い続けていた初恋の少女。
この世界は嘘と欺瞞に満ちている。
愛を語るには幼過ぎる少女達と
愛を語るには汚れ過ぎた大人。
少女は天使の様な微笑みで嘘を吐き、
大人は平然と他人を騙す。
ある時、
俺は隣のクラスの一人の少女の名前を思い出した。
そしてそれは大きな謎と後悔を俺に残した。
夕日に少女の涙が落ちる時、
俺は彼女達の笑顔と
失われた真実を
取り戻すことができるのだろうか。
義姉妹百合恋愛
沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。
「再婚するから」
そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。
次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。
それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。
※他サイトにも掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる