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☆第二十四話 かなりのピンチ☆

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 金曜日の放課後。
 空は薄曇りであった。
「ショータロー、こっちだ」
「あ、ああ!」
 いつもの帰り道で駅へ向かおうとしたら、少女たちの鬼感覚に反応があった様子。
 章太郎は、三人に連れられて大通りから外れた大きな公園へと、やって来た。
 空模様が怪しい事と、時間的にも夕方と言えるからなのか、運良くも公園には誰もいない。
「鬼が来るのか?」
「はい!」
「あたしも感じる…あ~!」
 美鶴が指を差した上空に、一メートル程の黒い揺らぎが揺れ始める。
「し、蜃気楼…鬼だ…っ!」
 あらためて確認を口にして、頭の隅で「見たまんまだろ」と、冷静にツッこむ自分がいたり。
 黒い揺らぎは直ぐに大きくなって、赤い邪眼を光らせながら、地上へと降りてきた。
 三人の制服少女が、少年の盾となって前へ出る。
「む…っ!」
 ブーケが制服の腰からハンドガンを抜いて、ユキが右掌に氷の刃を発生させて、美鶴が背中から白い羽根を生やして飛翔の準備。
 揺らぎは全高五メートルほどの縦長な楕円形となって成長が止まり、楕円の中程から大きな腕が生えて、下からは脚が生え、着地をする。
 邪眼の下に大きな口が開かれて、揺らぎが実体化を果たした。
「し、蜃鬼楼っ! 今回のはっ、大きいな…っ!」
 本体の長さが五メートの縦長い楕円形な蜃鬼楼は、頭の天辺に三本の角が長く生えていて、脚も生えているので、実質八メートルほどの身長と言えるだろう。
 本体は黄色と茶色の虎縞模様で、両腕は本体と同じくらいに縦長い、トゲ付き湾曲ブレス板みたいな形をしていた。
「あ、あれで、こっちを挟んで潰しにくるのかな…」
「そうかもしれないよ~! みんな、ど~する~?」
 どのように闘うか、ブーケに判断を尋ねている二人。
 ――ゴオオオオオォォォォォォォォンンッ!
 トゲ付きプレス板鬼が、章太郎の聖力を感知して、食欲満点みたいな視線を寄越し、涎を垂らす。
「うわっ、こっちを見てる!」
「まずは攻撃してみる! いくぞっ!」
 章太郎は、三人の邪魔にならないように、後ろに下がっているしかない。
「くっそぉ~、男としては情けない…っ!」
 バックする章太郎を逃すまいと、鬼は少年へと接近をしてきた。
 短い足だけど力強く地面を踏みしめて、大きな口から赤くて長い舌をベロベロとうねらせている。
「あ、あれに巻き付かれたら…」
 丸呑みにされて食べられて、胃の中で消化。
 とか考えると、恐ろしい。
「こっちだっ! 鬼めっ!」
 背後へ廻ったブーケがハンドガンを四発ほど発射したら、鬼は両掌の板を閉じて全身を防御して、弾丸を防いでしまう。
「弾かれたっ!」
 弾丸は跳弾せず、鬼の表面から吸収をされて、僅かにだけど鬼のエネルギーへと変換されたようだ。
 攻撃が止んだと判断をした鬼は、腕を開いて、再び章太郎へと狙いを定める。
「これではどうですっ、ええいっ!」
 ユキが接近をして、鬼の本体へと氷の暫撃で切り込もうとしたら、再び両掌が閉じられてガード。
 しかしユキは、その行動も想定済み。
 より深い刃でガードの腕を切られた鬼は、しかし悲鳴を上げるどころか、斬られた傷を一瞬で回復させる。
「ああっ…刃が…っ!」
 対して、鬼へ切り込ませたユキの刃が消失していて、再びエネルギーとして吸収されてしまっていた。
「これなら~っ!」
 上空へ飛翔した美鶴が丹頂鶴となって、羽根から幾枚もの羽根手裏剣を発射。
 本体を狙ってガードが閉じられて、手裏剣は命中しても吸収されてしまう。
 しかし美鶴の狙いは、ガードされても剥き出しだった脚にあった。
 白い羽根手裏剣は、見事に脚へ命中をする。
「――ゴオオオオオオオオンンンッ!
 鬼が悲鳴を上げて、三人は脚が弱点だと気付いた。
「いいぞ美鶴っ! 脚を狙うぞっ!」
 ブーケが銃撃をしてガードを固めさせて、美鶴が脚を狙い、ユキは地面に冷気を送って足下からの冷凍槍攻撃。
「「「ヤァァアアっ!」」」
 息も合った攻撃で、鬼も防戦一方となる展開。
「やった!…うわっ!」
 章太郎が勝利を確信して喜んだら、鬼は脚を引っ込めて、全身を閉じたままジャンプして、章太郎を追いかけ始めた。
「うわわっ!」
「ショータローっ!」
 攻撃を全身防御する腕に、三人は決定打が打てずにいる。
 しかし蜃鬼楼も、ガードを固めたまま、追いかける事しか出来ないようだ。
「ガ、ガードしているだけならっ、逃げ続けてもっ――なんだっ?」
 追いかける蜃鬼楼は、少年が射程距離に入ると、一瞬だけガードを開いて長い舌を伸ばし、獲物を捕らえようとしてきた。
「カメレオンかっ!」
 開いた隙間からなら、ダメージが通りそうだけど。
「あ、あれだけ跳ね回られていては…」
「悔しいですが、一瞬の隙間を狙う事は、不可能です…っ!」
 逃げる少年と追いかける蜃鬼楼に、まだ距離があるうちにと、少女たちは変身を決意した。
「章太郎くん~っ! 少しだけ逃げてて~っ!」
「わ、解ったっ!」
 章太郎は、ジャングルジムや滑り台の下など、出来るだけ蜃鬼楼が通り辛そうな場所を選んで、距離を稼ぐ。
「今です!」
 童話少女たちが集まって、変身の掛け声を掛けた。
「レッド・スタイル・チェンジっ!」
「大雪山下ろし…っ!」
「白き翼 羽ばたきて 我天空に舞うっ!」
 光に包まれた少女たちの制服が、光の粒となって散り、白くてスベスベで綺麗な裸身となる様子を、少年は逃走しながらも見てしまう。
 それぞれの粒子が再び裸体へ纏われると、光が消えて変身が完了した。
「赤い弾丸っ、赤ずきん参上っ!」
 赤いゴスロリ少女が、両掌ハンドガンを構える。
「純白の冷徹…雪女…っ!」
 白い和装の黒髪美女が、冷たい眼差しを煌めかせる。
「仙鶴だよ~っ!」
 鶴を模した魔法少女が、鶴の構えを魅せる。
 三人の変身少女が、少年と蜃鬼楼の間に立って、盾となった。
「いくよ~っ!」
 魔法少女が羽を広げて空を飛びながら、翼から大きな羽ミサイルを連射する。
 ――ドドオオオンンっ!
 しかしやはりというか、蜃鬼楼による両腕のガードは、突破できない。
「ボクたちもだっ!」
「はいっ!」
 赤ずきんが大型のエネルギー弾を連射しながら、雪女が二メートルを越える氷結の刃での一点集中という、協力攻撃。
「「ャああああっ!」」
 左右のガードが合わさる正面真ん中を狙ったけれど、それでもガードを突破できない。
「何という教護な護りっ! みんな、こうなったらっ!」
 三人は蜃鬼楼を取り囲むと、両腕を拡げて掲げ、必殺の合体技を発動させる。
 取り囲んだ蜃鬼楼と共に、緑色の聖浄なる光に包まれながら、最強攻撃を称えた。
「「「オカルト・フィニッシュっ!」」」
 緑色の光が強くなって、取り囲んでいる蜃鬼楼へと集約をされる。
 ――ッドオオオオオオオオオンンっ!
 盛大な爆発と共に、周囲の空気が振動をした。
 少年が、勝利に安堵した、その瞬間。
「や、やった…うわっ!」
 見た感じノーダメージっぽい蜃鬼楼は、ガードから突き出た三本の角を、バチバチと赤い稲光で輝かせていた。
「な、なんだとっ!?」
「私たちの、技が…っ!」
「利いてない~っ?」
 三人にとっての必殺技まで通じず、流石に驚かされている。
「あ、あの蜃鬼楼っ…三人のエネルギーを外殻から角へ流してっ…みたいな感じで、防いだっぼいぞっ!」
 光の流れから、章太郎はそう推測をした。
「ど、どうすれば…っ!」
「と、とにかくっ…あのガードをっ、なんとかしないと…っ!」
 打開策を探していると、鬼の角が更に輝いて、盛大な雷を轟かせる。
 ――ッドゴゴゴゴオオオオオンッ!
「うわっ!」
 周囲の遊具が、蜃鬼楼の雷攻撃で黒焦げになる。
「なんという、強大な雷なのだっ!」
 三人の必殺エネルギーを蓄えた雷攻撃には、まだ数回の余裕がありそうだった。

                        ~第二十四話 終わり~
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