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☆第三十九話 桃太郎力と第四の少女☆

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 章太郎の意志が込められると、刀はヌイグルミから、リアルな実体剣へと変化。
「おぉ…っ!」
 朱く艶めく鞘は、正義の意志を体現しているかのようで、少年の心にはちょっと萌えたり。
 ――スラり…。
 静かに抜いて、コチラに気付いた突撃型の蜃鬼楼へと、正眼に構える。
 蜃鬼楼からすると、美味しそうな聖力の獲物が、何かを感じさせる武具を向けている状況は、僅かに戸惑いを覚えたのだろう。
 ――ッバオオォォォォオオオオオオオッ!
 怖じけた意識を振り払うかのように、大きく低い咆哮を上げると、章太郎へ向かって突進をしてきた。
 ――ズシンッズシンッズシンッズシンッ!
「こっちに来るっ!」
 巨体で走る地響きが、章太郎にも伝わってくる。
 少年は、さっき地下で試したように、桃太郎の力を召還してみた。
 頭の中に、言葉が浮かぶ。
「桃太郎力(ももたろうりき)っ! 形になれええぇっ!」
 全力で叫ぶと、少年の身体へ沿うように緑色の光が走り、鎧のようなフレームが形成されてゆく。
「こ、これが…っって、遅くないっ?」
 温かくてなんだかSFっぽい光に感動していたら、しかしフレーム間に張られた光の膜は、ジリジリとゆっくりと、色付いてゆくだけ。
 その間にも、突撃蜃鬼楼は、目標体から感じられる未知の力を吹っ飛ばそうとするかのように、全速力+更に焦って加速で駆けてきた。
「うわわっ――あ、あれっ!?」
 逃げようとして、しかし身体が動かない。
「じっ、爺ちゃん動けないけどっ、故障っ?」
 戦いを記録している祖父へ、尋ねて見たら。
「いやぁ、エラーシグナルは出ておらんぞ」
「えっ、じゃあなんで…っ?」
「ふぅむ…推測するに、桃太郎の力が形に成るまで、章太郎自身は動けない。という感じなのかのう」
「なのかのうってっ――うわぁっ!」
 ――ッバオオオオッ!
 呑気な祖父の答えに、焦りが募っていると、いよいよ突撃蜃鬼楼の大きな角が、目の前へ急接近。
 現状から想像できるのは、以前のように捕らえられて聖力を吸われる気持ち悪い感触ではなく、まるで暴走した大型ダンプに跳ねられるような、一種の交通事故。
 あるいは、大きな角で突き刺されての、バッドエンド。
「っ! ショータローっ!」
 守護対称の危機に、御伽噺少女たちも気付くものの、距離的にも間に合わない。
 光の外装は、完成という感じでは、まだ無かった。
「や、やられるっ!」
 章太郎が、覚悟をしなければならなくなった、その瞬間。
『お止めなさいっ!』
 章太郎の前へと、有栖が両腕を拡げて盾となって、飛び出した。
「あっ、有栖っ!」
 ――っドオオオンンっ!
 蜃鬼楼の大きな角が、メイドロイドのボディーを貫通し、しかし少女の姿をした有栖は、弾き飛ばされる事なく、その場で踏みとどまっている。
「まっ、待てよおぉっ!」
 メカだと解っていても、意思の疎通が図れる少女が腹部を貫かれる姿なんて、少年にはキツ過ぎる。
 このまま、有栖が破壊されてしまう。
 そう思うと、章太郎は祖父へ、少女救助の絶叫を上げていた。
「あっ、有栖っ! 爺ちゃんんっ!」
 章太郎の絶叫と当時に、光の鎧が完成の音声を告げる。
「鎧っ! うおおおおっ!」
 完成したその姿は、桃太郎のデザインをメカ生体な鎧としてリデザインしたような、それでいてズングリ感のない、シャキっとしたシルエット。
 桃太郎の力が完成して、章太郎が最初にした事は、少女の救出であった。
 有栖の身体を抱き締めて、蜃鬼楼の角を桃太郎力で蹴り飛ばし、少女を確保。
 全速力で、祖父たちの乗るジープへと、少女ロイドを非難させる。
「有栖っ、しっかりしろっ!」
『しょ、章太…郎…様…』
 口や腹部から流れ出ている液体が、赤色ではなく無色透明なオイルである事は、少年の心理として、まだパニックにならなかった要因だろう。
「ほれ章太郎。有栖を助手席へ乗せるんじゃ」
「う、うんっ!」
 少年に比して、章之助があまり焦っていないのは、やはり開発者であり科学者だからだろうか。
 走るジープの助手席で、グッタリしている有栖を見送った少年は、強い怒りで突撃型蜃鬼楼を、睨み上げた。
「お前っ、絶っっっ対にっ、許さないからなぁっ!」
 吹っ飛ばされてから、起き上がって頭を振った巨体蜃鬼楼が、また章太郎を目がけて全速での突撃をかける。
 怒れる章太郎は、しかし自由に動ける状態となった事も影響してか、冷静だった。
「…お前を斬る…っ!」
 怒りの感情と呼応するように、桃太郎の鎧からオーラが立ち上る。
「博士っ、聖力の数値が、跳ね上がっていますっ!」
「ほほぉ…聖力は 感情によって大きく左右される、という現象かの?」
 緑色な眩い輝きに、博士たちや御伽噺少女たちは、暖かな力強さを感じているっぽい。
「ショータロー…」
「なんと、優しい…」
「うん! 激しい感じだよ~っ!」
 上段へ構えた日本刀から、更に十メートル以上の光が伸び、輝きは強さを増してゆく。
 ――ッバオオオオオオンッ!
 聖なる光に充てられた二体の蜃鬼楼たちは、怯えるように咆哮を上げて、思わず後ずさっていた。
「! みんなっ!」
 赤ずきんの合図で、少女たち三人の必殺技が発動。
「「「オカルト・シューーートっ!」」」
 ――っドオオオオオオンンっ!
 三人に囲まれた角タコ蜃鬼楼が、清浄なる光の中で、消滅をした。
 そして章太郎も。
「ぉりやあああああああああっ!」
 必殺技の名前とか考える余裕もなく、有栖の敵を討つというその思いだけで、光の剣を振り下ろし、巨体蜃鬼楼をまっ正面から一刀両断。
 ――っヅドオオオオオオオンンっ!
 何の抵抗のなく巨体をスライスした光の剣は、しかしまるで隕石でも落着したかのような、凄まじい爆音を轟かせる。
 真っ二つにされた突撃蜃鬼楼は、断面と、足下の地面からの聖力光で、焼かれるように消滅をした。
「…ふぅ…」
 戦いが終わって、蜃鬼楼の気配が消失をすると、章太郎の感情が脱力をして、光の鎧が解除消失。
 掌の中の日本刀も、ヌイグルミスタイルへと戻っていた。
「章太郎」
「…ハっ!」
 後ろに停車をしたジープの祖父から、声を掛けられて、少年は思考が回復をする。
「あ、有栖…っ!」
 変身を説いた御伽噺の少女たちと共に、車上のメイドロイドへ駆け寄ると、有栖はお腹に大穴が開いたままで、グッタリとしていた。
「有栖っ…! 爺ちゃんっ、早くそのっ、しゅ、修理とか――」
 メカなのだから、修理も可能な筈だと、祖父へ詰め寄る。
「あぁ――」
 章之助が、涙する孫へ何かを伝えようとした瞬間、果てていたメイドロボの少女が、パッチリと目を開けた。
『再起動シーケンス 終了いたします。再起動が確認されました。本体損傷度はB。与えられた命令への実行は困難と判断。早急なパーツ交換を要求いたします』
「…え?」
 まるで、腹部のダメージなど皆無のように、スラスラと状態の説明をする有栖。
「あ、有栖…?」
 少年の涙な「?」声に、メイド少女は、笑顔で返答。
『章太郎様。お仕事は終了されましたか。申し訳ございません。私は本体の損傷度により、業務が困難となっております。修復が完了しだい、皆様へ、お茶のご用意をさせて戴きます。その間、私と同体の有栖が、お世話をさせて戴きます』
「え、ええと…はぃ…」
 丁寧荷業務の応答をするダメージメカ少女に、章太郎は、そう答えるしかなかった。
 章太郎たちの歩行に合わせて、ジープがゆっくりと、研究所へ戻ってゆく。
 助手席のメイドメカ少女は、お腹から下が動作不能な状態だけど、それ以外には全く支障が無いらしい。
「えっと…有栖、本当に 大丈夫なの…?」
『有り難う御座います。ただいまは、破損箇所との接続を解除しておりますので、胸部より上のパーツのみ動作可能となっております』
「…つまり、破損部いがいは大丈夫って事か…」
 正直、ホっとした章太郎だ。
「パーツ交換でナントカなるとか、有栖がメカで良かったよ。それと有栖、その…さっきは、ありがせとう…。本当に、助かったよ」
『私こそ、ご心配を頂き、有り難う御座います。ただ…』
 メカ少女は、メカとしては有り得ない言葉を口にする。
『腹部パーツからなのですが、なんとお伝えしましょう…破損に関する、微弱で危険性の信号が、送られております」
 そして音声からも、機械的な響きが感じられなくなっていた。
                        ~第三十九話 終わり~
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